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6 謎の事件と聖人候補
871 開戦
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871
演習に駆り出されたことにかなりお怒りのグッケンス博士は、すぐに私に謝ってきた。
「すまんな、メイロード。こんなことに巻き込んでしまうとは……ゼン皇子、食えないやつだ」
「そんな、お気になさらず。私も一応この国の貴族なのですから、ああ言われたら断ることは難しいとわかってます。それにしても、無茶なことを言いますねぇ、博士」
「ふん! 魔術師の戦力としての〝価値〟を見せつけろというのじゃ。望むようにしてやるまでよ。ついでに、わしを適当に使おうとするようなことは二度とできぬようにしてやるわ!」
「ははは、まぁ、ほどほどにしときましょうね」
そこから三十分両軍には作戦を考える時間が与えられた。
こちらはふたりなのでそこまでの時間はいらないが、相手軍はいろいろな部隊から集まってきている二千六百人だ。これを乱れなく動かすとなれば、三十分でも決して長くはない。
真剣に顔を突き合わせているだろう軍部の指揮官たちを、丘の上に《土障壁》を使ってちゃっちゃと建てた簡易砦から眺めながら、私と博士はのんびり会話する。
「相手が降参してくれれば終了、ってことでいいんですよね、グッケンス博士?」
「ああ、さっさと降参させるとしよう。こんな茶番にかける時間が惜しいわ」
「それにしてもこの位置は、かなり私たちに有利な気がしますけど?」
「ニ対二千六百名でもか?」
「それは、まぁ、そうなんですが……そうだ! 博士、私これを使ってみようかと思います」
私は《無限回廊の扉》と繋がっているバッグからとある〝種〟を取り出した。
「なるほど、それは良い案だ。では、メイロードはそれの管理と防御に集中しておくれ。奴らの進軍が始まったら開戦だ。とっととカタをつけるとしよう」
「了解です!」
開戦を告げるラッパの音とともに、帝国軍は進撃を始める。
今度の布陣は先頭に魔法騎士と歩兵の混合軍、その背後に槍兵、左右に弓兵を配置するというものだった。その一番後方では魔術師たちが早速先頭を行く兵士たちのための防御魔法の詠唱を開始している。帝国軍の旗をなびかせた、その行軍の様子はなかなかに勇壮だ。
(でもこのまま楽に進軍はさせてあげないよ)
私は魔法の風に乗せて、先ほど取り出した〝種〟を進軍する兵隊たちのそこかしこへと飛ばしていった。土埃舞う中かなりの速度で移動している彼らは、もちろんそんな小さな種のことなど気づくわけもない。
一通り〝種〟を配置し終わると、私は地面に手をつき一言〝育って!〟と祈った。その瞬間、地響きとともに、巨大なイバラが進軍する兵隊たちの足元からニョキニョキと生えてゆく。
「うわぁ、なんだよこれ! クソ! これ植物か?! 太すぎて全然剣の刃が通らないぞ! うわぁ、こっちからも!」
これは〝超巨大イバラ〟命名は発見者である私だ。それまでは、〝大イバラ〟という名前だったが、実は育成条件がいいと、あり得ないほど太い幹になり、そこから無数のちょうど工事現場のパイロンのような巨大な棘が大量に生えてくる。先は丸いし巨大すぎてぶつかることはあっても怪我はしにくいという優れものだ。
「一時、牧場のためにいろいろなツタやイバラを採集して調べたときに見つけたんですよね。自然界でここまで育つことは稀なので、みなさん知らないようですが、これ際限なく大きくなるんですよ」
「この一瞬でそれだけの魔法力を与えられるのは、お前さんだけじゃろうがな」
目の前では、先ほどまでの統率の取れた状態はどこへやら、特に念入りに種を蒔いた魔術師たちの前は、前方が確認できない状態までニョキニョキと茂っている。こうなっては支援魔法もかけられないので、仕方なく魔術師たちは前方のイバラを切ったり燃やしたりする魔法に時間を取られていった。だが、私からの魔法力が供給され続けている〝超巨大イバラ〟は、切られても燃やされてもあっという間に再生し、どんどん魔術師たちのから魔法力を奪っていくだけだ。
「これは……際限がないぞ! こいつを止める方法はないのか!?」
「だめだ。根がもうがっしりと生えてしまっていて、上をどうにかしたところですぐ再生してしまう。それにしても、この大量のイバラに魔法力を与え続けるとは……ありえん!」
あちらの皆さんはいろいろ愚痴っているだろうけど、もう《緑の手》による農業歴も長くなってきた私には、簡単なことだ。広大な農地いっぱいの植物だって、すぐにも実らせることができる私の力、侮ってもらっては困る。
ときどき、私たちの陣地に向かって遠くから魔法も飛んではくるが、魔法防壁も物理防壁も三重に張ってあり《反射》も付与してあるので、打ち込まれた魔法はすべて相手の陣地へ戻るようになっている。
「どうやら《反射魔法》に気づいたみたいですね。魔法攻撃が止まりました」
「ではそろそろやろうかの」
そういうとグッケンス博士は砦の一番高い位置に立った。こちらも攻撃開始だ。
演習に駆り出されたことにかなりお怒りのグッケンス博士は、すぐに私に謝ってきた。
「すまんな、メイロード。こんなことに巻き込んでしまうとは……ゼン皇子、食えないやつだ」
「そんな、お気になさらず。私も一応この国の貴族なのですから、ああ言われたら断ることは難しいとわかってます。それにしても、無茶なことを言いますねぇ、博士」
「ふん! 魔術師の戦力としての〝価値〟を見せつけろというのじゃ。望むようにしてやるまでよ。ついでに、わしを適当に使おうとするようなことは二度とできぬようにしてやるわ!」
「ははは、まぁ、ほどほどにしときましょうね」
そこから三十分両軍には作戦を考える時間が与えられた。
こちらはふたりなのでそこまでの時間はいらないが、相手軍はいろいろな部隊から集まってきている二千六百人だ。これを乱れなく動かすとなれば、三十分でも決して長くはない。
真剣に顔を突き合わせているだろう軍部の指揮官たちを、丘の上に《土障壁》を使ってちゃっちゃと建てた簡易砦から眺めながら、私と博士はのんびり会話する。
「相手が降参してくれれば終了、ってことでいいんですよね、グッケンス博士?」
「ああ、さっさと降参させるとしよう。こんな茶番にかける時間が惜しいわ」
「それにしてもこの位置は、かなり私たちに有利な気がしますけど?」
「ニ対二千六百名でもか?」
「それは、まぁ、そうなんですが……そうだ! 博士、私これを使ってみようかと思います」
私は《無限回廊の扉》と繋がっているバッグからとある〝種〟を取り出した。
「なるほど、それは良い案だ。では、メイロードはそれの管理と防御に集中しておくれ。奴らの進軍が始まったら開戦だ。とっととカタをつけるとしよう」
「了解です!」
開戦を告げるラッパの音とともに、帝国軍は進撃を始める。
今度の布陣は先頭に魔法騎士と歩兵の混合軍、その背後に槍兵、左右に弓兵を配置するというものだった。その一番後方では魔術師たちが早速先頭を行く兵士たちのための防御魔法の詠唱を開始している。帝国軍の旗をなびかせた、その行軍の様子はなかなかに勇壮だ。
(でもこのまま楽に進軍はさせてあげないよ)
私は魔法の風に乗せて、先ほど取り出した〝種〟を進軍する兵隊たちのそこかしこへと飛ばしていった。土埃舞う中かなりの速度で移動している彼らは、もちろんそんな小さな種のことなど気づくわけもない。
一通り〝種〟を配置し終わると、私は地面に手をつき一言〝育って!〟と祈った。その瞬間、地響きとともに、巨大なイバラが進軍する兵隊たちの足元からニョキニョキと生えてゆく。
「うわぁ、なんだよこれ! クソ! これ植物か?! 太すぎて全然剣の刃が通らないぞ! うわぁ、こっちからも!」
これは〝超巨大イバラ〟命名は発見者である私だ。それまでは、〝大イバラ〟という名前だったが、実は育成条件がいいと、あり得ないほど太い幹になり、そこから無数のちょうど工事現場のパイロンのような巨大な棘が大量に生えてくる。先は丸いし巨大すぎてぶつかることはあっても怪我はしにくいという優れものだ。
「一時、牧場のためにいろいろなツタやイバラを採集して調べたときに見つけたんですよね。自然界でここまで育つことは稀なので、みなさん知らないようですが、これ際限なく大きくなるんですよ」
「この一瞬でそれだけの魔法力を与えられるのは、お前さんだけじゃろうがな」
目の前では、先ほどまでの統率の取れた状態はどこへやら、特に念入りに種を蒔いた魔術師たちの前は、前方が確認できない状態までニョキニョキと茂っている。こうなっては支援魔法もかけられないので、仕方なく魔術師たちは前方のイバラを切ったり燃やしたりする魔法に時間を取られていった。だが、私からの魔法力が供給され続けている〝超巨大イバラ〟は、切られても燃やされてもあっという間に再生し、どんどん魔術師たちのから魔法力を奪っていくだけだ。
「これは……際限がないぞ! こいつを止める方法はないのか!?」
「だめだ。根がもうがっしりと生えてしまっていて、上をどうにかしたところですぐ再生してしまう。それにしても、この大量のイバラに魔法力を与え続けるとは……ありえん!」
あちらの皆さんはいろいろ愚痴っているだろうけど、もう《緑の手》による農業歴も長くなってきた私には、簡単なことだ。広大な農地いっぱいの植物だって、すぐにも実らせることができる私の力、侮ってもらっては困る。
ときどき、私たちの陣地に向かって遠くから魔法も飛んではくるが、魔法防壁も物理防壁も三重に張ってあり《反射》も付与してあるので、打ち込まれた魔法はすべて相手の陣地へ戻るようになっている。
「どうやら《反射魔法》に気づいたみたいですね。魔法攻撃が止まりました」
「ではそろそろやろうかの」
そういうとグッケンス博士は砦の一番高い位置に立った。こちらも攻撃開始だ。
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