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6 謎の事件と聖人候補
930 三クランへの提案
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930
まずは〝金獅子の咆哮〟の代表であるテーセウスさんが話を落ち着いた声で話し出す。
「細かい条件などはすでに書類で提示してある通りです。メイロードさまに〝金獅子の咆哮〟へのご助力をお願いしたい、その理由についてここではお話しさせていただきたい。
わがクランはイス最強を自負しております。クランの者たちは常に研鑽を欠かさず剣士の質は高く保たれ、多くの才能ある魔術師たちも所属しており、難しいとされているいくつものダンジョンを踏破してきました。
もちろん今回出現したパレス近郊の新ダンジョンの攻略についても、クラン内であらゆる可能性を考え、対策を練っています。しかし冒険者ギルドによる調査の結果を鑑みると、どうしても一手足りないと考えざるを得ない……それがメイロードさまの存在です」
〝朝日の誓約〟のピントさんも大きくうなずく。
「私も同意見です。あのダンジョンは注目度も高く、おそらく高い攻略スキルを有するクラン以外は進むことが困難だろうと、すでに大手クランでは見解が一致しております。
メイロードさまの能力をわがクランで活かしていただけましたら、もちろん莫大な利益が上がるでしょう。それに魅力がないとは申しません。ですが、最も重要なのは新ダンジョンの攻略です。あのダンジョンはメイロードさまを獲得したクラン以外は踏破できないだろうと私どもは考えているのでございます」
〝剣士の荷馬車〟エンデさんがさらに続ける。
「いままで想像もできなかった〝壁抜き〟という、ダンジョンの構造をものともしないメイロードさまの魔法がなければ、現状〝ダンジョン図〟が役に立たないとわかってしまったこの特殊なダンジョンを進むことは、ほぼ不可能だとわれわれも考えています。
メイロードさまもご存知のとおり〝剣士の荷馬車〟は名誉よりも実利を取るクランです。初踏破の栄誉にも地図作成の利益にも普段はあまり重きを置いてはいません。
ですが、今回の地図すら役に立たないダンジョンでどう収益を上げる行動が取れるのかは、まったくの未知数なのです。ただ、この新ダンジョンには非常に可能性を感じます。三階までの素材情報から推察されるこれより奥の素材の価値は、かなり高いはずです。いままでになかった新しい素材の獲得の可能性も極めて濃厚です。ならば、是非ともこの新ダンジョン攻略の道筋は手に入れたい。そしてその鍵はメイロードさま、あなたなのです」
三人はとても熱を帯びた言葉でそれぞれの考えを教えてくれた。
「みなさんのお考えはわかりました。やはりパレス近くのあのダンジョン攻略のために私が必要なのですね」
テーセウスさんはさらに続ける。
「もちろんダンジョン初踏破クランの栄誉に興味がないとは申しません。ですが、それ以上にこれほど帝都パレスに近いダンジョンの状況が明らかにされないままなのは危険だとも考えているのです」
「ええ、その通りです。ダンジョンは突然活性化し、魔物が増えることがございます。ひどくなればダンジョンから溢れ出し、周囲を巻き込むことも過去の例にありました。ダンジョンに入る冒険者たちはそうしたダンジョンの変化を絶えず見張る者でもあるのです」
ピントさんの表情は真剣だ。
「そうですね。特にパレスにクランを置かれているお二方は危機感があって当然でしょう。しかもあの場所となれば、少しでも危険と判断された場合、帝国軍の出動の可能性は極めて高いです。イスの私どもとしても、冒険者によるダンジョン踏破の可能性なしと国が判断し、われわれの挑戦が禁止になるような事態だけは避けたいのです」
私にはエンデさんの気持ちがなんとなくわかった。
「そうですね。ダンジョンの管理に軍が介入する事態になることは、今後の冒険者そしてクランにとっていい影響はないでしょうから……」
私のつぶやきに、レシータさんも眉間に皺を寄せる。
「ギルドとしても、たしかにできることなら軍の介入は極力避けたいわね。棲み分けの境界が曖昧になれば、どうしても軍の影響力に押されることになるでしょうし。冒険者で解決できる、と示すことには意味があるわ」
軍の不干渉というダンジョンの原則は、その利益は民間のみに与えられる意味でもある。もちろんギルドを通して国に莫大な利益の一部が税として収められてはいるが、冒険者主導の現在の形式はギルドをそしてクランを支える重要なファクターなのだ。だから、どのクランも軍が口出しする前に解決を図ろうとダンジョンへのアタックの準備を進めている。
そして、どのクランでも結局〝動く壁〟という事象への解決策は〝メイロード・マリスの獲得しかない〟と結論づけられるに至り、彼らは私の前に座っている……というわけだ。
(これは、ダメだと断ることの影響が大きすぎるなぁ。パレスの安全、冒険者の生活保障にギルドの存在意義、軍による圧力の回避、全部があの新ダンジョンの攻略にかかってる。うーん、どうしたもんかなぁ)
しばらく考えた私は、ある覚悟を決めてこう提案することにした。
「みなさんのお話を聞かせていただき、とても参考になりました。では私がどうしたいか、そのことをお話しさせてください」
まずは〝金獅子の咆哮〟の代表であるテーセウスさんが話を落ち着いた声で話し出す。
「細かい条件などはすでに書類で提示してある通りです。メイロードさまに〝金獅子の咆哮〟へのご助力をお願いしたい、その理由についてここではお話しさせていただきたい。
わがクランはイス最強を自負しております。クランの者たちは常に研鑽を欠かさず剣士の質は高く保たれ、多くの才能ある魔術師たちも所属しており、難しいとされているいくつものダンジョンを踏破してきました。
もちろん今回出現したパレス近郊の新ダンジョンの攻略についても、クラン内であらゆる可能性を考え、対策を練っています。しかし冒険者ギルドによる調査の結果を鑑みると、どうしても一手足りないと考えざるを得ない……それがメイロードさまの存在です」
〝朝日の誓約〟のピントさんも大きくうなずく。
「私も同意見です。あのダンジョンは注目度も高く、おそらく高い攻略スキルを有するクラン以外は進むことが困難だろうと、すでに大手クランでは見解が一致しております。
メイロードさまの能力をわがクランで活かしていただけましたら、もちろん莫大な利益が上がるでしょう。それに魅力がないとは申しません。ですが、最も重要なのは新ダンジョンの攻略です。あのダンジョンはメイロードさまを獲得したクラン以外は踏破できないだろうと私どもは考えているのでございます」
〝剣士の荷馬車〟エンデさんがさらに続ける。
「いままで想像もできなかった〝壁抜き〟という、ダンジョンの構造をものともしないメイロードさまの魔法がなければ、現状〝ダンジョン図〟が役に立たないとわかってしまったこの特殊なダンジョンを進むことは、ほぼ不可能だとわれわれも考えています。
メイロードさまもご存知のとおり〝剣士の荷馬車〟は名誉よりも実利を取るクランです。初踏破の栄誉にも地図作成の利益にも普段はあまり重きを置いてはいません。
ですが、今回の地図すら役に立たないダンジョンでどう収益を上げる行動が取れるのかは、まったくの未知数なのです。ただ、この新ダンジョンには非常に可能性を感じます。三階までの素材情報から推察されるこれより奥の素材の価値は、かなり高いはずです。いままでになかった新しい素材の獲得の可能性も極めて濃厚です。ならば、是非ともこの新ダンジョン攻略の道筋は手に入れたい。そしてその鍵はメイロードさま、あなたなのです」
三人はとても熱を帯びた言葉でそれぞれの考えを教えてくれた。
「みなさんのお考えはわかりました。やはりパレス近くのあのダンジョン攻略のために私が必要なのですね」
テーセウスさんはさらに続ける。
「もちろんダンジョン初踏破クランの栄誉に興味がないとは申しません。ですが、それ以上にこれほど帝都パレスに近いダンジョンの状況が明らかにされないままなのは危険だとも考えているのです」
「ええ、その通りです。ダンジョンは突然活性化し、魔物が増えることがございます。ひどくなればダンジョンから溢れ出し、周囲を巻き込むことも過去の例にありました。ダンジョンに入る冒険者たちはそうしたダンジョンの変化を絶えず見張る者でもあるのです」
ピントさんの表情は真剣だ。
「そうですね。特にパレスにクランを置かれているお二方は危機感があって当然でしょう。しかもあの場所となれば、少しでも危険と判断された場合、帝国軍の出動の可能性は極めて高いです。イスの私どもとしても、冒険者によるダンジョン踏破の可能性なしと国が判断し、われわれの挑戦が禁止になるような事態だけは避けたいのです」
私にはエンデさんの気持ちがなんとなくわかった。
「そうですね。ダンジョンの管理に軍が介入する事態になることは、今後の冒険者そしてクランにとっていい影響はないでしょうから……」
私のつぶやきに、レシータさんも眉間に皺を寄せる。
「ギルドとしても、たしかにできることなら軍の介入は極力避けたいわね。棲み分けの境界が曖昧になれば、どうしても軍の影響力に押されることになるでしょうし。冒険者で解決できる、と示すことには意味があるわ」
軍の不干渉というダンジョンの原則は、その利益は民間のみに与えられる意味でもある。もちろんギルドを通して国に莫大な利益の一部が税として収められてはいるが、冒険者主導の現在の形式はギルドをそしてクランを支える重要なファクターなのだ。だから、どのクランも軍が口出しする前に解決を図ろうとダンジョンへのアタックの準備を進めている。
そして、どのクランでも結局〝動く壁〟という事象への解決策は〝メイロード・マリスの獲得しかない〟と結論づけられるに至り、彼らは私の前に座っている……というわけだ。
(これは、ダメだと断ることの影響が大きすぎるなぁ。パレスの安全、冒険者の生活保障にギルドの存在意義、軍による圧力の回避、全部があの新ダンジョンの攻略にかかってる。うーん、どうしたもんかなぁ)
しばらく考えた私は、ある覚悟を決めてこう提案することにした。
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