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6 謎の事件と聖人候補
918 メイロード動く
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918
「ダンジョンだぞ! しかもこれは発見されたばかりでどんな危険があるか全く予測できない、ある意味最も危険な未踏のダンジョンだ! 君にそんなことは望んでいない! ダメだ! 絶対許可できない!」
勢いよく立ち上がり拳を握りながら、ユリシル皇子はものすごく焦った様子で私を止めにかかった。てっきりすぐ依頼してくるだろうと思っていたので私としては意外だったが、こんなに必死に止めてくるのは私がまだ幼く見えるせいだろうか。これでも背も伸びたし、ちょっとは大人っぽくなったと思っているのだが……。
私としては〝ストーム商会〟の件もあるし、いまあちこちで大きな面倒ごとが起こるのは勘弁してもらいたい。そのためにも、大きな憂いになりそうなことはとっとと決着をつけて欲しいのだ。危険なら危険で対処は早い方がいい。
「そうはおっしゃいますが、殿下はこの状況の解決のための助言を求めて私をお呼びになったのですよね?」
「それは……確かにそれはそうだが、私が求めたのは助言であって行動ではない。メイロードは冒険者ではないのだ。このような危険に自ら飛び込むべきではない!」
「まぁ、それはそうなんですけど、見てくるだけという条件ならば、おそらく私が適任なんですよ。私はグッケンス博士直伝の《迷彩魔法》の使い手なので」
「ぐっ…‥それは、そうかもしれないが……」
私だって危険に首を突っ込みたくはない。
だが、帝都には私の店があり、従業員たちがいて、それ以外にも多くの知り合いがこの大都市の中で暮らしている。彼らの生活を脅かすかもしれない一大事に、できることがあるならば私は手を挙げよう。
(別に危険なことは一切する気ないけどね)
「ならば私も行こう! 私も魔法にはかなり自信があるのだ!」
ユリシル皇子がとんでもないことを言い出して、側近の方々がびっくりしている。私も慌ててそれを止めた。
「無茶を言わないでください。殿下が出張ったらそれこそ状況が危険であると周囲を慌てさせることになります。そもそも民間の通常手順を使いダンジョンの危険を確認するため、調査を冒険者ギルドに依頼したのでございましょう? 殿下が出張っては意味がありません」
「それは、その通りだ……で、では、優秀な冒険者たちと共に入ってくれるのだな?」
「いいえ、ひとりの方がいいと思います」
「ひとり!?」
「従者は連れて行きますよ。彼らも熟練の気配消し使いですので、隠密行動には最適なんです。それに私に戦う意志はないので、冒険者の皆さんとは相容れないと思いますし……」
冒険者という人種は、大抵の場合軽い戦闘狂的性格をしている。降りかかる火の粉はぶった斬る!ぐらいの気構えがないと、とても務まらない仕事だからだ。それが彼らの矜持なので、どう慎重に動いたところで、どうしたって戦うことを考えた行動をするだろう。
それに対して、私には絶対に見つからない自信があり、ダンジョンの様子を見るだけという隠密行動が可能だ。この方法で最速の結果を出すには、私だけの方が機動力が高い。
「私としては、そーっと静かーに状況を見聞してきたいので、ひとりの方がいいです」
「それはそうかもしれないが……ダメだ、ダメだ! 危険すぎる! タイラール、そうだろう?」
ついにユリシル皇子は控えていた側近にまで私を止めさせようとし始めた。だが、彼は至極冷静に皇子を諭す。
「ご心配はわかりますが、帝都に迫る危険を回避することが、いま何よりも優先されるべきことでございましょう。すでに第一陣の冒険者たちの消息もしれぬ状態なのです。闇雲に第二陣を送り出しても成果は得られず、人的損失だけが増える可能性が高い。前回のこともありますから、もう失敗はできません」
「わかっている。このダンジョン調査隊は私が冒険者ギルドに直接依頼したものだ。皇族から出した依頼が何度も失敗しては、帝国の名に傷がつく。早急に成果が必要なのは……わかっている」
「ならばマリス伯爵にお願いなさいませ、ユリシル殿下! グッケンス博士から薫陶を受けた《迷彩魔法》の使い手など、この世界にふたりといないでしょう。博士のお力が借りられない以上、弟子であるマリス伯爵が行くというなら、お願いすべきです」
皇子の側近の判断は実に冷静だ。
「……わかった。マリス伯爵、頼まれてくれるのだな」
「はい。ただ見てくるだけですが、それでよろしいですね」
「もちろんだ。頼むから危険なことはしてくれるなよ……協力に感謝する」
私は笑顔で引き受ける。
私としては今回の任務をさして難しいと思ってはいない。こそこそダンジョンの中を移動することは、もうすでに経験済みだし、私の魔法はあのころより洗練されている。もちろん魔法力だって増えているのだ。それに私にはどんなときでも緊急脱出が可能な《無限回廊の扉》がある。
(いろいろと理屈はつけてみたけど、正直、人に知られたくない能力ばかり抱えている私としては、ひとりで行動しないと、後々めんどくさそうだしねぇ……魔法使いってこうした個人行動を好む人種だと知られているから、おひとり様でもそう変だとは思われないでしょ。ただ見てきたことをユリシル皇子に報告する、それだけよ)
「なるべく早く行動した方がいいですよね。では、失礼致します」
「あ!」
立ち上がる私に何か言いたげなユリシル皇子だが、私はそれに対して明るい笑顔で会釈し、素早く退場した。
(さて、新ダンジョン探検だ。皆さん無事だといいけど……さて、どんなところかな)
「ダンジョンだぞ! しかもこれは発見されたばかりでどんな危険があるか全く予測できない、ある意味最も危険な未踏のダンジョンだ! 君にそんなことは望んでいない! ダメだ! 絶対許可できない!」
勢いよく立ち上がり拳を握りながら、ユリシル皇子はものすごく焦った様子で私を止めにかかった。てっきりすぐ依頼してくるだろうと思っていたので私としては意外だったが、こんなに必死に止めてくるのは私がまだ幼く見えるせいだろうか。これでも背も伸びたし、ちょっとは大人っぽくなったと思っているのだが……。
私としては〝ストーム商会〟の件もあるし、いまあちこちで大きな面倒ごとが起こるのは勘弁してもらいたい。そのためにも、大きな憂いになりそうなことはとっとと決着をつけて欲しいのだ。危険なら危険で対処は早い方がいい。
「そうはおっしゃいますが、殿下はこの状況の解決のための助言を求めて私をお呼びになったのですよね?」
「それは……確かにそれはそうだが、私が求めたのは助言であって行動ではない。メイロードは冒険者ではないのだ。このような危険に自ら飛び込むべきではない!」
「まぁ、それはそうなんですけど、見てくるだけという条件ならば、おそらく私が適任なんですよ。私はグッケンス博士直伝の《迷彩魔法》の使い手なので」
「ぐっ…‥それは、そうかもしれないが……」
私だって危険に首を突っ込みたくはない。
だが、帝都には私の店があり、従業員たちがいて、それ以外にも多くの知り合いがこの大都市の中で暮らしている。彼らの生活を脅かすかもしれない一大事に、できることがあるならば私は手を挙げよう。
(別に危険なことは一切する気ないけどね)
「ならば私も行こう! 私も魔法にはかなり自信があるのだ!」
ユリシル皇子がとんでもないことを言い出して、側近の方々がびっくりしている。私も慌ててそれを止めた。
「無茶を言わないでください。殿下が出張ったらそれこそ状況が危険であると周囲を慌てさせることになります。そもそも民間の通常手順を使いダンジョンの危険を確認するため、調査を冒険者ギルドに依頼したのでございましょう? 殿下が出張っては意味がありません」
「それは、その通りだ……で、では、優秀な冒険者たちと共に入ってくれるのだな?」
「いいえ、ひとりの方がいいと思います」
「ひとり!?」
「従者は連れて行きますよ。彼らも熟練の気配消し使いですので、隠密行動には最適なんです。それに私に戦う意志はないので、冒険者の皆さんとは相容れないと思いますし……」
冒険者という人種は、大抵の場合軽い戦闘狂的性格をしている。降りかかる火の粉はぶった斬る!ぐらいの気構えがないと、とても務まらない仕事だからだ。それが彼らの矜持なので、どう慎重に動いたところで、どうしたって戦うことを考えた行動をするだろう。
それに対して、私には絶対に見つからない自信があり、ダンジョンの様子を見るだけという隠密行動が可能だ。この方法で最速の結果を出すには、私だけの方が機動力が高い。
「私としては、そーっと静かーに状況を見聞してきたいので、ひとりの方がいいです」
「それはそうかもしれないが……ダメだ、ダメだ! 危険すぎる! タイラール、そうだろう?」
ついにユリシル皇子は控えていた側近にまで私を止めさせようとし始めた。だが、彼は至極冷静に皇子を諭す。
「ご心配はわかりますが、帝都に迫る危険を回避することが、いま何よりも優先されるべきことでございましょう。すでに第一陣の冒険者たちの消息もしれぬ状態なのです。闇雲に第二陣を送り出しても成果は得られず、人的損失だけが増える可能性が高い。前回のこともありますから、もう失敗はできません」
「わかっている。このダンジョン調査隊は私が冒険者ギルドに直接依頼したものだ。皇族から出した依頼が何度も失敗しては、帝国の名に傷がつく。早急に成果が必要なのは……わかっている」
「ならばマリス伯爵にお願いなさいませ、ユリシル殿下! グッケンス博士から薫陶を受けた《迷彩魔法》の使い手など、この世界にふたりといないでしょう。博士のお力が借りられない以上、弟子であるマリス伯爵が行くというなら、お願いすべきです」
皇子の側近の判断は実に冷静だ。
「……わかった。マリス伯爵、頼まれてくれるのだな」
「はい。ただ見てくるだけですが、それでよろしいですね」
「もちろんだ。頼むから危険なことはしてくれるなよ……協力に感謝する」
私は笑顔で引き受ける。
私としては今回の任務をさして難しいと思ってはいない。こそこそダンジョンの中を移動することは、もうすでに経験済みだし、私の魔法はあのころより洗練されている。もちろん魔法力だって増えているのだ。それに私にはどんなときでも緊急脱出が可能な《無限回廊の扉》がある。
(いろいろと理屈はつけてみたけど、正直、人に知られたくない能力ばかり抱えている私としては、ひとりで行動しないと、後々めんどくさそうだしねぇ……魔法使いってこうした個人行動を好む人種だと知られているから、おひとり様でもそう変だとは思われないでしょ。ただ見てきたことをユリシル皇子に報告する、それだけよ)
「なるべく早く行動した方がいいですよね。では、失礼致します」
「あ!」
立ち上がる私に何か言いたげなユリシル皇子だが、私はそれに対して明るい笑顔で会釈し、素早く退場した。
(さて、新ダンジョン探検だ。皆さん無事だといいけど……さて、どんなところかな)
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