734 / 840
6 謎の事件と聖人候補
923 戻ろう!
しおりを挟む
923
ここまでの地図はもちろん調査団の方々も作っていたので、出口までの最短ルートはすでに把握できている。
(まぁ、私の《完全脳内地図》と比べるとかなり精度の低いラフスケッチみたいだけど、移動するのには十分なクオリティだね。これに情報をいろいろ書き加えてから清書してギルドに提出すると報酬がもらえるってことみたい)
私はラフ地図を書き留めておく必要はないのだが《完全脳内地図把握》というレアスキルは秘密にしているので、面倒だが手書きの地図も書いている。
「私の《索敵》で、敵の出没場所はかなり正確にわかりますから、できる限り戦闘は避けて進んでいきましょう。とにかく安全第一で!」
戦闘大好きの冒険者揃いとはいっても、何日も昼夜問わず湧いてくる魔物と戦い続けたあとのこの状況では、さすがに魔物に飛び込んでいくのは辛いのだろう。最速で戻るという私の方針に反対する様子はまったくない。
次に決める必要があるのは移動の際のフォーメーションだが、動ける冒険者集団を先に行かせると、敵の場所がわからず不用意に遭遇してしまう可能性が高い。それこそ時間の無駄なので、私と負傷者そしてその介添をしてくれる人たちが《防御結界》に入った状態で先頭に立ち、後ろの冒険者たちに安全なルートを示すことにした。
怪我人にはひとりずつ付き添い役を置き、動けない一名は担架に乗せた状態で運んでもらう。それぞれの介添人は魔法を使って筋力を増強、加えて病人たちには《重力低下》という躰が軽くなる魔法を使ったので、私の〝負傷者チーム〟も歩行速度はみなさんをイラつかせるほどは遅くはない……と思う。
出発直後のしかも最大の難所と思われた地下三階部分には、一箇所どうしても〝洞窟狼〟と遭遇してしまう場所があった。いざとなったら私がなんとかするしかないかと思っていたが、さすが優秀なパーティー、体力を取り戻した冒険者の方々はさして苦戦することなく撃退してくれた。
(気力と体力が常人並に回復していれば、問題ないぐらい強いんだね。これなら安心して任せておけそう)
あとはひたすら戦闘を避けつつ、なんとか無事二階へと戻ることができた。
「ああ、三階を抜けられた! これで一息つけますね」
「そうだな。二階には手こずるような危険生物はいなかったはずだ。だが、気は緩めるなよ」
「それにしても、あのお嬢さんの魔法はなんなんですかね。あんなすごい《索敵》は初めてみました。どこまで見えているんでしょう?」
「あの移動する《防御結界》もすごいぜ。あの広範囲で、しかも大きな石が降ってきてもびくともしない強度! あんなの見たことねぇよ」
「さすがはグッケンス博士のお弟子さまというところだな! うちのパーティーに入ってくれないかなぁ」
「無理無理! ありゃ魔術師の中でもとびきりだぜ! 〝国家魔術師〟なんじゃないのか?」
小休憩をとりながら談笑する冒険者の方々の様子には余裕がみえてきた。
(これなら、サクサクっと出口までいけそうね)
ソーヤからもらったお水を飲みながらそう思っていると、冒険者のひとりが慌てて私のところへやってきた。
「メイロードさま! お休みのところ申し訳ありません。もしよろしければ、我々の作ったこの二階の地図をご覧いただけますか?」
「?……はい、もちろんいいですよ」
そして見せてもらったニ階のダンジョンの地図は、驚くべきことに私が作ってきた地図とはかなり違うものだった。
「これは……私の地図とはだいぶ違いますね」
「三階を進んでいる段階から違和感があったのですが……やはり、そうでしたか」
そこへ、リーダーのキックスさんもやってきた。
「本当か! 俺たちの地図が使えないってのは」
「ええ、いま両方の地図を見比べてみましたが、みなさんが作られた地図のルートは塞がっている場所がだいぶありますね。もしかして、みなさんが閉じ込められている間に、何度か地震のようなものがあったのでしょうか?」
「はい、確か四回は地震のような揺れがありました……いやもっとあったのかもしれません」
「そのとき、みなさんの前に壁ができたように、他の場所にも変動があったのではないでしょうか」
私の言葉にキックスさんは頭を抱える。
「なんてこった! ああ、まいったな。それじゃ俺たちの苦労は何の役にも立たないじゃないか」
これだけ酷い目に遭いながら、ここまで彼らが作ってきた地図は、この瞬間価値がほとんどないものになってしまった。その徒労感は半端ないだろう。
「でも、そのことを突き止めたわけですから、無駄じゃないですよ。調査ってそのためでもあるんですよね」
「そう言っていただけると少し救われますが……はぁ」
あとで知ったことだが、彼らには作った地図の権利が与えられることになっていたそうだ。有名になりそうな新ダンジョンの地図となれば何年もかなりの使用料が支払われるお宝。それが、なくなってしまったことが確定し、意気消沈してしまったということのようだった。
(それは……ガッカリするよね)
「私の地図はまだ問題なく使えそうですから、ここからはこれを見ながら最短で行くことにしましょう。いま目指すべきは〝最速〟です。またダンジョンの中が変わるようなら、それこそ面倒が増えます」
「そうですね。それでは、先導をお願いしてよろしいですか」
「ええ、いきましょう!」
キックスさんも気を取り直し、ここから出口まではノンストップで移動することにした。
一度、下の方でゴゴゴッという地鳴りのようなものは聞こえたが、一、二階には影響は見えずそこから五時間をかけて、私たちはなんとかダンジョンの出口まで辿り着いたのだった。
ここまでの地図はもちろん調査団の方々も作っていたので、出口までの最短ルートはすでに把握できている。
(まぁ、私の《完全脳内地図》と比べるとかなり精度の低いラフスケッチみたいだけど、移動するのには十分なクオリティだね。これに情報をいろいろ書き加えてから清書してギルドに提出すると報酬がもらえるってことみたい)
私はラフ地図を書き留めておく必要はないのだが《完全脳内地図把握》というレアスキルは秘密にしているので、面倒だが手書きの地図も書いている。
「私の《索敵》で、敵の出没場所はかなり正確にわかりますから、できる限り戦闘は避けて進んでいきましょう。とにかく安全第一で!」
戦闘大好きの冒険者揃いとはいっても、何日も昼夜問わず湧いてくる魔物と戦い続けたあとのこの状況では、さすがに魔物に飛び込んでいくのは辛いのだろう。最速で戻るという私の方針に反対する様子はまったくない。
次に決める必要があるのは移動の際のフォーメーションだが、動ける冒険者集団を先に行かせると、敵の場所がわからず不用意に遭遇してしまう可能性が高い。それこそ時間の無駄なので、私と負傷者そしてその介添をしてくれる人たちが《防御結界》に入った状態で先頭に立ち、後ろの冒険者たちに安全なルートを示すことにした。
怪我人にはひとりずつ付き添い役を置き、動けない一名は担架に乗せた状態で運んでもらう。それぞれの介添人は魔法を使って筋力を増強、加えて病人たちには《重力低下》という躰が軽くなる魔法を使ったので、私の〝負傷者チーム〟も歩行速度はみなさんをイラつかせるほどは遅くはない……と思う。
出発直後のしかも最大の難所と思われた地下三階部分には、一箇所どうしても〝洞窟狼〟と遭遇してしまう場所があった。いざとなったら私がなんとかするしかないかと思っていたが、さすが優秀なパーティー、体力を取り戻した冒険者の方々はさして苦戦することなく撃退してくれた。
(気力と体力が常人並に回復していれば、問題ないぐらい強いんだね。これなら安心して任せておけそう)
あとはひたすら戦闘を避けつつ、なんとか無事二階へと戻ることができた。
「ああ、三階を抜けられた! これで一息つけますね」
「そうだな。二階には手こずるような危険生物はいなかったはずだ。だが、気は緩めるなよ」
「それにしても、あのお嬢さんの魔法はなんなんですかね。あんなすごい《索敵》は初めてみました。どこまで見えているんでしょう?」
「あの移動する《防御結界》もすごいぜ。あの広範囲で、しかも大きな石が降ってきてもびくともしない強度! あんなの見たことねぇよ」
「さすがはグッケンス博士のお弟子さまというところだな! うちのパーティーに入ってくれないかなぁ」
「無理無理! ありゃ魔術師の中でもとびきりだぜ! 〝国家魔術師〟なんじゃないのか?」
小休憩をとりながら談笑する冒険者の方々の様子には余裕がみえてきた。
(これなら、サクサクっと出口までいけそうね)
ソーヤからもらったお水を飲みながらそう思っていると、冒険者のひとりが慌てて私のところへやってきた。
「メイロードさま! お休みのところ申し訳ありません。もしよろしければ、我々の作ったこの二階の地図をご覧いただけますか?」
「?……はい、もちろんいいですよ」
そして見せてもらったニ階のダンジョンの地図は、驚くべきことに私が作ってきた地図とはかなり違うものだった。
「これは……私の地図とはだいぶ違いますね」
「三階を進んでいる段階から違和感があったのですが……やはり、そうでしたか」
そこへ、リーダーのキックスさんもやってきた。
「本当か! 俺たちの地図が使えないってのは」
「ええ、いま両方の地図を見比べてみましたが、みなさんが作られた地図のルートは塞がっている場所がだいぶありますね。もしかして、みなさんが閉じ込められている間に、何度か地震のようなものがあったのでしょうか?」
「はい、確か四回は地震のような揺れがありました……いやもっとあったのかもしれません」
「そのとき、みなさんの前に壁ができたように、他の場所にも変動があったのではないでしょうか」
私の言葉にキックスさんは頭を抱える。
「なんてこった! ああ、まいったな。それじゃ俺たちの苦労は何の役にも立たないじゃないか」
これだけ酷い目に遭いながら、ここまで彼らが作ってきた地図は、この瞬間価値がほとんどないものになってしまった。その徒労感は半端ないだろう。
「でも、そのことを突き止めたわけですから、無駄じゃないですよ。調査ってそのためでもあるんですよね」
「そう言っていただけると少し救われますが……はぁ」
あとで知ったことだが、彼らには作った地図の権利が与えられることになっていたそうだ。有名になりそうな新ダンジョンの地図となれば何年もかなりの使用料が支払われるお宝。それが、なくなってしまったことが確定し、意気消沈してしまったということのようだった。
(それは……ガッカリするよね)
「私の地図はまだ問題なく使えそうですから、ここからはこれを見ながら最短で行くことにしましょう。いま目指すべきは〝最速〟です。またダンジョンの中が変わるようなら、それこそ面倒が増えます」
「そうですね。それでは、先導をお願いしてよろしいですか」
「ええ、いきましょう!」
キックスさんも気を取り直し、ここから出口まではノンストップで移動することにした。
一度、下の方でゴゴゴッという地鳴りのようなものは聞こえたが、一、二階には影響は見えずそこから五時間をかけて、私たちはなんとかダンジョンの出口まで辿り着いたのだった。
250
お気に入りに追加
13,141
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
この度、双子の妹が私になりすまして旦那様と初夜を済ませてしまったので、 私は妹として生きる事になりました
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
*レンタル配信されました。
レンタルだけの番外編ssもあるので、お読み頂けたら嬉しいです。
【伯爵令嬢のアンネリーゼは侯爵令息のオスカーと結婚をした。籍を入れたその夜、初夜を迎える筈だったが急激な睡魔に襲われて意識を手放してしまった。そして、朝目を覚ますと双子の妹であるアンナマリーが自分になり代わり旦那のオスカーと初夜を済ませてしまっていた。しかも両親は「見た目は同じなんだし、済ませてしまったなら仕方ないわ。アンネリーゼ、貴女は今日からアンナマリーとして過ごしなさい」と告げた。
そして妹として過ごす事になったアンネリーゼは妹の代わりに学院に通う事となり……更にそこで最悪な事態に見舞われて……?】

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

【短編】婚約破棄?「喜んで!」食い気味に答えたら陛下に泣きつかれたけど、知らんがな
みねバイヤーン
恋愛
「タリーシャ・オーデリンド、そなたとの婚約を破棄す」「喜んで!」
タリーシャが食い気味で答えると、あと一歩で間に合わなかった陛下が、会場の入口で「ああー」と言いながら膝から崩れ落ちた。田舎領地で育ったタリーシャ子爵令嬢が、ヴィシャール第一王子殿下の婚約者に決まったとき、王国は揺れた。王子は荒ぶった。あんな少年のように色気のない体の女はいやだと。タリーシャは密かに陛下と約束を交わした。卒業式までに王子が婚約破棄を望めば、婚約は白紙に戻すと。田舎でのびのび暮らしたいタリーシャと、タリーシャをどうしても王妃にしたい陛下との熾烈を極めた攻防が始まる。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。