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6 謎の事件と聖人候補
927 〝壁抜き〟の……
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927
(ウソ、う……そ、嘘ぉーー‼︎ ダンジョンの壁抜きって私以外誰もできないの⁉︎)
思ってもみなかった事実に私は愕然とした。軽くパニックになったといってもいい。実際使った魔法もさして大変なものではなかったし、私にはそこまで難しいことではなかったからだ。
だが周りの反応を冷静に分析すると、ダンジョンの壁を魔法でドカドカ破壊しまくるという私の行為は、この世界の常識を完全に逸脱したものだった…‥らしい。
(ああ、これは完全にやったわ。なんか対策を考えなきゃ)
翌日、騒動がどう動くかについて専門家の意見を聞きたいと思い、私はイスの冒険者ギルドを訪ねることにした。このギルドのトップであるレシータ・ゴルムさんから意見を聞くためだ。
(冒険者に関わることなら、おそらくレシータさんが一番詳しいだろうし、アドバイスがもらえるはず)
「キャー‼︎ メイロードちゃーん、久しぶりねーー! 会いたかった!」
いきなりの抱きつきからの高い高いには驚いたが、急な訪問にも関わらずレシータさんは大歓迎してくれたので……まぁ、よしとしよう。
(ほら、レシータさん背が高いから、持ち上げられた高さが本当に高くて、内心びっくりだったけど、なんとか耐えたよ)
やっと落ち着いたあと、今度はレシータさん、微妙な笑顔で私にこう言った。
「〝壁抜きのメイロード〟さん、有名冒険者の仲間入りね!」
「有名冒険者って……え、なんですか? その怪しげなふたつ名は!」
みるからに高級な茶器に注がれたお茶と美味しそうなお菓子を勧めてくれながら、レシータさんはギルドに寄せられた問い合わせについて話した。
「イスの冒険者ギルドにもね、昨日からかなりの数の問い合わせが来てるのよ。『ダンジョンの壁を壊せる奇跡の魔法使いメイロード・マリス嬢についての情報を求む』っていう《伝令》が大手クランのほとんどから来てるわね」
レシータさんは、相変わらず笑いながら話を続ける。
「彼らの驚きは、それだけのものってこと。まぁ当然よね。それがもし可能なら攻略が飛躍的に簡単になる場所がダンジョンはたくさんあるから」
「なるほど……確かにそうでしょうね」
私が唯一無二のダンジョンの〝壁抜き〟ができる人材だとすれば、なにがなんでも欲しいと思われて当たり前……ということは理解できる。熾烈な勧誘合戦になるのだろうかと、私がため息をつくと、レシータさんが慰めてくれた。
「でも、問い合わせてきた連中は困ったと思うわよ。メイロードちゃんの素性を知ったことで、おそらく多くのクランは勧誘を諦めたはず」
「本当ですか? それならありがたいです」
私はその理由を聞いて少しホッとした。
彼らがあきらめてくれた大きな理由は、私がただの貴族ではなく〝領主〟を務める女伯爵だと知ったことだ。いくら貴族の中にも冒険者で稼がなければならない人たちがいるといっても、それはあくまで当主にならない次男や三男といった立場の人たちの話だ。
それに対し、私は〝領主〟という地位だ。冒険者に例えるなら、マリス領というクランのトップなわけで、それを他のクランが引き抜くことはありえない。
(社長を引き抜くようなものだもの、それは無理があるよね。それに、この世界のヒエラルキーを考えれば、領主の私の地位は冒険者たちよりずっと高いわけで、彼らが私に対してなにかを申し出るって、かなりハードルが高い行為だ)
「まぁ、それでもあきらめきれないクランがありそうだから昨日メイロードちゃんから受け取った《伝令》の通り、各クランには伝えたわ」
「ありがとうございます。この件についての窓口になっていただき感謝しています」
今回のやらかしのせいで、どうやら私の素性調査や勧誘が大々的に行われそうだとわかったため、昨日のうちに《伝令》で、レシータさんにこうお願いをしていた。
〝冒険者メイロード・マリスに対する指名依頼及びクラン加入要請に関する窓口はイス冒険者ギルド代表幹事レシータ・ゴルムのみとする。それ以外からの一切の話は聞かないし、現時点では本人多忙につき、依頼を受ける可能性は極めて低い状況であることを事前に通告する〟
私に関する問い合わせにはすべてこう答えてもらい、私への接触をシャットアウトしてもらったのだ。
(実際は、領主の仕事は最低限まで減らしてるし、以前と違って余裕はあるんだけどね。でも、やっとそういう状況になったのに、いまさら仕事を増やしたくないもん)
「有象無象のお願いに、いちいちつきあっちゃいられないわよねぇ」
そう言いながらレシータさんが指差した机の上の書類ケースには、私に対してのダンジョン攻略パーティー参加依頼書が堆く積まれていた。
(うへぇ、たった一日なのに、もうこんなに?)
うんざりという表情で顔をしかめる私に、レシータさんは面白そうにケタケタと笑った。
「有名になると、大変よね!」
(ウソ、う……そ、嘘ぉーー‼︎ ダンジョンの壁抜きって私以外誰もできないの⁉︎)
思ってもみなかった事実に私は愕然とした。軽くパニックになったといってもいい。実際使った魔法もさして大変なものではなかったし、私にはそこまで難しいことではなかったからだ。
だが周りの反応を冷静に分析すると、ダンジョンの壁を魔法でドカドカ破壊しまくるという私の行為は、この世界の常識を完全に逸脱したものだった…‥らしい。
(ああ、これは完全にやったわ。なんか対策を考えなきゃ)
翌日、騒動がどう動くかについて専門家の意見を聞きたいと思い、私はイスの冒険者ギルドを訪ねることにした。このギルドのトップであるレシータ・ゴルムさんから意見を聞くためだ。
(冒険者に関わることなら、おそらくレシータさんが一番詳しいだろうし、アドバイスがもらえるはず)
「キャー‼︎ メイロードちゃーん、久しぶりねーー! 会いたかった!」
いきなりの抱きつきからの高い高いには驚いたが、急な訪問にも関わらずレシータさんは大歓迎してくれたので……まぁ、よしとしよう。
(ほら、レシータさん背が高いから、持ち上げられた高さが本当に高くて、内心びっくりだったけど、なんとか耐えたよ)
やっと落ち着いたあと、今度はレシータさん、微妙な笑顔で私にこう言った。
「〝壁抜きのメイロード〟さん、有名冒険者の仲間入りね!」
「有名冒険者って……え、なんですか? その怪しげなふたつ名は!」
みるからに高級な茶器に注がれたお茶と美味しそうなお菓子を勧めてくれながら、レシータさんはギルドに寄せられた問い合わせについて話した。
「イスの冒険者ギルドにもね、昨日からかなりの数の問い合わせが来てるのよ。『ダンジョンの壁を壊せる奇跡の魔法使いメイロード・マリス嬢についての情報を求む』っていう《伝令》が大手クランのほとんどから来てるわね」
レシータさんは、相変わらず笑いながら話を続ける。
「彼らの驚きは、それだけのものってこと。まぁ当然よね。それがもし可能なら攻略が飛躍的に簡単になる場所がダンジョンはたくさんあるから」
「なるほど……確かにそうでしょうね」
私が唯一無二のダンジョンの〝壁抜き〟ができる人材だとすれば、なにがなんでも欲しいと思われて当たり前……ということは理解できる。熾烈な勧誘合戦になるのだろうかと、私がため息をつくと、レシータさんが慰めてくれた。
「でも、問い合わせてきた連中は困ったと思うわよ。メイロードちゃんの素性を知ったことで、おそらく多くのクランは勧誘を諦めたはず」
「本当ですか? それならありがたいです」
私はその理由を聞いて少しホッとした。
彼らがあきらめてくれた大きな理由は、私がただの貴族ではなく〝領主〟を務める女伯爵だと知ったことだ。いくら貴族の中にも冒険者で稼がなければならない人たちがいるといっても、それはあくまで当主にならない次男や三男といった立場の人たちの話だ。
それに対し、私は〝領主〟という地位だ。冒険者に例えるなら、マリス領というクランのトップなわけで、それを他のクランが引き抜くことはありえない。
(社長を引き抜くようなものだもの、それは無理があるよね。それに、この世界のヒエラルキーを考えれば、領主の私の地位は冒険者たちよりずっと高いわけで、彼らが私に対してなにかを申し出るって、かなりハードルが高い行為だ)
「まぁ、それでもあきらめきれないクランがありそうだから昨日メイロードちゃんから受け取った《伝令》の通り、各クランには伝えたわ」
「ありがとうございます。この件についての窓口になっていただき感謝しています」
今回のやらかしのせいで、どうやら私の素性調査や勧誘が大々的に行われそうだとわかったため、昨日のうちに《伝令》で、レシータさんにこうお願いをしていた。
〝冒険者メイロード・マリスに対する指名依頼及びクラン加入要請に関する窓口はイス冒険者ギルド代表幹事レシータ・ゴルムのみとする。それ以外からの一切の話は聞かないし、現時点では本人多忙につき、依頼を受ける可能性は極めて低い状況であることを事前に通告する〟
私に関する問い合わせにはすべてこう答えてもらい、私への接触をシャットアウトしてもらったのだ。
(実際は、領主の仕事は最低限まで減らしてるし、以前と違って余裕はあるんだけどね。でも、やっとそういう状況になったのに、いまさら仕事を増やしたくないもん)
「有象無象のお願いに、いちいちつきあっちゃいられないわよねぇ」
そう言いながらレシータさんが指差した机の上の書類ケースには、私に対してのダンジョン攻略パーティー参加依頼書が堆く積まれていた。
(うへぇ、たった一日なのに、もうこんなに?)
うんざりという表情で顔をしかめる私に、レシータさんは面白そうにケタケタと笑った。
「有名になると、大変よね!」
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