利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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6 謎の事件と聖人候補

926 唯一の……

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926

「と、ともかく!」

私はツッコミを回避するため無理やり話を進めてしまうことにし、早口で次の重要な発見へとつながる事実を説明していった。

「これで移動が可能となりましたので、私は怪我をされている方たちと《結界魔法》を使いながら行動し、魔物は冒険者の方々にお任せするという方法で、最速での移動を目標に入り口まで戻ることになったのです。ところが二階まで移動したところで、かなりおかしな事態が起こっていると、冒険者のひとりが教えてくれたのです」

私はふたつの地図を指差す。

「ご覧ください。私と冒険者の方々が作った地図がのです。つまり、彼らが壁の中に閉じ込められたのは、偶発的な一過性の出来事や事故ではなかったということです。あのダンジョンでは、おそらくいまも繰り返し内部構造の変化が起こっているのではないでしょうか」

「つまり、この新ダンジョンでは地図が役に立たない…‥というわけか」

「グッケンス博士も有識者の方も極めて珍しい例だとおっしゃっていました。地図が作れない、変化し続けるダンジョン……これは非常に危険です」

(あ、有識者ってセイリュウのことね)

「……だが、これで新しいダンジョンが出現した場合に行われる調査は終了ということだ。とても無事終了とはいえない結果だが……」

ユリシル皇子は困り顔だ。

「調査が終わった以上、その結果を聞いても、それでもダンジョンに挑むという冒険者たちのことを止めることはできないんですよね」
「そうだ。たとえ毒が充満していようと、断崖絶壁があろうと回避方法を見つけて進むのが冒険者だ。そんな彼らによって、これまでいろいろなダンジョンから貴重な資源が数多く見つけられてきている。ダンジョンの貴重な資源を流通させる、この世界にとってとても重要な仕事だ」

皇子の言葉の通り、この世界の資源の中には、特定のダンジョンでしか採ることができない不思議ものが数多くある。〝エリクサー〟の素材である〝再生の林檎〟もそうだった。危険をものともせず、ダンジョンに挑み続ける者たちがいなければ、この世界では手に入らなくなってしまうものがたくさんある。だが、今回の新ダンジョンは危険の域を超えているのではないだろうか。

「確かにどんなダンジョンも、冒険者たちが少しずつ攻略して、多くの被害を出しながら、たくさんの大事な資源を得てきたのでしょう。ですが、それを鑑みても、このダンジョンは危険度が高すぎると思います。三階に到達するぐらいで一流冒険者たちが遭難するダンジョンなんて……」

「メイロードの心配は当然だと思う。だが調査の結果として〝最高難度〟だという評価をつけることぐらいしかギルドとしてはできないだろうね。皇宮としても、危険だからという理由ではダンジョンを閉ざすことはできない」

「そうですよね……」

私と皇子は同時にため息をついた。

「でも、このダンジョンがとても不気味で、おそらく進むほどに困難が増していくだろうことは間違いないです。私の地図や今回集めた情報は無償で提供しますので、極めて危険なダンジョンだという情報を周知徹底してもらうことはできますよね」

私の必死の訴えに、ユリシル皇子はやさしく笑ってうなずいてくれた。

「わかった。君の資料もギルドに大事に扱うよう言っておこう。情報開示の徹底は必ず行うよう冒険者ギルドに伝える」
「ありがとうございます」

そこでユリシル皇子がこう聞いてきた。

「ところで、君は彼らに名乗ったのかい?」
「ええ、もちろん名前ぐらいは伝えましたよ。怪しまれても困りますし、入り口でも身分確認がありましたし……」

そこで皇子はいきなり話を変えた。

「ところで、貴族というのはさまざまな仕事をしている。もちろん自分の領地で十分な私財を集められるものもいるが、そうでない者も多い。だから魔法力を使って仕事をするため〝魔術師ギルド〟へ所属する者も多いし〝冒険者ギルド〟に所属する者もいるんだよ」

「……それは、聞いたことがあります。魔法使いの仕事はお金になるので、跡取り以外の子供たちは積極的に仕事をするそうですね。ただ、プライドの高い彼らの評判はあまり良くないとも聞きます」

この話は魔法学校時代に聞いていた。

領地経営がうまくいっていない貴族の姉弟で〝国家魔術師〟になれなかった子たちにはそういう選択肢もあると。

「あの…‥それが何か?」

「メイロードも冒険者登録をしていると聞いているが?」
「はい、貴族になる前ですが、登録はそのままですから、いまも〝冒険者〟ですね」

「では、明日から大変だな」
「へ?」

「この世にダンジョンの壁を破れる魔法使いは君ひとりだ! このことを知っている冒険者はあらゆる手段で君を勧誘してくるだろう」

「え! そ、そうなんですか。え、私?!」
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