利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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6 謎の事件と聖人候補

898読み聞かせ会

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898

〝退魔教〟の教会での読み聞かせ会はとても盛り上がった。

子供たちにも教会の方々にも好評で〝いきなり団子〟もとい〝ポクル団子〟を手に持ったままお話に夢中になっていく子供たちの様子に、私は大きな達成感を得ることができた。

(よーし、いいぞ。やったね!)

教会では定期的に読み書きを教える青空教室のようなことを行っているそうなのだが、教えたいという気持ちが強いのかなかなか厳しく教えているらしい。だが、教えてもらうという体験もなく、勉強をする習慣のない子供たち、特に小さな子は怖がって寄りつきもしないそうだ。

そんな授業とはまったく別のイベントとして企画したこの〝読み聞かせ会〟では、まず〝おやつ〟が食べられるしれない、という噂を流したことで、その期待感から多くの子供たちを動かすことができた。普段ならこうした噂はあまり信用されないところだが、〝ドラジェ〟騒動のおかげで、子供たちが噂を信じやすい状態にあったことも良かったようだ。

サシャさんとも相談し、今回は教育的な部分はなるべく抑え、内容も読み聞かせに絞り、子供たちが喜びそうなものを聞いてもらう会にした。勉強をさせられる感を出さないようにし、参加しやすくしたかったのだ。

(まずは教会が怖いというイメージをなくさないと、勉強会にはきてくれないもんね)

楽しそうな雰囲気とおやつに惹きつけられて、思った以上に多くの子供たちが集まってくれた。

集まってきた子供たちには、まずは全員がおかわりしても十分食べられる数の〝ポクル団子〟をテーブルに用意してあること、そして最後までいれば〝お土産〟も貰えると伝えた。

「会が終わったらお土産用の〝ポクル団子〟を渡すので最後まで楽しんでいってねー!」
「すごーい〝おみやげ〟だって!」
「はーい、最後まで聞きまーす!」

さすがにたくさんの子供たちが座るほどの椅子はないので、床に座ってもらうことにはなったが、みんなそのことは全然気にしていないようだ。車座になった子供たちの真ん中で、まずは私が話を始める。

「みなさーん、では最初のお話を始めましょう。小さな村の少年がドラゴンとお友達になって巨大な魔物を倒す〝ロックの冒険〟です。聞いたことあるかな?」

この辺りでは有名なお話のようで、何人かの手が上がる。
この〝ロック〟とは、シド帝国最初の王となった人物なのだが、彼にはたくさんの逸話があり、その伝承は数多い。

「それじゃ、話していくわね。

ーー貧しい山の村に住むロックは、とても心やさしい少年でした。ある日、ロックは村の乱暴者に傷つけられた一匹の小さな魔物を助けます。

『やめろよ! 無害で小さな魔物じゃないか。弱いものイジメはよくないぞ!』

こうして出会った小さな友だちと一緒に、ロックは大冒険に向かうことになるのですが……」

そこで私は自分の前に置いていた四角い木枠の中の紙をサッと引く。
すると、そこには小さな魔物を助ける少年の姿があらわれた。

そう、私は今日の秘策として、絵になりそうなシーンの紙芝居を作ってきていたのだ。

(まぁ、紙芝居っぽい雰囲気が出せれば、文字だけよりイメージが膨らみやすいかな、っと)

実はこれセーヤにかなり手伝ってもらった。私の髪飾りや帽子作りの腕からセーヤの手先が器用で芸術的センスが抜群なのは知っていたので、紙芝居制作をお願いしたところ快く引き受けてくれたのだ。
「メイロードさまからのお願いならば、なんでもお引き受けいたします。ご安心ください」
「ありがとー! とっても助かる。きっと子供たちも喜んでくれるわ」

そこからは私が下書きをして、それをセーヤに仕上げてもらうというやり方で、私の読み聞かせ分とサシャさんの分合計20枚ほどの絵を仕上げて持ち込んだのだ。

(この紙芝居のデキがまた素晴らしいんだよね。子供たち向けにはっきりした色でカラフルにって指定したら、本当にそれらしくできてるの。臨場感も抜群で感心しちゃった)

娯楽が少ないということもあるが、子供たちはあっという間にこの〝紙芝居風読み聞かせ〟に夢中になった。

私とサシャさんで選んだ本は子供たちに本を読むことの楽しさを感じてもらうための物語に絞られていたし、どれも華々しい英雄譚だったこともあるのだろう。

最初はおやつやお土産に気を取られていた子供たちだが、私やサシャさんの熱の入った読み聞かせに目が輝き始め、最後まで誰一人帰るそぶりさえ見せなかった。紙芝居がめくられるたびに、主人公が危険な目にあえば悲鳴をあげ、三枚目がドジをする場面では大爆笑、しんみりした別れの場面では涙をこぼす子もいるほど、引き込まれていたのだ。

そんな中で、私とサシャさんはところどころで、言葉や文字の解説を織り交ぜながら、子供たちの興味も引いていく。

「文字が読めるとこんな楽しい物語をたくさん知ることができるのよ。教会では読み書き教室もしているから、よかったら行ってみてね」

そんな声かけに、目を輝かせながらうなずいてくれる子もいる。

(楽しい物語に惹かれた子が、ひとりでも多く文字が読めるようになってくれるといいな)

野草茶と〝いきなり団子〟のおやつは喜ばれた。慣れ親しんだ味だからか〝ドラジェ〟のときのようなご馳走感や特別感がない分、食べやすいようだ。

「こんなおいしい〝ポクル〟は初めて食べた!」
「〝ポクル〟ってこんなに甘かったっけ?」
「これ、お母さんも作ってくれるかな?」

会の終わりには、〝いきなり団子〟といっても子供たちにはわからないだろうと〝ポクル団子〟ということにして、どの子にもおやつ以外にふたつづつお土産としてわたした。

「よかったらおかあさんや家族に食べさせてあげてね。そうすれば、もしかしたらお家でも作ってもらえるかもしれないわよ」

(この〝ポクル団子〟なら、きっと、お家でも作れる人が現れるんじゃないかな)

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