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6 謎の事件と聖人候補

897 おやつに再挑戦

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〝ドラジェ〟騒動で、〝退魔教〟の調査が停滞するかと思ったが、この件をきっかけに私は思いの外サシャさんと仲良くなれていた。

(これは今後のためにはいいことよね)

今日も読み聞かせ会の打ち合わせのため、〝退魔教〟の教会へ行くと、サシャさんが手を振って笑顔で駆け寄ってきて、あの騒動のその後の顛末を教えてくれた。

「〝ドラジェ〟を持ってきてくださる予定だった方は、急なご予定が入ったため、本日は来られないそうです」

サシャさんが〝ドラジェ〟欲しさに並んでいた人たちにそう告げると、長い時間並んでいた彼らは口々に不満を口にし大ブーイングだったそうだ。だが、

「前回の〝ドラジェ〟の差し入れは、とてもおやさしい子ども思いのご厚意だったのですよ。そもそも何の見返りも求めず善意でしていただいたご寄付なのですから、それを強制などできるはずがありません!」

教会は寄付を受けるだけで、なにをいつ寄付するのかの判断は、寄付をする個人にしかわからないことです。今後があるかどうかも知りようがありません、と突っぱねたところ、その正論に反論はできず、渋々帰っていったそうだ。

「しつこく〝ドラジェ〟を持ってきた人間の名前や住所を聞こうとする方もありましたが、信徒でもない善意の方の名前を、しかも部外者の方にお教えできるはずもありませんし、住所も同様です」

サシャさんは笑顔でそういった人たちに正論を話し続け、追求を跳ねのけたようだ。いつも優しい彼女だが、実はなかなかハートは強いとみた。

「私が変わったお菓子を持ち込んだせいで、いらぬお手数をおかけしてしまって申し訳ありませんでした」

私が謝ると、サシャさんは笑顔で首を振る。

「お気になさらないでください。それだけメイロードさんの作るお菓子が美味しすぎたのです。本当にあれは素晴らしいお味でした」

「そう言っていただけて嬉しいですが、やり過ぎだったと反省しています。

それで〝読み聞かせの会〟のときには〝ドラジェ〟の反省をもとに、この街で珍しすぎないようなお菓子を作ろうと思っているんです。それでご相談なんですが、この辺りでよく食べられている食材について教えていただけませんか? とくにおやつになりそうなものがいいんですけど」

教会に置いてある寄付されたものらしい子ども向けの本から、読み聞かせに良さそうなものを選びながら私はサシャさんに聞いてみた。

「そうですね……芋類はよく食べられていますよ。この辺りではいろいろな芋が取れるんです。赤いもの黄色いもの、粘りのあるもの、甘さのある芋も取れますし」
「甘さのある芋ですか?」
「そういえば、寄付でいただいたものがあるのでお見せしますね」

サシャさんが持ってきてくれたものを《鑑定》すると、それは〝ポクル〟という芋で、確かに甘みがあり、どうやらサツマイモに近い品種のようだった。

「甘みがあるといってもほのかなものですが、子どもたちはとても好きなのです。茹でて食べることが多いですね」

「それはいいですね。この〝ポクル〟を使ったお菓子、挑戦してみます」

私が〝ポクル〟をしげしげと眺めてからそう言うと、サシャさんも興味を引かれた様子だ。

「メイロードさんがお作りになったら、きっとおいしいお菓子になるのでしょうね。楽しみにしています」

打ち合わせを終えてから私はソーヤと一緒にエストレートで一番大きな市場に向かった。

「〝ポクル〟を使ったおやつの材料は地元で普通に売られているもので揃えましょう。私もつい作りたいお菓子を深く考えずに作っちゃったけど、初めての街だもの。こうして市場調査をすべきだったのよ。反省だわ」

今回のいらぬ騒動の原因を作ってしまったことに反省しきりの私と対照的に、荷物持ちのソーヤもとても楽しげだ。新しい料理が食べられるのが嬉しくて仕方がないのだろう。

「豆とハチミツ、それに小麦粉……あとは〝ポクル〟ね。よし、これで作れるお菓子に挑戦よ」

「メイロードさま、では早く〝ポクル〟のおやつ作りを始めましょう!」
「はいはい、簡単なお菓子だけど、おいしいのを作るね」

今回作るのは〝いきなり団子〟というお菓子だ。

熊本の郷土菓子で手軽に作れる団子として広く食べられてきている定番のもの。物産展などを通じて私も何度も食べたことがある。

〝いきなり〟という名前の意味は諸説あるらしいが、手早くすぐできるというのが由来らしい。名前通り、作るのに特殊なものはいらないし、その材料も手に入りやすいものばかりだったので、自分でも作ったことがある。バリエーションもつけやすく、いろいろな意味で楽しめるお菓子だ。

「まったく同じものじゃないけど、似た感じのものは作れると思うの。ハチミツで甘みをつけた煮豆と皮をむいて輪切りにして水にさらしたサツマイモ……いや今回はポクルか……輪切りのポクルの上に煮豆を形よく置いてから小麦粉を練って作った皮で包んで、蒸しあげれば完成。簡単でしょ? 本当はもち米を粉にした白玉粉を混ぜてモチっとした皮にするんだけど、それは難しかったから、市場にあった粘り気の多いお芋をすりおろしたものをつなぎにしたの。これで包んだら薄皮でいい仕上がりになったわ」

具の餡と黄色い芋が透けて見える熱々の〝いきなり団子〟をソーヤに手渡すと、キラキラした目で早速頬張る。

「これは……確かに素朴ではありますが、地味にあふれております! 素材の味が生かされたここのホクホクの〝ポクル〟の食感に煮豆の甘みが合わさって、いくらでも食べられる程よい甘みが醸し出されております! この土地だからこその美味しさですね。これはお茶が欲しくなる、そんないい甘味です」

そう満足げに言いながら、次々にソーヤは口に運んでいく。

「気に入ったようでよかった。ゆっくり味わって」

私も日本茶を啜りながら一口。薄皮を噛むとじんわり広がる餡とお芋のハーモニーは確かにこの土地の恵みだ。

「うん、おいしい! これならきっと喜んでもらえそうね」
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