利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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6 謎の事件と聖人候補

916 ユリシル皇子との謁見

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916

ここまで送ってくれた兵士の皆さんと別れ、今度は待ち構えていたお迎えの皇宮内警備の方々に囲まれながら、静々と私は立派なエントランスを抜けていく。行き交う人たちは珍しそうに私の世界一手入れされた緑の髪をチラチラと見てくるが、私は一切気づかないふり。

久しぶりの皇宮は相変わらず豪華絢爛、国威を示すには金銀が一番と考えているこの国らしい装飾や調度品で溢れかえっている。

ここで働く人たちの多くは貴族であり、しかも士官のための厳しい登用試験を潜り抜けたエリートだそうだ。確かに私を囲む護衛兵士も案内役の文官も、みなさん清潔で質の良いきちんとした服装をしており、明らかに街の人々とは違う雰囲気を持っている。

(服装だけでおおよその階級の想像がつくぐらい、やはりこの世界の富は貴族に集中してるんだなぁ)

そうして背の高い兵士たちに囲まれ居心地の悪い思いをしながら、私と従者のソーヤ(あ、アタタガにはとりあえず〝パレス・フロレンシア〟にいてもらうことにした)は広い応接室へと案内された。

若い女性である私は、滅多なことでは皇子の私邸には入れない。公人である皇族は決して人から疑われるような行動は取れないのだ。私のようなひとりで行動する世にも珍しい〝女伯爵〟と会うとなれば、さらに気を使うのだろう。だからこんな仰々しいお迎えをつけて謁見という体裁をつくるのだ。結婚が現実味を帯びる年齢になるにつれ面倒ばかりが増えていくのだから、少し同情してしまう。

そんなことを思いながら皇宮内を歩いて、やっと比較的小さな謁見室に案内された。

(小さくて簡易的でも、目がシバシバするような豪華絢爛な調度品だけどね。どうして、お貴族様はこう金ピカが好きなんだろう? もう、落ち着かないったら……)

宮仕えの女性たちと警備の兵士の方々に囲まれながら、これまた金細工が盛り盛りのティーセットでお茶をいただいていると、先触れのあとすぐユリシル皇子が部屋に入ってきた。

(普通は先触れのあと、しばらくしてから入ってくるものじゃない? 早すぎるよ、もしかして私の到着を待ち構えてたの?)

慌てて立ち上がる私を手で制して、皇子は微笑む。

「急に呼び立てて申し訳ない、マリス伯爵。どうしてもあなたの意見を聞きたいことがあり、パレスまできてもらった。ぜひ忌憚のない意見を聞かせてほしい」

久しぶりに会ったユリシル皇子は、さらに背も伸びて肩幅も広くなりかなり鍛えていることがわかる。美しい金の髪に整った容姿、しかも不遜なところも見られず、目下の者にも謙虚だ。

(なかなかいい青年に育ってるわね、うんうん)

「光栄でございます。私でお役に立つようでしたら、何なりと」

「ありがとう。では早速」

ユリシル皇子が指示すると、机の上には大きな地図が広げられた。

「これはパレスを中心とした周辺地図だ。これに、最近大きな異変が生じた」

「異変……でございますか?」

「ああ、有史以来初めての出来事のため、どう扱うべきか非常に悩ましいことでね」

ユリシル皇子はいわゆる〝魔法騎士〟として魔法学校在学中にもかかわらず軍部で活動している。
早くから皇宮内の魔法騎士たちと切磋琢磨してきたユリシル皇子はこの年齢でもう兵士たちの支持を集めており、軍部で頭角を表した。もうすでに将来の国防の担い手を期待されている優秀な人材だと目され、すでに軍属としての地位も与えられており、指揮権もあるそうだ。
現在はパレス防衛軍に属しているそうで、魔法学校の授業がないときにはパレスで任務に当たっているという。

ユリシル皇子は真剣な顔で、その地図の上にあるパレス外壁西側からそう遠くない位置に赤い駒を置いた。

(この年齢で現役の将校なんだ……大変ねぇ)

「事態をどう考えるべきか難しい異変が起きた。パレスから徒歩三日ほどの位置に突如として巨大なダンジョンが出現したんだ」

「え、ダンジョンってそんな風にいきなりできるものなんですか?」

「ああ、それ自体は過去にも何度か報告があるのだが、パレス周辺では首都と定められたときに徹底的な周辺調査が行われ、ダンジョンのできやすい場所は避けられたはずなんだ。実際、いままで一度もパレスに近接したダンジョンというのはできたことがなかった」

「それは、確かに奇妙ですね」

ダンジョンの形成についてはまだまだ謎が多いが、魔法使いによる地質調査を行なって選ばれた土地であるパレス周辺では、相当確率が低かったようだ。

「そのダンジョンが確認されてまだ一週間ほどなのだが、噂があっという間に広まってね。この〝新発見ダンジョン〟は冒険者たちの期待が非常に高く、国中から集まってきた冒険者で街は宿もない状態なのだ」

そのダンジョンの最初の発見者は近所に住んでいた農夫だったそうだ。

最初はダンジョンと気づかず入り口から入ったところ、広大な一階層には、危険生物はおらずいい値段のする鉱石や買取価格がいい植物がたくさんあったという。

ダンジョンの報告を冒険者ギルドにしたことで報奨金をもらったこの農夫から、この話があっという間に冒険者たちに広まり、さながらゴールドラッシュという勢いで、世界中から冒険者たちが集まってきているというわけだ。一階層でその様子ならば、期待値が高いのは当然かもしれない。

「ああ、それでパレスの塀の外に野営する人たちがたくさんいたのですね」
「その通りだ。今回はギルド選定の腕のいい冒険者たちで、まずは浅い階層を調査し、パレスを脅かす危険がないと判断された段階で、冒険者たちに入ってもらう。
もしかしたら、危険のあるダンジョンの可能性もあるからね。あまりに帝都に近いため、ともかく調査を、と考えた」

「それが当然だと思います。多くの人たちの住むパレスです。危険は未然に防げるよう、慎重に行動されるのがよろしいかと……」

私の言葉に深くうなずいたユリシル皇子は、ちょっといたずらっ子のような笑顔でこう続けた。

「君はダンジョンを攻略したこともある世にも珍しい上級貴族だ。しかもグッケンス博士の薫陶を受け、魔法にも戦いにも明るい。そんな君ならば、このダンジョンのをしてくれるのではないか、そう私は考えている」

(え、なんで私がダンジョンへ潜ったことを知ってるの?……ていうか、どこのダンジョンのことだろう……いや、そんなことを聞いたら墓穴を掘る。ここは微笑んで誤魔化せ、私!)

背中に嫌な汗をかきつつも、具体的な返答は控えて微笑んでみる。

無言で微笑み合う私と皇子……気まずい時間が流れる。

(仮にも相手は皇族だもんね。噂でもなんでも私に関することを調べられれば完璧に隠しおおせるのは無理かもね。どこまで知られているかはわからないけど、詳細な情報まではない…‥はず。ここは慎重に話を進めなきゃ)
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