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3巻
3-2
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「〝魔法薬師〟として仕事ができるぐらいの魔法力がある弟子は何人かおりますが、どうにも皆修練と知識が足りず、合格点に値する者はごく少数なのですよ。この魔法薬程度の薬はうちの薬師たちならば誰でも作れるようになってもらいたいものですが、まだまだほかの者に作らせると品質が安定しないのでね」
魔法薬以外なら製薬を任せられるが、それだけではゼンモンさんの負担がなかなか軽減されない。それが現在のこの薬種問屋一番の悩みのようだ。
「それでも、いまは外部の薬師からの購入分を合算することでなんとか需要を満たし、店を回しております。ですがこれも事が起これば立ち行かなくなるのは自明のこと。まったくもって状況は危ういのですよ」
その表情には深い憂いがあった。
「午前中は、最近ダンジョンの難易度が全体に高くなってきているとゴルム嬢から情報がありましたので、傷薬も普段の倍量ほど作りました。冒険者も大変ですね」
その薬づくりの様子は、千本を超える試験管のような入れ物が宙を舞う幻想的とすらいえるものなのだと、おつきの方が教えてくれた。素晴らしい魔法操作だが、ゼンモンさんにとってはそれが普通で、効率がいいからやっているだけだそうだ。
「では午後からは、さらに専門性の高い薬を作っていこうと思います」
私たちが入室を許されたゼンモンさんの研究開発室では、すでにたくさんのお弟子さんたちがてんやわんやしていた。午後からのこの時間は、どの素材が必要になるのか直前になってもわからないことが多いため、準備するのも大変とのことだった。
(有能な上司の下で働くのも気苦労が多そうだね)
ゼンモンさんが尊敬されている大きな理由のひとつが、創薬の技術だ。
新しい薬を作り出すというのは、知識と技術の両方に秀でていなくてはならないのはもちろんだが、それだけではダメなのだとハルリリさんから聞いている。それぞれの効能を組み合わせ、ひとつの薬として落とし込むレシピ作りには特別な才能が必要で、それができる薬師は極めて稀なのだ。
この世界ではハルリリさんのように魔法力を使って人を癒せるヒーラーという能力者はいるが、いわゆる医者という職業はないらしい。
その代わり薬師、特に〝魔法薬師〟は医師のような役割を担っている。病気の治し方はさまざまな点で前の世界と違うし、それ以前にこの世界の人たちはよっぽどのことがない限り、薬やヒーラーの世話になろうとしない。どちらもかなり高額になることが多いため我慢してしまうのだ。
そんな環境の中、ゼンモンさんは稀少な素材を極力使わない特殊な専門薬の開発を続けている。なるべく買いやすい魔法薬を創るため、日々研究を続けている稀有な人なのだ。なるほど、ハルリリさんが尊敬するのもよくわかる。
多くの薬師たちは修業の過程で師匠から学んだレシピを基に薬を作る。ゼンモンさんのような天才薬師の下で学べれば、多くの独創的な薬の知見が得られるため、弟子志願の薬師は後を絶たない。ここは薬師の修業の場でもあるわけだ。〝仙鏡院〟の入門試験がとても厳しく狭き門だというのもうなずける。
「今日は眼病の薬の処方を改良してみようと思っているのですよ。この間から取り組んでいるのですが、お年寄りの眼病を治す薬の効果がいまひとつ上がらないので、もう少し別の角度から手を加えてみたいと考えているのです」
目の前にはいろいろな薬瓶が並んでいる。涙の量を増やす〝涙液〟に目の緊張をほぐす〝眼精疲労改善薬〟、目のピントを回復する〝焦点維持薬〟、どれもゼンモンさんがご自分で開発したもので、それぞれ非常にいい魔法薬だ。
「お年寄りですか……もし目の濁りが気になるようなら〝色通しの実〟が、もしかしたら効果があるのでは?」
私の言葉にゼンモンさんの目が光る。
「先ほど第二倉庫で見かけました。〝色通しの実〟には不思議な性質がありますよね。確かその実の搾り汁を入れるとどんな色も抜けるため、一部の地方ではシミ抜きに使われると。特に毒性も認められていないようですので、目の中の濁りがもしかしたら取れるかもしれません」
「素晴らしい。聞いたか、第二倉庫だ。すぐに取ってきなさい」
ゼンモンさんの言葉にあわてて弟子が駆けていく。
「あの短時間に、かなりの数の《鑑定》をしたようだね。しかも素晴らしい記憶力だ」
実を言えば、私の前世で祖母が白内障を患っていたので、高齢者の眼病ならば水晶体の濁りが取れれば改善するのではないかと思っただけだ。
あの〝色通しの実〟の性質も面白かったので記憶に残っていたに過ぎないのだけれど、お役に立ったようでなによりだ。それからは薬作りのさまざまなテクニックを見せてもらい、ハルリリさんとふたりみっちり勉強させてもらった。創薬は奥が深い。
「君の意見を取り入れた眼病改善薬は、近いうちにきっと完成させますね。あれはいい提案でした」
ゼンモンさんも新しい薬の目処が立ったことでご機嫌だ。
「商売に飽きたら、ぜひ私のところへ修業にいらっしゃい。試験は受けなくてもいいから。ハルリリさんも良かったら、いつでも勉強においでになるとよろしい」
どこまで本気でどこまで冗談なのかわからないが、ニコニコと笑ってゼンモンさんはそんなことを言う。ハルリリさんは感激で目がウルウルだ。
私は大量に購入した素材や薬をソーヤに持ってもらい、帰りの挨拶をする。
「ありがとうございます。ぜひまたお邪魔させていただきます。今日は勉強になりました」
後日、私がこのときのお礼の手紙に添えて、紙を使ったカードでの素材管理法を伝えたところ、早速導入したそうで、便利に使ってもらっているという。そして後日、とても管理が楽になったという礼状とともに、日本のお米に近い品種の種が届けられた。
「ありがとう、大好き、ゼンモンさん!!」
◆ ◆ ◆
私はこの世界について、実はあまり多くを知らない。この世界の記憶も知識もなく、生活のためにいきなり仕事を始めたのだから当たり前なのだが、国語や算数は問題ないものの、頼りないのが歴史や地理についての知識だ。いまはこの国の地図については読めるようになっているけれど、それだけ。ただ場所の情報を知っているだけでは、それは地理として十分な知識とはいえないだろう。
最近、イスの外国人街に出かけたり、パレスに行ったりと行動範囲も広くなり、いろいろな新しいモノや人と出会うようになったことで、自分の知識不足をこのまま放置してはまずいのではないかと私は感じ始めていた。
そこで村の学校の授業に取り入れた地理・歴史の授業を受け持っているドゥードル先生に、週一で家庭教師をお願いできないかとお伺いしたところ、快く依頼を受けてくれたのだ。本当は子供たちとちゃんと学校の授業に出たいのだが、私が現れると気が散るだろうし、仕事もあるので定期的には行きづらく、苦肉の策といったところだ。場所は村営図書館の中の会議室を借りた。
「ドゥードル先生、お忙しいところこのようなわがままを聞いてくださり、ありがとうございます」
頭を下げる私に、大げさに手を振り、逆に何度も頭を下げる先生。まだ三十歳になったばかりの若い先生だが、パレスの地理院で働かれていたエキスパートだ。地理院の主な仕事は、軍部の作戦のための調べ物と地図作成。研究職希望だったドゥードル先生は、それが嫌になって退職されたそうで、すかさず教師としてスカウトしてきた。柔和でちょっと頼りない印象のほっそりした男性だが、眼鏡の奥の瞳は理知的で先生としての評判も上々。
「と、とんでもございません!! こちらこそなんと光栄なことでございましょう。メイロードさまに、私のつたない知識をご教授できる機会があるとは思いもいたしませんでした。ご自身が設立された学校にご出席になれないとはなんとも悲しいことでございますが、お忙しい中、さらに勉学に励まれるとは、真にもって素晴らしいことでございますよ」
私がメイロード・ソースの権利を村に委譲したことは皆が知っているので、私は村人からものすごくありがたがられている。さらにドゥードル先生は学校設立の経緯もご存じなので、私に対して過剰な思い入れがあるようだ。
「あ、ありがとうございます。それほどたいしたことではないのですが……。早速ですが、まずは大まかな地理的情報からご教授をお願いできますでしょうか?」
「承知いたしました。それではわが国と周辺諸国について、本日は概略をお教えいたしましょう」
先生がひとつ咳払いをしたあと、授業開始だ。
「この世界に大陸はふたつ、イルガン大陸とエルガン大陸がございます。エルガン大陸はイルガン大陸の半分ほどの大きさです。過酷な環境と凶悪な魔物の棲む、人が足を踏み入れたことのない、未開の大陸でございます。位置的にはイルガン大陸の真裏の南半球に位置しておりますね」
ドゥードル先生は、略式の世界地図を持参してくれていた。
イルガン大陸にある主な国は三つ。シド帝国、ロームバルト王国、キルム王国の三国だ。
「この中で最も新しい国がシド帝国、私たちが住んでいるこの国です」
「現在の大陸では最も勢力の大きい国ですよね。でも、最近なんですね」
「はい、この大陸の長い歴史からすれば、ごく最近の建国です。二百年ほど前ですね。最初は小さな領土でしたが、未開の地を開拓しながら北東への進軍を行ない、その領土を急速に広げていきました。九十年前、長い戦乱の歴史に終止符を打とうとしたシド帝国は、北東部の山脈を国境と定め、最後まで争っていたロームバルト王国と停戦合意を結びました」
「では、いまは平和と考えていいんですね」
「そうですね。現在三国間に紛争はございません。ただ、いまだに〝停戦〟であるため、現在友好的な関係を保ってはいるものの、完全に兵力を国境から撤退させるまでには至っておりません。北東部から北部方面には常に兵が常駐しております」
「なるほど、そうだったんですね」
「では、つぎは沿海州についてお話しさせていただきます」
そこからは、イルガン大陸以外の人の住む地域についての話を聞いた。
「ちょうど、この大陸の南側に当たる地域に点在しておりますのが、沿海州諸国です。通称〝沿海州〟と呼ばれる大小の島国が集まった地域ですね」
キッペイの故郷のアキツ、そのほかにハーラーやザインといった名前の国がある。それぞれ独立は保っているが、大国とは対等な関係とはいえないようだ。そのほかにも島はかなりの数があり、まだその全体を把握した地図はないらしい。
「軍部はもっと詳細な世界地図を持っておりますが、私たちが見ることはできませんからね」
ドゥードル先生は自嘲気味に笑った。研究者としては見たいが見られないというのはもどかしいことだろう。
「では、それぞれの国について、次はお話しいたしましょう」
先生は黒板に簡単な年表を書きながら説明してくれた。
「わが国シド帝国、その建国は二百から二百五十年前といわれておりますが、黎明期につきましては、研究者の間でも意見はさまざまでございまして、正確にはわかりません」
黎明期のシド帝国は、現在のパレスに近い場所に大きな集落ができたことから始まり、やがて国力を蓄え、開拓を始めた。開拓の過程で、周辺の魔物を倒して一掃しながら、その土地の集落を呑み込みつつそこから兵を募り、やがて組織が生まれ、軍部を統括する者が頭角を現した。彼は国としての形を作り上げ、皇帝の地位についた。
「これがハミル・シド皇帝陛下率いるシド帝国の誕生でございます。シド皇帝率いる帝国軍は勇猛果敢、劣悪な環境をモノともしない進軍で有名でした。死をも恐れぬ戦いぶりだったそうですよ。まぁ、そのせいでロームバルト王国からは〝蛮族〟と長く呼ばれることになりましたが……」
また、この時点で皇帝を宣言したものの、建国に関してはまだまだ内政への準備がなされていないに等しいものだったため、ここをシド帝国の成立とするかどうかも玉虫色だ。
シド帝国が国としての機能を確立するまでにこのときから二十年を要し、公式にはハミル・シド帝即位から二十後の一月一日を建国の日と定めている。
「シド帝国も建国からしばらくは、内政が安定せず、皇帝位もめまぐるしく変わりました。しかし、ロームバルトとの停戦後は、非常に安定した状況が続いております」
賢帝と誉れ高い現皇帝は十五代皇帝テスル・シド。
三人の妃との間に、八人の皇子と三人の姫がある。かつては野蛮な烏合の衆と蔑まれた帝国も、いまでは貴族を中心とした文化国家へと舵を切り替えた。大きな武力衝突もなく、治世は安定し、経済も発展している。
「わが国は軍事・経済とも、現在のところ、この世界最強の国と申しあげて良いでしょう」
ドゥードル先生は誇らしげだ。
そして停戦中の相手国、シド帝国に次ぐ国力を持つロームバルト王国。建国二千年を超える長い歴史を持つ国家で、格式やしきたりにこだわりの強い国として知られている。国力では遠くシド帝国に及ばないが、文化的成熟度ではロームバルトが優れているというプライドを非常に強く持っており、なにかにつけてシド帝国と張り合いたがる国だと先生は困り顔だ。特にこのふたつの大国の貴族同士は大変仲が悪いことで有名で、問題視されている。
「この間まで〝蛮族〟と罵っていたシド帝国に対してなんとか体面を保ちたいのでございましょうね。ロームバルトの上から目線というのは有名で、面と向かって喧嘩はしないけれど嫌味たっぷりな態度をされがちで……」
思うところはあるが、表面上は穏やかに交流しているということのようだ。
「現在の国王カシウス・アブシルド・ロームバルト三世は、なかなか評判の良い方です。両国の歪んだいがみ合いにも心を痛められているそうで、近いうちにシド帝国の皇族の姫をロームバルトの第三王子に嫁がせるという計画もあると伺っております。両国にとってこれはとても意味のある結びつきとなるでしょう」
「それはおめでたいことですね。それを機に早く停戦ではなく、終戦になったらいいですね」
つづいてはキルム王国についての話だ。キルム王国もロームバルトほどではないが古い歴史のある国だ。王国とはいいながら、この国は宗教国家の色合いが強い。
シド帝国と同じ聖天真教を国教と定めているが、意味合いはかなり異なる。特に大きく違うのは、教会の発言権が非常に強く精神的指導者としてだけでなく国政にも教会の意向がかかわっているという点だ。
「国境を接していないということもあり、敬いつつ接している、という感じでございますね」
授業はあっという間に時間になってしまった。久しぶりに学生らしいことができて、なんだかとてもうれしい。ドゥードル先生の授業はとても楽しかった。
そしてこのあと、この授業を受けておいて本当によかったと思える一大事が私に降ってくるのだ。
第二章 ″婚約式〟をプロデュースする聖人候補
帝都パレスでは、年がら年中どこかでパーティーが開かれている。規模はさまざまで、小さなものは召しかかえる使用人たちで準備を行うが、大規模な冠婚葬祭となると、とても自分たちだけでは抱えきれないため、懇意の商店に物資の発注込みで仕切らせることが多い。
帝都にはそれを得意とする商店もあるのだが、今回は名指しでサイデム商会にその依頼がきた。ドール侯爵経由らしいが、この類の依頼は確固たる信用がなければ絶対にこないものだ。
帝都の貴族たちにサイデム商会が認められた、喜ばしい仕事といえる。さらにいえば、商売としても非常にやりがいがあり、利益も大きい。ほぼ金額を気にせず準備ができる貴族の式典は、儲け口として極上、しかも成功すれば店のいい宣伝にもなる。
今回の依頼内容は、上級貴族の〝婚約式〟のプロデュースというものだった。
「すまん、お前の知恵を貸してくれ……」
突然サイデム商会に呼び出された私の前で、おじさまが深く頭を下げたのにはわけがある。サイデム商会が依頼を受けた案件が、とんでもないものだったからだ。
それは上級貴族の〝婚約式〟を取り仕切れという依頼。しかもその式の規模と政治的な意味はとても大きく、絶対に失敗は許されない。式にはシド帝国の皇族だけでなく、長年犬猿の仲であるロームバルト王国の王族も臨席する予定であり、国を挙げての一大イベントだった。
婚約されるのはロームバルト王国ローエングリム伯爵家の次男マリオン・ローエングリム様とシド帝国のゴール伯爵家令嬢マリリア様。おふたりの婚約は、翌年に予定されているシド皇女様のお輿入れの前段階の婚儀となる。
この婚礼は両国の距離を縮め、結婚に関する文化交流をしつつ、メインである皇女様の式典に備えるものでもある。また、親しい従者を先に皇女様の嫁ぎ先に送り込むことで、皇女様の知らない国に嫁ぐ不安を解消するという意味もある。極めて政治的な婚姻だが、マリオン様とマリリア様のおふたりはお互いの役割をよく理解しており、仲睦まじいそうだ。
(貴族って大変なのね)
「あの国の貴族連中の上から目線のダメ出しは有名だからな。シド帝国を〝文化果つる国〟とか呼んでるし……とにかくすべてにおいてやつらの想像の上をいく式にすることが、絶対条件なんだ」
「でもおじさまは、こういう儀式とかキラキラとか苦手なんですよね」
おじさまは苦虫を噛み潰したような顔だ。
「女性商品部門から上がってくる提案も、なにが〝ステキ〟でなにが〝カワイイ〟のか、なにが正解なのかさっぱりわからんのだ! 今回は化粧品事業のために作った女性商品部門と連携すれば大丈夫だと思って、彼女たちと一緒に策を練り始めたんだが、俺がトップでは遅々として進まないことがわかった。無理だ!」
女性商品部門の方々はとても有能なのだが、さすがに自分たちだけで判断できないし、いままでにない斬新でなおかつ優美な上級貴族にふさわしい〝婚約式〟となると、かなりハードルが高いらしい。
(いつもなら引っ張ってくれるはずのボスはまったく役に立たないみたいだし)
「お前なら貴族の女性からの聞き取りも可能だし、新しい着想もあるだろう。なんとか相談役として参加してくれないか。頼む!!」
ここまで低姿勢のおじさまも珍しい。本当に向かない仕事のようだ。
「わかりましたよ。とりあえず貴族事情に詳しい人たちからの聞き取りですね。大貴族であるルミナーレ様とアリーシア様、もちろんマリリア様にも。それにセイツェさんともお話ししないと……」
私はノートを取り出し、やるべきことを書き出していく。
式は三か月後、シド帝国での〝婚約式〟。
列席者は二百名。披露宴の後、千人規模のパーティーも行う。
結婚式は後日ロームバルト王国で行われる。
「できれば一度ロームバルト王国に行って食事情など見ておきたいところですね」
「ロームバルト王国の首都にはうちの支店があるから、それは可能だ。いまは一般市民も普通に移動できるからな。近いうちに行けるよう手配する」
とりあえずサイデム商会の女性部門にプロジェクトチームを作ろう。三か月という期間は決して長くはない。おじさまはなかなか私をゆっくりとは遊ばせてくれないようだ。
(仕方ない、やりますか)
まず一番先に話を聞かなければならないのはセイツェさんだ。サイデム商会の貴族担当相談役セイツァさんにはアリーシア様の誕生日パーティーのときもとてもお世話になった。セレブの冠婚葬祭についてなら、この国にこの人以上に詳しい人はまずいない。私も、もしセイツェさんがいなかったら、きっとこの話には二の足を踏んでいたと思う。
おじさまの望むような演出だの驚かせる仕掛けだのと言う以前に、必要なのは〝しきたり〟と〝マナー〟に則っているかどうかだ。儀式においては、そこをおろそかにしないことが、最も大切で成否を握っている。特に〝婚約式〟の部分は、絶対にミスは許されないだろう。ロームバルト王国との関係を考えれば、どんな隙も見せてはならない。
「この重大事を、サイデム様はメイロードさまに丸投げなさったのですか。なんとも大人気ないことをなさる……」
セイツェさんは、嘆かわしいという顔で頭を振った。
「それについては同感ですが、事務的な部分や人員の調達、資材発注に関してはおじさまが責任を持って最高のものをご用意くださるそうです。私たちが考えなければならないのは、ロームバルトの貴族の方々に失礼のない、格式高く美しい式典です。そこでまずはセイツェさんに〝婚約式〟についての詳細、そして行う際の注意事項についてお伺いに参りました」
セイツェさんは深くうなずくと、レクチャーを始めてくれた。
「〝婚約式〟は上級貴族が他国へ嫁がれる場合にのみ行われる式典です。内容はほぼ結婚式と同じと考えて差し支えありません」
上級貴族が他国へ嫁ぐことは、特に昔は人質としての意味合いが強かった。さらに、みだりに国を留守にできない立場の方々は、嫁がれる国での結婚式に出席できないことも多い。
そのため、この〝婚約式〟は他国で行われる結婚式に出席できない花嫁の親族に向けて、また国民に結婚を公にする儀式として始まったそうだ。そして二度と祖国へ戻れぬかもしれぬ娘と両親の最後の別れの儀式でもある。
「嫁がれた国での儀式に出席できないご両親に、結婚することを示す、祝いと別れの式なのでございますよ」
なかなか悲しくシビアな側面があるようだ。
「大まかな流れとしては、司祭によりこの婚約は神に祝福を受けたものである、という宣言を受けたあと、ふたりが宣誓を行い、お互いに相手が身に着けるものを贈り合います。特に指輪といった決まりはございません。女性にはほかにもネックレスやブレスレット、ティアラなどが贈られ、男性には宝剣などが贈られることが多いですね」
そして最後に、祖国への別れを告げる儀式を執り行う。〝婚約式〟が終われば嫁ぎ先が用意した屋敷に移り、実家へ戻ることなくロームバルトで行われる結婚の儀を待つのだという。
「式自体は一時間程度でございましょうか。細かいしきたりはございますが、これは式の主役たる方々に覚えていただくしかございません。上級貴族の方々とはいえ、ロームバルト風に厳格に行うとなると、慣れないシド側の皆様にはご負担が大きいとは存じますが……」
「衣装についての制限はどうでしょう」
「そうでございますね。ロームバルトの方は男子正装とされている襟の高い白のご衣装になりましょうね。嫁がれる姫も、合わせて白のドレスということになりましょうか」
「ベールを着けるというのは失礼に当たるでしょうか?」
「そのような事例は聞いたことがございませんが、なにか意味のあることなのですか?」
私は純白のベールは魔除けの意味、そして女性の純潔を表すものとして、さらにいえば、式の演出としても、とても有効だということを説明した。
「なるほど、それならば、ぜひ取り入れられるべきです。シド帝国側が式典に新しいものを追加することは、わが国の成熟度を見せる上でも効果的でございましょう」
セイツェさんと話しているうちに、少しだけ構想ができてきた。
(最高に美しい花嫁を演出できるよう頑張ろう!)
その三日後、私はダイル・ドール参謀の住まう離宮を訪れた。
「久しいですね、メイロード。アリーシアが首を長くして待っていてよ」
今日も隅から隅まで隙のない美しさのルミナーレ様がにこやかに微笑む。
(まぶしい! まぶしすぎる‼)
「メイロードも帝都に住めばよろしいのに! イスは遠すぎますわ。それになにもないところなんでしょう? 不便ではないの?」
アリーシア様は、せっかく親しくなったお気に入りのお友だち(私だ)と滅多に会えないことにご不満だ。いつも帝都へ移住するよう私に言ってくる。
「本日は急な訪問にもかかわらずお時間を取っていただき、感謝の言葉もございません。アリーシア様、ご心配いただきありがとうございます。ですが、私には両親の愛したあの村が肌に合っておりますので」
私はにっこり微笑んで、お辞儀をする。
「あなたは年に似合わず、礼節をわきまえた子だけれど、あまり他人行儀なのも悲しいわ。もっと楽にしていいのですよ」
「そうよ、あなたは私のお友だちなんだから、もっと堂々としていていいのよ!」
このおふたりは私をとても信頼してくださっている。いまでは本当に親しい親戚のような気安さで接してくださるのだ。
私の仕事に対する誠意が、おふたりの信頼につながっているならうれしい。
(お菓子で胃袋を掴んでしまった、というのもあるかもしれないけどね)
「本日お持ちしたお菓子はエクレアとクッキーでございます」
チョコレートがないので、エクレアの上は砂糖がけ、クッキーは思い切って白とピンクの市松模様にしてみた。焼いているうちに飛んでしまうのでほのかではあるが、フルーツを使って色づけした。さわやかな香りがして、色合いも可愛いらしい。おふたりにピッタリだと思う。
「メイロードが持ってきてくれるお菓子は本当に美味しくて素敵ね。帝都のどこにも売っていないし、うちの料理人たちも作り方がまったくわからないみたい。誰も再現できないのよ」
アリーシア様の言葉に曖昧にうなずく。製法は〝商品〟、むやみに明かしてはいけないのだ。
(またおじさまに怒られたくないし……)
ひとしきりお茶をしながら近況報告をしたあと、本題の〝婚約式〟について伺うことができた。
「政情が安定したいまでは、昔の人質交換のようなことはなくなったのだけれど、今度は外交としての婚儀が必要になってきたのね」
少し悲しそうにルミナーレ様は語ってくれた。
本命の姫と王子の婚儀は一年先で、嫁がれるのは現帝の次女十七歳のベラミ・シド姫だという。
「今回嫁がれるゴール家のマリリア様は、姫のご学友であり、幼馴染でもある方なの。彼女が側にいらっしゃるなら、きっと心強いはずだわ」
「マリリア様はとーーーってもお強いのよ。カッコイイの!!」
アリーシア様は面白そうに笑った。ルミナーレ様が嗜めるように〝メッ〟といった顔をすると、アリーシア様はあわてて口を隠す。
魔法薬以外なら製薬を任せられるが、それだけではゼンモンさんの負担がなかなか軽減されない。それが現在のこの薬種問屋一番の悩みのようだ。
「それでも、いまは外部の薬師からの購入分を合算することでなんとか需要を満たし、店を回しております。ですがこれも事が起これば立ち行かなくなるのは自明のこと。まったくもって状況は危ういのですよ」
その表情には深い憂いがあった。
「午前中は、最近ダンジョンの難易度が全体に高くなってきているとゴルム嬢から情報がありましたので、傷薬も普段の倍量ほど作りました。冒険者も大変ですね」
その薬づくりの様子は、千本を超える試験管のような入れ物が宙を舞う幻想的とすらいえるものなのだと、おつきの方が教えてくれた。素晴らしい魔法操作だが、ゼンモンさんにとってはそれが普通で、効率がいいからやっているだけだそうだ。
「では午後からは、さらに専門性の高い薬を作っていこうと思います」
私たちが入室を許されたゼンモンさんの研究開発室では、すでにたくさんのお弟子さんたちがてんやわんやしていた。午後からのこの時間は、どの素材が必要になるのか直前になってもわからないことが多いため、準備するのも大変とのことだった。
(有能な上司の下で働くのも気苦労が多そうだね)
ゼンモンさんが尊敬されている大きな理由のひとつが、創薬の技術だ。
新しい薬を作り出すというのは、知識と技術の両方に秀でていなくてはならないのはもちろんだが、それだけではダメなのだとハルリリさんから聞いている。それぞれの効能を組み合わせ、ひとつの薬として落とし込むレシピ作りには特別な才能が必要で、それができる薬師は極めて稀なのだ。
この世界ではハルリリさんのように魔法力を使って人を癒せるヒーラーという能力者はいるが、いわゆる医者という職業はないらしい。
その代わり薬師、特に〝魔法薬師〟は医師のような役割を担っている。病気の治し方はさまざまな点で前の世界と違うし、それ以前にこの世界の人たちはよっぽどのことがない限り、薬やヒーラーの世話になろうとしない。どちらもかなり高額になることが多いため我慢してしまうのだ。
そんな環境の中、ゼンモンさんは稀少な素材を極力使わない特殊な専門薬の開発を続けている。なるべく買いやすい魔法薬を創るため、日々研究を続けている稀有な人なのだ。なるほど、ハルリリさんが尊敬するのもよくわかる。
多くの薬師たちは修業の過程で師匠から学んだレシピを基に薬を作る。ゼンモンさんのような天才薬師の下で学べれば、多くの独創的な薬の知見が得られるため、弟子志願の薬師は後を絶たない。ここは薬師の修業の場でもあるわけだ。〝仙鏡院〟の入門試験がとても厳しく狭き門だというのもうなずける。
「今日は眼病の薬の処方を改良してみようと思っているのですよ。この間から取り組んでいるのですが、お年寄りの眼病を治す薬の効果がいまひとつ上がらないので、もう少し別の角度から手を加えてみたいと考えているのです」
目の前にはいろいろな薬瓶が並んでいる。涙の量を増やす〝涙液〟に目の緊張をほぐす〝眼精疲労改善薬〟、目のピントを回復する〝焦点維持薬〟、どれもゼンモンさんがご自分で開発したもので、それぞれ非常にいい魔法薬だ。
「お年寄りですか……もし目の濁りが気になるようなら〝色通しの実〟が、もしかしたら効果があるのでは?」
私の言葉にゼンモンさんの目が光る。
「先ほど第二倉庫で見かけました。〝色通しの実〟には不思議な性質がありますよね。確かその実の搾り汁を入れるとどんな色も抜けるため、一部の地方ではシミ抜きに使われると。特に毒性も認められていないようですので、目の中の濁りがもしかしたら取れるかもしれません」
「素晴らしい。聞いたか、第二倉庫だ。すぐに取ってきなさい」
ゼンモンさんの言葉にあわてて弟子が駆けていく。
「あの短時間に、かなりの数の《鑑定》をしたようだね。しかも素晴らしい記憶力だ」
実を言えば、私の前世で祖母が白内障を患っていたので、高齢者の眼病ならば水晶体の濁りが取れれば改善するのではないかと思っただけだ。
あの〝色通しの実〟の性質も面白かったので記憶に残っていたに過ぎないのだけれど、お役に立ったようでなによりだ。それからは薬作りのさまざまなテクニックを見せてもらい、ハルリリさんとふたりみっちり勉強させてもらった。創薬は奥が深い。
「君の意見を取り入れた眼病改善薬は、近いうちにきっと完成させますね。あれはいい提案でした」
ゼンモンさんも新しい薬の目処が立ったことでご機嫌だ。
「商売に飽きたら、ぜひ私のところへ修業にいらっしゃい。試験は受けなくてもいいから。ハルリリさんも良かったら、いつでも勉強においでになるとよろしい」
どこまで本気でどこまで冗談なのかわからないが、ニコニコと笑ってゼンモンさんはそんなことを言う。ハルリリさんは感激で目がウルウルだ。
私は大量に購入した素材や薬をソーヤに持ってもらい、帰りの挨拶をする。
「ありがとうございます。ぜひまたお邪魔させていただきます。今日は勉強になりました」
後日、私がこのときのお礼の手紙に添えて、紙を使ったカードでの素材管理法を伝えたところ、早速導入したそうで、便利に使ってもらっているという。そして後日、とても管理が楽になったという礼状とともに、日本のお米に近い品種の種が届けられた。
「ありがとう、大好き、ゼンモンさん!!」
◆ ◆ ◆
私はこの世界について、実はあまり多くを知らない。この世界の記憶も知識もなく、生活のためにいきなり仕事を始めたのだから当たり前なのだが、国語や算数は問題ないものの、頼りないのが歴史や地理についての知識だ。いまはこの国の地図については読めるようになっているけれど、それだけ。ただ場所の情報を知っているだけでは、それは地理として十分な知識とはいえないだろう。
最近、イスの外国人街に出かけたり、パレスに行ったりと行動範囲も広くなり、いろいろな新しいモノや人と出会うようになったことで、自分の知識不足をこのまま放置してはまずいのではないかと私は感じ始めていた。
そこで村の学校の授業に取り入れた地理・歴史の授業を受け持っているドゥードル先生に、週一で家庭教師をお願いできないかとお伺いしたところ、快く依頼を受けてくれたのだ。本当は子供たちとちゃんと学校の授業に出たいのだが、私が現れると気が散るだろうし、仕事もあるので定期的には行きづらく、苦肉の策といったところだ。場所は村営図書館の中の会議室を借りた。
「ドゥードル先生、お忙しいところこのようなわがままを聞いてくださり、ありがとうございます」
頭を下げる私に、大げさに手を振り、逆に何度も頭を下げる先生。まだ三十歳になったばかりの若い先生だが、パレスの地理院で働かれていたエキスパートだ。地理院の主な仕事は、軍部の作戦のための調べ物と地図作成。研究職希望だったドゥードル先生は、それが嫌になって退職されたそうで、すかさず教師としてスカウトしてきた。柔和でちょっと頼りない印象のほっそりした男性だが、眼鏡の奥の瞳は理知的で先生としての評判も上々。
「と、とんでもございません!! こちらこそなんと光栄なことでございましょう。メイロードさまに、私のつたない知識をご教授できる機会があるとは思いもいたしませんでした。ご自身が設立された学校にご出席になれないとはなんとも悲しいことでございますが、お忙しい中、さらに勉学に励まれるとは、真にもって素晴らしいことでございますよ」
私がメイロード・ソースの権利を村に委譲したことは皆が知っているので、私は村人からものすごくありがたがられている。さらにドゥードル先生は学校設立の経緯もご存じなので、私に対して過剰な思い入れがあるようだ。
「あ、ありがとうございます。それほどたいしたことではないのですが……。早速ですが、まずは大まかな地理的情報からご教授をお願いできますでしょうか?」
「承知いたしました。それではわが国と周辺諸国について、本日は概略をお教えいたしましょう」
先生がひとつ咳払いをしたあと、授業開始だ。
「この世界に大陸はふたつ、イルガン大陸とエルガン大陸がございます。エルガン大陸はイルガン大陸の半分ほどの大きさです。過酷な環境と凶悪な魔物の棲む、人が足を踏み入れたことのない、未開の大陸でございます。位置的にはイルガン大陸の真裏の南半球に位置しておりますね」
ドゥードル先生は、略式の世界地図を持参してくれていた。
イルガン大陸にある主な国は三つ。シド帝国、ロームバルト王国、キルム王国の三国だ。
「この中で最も新しい国がシド帝国、私たちが住んでいるこの国です」
「現在の大陸では最も勢力の大きい国ですよね。でも、最近なんですね」
「はい、この大陸の長い歴史からすれば、ごく最近の建国です。二百年ほど前ですね。最初は小さな領土でしたが、未開の地を開拓しながら北東への進軍を行ない、その領土を急速に広げていきました。九十年前、長い戦乱の歴史に終止符を打とうとしたシド帝国は、北東部の山脈を国境と定め、最後まで争っていたロームバルト王国と停戦合意を結びました」
「では、いまは平和と考えていいんですね」
「そうですね。現在三国間に紛争はございません。ただ、いまだに〝停戦〟であるため、現在友好的な関係を保ってはいるものの、完全に兵力を国境から撤退させるまでには至っておりません。北東部から北部方面には常に兵が常駐しております」
「なるほど、そうだったんですね」
「では、つぎは沿海州についてお話しさせていただきます」
そこからは、イルガン大陸以外の人の住む地域についての話を聞いた。
「ちょうど、この大陸の南側に当たる地域に点在しておりますのが、沿海州諸国です。通称〝沿海州〟と呼ばれる大小の島国が集まった地域ですね」
キッペイの故郷のアキツ、そのほかにハーラーやザインといった名前の国がある。それぞれ独立は保っているが、大国とは対等な関係とはいえないようだ。そのほかにも島はかなりの数があり、まだその全体を把握した地図はないらしい。
「軍部はもっと詳細な世界地図を持っておりますが、私たちが見ることはできませんからね」
ドゥードル先生は自嘲気味に笑った。研究者としては見たいが見られないというのはもどかしいことだろう。
「では、それぞれの国について、次はお話しいたしましょう」
先生は黒板に簡単な年表を書きながら説明してくれた。
「わが国シド帝国、その建国は二百から二百五十年前といわれておりますが、黎明期につきましては、研究者の間でも意見はさまざまでございまして、正確にはわかりません」
黎明期のシド帝国は、現在のパレスに近い場所に大きな集落ができたことから始まり、やがて国力を蓄え、開拓を始めた。開拓の過程で、周辺の魔物を倒して一掃しながら、その土地の集落を呑み込みつつそこから兵を募り、やがて組織が生まれ、軍部を統括する者が頭角を現した。彼は国としての形を作り上げ、皇帝の地位についた。
「これがハミル・シド皇帝陛下率いるシド帝国の誕生でございます。シド皇帝率いる帝国軍は勇猛果敢、劣悪な環境をモノともしない進軍で有名でした。死をも恐れぬ戦いぶりだったそうですよ。まぁ、そのせいでロームバルト王国からは〝蛮族〟と長く呼ばれることになりましたが……」
また、この時点で皇帝を宣言したものの、建国に関してはまだまだ内政への準備がなされていないに等しいものだったため、ここをシド帝国の成立とするかどうかも玉虫色だ。
シド帝国が国としての機能を確立するまでにこのときから二十年を要し、公式にはハミル・シド帝即位から二十後の一月一日を建国の日と定めている。
「シド帝国も建国からしばらくは、内政が安定せず、皇帝位もめまぐるしく変わりました。しかし、ロームバルトとの停戦後は、非常に安定した状況が続いております」
賢帝と誉れ高い現皇帝は十五代皇帝テスル・シド。
三人の妃との間に、八人の皇子と三人の姫がある。かつては野蛮な烏合の衆と蔑まれた帝国も、いまでは貴族を中心とした文化国家へと舵を切り替えた。大きな武力衝突もなく、治世は安定し、経済も発展している。
「わが国は軍事・経済とも、現在のところ、この世界最強の国と申しあげて良いでしょう」
ドゥードル先生は誇らしげだ。
そして停戦中の相手国、シド帝国に次ぐ国力を持つロームバルト王国。建国二千年を超える長い歴史を持つ国家で、格式やしきたりにこだわりの強い国として知られている。国力では遠くシド帝国に及ばないが、文化的成熟度ではロームバルトが優れているというプライドを非常に強く持っており、なにかにつけてシド帝国と張り合いたがる国だと先生は困り顔だ。特にこのふたつの大国の貴族同士は大変仲が悪いことで有名で、問題視されている。
「この間まで〝蛮族〟と罵っていたシド帝国に対してなんとか体面を保ちたいのでございましょうね。ロームバルトの上から目線というのは有名で、面と向かって喧嘩はしないけれど嫌味たっぷりな態度をされがちで……」
思うところはあるが、表面上は穏やかに交流しているということのようだ。
「現在の国王カシウス・アブシルド・ロームバルト三世は、なかなか評判の良い方です。両国の歪んだいがみ合いにも心を痛められているそうで、近いうちにシド帝国の皇族の姫をロームバルトの第三王子に嫁がせるという計画もあると伺っております。両国にとってこれはとても意味のある結びつきとなるでしょう」
「それはおめでたいことですね。それを機に早く停戦ではなく、終戦になったらいいですね」
つづいてはキルム王国についての話だ。キルム王国もロームバルトほどではないが古い歴史のある国だ。王国とはいいながら、この国は宗教国家の色合いが強い。
シド帝国と同じ聖天真教を国教と定めているが、意味合いはかなり異なる。特に大きく違うのは、教会の発言権が非常に強く精神的指導者としてだけでなく国政にも教会の意向がかかわっているという点だ。
「国境を接していないということもあり、敬いつつ接している、という感じでございますね」
授業はあっという間に時間になってしまった。久しぶりに学生らしいことができて、なんだかとてもうれしい。ドゥードル先生の授業はとても楽しかった。
そしてこのあと、この授業を受けておいて本当によかったと思える一大事が私に降ってくるのだ。
第二章 ″婚約式〟をプロデュースする聖人候補
帝都パレスでは、年がら年中どこかでパーティーが開かれている。規模はさまざまで、小さなものは召しかかえる使用人たちで準備を行うが、大規模な冠婚葬祭となると、とても自分たちだけでは抱えきれないため、懇意の商店に物資の発注込みで仕切らせることが多い。
帝都にはそれを得意とする商店もあるのだが、今回は名指しでサイデム商会にその依頼がきた。ドール侯爵経由らしいが、この類の依頼は確固たる信用がなければ絶対にこないものだ。
帝都の貴族たちにサイデム商会が認められた、喜ばしい仕事といえる。さらにいえば、商売としても非常にやりがいがあり、利益も大きい。ほぼ金額を気にせず準備ができる貴族の式典は、儲け口として極上、しかも成功すれば店のいい宣伝にもなる。
今回の依頼内容は、上級貴族の〝婚約式〟のプロデュースというものだった。
「すまん、お前の知恵を貸してくれ……」
突然サイデム商会に呼び出された私の前で、おじさまが深く頭を下げたのにはわけがある。サイデム商会が依頼を受けた案件が、とんでもないものだったからだ。
それは上級貴族の〝婚約式〟を取り仕切れという依頼。しかもその式の規模と政治的な意味はとても大きく、絶対に失敗は許されない。式にはシド帝国の皇族だけでなく、長年犬猿の仲であるロームバルト王国の王族も臨席する予定であり、国を挙げての一大イベントだった。
婚約されるのはロームバルト王国ローエングリム伯爵家の次男マリオン・ローエングリム様とシド帝国のゴール伯爵家令嬢マリリア様。おふたりの婚約は、翌年に予定されているシド皇女様のお輿入れの前段階の婚儀となる。
この婚礼は両国の距離を縮め、結婚に関する文化交流をしつつ、メインである皇女様の式典に備えるものでもある。また、親しい従者を先に皇女様の嫁ぎ先に送り込むことで、皇女様の知らない国に嫁ぐ不安を解消するという意味もある。極めて政治的な婚姻だが、マリオン様とマリリア様のおふたりはお互いの役割をよく理解しており、仲睦まじいそうだ。
(貴族って大変なのね)
「あの国の貴族連中の上から目線のダメ出しは有名だからな。シド帝国を〝文化果つる国〟とか呼んでるし……とにかくすべてにおいてやつらの想像の上をいく式にすることが、絶対条件なんだ」
「でもおじさまは、こういう儀式とかキラキラとか苦手なんですよね」
おじさまは苦虫を噛み潰したような顔だ。
「女性商品部門から上がってくる提案も、なにが〝ステキ〟でなにが〝カワイイ〟のか、なにが正解なのかさっぱりわからんのだ! 今回は化粧品事業のために作った女性商品部門と連携すれば大丈夫だと思って、彼女たちと一緒に策を練り始めたんだが、俺がトップでは遅々として進まないことがわかった。無理だ!」
女性商品部門の方々はとても有能なのだが、さすがに自分たちだけで判断できないし、いままでにない斬新でなおかつ優美な上級貴族にふさわしい〝婚約式〟となると、かなりハードルが高いらしい。
(いつもなら引っ張ってくれるはずのボスはまったく役に立たないみたいだし)
「お前なら貴族の女性からの聞き取りも可能だし、新しい着想もあるだろう。なんとか相談役として参加してくれないか。頼む!!」
ここまで低姿勢のおじさまも珍しい。本当に向かない仕事のようだ。
「わかりましたよ。とりあえず貴族事情に詳しい人たちからの聞き取りですね。大貴族であるルミナーレ様とアリーシア様、もちろんマリリア様にも。それにセイツェさんともお話ししないと……」
私はノートを取り出し、やるべきことを書き出していく。
式は三か月後、シド帝国での〝婚約式〟。
列席者は二百名。披露宴の後、千人規模のパーティーも行う。
結婚式は後日ロームバルト王国で行われる。
「できれば一度ロームバルト王国に行って食事情など見ておきたいところですね」
「ロームバルト王国の首都にはうちの支店があるから、それは可能だ。いまは一般市民も普通に移動できるからな。近いうちに行けるよう手配する」
とりあえずサイデム商会の女性部門にプロジェクトチームを作ろう。三か月という期間は決して長くはない。おじさまはなかなか私をゆっくりとは遊ばせてくれないようだ。
(仕方ない、やりますか)
まず一番先に話を聞かなければならないのはセイツェさんだ。サイデム商会の貴族担当相談役セイツァさんにはアリーシア様の誕生日パーティーのときもとてもお世話になった。セレブの冠婚葬祭についてなら、この国にこの人以上に詳しい人はまずいない。私も、もしセイツェさんがいなかったら、きっとこの話には二の足を踏んでいたと思う。
おじさまの望むような演出だの驚かせる仕掛けだのと言う以前に、必要なのは〝しきたり〟と〝マナー〟に則っているかどうかだ。儀式においては、そこをおろそかにしないことが、最も大切で成否を握っている。特に〝婚約式〟の部分は、絶対にミスは許されないだろう。ロームバルト王国との関係を考えれば、どんな隙も見せてはならない。
「この重大事を、サイデム様はメイロードさまに丸投げなさったのですか。なんとも大人気ないことをなさる……」
セイツェさんは、嘆かわしいという顔で頭を振った。
「それについては同感ですが、事務的な部分や人員の調達、資材発注に関してはおじさまが責任を持って最高のものをご用意くださるそうです。私たちが考えなければならないのは、ロームバルトの貴族の方々に失礼のない、格式高く美しい式典です。そこでまずはセイツェさんに〝婚約式〟についての詳細、そして行う際の注意事項についてお伺いに参りました」
セイツェさんは深くうなずくと、レクチャーを始めてくれた。
「〝婚約式〟は上級貴族が他国へ嫁がれる場合にのみ行われる式典です。内容はほぼ結婚式と同じと考えて差し支えありません」
上級貴族が他国へ嫁ぐことは、特に昔は人質としての意味合いが強かった。さらに、みだりに国を留守にできない立場の方々は、嫁がれる国での結婚式に出席できないことも多い。
そのため、この〝婚約式〟は他国で行われる結婚式に出席できない花嫁の親族に向けて、また国民に結婚を公にする儀式として始まったそうだ。そして二度と祖国へ戻れぬかもしれぬ娘と両親の最後の別れの儀式でもある。
「嫁がれた国での儀式に出席できないご両親に、結婚することを示す、祝いと別れの式なのでございますよ」
なかなか悲しくシビアな側面があるようだ。
「大まかな流れとしては、司祭によりこの婚約は神に祝福を受けたものである、という宣言を受けたあと、ふたりが宣誓を行い、お互いに相手が身に着けるものを贈り合います。特に指輪といった決まりはございません。女性にはほかにもネックレスやブレスレット、ティアラなどが贈られ、男性には宝剣などが贈られることが多いですね」
そして最後に、祖国への別れを告げる儀式を執り行う。〝婚約式〟が終われば嫁ぎ先が用意した屋敷に移り、実家へ戻ることなくロームバルトで行われる結婚の儀を待つのだという。
「式自体は一時間程度でございましょうか。細かいしきたりはございますが、これは式の主役たる方々に覚えていただくしかございません。上級貴族の方々とはいえ、ロームバルト風に厳格に行うとなると、慣れないシド側の皆様にはご負担が大きいとは存じますが……」
「衣装についての制限はどうでしょう」
「そうでございますね。ロームバルトの方は男子正装とされている襟の高い白のご衣装になりましょうね。嫁がれる姫も、合わせて白のドレスということになりましょうか」
「ベールを着けるというのは失礼に当たるでしょうか?」
「そのような事例は聞いたことがございませんが、なにか意味のあることなのですか?」
私は純白のベールは魔除けの意味、そして女性の純潔を表すものとして、さらにいえば、式の演出としても、とても有効だということを説明した。
「なるほど、それならば、ぜひ取り入れられるべきです。シド帝国側が式典に新しいものを追加することは、わが国の成熟度を見せる上でも効果的でございましょう」
セイツェさんと話しているうちに、少しだけ構想ができてきた。
(最高に美しい花嫁を演出できるよう頑張ろう!)
その三日後、私はダイル・ドール参謀の住まう離宮を訪れた。
「久しいですね、メイロード。アリーシアが首を長くして待っていてよ」
今日も隅から隅まで隙のない美しさのルミナーレ様がにこやかに微笑む。
(まぶしい! まぶしすぎる‼)
「メイロードも帝都に住めばよろしいのに! イスは遠すぎますわ。それになにもないところなんでしょう? 不便ではないの?」
アリーシア様は、せっかく親しくなったお気に入りのお友だち(私だ)と滅多に会えないことにご不満だ。いつも帝都へ移住するよう私に言ってくる。
「本日は急な訪問にもかかわらずお時間を取っていただき、感謝の言葉もございません。アリーシア様、ご心配いただきありがとうございます。ですが、私には両親の愛したあの村が肌に合っておりますので」
私はにっこり微笑んで、お辞儀をする。
「あなたは年に似合わず、礼節をわきまえた子だけれど、あまり他人行儀なのも悲しいわ。もっと楽にしていいのですよ」
「そうよ、あなたは私のお友だちなんだから、もっと堂々としていていいのよ!」
このおふたりは私をとても信頼してくださっている。いまでは本当に親しい親戚のような気安さで接してくださるのだ。
私の仕事に対する誠意が、おふたりの信頼につながっているならうれしい。
(お菓子で胃袋を掴んでしまった、というのもあるかもしれないけどね)
「本日お持ちしたお菓子はエクレアとクッキーでございます」
チョコレートがないので、エクレアの上は砂糖がけ、クッキーは思い切って白とピンクの市松模様にしてみた。焼いているうちに飛んでしまうのでほのかではあるが、フルーツを使って色づけした。さわやかな香りがして、色合いも可愛いらしい。おふたりにピッタリだと思う。
「メイロードが持ってきてくれるお菓子は本当に美味しくて素敵ね。帝都のどこにも売っていないし、うちの料理人たちも作り方がまったくわからないみたい。誰も再現できないのよ」
アリーシア様の言葉に曖昧にうなずく。製法は〝商品〟、むやみに明かしてはいけないのだ。
(またおじさまに怒られたくないし……)
ひとしきりお茶をしながら近況報告をしたあと、本題の〝婚約式〟について伺うことができた。
「政情が安定したいまでは、昔の人質交換のようなことはなくなったのだけれど、今度は外交としての婚儀が必要になってきたのね」
少し悲しそうにルミナーレ様は語ってくれた。
本命の姫と王子の婚儀は一年先で、嫁がれるのは現帝の次女十七歳のベラミ・シド姫だという。
「今回嫁がれるゴール家のマリリア様は、姫のご学友であり、幼馴染でもある方なの。彼女が側にいらっしゃるなら、きっと心強いはずだわ」
「マリリア様はとーーーってもお強いのよ。カッコイイの!!」
アリーシア様は面白そうに笑った。ルミナーレ様が嗜めるように〝メッ〟といった顔をすると、アリーシア様はあわてて口を隠す。
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