利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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6 謎の事件と聖人候補

899 教区長との面談

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899

〝読み聞かせ会〟が盛況のうちに終わり、子供たちを見送ったところで、サシャさんから声をかけられた。

「あの……メイロードさん……ちょっとお話が……」

そのサシャさんの様子が妙におどおどしているので、私もなんとなく声をひそめて聞き返す。

「何かありましたか?」
「いえ、あの……実はですね……」

サシャさんは言いにくそうに続けた。

「ご相談がございます。私ども〝退魔教〟の教区長様が、いま当地の教会にご滞在になっているのですが、その教区長様が、できれば早急にメイロードさんにお会いしたいとおっしゃっているのでございます」

これには私も驚いた。炊き出しなどの行事にもまったく姿を見せない謎の教区長が、私に会いたいと言っているとは、どういうことだろう。

「もしかして、例の〝ドラジェ騒動〟がらみでしょうか?」
「はい、あの件については報告をあげてありますので、おそらく……」
「だとすれば、騒動を起こしたのは間違いないですから、謝罪はしたほうがいいでしょうね」
「そんな謝罪だなんて……メイロードさんの善意のご寄付に落ち度などありません! そのことも報告書にはしっかり書いたのです。とはいえ、教区長様にはメイロード様にお会いしたい理由があるのでございましょう。ただ興味を持たれた、ということかもしれませんが、そのお心わかりません」

私に会いたい理由が叱責なのか、そうでないのかよくわからないが、隠密活動中の私にとってこれはいい機会だ。

「サシャさん、そんなにご心配なさらないでください。私はいつでもお会いしますので、教区長様のご予定を教えていただけますか?」
「は、はい。ありがとうございます。それでは二日後の午後に……」
「はい、では三時にお伺いしますね」
「何度もご足労をおかけして申し訳ありません」

サシャさんは〝ドラジェ〟の一件について、私は被害者だと考えてくれているので、私が教区長に叱責されるのではないかととても恐縮しているが、教区長の管理下にある教会内で騒動に発展したという事実はその通りなので、それを咎められるのなら謝罪することはやぶさかでないと、私は考えている。

「サシャさん、なんにも心配はいりません。謝罪すべきことは謝罪する、それだけですよ」

むしろ叱責だろうとなんだろうと、このタイミングでラケルタ・バージェに直接接触できることは、私にとってはとても都合がいい。本人に会ってこそ感じ取れるものがあるはずだし、うまく誘導できれば彼らの考えの一端が掴めるかもしれない。

私は〝読み聞かせ会〟の片付けを終え、教会の方々の分の〝ポクル団子〟をお土産に渡してから帰路についた。

「この木枠と絵も、こちらの教会に寄贈させていただきますね。どうぞ、これからもご活用ください」

「まぁ、こんな素晴らしい絵をくださるのですか! ありがとうございます。今回のお話は子供たちにとても人気のある物語ですから、きっとこれからもたくさんの子供たちを楽しませてくれるでしょう」

サシャさんにも今回の〝読み聞かせ会〟は手応えがあったようで、次回も考えているようだ。

「いろいろなお話に触れて、子供たちが本を読みたいと思ってくれればいいですね」
「ええ、まずは楽しく、ですね」

日の暮れかかった教会で帰宅する私に手を振るサシャさんは、最後までとてもやさしく、人のために尽くしている人だと思えた。

(やっぱりこの人が悪いことに加担しているとは思えないよね……だとすれば利用されているだけ? 危ないことに巻き込まれていなければいいんだけどな)

そして教区長ことラケルタ・バージェに面会する日がやってきた。

この日の装いは華美ではないが良い生地が使われた村娘スタイル。お金持ちの家に商品を納品しに行くこともできるぐらいのレベルの服装だ。セーヤには大変不評だが、当然髪は引き続きウイッグを着用し翠髪は封印している。

教会の奥にある教区長室はバージェの指示により大規模な改築がなされたそうだが、私室に当たる場所のため、その改装の全容を知る者は教会にはいなかった。

(どんな改造をしたのやら)

私を教区長室まで案内してくれたサシャさんがドアを叩く。

「教区長様、お約束のお客様をご案内してもよろしいでしょうか?」
「入りなさい」

その声とともに私は入り口で小さく腰を曲げた挨拶をしてから、足を踏み入れた。

「メイロード……さんだったね。この度は過分なご寄付をいただいたようで、一言お礼を言いたかったのだよ」

そういうバージェは貴族階級らしい明るい髪をした、まだ三十代になったばかりという印象の好青年風の男だった。

(これは、いい見た目の男性ね。人当たりもとてもやさしそう。見かけはかなり好感度が高いな)

だが、部屋に足を踏み入れた瞬間から私の《真贋》が、彼の背後にどす黒い霧を立ち上らせており、それは気分が悪くなるほどひどいものだった。

(これはこれは……気を引き締めなくちゃ)

私が笑顔を張りつかせることに集中している間に、なかなか重厚感のある応接セットに案内された。サシャさんはお茶を用意すると部屋を出ていってしまったので、私は謝罪から会話を始めてみた。

「この度は炊き出しの行事の際に、騒動になるようなことをしてしまい申し訳ありません。あれは商品にはならないだったのでございます。売り物ではないのですが、捨てるわけにもいかないものでしたので、どなたかに食べていただければと思ったのですが、配慮が足りませんでした」

「ああ〝ドラジェ〟という菓子だったね。実は、それなのだが……」
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