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6 謎の事件と聖人候補
882 稀な事故
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882
おじさまは怒鳴り散らしたりすることはなかったが、その怒り具合は誰がみても明らかだったし、イスを守る立場にあるおじさまが、今回の事件を重く捉えたことも至極当然といえる。
イス一番の権力者が、丹精込めて育て上げた商業施設で爆発騒ぎを起こしたという事実は、彼らも重く受けとめているに違いない。
このままではイスで商売ができなくなると焦ったのだろう。担当者はおそらく〝社外秘〟だろうストーム商会の内部事情を少しためらいながらも話し始めた。
「ストーム商会の品物は、実はそれほど特殊なものではございません。基本的な構造は通常の製品と同じですので、いくつかの工房に生産を発注し、ストーム商会の自社工房にて〝基幹部品〟の取り付けと交換をしております。
ですので〝基幹部品〟以外の問題であれば、すぐに分解し調べることができますので数日のうちには原因が特定できるはずです。ですが……もし〝基幹部品〟に関わる問題だとしますと、私どもにすぐには原因は突き止められません。
ストーム商会のこの重要な部品につきましては、機密保持のため我々も知らない秘密の場所で作られているのでございます。この〝基幹部品〟の動作についてわかる技術者も、決して表に出てくることはなく、販売をしているわれわれの中にはにはその技術を知る者がいないのでございます」
「なるほど。これだけの魔道具を作り出す技術だ。その秘匿するのは当然だろう。それは理解できるが、その〝基幹部品〟の不具合ならば、どう対応するつもりなのだ。わからないまま、人々を危険に晒し続けるつもりか」
「それは……」
どうやら、販売と交換だけを任されている彼ら営業部門は〝魔道具〟としての根幹に関わる技術について何も知らないということのようだ。彼らも〝基幹部品〟の技術者から回答がくるまで待つしかないらしい。
おじさまは担当者たちに最後通告をした。
「とにかく、原因が特定され、改善されない限りストーム商会の商品のイスでの使用は禁止だ! 今回の事故の責任として各店主への説明、それに賠償金についてもしっかり払ってもらうからな。そのことについては担当者で話し合え」
「もちろんでございます。謝罪と賠償につきましては、誠心誠意取り組ませていただきますので、どうか……」
なんとか食い下がるストーム商会だったが、おじさまは至極冷静に話し合いを打ち切った。
「すべては原因が明らかになるまでは譲歩はできん。いくら素晴らしい道具でも、危険があっては意味がない。そう言ったはずだ」
立ち上がったおじさまはそのまま会議室をあとにし、ストーム商会の魔道具のイスでの普及はここでストップとなった。
〔ソーヤ、至急ストーム商会の魔道ランプを手に入れてくれる? それをグッケンス博士に渡してほしいの〕
〔了解しました。博士は怪しい道具が大好きですから、きっと何か見つけてくれますよ〕
〔ふふ、きっとそうね〕
私はそのままイスの家に戻り、それからしばらくは何事もない日々が続いた。
イスの街は以前の暗さに戻ってしまったものの、魔道具の撤去により危険はなくなり、平穏を取り戻している。
〝ラーメン横丁〟はいろいろな割引やフェアを行なって、事件のイメージを払拭し、すぐに以前の賑わいを取り戻した。いや、その賑わいは以前より増している。なぜかというと、私のお掃除魔法がいいように宣伝に利用されており、あの騒ぎのあと、この横丁はイスの女神の加護がある〝美食の聖地〟ということなってしまっているそうだ。
小さな女神像までいつのまにか創られ、その参詣ついでにラーメンを食べるという、いままでと違う客層が増えているそうで、あの界隈はますますの活況となっているという。
(はいはい。商魂たくましいなぁ、まったく……でも今回は仕方ないか。おじさまのためだ。イメージ回復になるなら、もう好きにして)
ストーム商会からは原因についての釈明もないまま一か月以上が経過し、彼らがイスを諦め他の大都市で派手な宣伝活動を始めたという噂が入ってきた。
「え? 原因もわからないのに他の大都市で売るつもりなの? でも、ストーム商会の魔道具は確かに便利には違いないのよね。あの事故を知らない人たちならきっと手に取ってしまうわ……それにしても節操のない店ね、ストーム商会って」
事実を確かめに行ってくれたソーヤもあきれ顔だ。
「まったくでございます。ずいぶんとひどい商いだとは思いますが、イスのように権力者が〝不許可〟という決断をしない限り、街の商人の売り買いを止める術はございません。もう帝都パレスでも派手に売られ始めているのですから……」
ストーム商会側はイスでのあの事故は〝特殊な原因〟で起こった極めて稀なもので心配はいらないと吹聴しているらしい。
(それなら、その原因をおじさまに報告しないのはなぜよ。商品はいいものなんだから、しっかり報告して改善策を提示すれば、おじさまは商売を止めたりしないのに……)
私はストーム商会の商売の仕方に困惑しながら、また事故が起こったりしないよう祈るしかなかった。
おじさまは怒鳴り散らしたりすることはなかったが、その怒り具合は誰がみても明らかだったし、イスを守る立場にあるおじさまが、今回の事件を重く捉えたことも至極当然といえる。
イス一番の権力者が、丹精込めて育て上げた商業施設で爆発騒ぎを起こしたという事実は、彼らも重く受けとめているに違いない。
このままではイスで商売ができなくなると焦ったのだろう。担当者はおそらく〝社外秘〟だろうストーム商会の内部事情を少しためらいながらも話し始めた。
「ストーム商会の品物は、実はそれほど特殊なものではございません。基本的な構造は通常の製品と同じですので、いくつかの工房に生産を発注し、ストーム商会の自社工房にて〝基幹部品〟の取り付けと交換をしております。
ですので〝基幹部品〟以外の問題であれば、すぐに分解し調べることができますので数日のうちには原因が特定できるはずです。ですが……もし〝基幹部品〟に関わる問題だとしますと、私どもにすぐには原因は突き止められません。
ストーム商会のこの重要な部品につきましては、機密保持のため我々も知らない秘密の場所で作られているのでございます。この〝基幹部品〟の動作についてわかる技術者も、決して表に出てくることはなく、販売をしているわれわれの中にはにはその技術を知る者がいないのでございます」
「なるほど。これだけの魔道具を作り出す技術だ。その秘匿するのは当然だろう。それは理解できるが、その〝基幹部品〟の不具合ならば、どう対応するつもりなのだ。わからないまま、人々を危険に晒し続けるつもりか」
「それは……」
どうやら、販売と交換だけを任されている彼ら営業部門は〝魔道具〟としての根幹に関わる技術について何も知らないということのようだ。彼らも〝基幹部品〟の技術者から回答がくるまで待つしかないらしい。
おじさまは担当者たちに最後通告をした。
「とにかく、原因が特定され、改善されない限りストーム商会の商品のイスでの使用は禁止だ! 今回の事故の責任として各店主への説明、それに賠償金についてもしっかり払ってもらうからな。そのことについては担当者で話し合え」
「もちろんでございます。謝罪と賠償につきましては、誠心誠意取り組ませていただきますので、どうか……」
なんとか食い下がるストーム商会だったが、おじさまは至極冷静に話し合いを打ち切った。
「すべては原因が明らかになるまでは譲歩はできん。いくら素晴らしい道具でも、危険があっては意味がない。そう言ったはずだ」
立ち上がったおじさまはそのまま会議室をあとにし、ストーム商会の魔道具のイスでの普及はここでストップとなった。
〔ソーヤ、至急ストーム商会の魔道ランプを手に入れてくれる? それをグッケンス博士に渡してほしいの〕
〔了解しました。博士は怪しい道具が大好きですから、きっと何か見つけてくれますよ〕
〔ふふ、きっとそうね〕
私はそのままイスの家に戻り、それからしばらくは何事もない日々が続いた。
イスの街は以前の暗さに戻ってしまったものの、魔道具の撤去により危険はなくなり、平穏を取り戻している。
〝ラーメン横丁〟はいろいろな割引やフェアを行なって、事件のイメージを払拭し、すぐに以前の賑わいを取り戻した。いや、その賑わいは以前より増している。なぜかというと、私のお掃除魔法がいいように宣伝に利用されており、あの騒ぎのあと、この横丁はイスの女神の加護がある〝美食の聖地〟ということなってしまっているそうだ。
小さな女神像までいつのまにか創られ、その参詣ついでにラーメンを食べるという、いままでと違う客層が増えているそうで、あの界隈はますますの活況となっているという。
(はいはい。商魂たくましいなぁ、まったく……でも今回は仕方ないか。おじさまのためだ。イメージ回復になるなら、もう好きにして)
ストーム商会からは原因についての釈明もないまま一か月以上が経過し、彼らがイスを諦め他の大都市で派手な宣伝活動を始めたという噂が入ってきた。
「え? 原因もわからないのに他の大都市で売るつもりなの? でも、ストーム商会の魔道具は確かに便利には違いないのよね。あの事故を知らない人たちならきっと手に取ってしまうわ……それにしても節操のない店ね、ストーム商会って」
事実を確かめに行ってくれたソーヤもあきれ顔だ。
「まったくでございます。ずいぶんとひどい商いだとは思いますが、イスのように権力者が〝不許可〟という決断をしない限り、街の商人の売り買いを止める術はございません。もう帝都パレスでも派手に売られ始めているのですから……」
ストーム商会側はイスでのあの事故は〝特殊な原因〟で起こった極めて稀なもので心配はいらないと吹聴しているらしい。
(それなら、その原因をおじさまに報告しないのはなぜよ。商品はいいものなんだから、しっかり報告して改善策を提示すれば、おじさまは商売を止めたりしないのに……)
私はストーム商会の商売の仕方に困惑しながら、また事故が起こったりしないよう祈るしかなかった。
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