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6 謎の事件と聖人候補
929 交渉のテーブル
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929
「私、以前にこのクランの方たちとダンジョンへ行ったことがあるんです」
「あら、そうなの。メイロードちゃんがダンジョンにねぇ……それはどんなご縁だったのかしら?」
「長いお休みに遠出しまして、魔法学校のお友だちと学校へ帰るための〝天舟〟をセジャムという街で待つことになったんです。そのとき出会ったオルダンさんという方を、まぁいろいろありまして、ダンジョンまで探しに行くことになっちゃったんです。
でもさすがに私たち学生ふたりだけでは辿り着けるか不安だったので、冒険者のパーティーに同行させてもらえないかと思ったんです。それで〝冒険者ギルド〟の依頼票を探してみたところ、鑑定役の魔法使いを募集していた〝剣士の荷馬車〟の方々と出会ったんです」
「なるほど、まったくの偶然だったんだ。でもそれも不思議な縁ね。それじゃ〝剣士の荷馬車〟は知り合いってわけね。彼らがこの交渉一歩リードかしらね」
「ははは、どうでしょうね。みなさんやさしくて、とてもいい方たちだったとは思ってますけど」
そんな話をしていると、秘書さんからレシータさんにある情報が届いた。それを聞きレシータさんは苦笑している。
「なんとまぁ、せっかちね。っていうか、よくメイロードちゃんがここにいるって情報を掴んだものだわ」
「どうしたんですか?」
「〝金獅子の咆哮〟のテーセウスと〝朝日の誓約〟のピントがイスに来てるわ。メイロードちゃんとはよく話し合ってから結果を伝えると《伝令》していたから、近いうちに必ず私たちが〝冒険者ギルド〟で会うと考えて、あわよくば個別交渉狙いでやってきたんでしょう」
確かに彼らもこれだけの大金を賭けてきた契約交渉だ。ギルドのトップが直接話して交渉を進めたい気持ちはわかる。
(それにしてもフットワーク軽いなぁ、それに機動力もすごい。絶対〝天舟〟使ってるよね。どうやって調達したにしてもすごいな。さすが超一流ギルド)
「そういうことであれば、個別にお会いするのは時間もかかりますし、イスの〝剣士の荷馬車〟に連絡をとっていただいて、三組一緒に話をしてみたいと思うのですが……」
「ああ、それが後腐れなくていいわね。すぐにエンデを呼び出すことにしましょ。パレスのふたりが来てるって聞けばすっ飛んでくるはずよ。
それじゃ午後からはメイロードちゃんを巡っての熾烈な勧誘交渉合戦ね。キャッ、楽しみ!」
「もう! 他人事だと思って面白がらないでくださいよ、レシータさん!」
私は冒険者としての活動をメインにするつもりはないため、もともと専属契約などいくらお金を積まれたところでするつもりはない。だが、彼らがそこまで私を欲しがる理由についてはしっかり把握して、できればわだかまりなくすっきり私の獲得は諦めてほしいと思っている。でないと、これから手を変え品を変え何度も交渉が続くことになってしまうだろうし、長期戦になったらそれこそめんどくさそうだからだ。
(しっかり説明してわかってもらわなくちゃね)
ーーーーーーーーーー
ギルドの会議室で机を挟み、私とレシータさんが座った対面には〝金獅子の咆哮〟のテーセウスさん、〝朝日の誓約〟のピントさんそして〝剣士の荷馬車〟のエンデさんが座っている。彼らの背後にはそれぞれが連れてきた従者が一名ずつ座り、エンデさんが連れてきていたのはセジャムで一緒にダンジョンへ入ったスフィロさんだった。
(そんな気はしてたけど、やっぱり一緒に連れてきたのね。私に関する情報も流れてそうだなぁ)
お茶がそれぞれに運ばれたところで、まずはレシータさんが口火を切る。
「偶然ではないんだろうが、こうして有名クランが一堂に会したわけだ。交渉条件もほぼ差がない状態なので、あとはメイロードちゃんの気持ち次第なのよね。直接交渉は今回限り、メイロードちゃんも今日はっきりと気持ちを決めるつもりよ。遺恨は残さない、この交渉のあとに個別の接触は禁止、それでいいわね?」
「ゴルム代表幹事、交渉の窓口になっていただきありがとうございます。私どもはそれで依存ございません」
まずははっきりとした口調でテーセウスさんがいう。金の髪に一筋の真紅の一房があるところをみると炎属性の魔法の使い手なのだろう。躰も大きく正に〝魔法騎士〟。さぞやおモテになるだろうな、という雰囲気の貴公子だ。
「もちろん私どももレシータお姉様のご意向に従います。こうして直接お話ができただけでも感謝ですわ」
長い青髪をひとつにまとめた姿で優しい微笑みを浮かべたピントさんもうなずく。彼女はきっと水系魔法のスペシャリストなのだろう。
「まさかこんな急にイスの女神にお会いできるとは……お声がけいただき感謝しますよ、レシータ様」
おそらく一番慌ててやってきたピントさんは、ハンカチでちょっと汗を抑えて苦笑いしつつこの場にいられることの感謝を述べた。おかっぱ風で揃えられた前髪、私の深い緑とは違う新緑のような明るい髪色なのは土系魔法を持っているせいなのだろう。やや細身で、鼻メガネをかけたその姿は、学者さんのようでもあり、商人のようでもある。
私はレシータさんに促され話を始める。
「この交渉のために多大な労力を割いていただいた皆様に感謝申し上げます。
私はメイロード・マリス、現在は伯爵位を賜り、北東部の小さな領地を治めている者です」
「この善き日の出会いに主神マーヴへの感謝を捧げます。お会いできて光栄です、マリス伯爵様」
「この善き日の出会いに主神マーヴへの感謝を捧げます。お会いできましたことに心より感謝申し上げます、マリス伯爵様」
「この善き日の出会いにイスの神ヘステストへの感謝を捧げます。イスであなたを知らぬものなどおりませんが、こうしてお会いできて本当に嬉しいです、マリス伯爵様」
三人は立場が上の私に対して、きっちりと礼をとり挨拶をする。
「挨拶をありがとう。でも、ここからはどうぞ私のことは〝メイロード〟とお呼びください。かしこまった言葉も極力避けましょう。よろしいですか」
「はい、メイロードさま」「はい、メイロードさま」「はい、メイロードさま」
三人の声が揃った。どうやら〝さま〟呼びは確定らしい。
(まぁ、格付け上、これは仕方ないかぁ……)
「では、まずみなさんが私を獲得したいと考えた理由を教えてください」
私の言葉に三人は真剣な表情になり、メイロード・マリス獲得交渉は始まった。
「私、以前にこのクランの方たちとダンジョンへ行ったことがあるんです」
「あら、そうなの。メイロードちゃんがダンジョンにねぇ……それはどんなご縁だったのかしら?」
「長いお休みに遠出しまして、魔法学校のお友だちと学校へ帰るための〝天舟〟をセジャムという街で待つことになったんです。そのとき出会ったオルダンさんという方を、まぁいろいろありまして、ダンジョンまで探しに行くことになっちゃったんです。
でもさすがに私たち学生ふたりだけでは辿り着けるか不安だったので、冒険者のパーティーに同行させてもらえないかと思ったんです。それで〝冒険者ギルド〟の依頼票を探してみたところ、鑑定役の魔法使いを募集していた〝剣士の荷馬車〟の方々と出会ったんです」
「なるほど、まったくの偶然だったんだ。でもそれも不思議な縁ね。それじゃ〝剣士の荷馬車〟は知り合いってわけね。彼らがこの交渉一歩リードかしらね」
「ははは、どうでしょうね。みなさんやさしくて、とてもいい方たちだったとは思ってますけど」
そんな話をしていると、秘書さんからレシータさんにある情報が届いた。それを聞きレシータさんは苦笑している。
「なんとまぁ、せっかちね。っていうか、よくメイロードちゃんがここにいるって情報を掴んだものだわ」
「どうしたんですか?」
「〝金獅子の咆哮〟のテーセウスと〝朝日の誓約〟のピントがイスに来てるわ。メイロードちゃんとはよく話し合ってから結果を伝えると《伝令》していたから、近いうちに必ず私たちが〝冒険者ギルド〟で会うと考えて、あわよくば個別交渉狙いでやってきたんでしょう」
確かに彼らもこれだけの大金を賭けてきた契約交渉だ。ギルドのトップが直接話して交渉を進めたい気持ちはわかる。
(それにしてもフットワーク軽いなぁ、それに機動力もすごい。絶対〝天舟〟使ってるよね。どうやって調達したにしてもすごいな。さすが超一流ギルド)
「そういうことであれば、個別にお会いするのは時間もかかりますし、イスの〝剣士の荷馬車〟に連絡をとっていただいて、三組一緒に話をしてみたいと思うのですが……」
「ああ、それが後腐れなくていいわね。すぐにエンデを呼び出すことにしましょ。パレスのふたりが来てるって聞けばすっ飛んでくるはずよ。
それじゃ午後からはメイロードちゃんを巡っての熾烈な勧誘交渉合戦ね。キャッ、楽しみ!」
「もう! 他人事だと思って面白がらないでくださいよ、レシータさん!」
私は冒険者としての活動をメインにするつもりはないため、もともと専属契約などいくらお金を積まれたところでするつもりはない。だが、彼らがそこまで私を欲しがる理由についてはしっかり把握して、できればわだかまりなくすっきり私の獲得は諦めてほしいと思っている。でないと、これから手を変え品を変え何度も交渉が続くことになってしまうだろうし、長期戦になったらそれこそめんどくさそうだからだ。
(しっかり説明してわかってもらわなくちゃね)
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ギルドの会議室で机を挟み、私とレシータさんが座った対面には〝金獅子の咆哮〟のテーセウスさん、〝朝日の誓約〟のピントさんそして〝剣士の荷馬車〟のエンデさんが座っている。彼らの背後にはそれぞれが連れてきた従者が一名ずつ座り、エンデさんが連れてきていたのはセジャムで一緒にダンジョンへ入ったスフィロさんだった。
(そんな気はしてたけど、やっぱり一緒に連れてきたのね。私に関する情報も流れてそうだなぁ)
お茶がそれぞれに運ばれたところで、まずはレシータさんが口火を切る。
「偶然ではないんだろうが、こうして有名クランが一堂に会したわけだ。交渉条件もほぼ差がない状態なので、あとはメイロードちゃんの気持ち次第なのよね。直接交渉は今回限り、メイロードちゃんも今日はっきりと気持ちを決めるつもりよ。遺恨は残さない、この交渉のあとに個別の接触は禁止、それでいいわね?」
「ゴルム代表幹事、交渉の窓口になっていただきありがとうございます。私どもはそれで依存ございません」
まずははっきりとした口調でテーセウスさんがいう。金の髪に一筋の真紅の一房があるところをみると炎属性の魔法の使い手なのだろう。躰も大きく正に〝魔法騎士〟。さぞやおモテになるだろうな、という雰囲気の貴公子だ。
「もちろん私どももレシータお姉様のご意向に従います。こうして直接お話ができただけでも感謝ですわ」
長い青髪をひとつにまとめた姿で優しい微笑みを浮かべたピントさんもうなずく。彼女はきっと水系魔法のスペシャリストなのだろう。
「まさかこんな急にイスの女神にお会いできるとは……お声がけいただき感謝しますよ、レシータ様」
おそらく一番慌ててやってきたピントさんは、ハンカチでちょっと汗を抑えて苦笑いしつつこの場にいられることの感謝を述べた。おかっぱ風で揃えられた前髪、私の深い緑とは違う新緑のような明るい髪色なのは土系魔法を持っているせいなのだろう。やや細身で、鼻メガネをかけたその姿は、学者さんのようでもあり、商人のようでもある。
私はレシータさんに促され話を始める。
「この交渉のために多大な労力を割いていただいた皆様に感謝申し上げます。
私はメイロード・マリス、現在は伯爵位を賜り、北東部の小さな領地を治めている者です」
「この善き日の出会いに主神マーヴへの感謝を捧げます。お会いできて光栄です、マリス伯爵様」
「この善き日の出会いに主神マーヴへの感謝を捧げます。お会いできましたことに心より感謝申し上げます、マリス伯爵様」
「この善き日の出会いにイスの神ヘステストへの感謝を捧げます。イスであなたを知らぬものなどおりませんが、こうしてお会いできて本当に嬉しいです、マリス伯爵様」
三人は立場が上の私に対して、きっちりと礼をとり挨拶をする。
「挨拶をありがとう。でも、ここからはどうぞ私のことは〝メイロード〟とお呼びください。かしこまった言葉も極力避けましょう。よろしいですか」
「はい、メイロードさま」「はい、メイロードさま」「はい、メイロードさま」
三人の声が揃った。どうやら〝さま〟呼びは確定らしい。
(まぁ、格付け上、これは仕方ないかぁ……)
「では、まずみなさんが私を獲得したいと考えた理由を教えてください」
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