利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

文字の大きさ
上 下
673 / 837
6 謎の事件と聖人候補

862 〝国家魔術師〟たちの軋轢

しおりを挟む
862

どういう手段を使ったのかはわからないが、私が戻って一週間も経たないうちに、皇宮からの招集がかかってしまった。しかも〝天舟アマフネ〟をチャーターするからそれに乗って一週間以内に来いという。ちなみに私を呼び出した書面のサインは、第一皇子、つまり次の皇帝と目されているゼン皇子のものだった。

(レジェーナ姫を助けたことぐらいしか大きな接点がない方のはずなんだけどね。それにしても、帰ってきたことは極力秘密にしてたのに、なんで⁉︎ 情報早すぎでしょ)

書面の文言はとても丁寧で〝お願いだから来てください〟というトーンなので、どちらかというは頼みごとをされるのかな、という雰囲気が感じられた。とはいうものの、そうだとしてもなんだか面倒そうな頼まれごとの予感しかしないし、現状を考えると私はマリス領を離れないようにしたいところだ。しかし、すでにこの国で爵位を得てしまっている以上、皇族のサインの入った呼び出し状を無碍にしたり、皇宮からの招集を断ったりすることは難しい。

(しかも私が領地に戻っていることを掴まれてるわけだから、きっと体調不良でもないとわかっているんだろうし、仮病も使えないよねぇ…… だからって沿海州であった事件の話をするのもなぁ……)

私が夕食のとき、セイリュウや博士に今回の呼び出しについて愚痴っていると、博士から今回の呼び出しの理由かもしれない出来事を聞くことができた。

「最近若い〝国家魔術師〟たちの間で、ちょっとした小競り合いが増えてきたことが発端なのじゃが、メイロード、これはお前さんも全く関係ないわけではないぞ」
グッケンス博士の意外な言葉に、私は菜箸で青菜と貝の炒め物を取り分けていた手を止めた。
「えっ?〝国家魔術師〟と私になんの接点があるんですか? その小競り合いも仲間内なんでしょう?」

「まあそうだが、問題は新しく入った魔術師たちのレベルが、総じて先輩たちを上回っていたことが、日々の訓練の過程で明らかになってきてしまったことじゃな」

「有能な子が多く入ってきたなら、いいことじゃないんですか?」

「そこは……まぁ、人というものは面倒でな。まだ子供のような若い後輩に侮られるというのは、なかなかに耐え難いことらしいのよ。しかも〝国家魔術師〟というやつは生え抜きの魔法使いの集団じゃ。無駄に誇り高いのよ」

「でも確か……以前にグッケンス博士は彼らを模擬戦でコテンパンにしたんじゃなかったでしたっけ?」

「そんなこともあったが、そのときとは状況が違う。それにわしが一喝する分には、奴らは受け入れざるをえまい。一応わしは〝特級魔術師〟じゃからの」

「まぁ、確かにグッケンス博士に負けるのであれば、納得するしかないですか……それにしても、なんで優秀なんでしょうね、最近の〝国家魔術師〟の皆さんは」

私ののほほんとした言葉に、博士とセイリュウは呆れたような顔で盃を持ったまま私を諭し始めた。

「それは、どう考えたってメイロードが魔法学校に行ったせいなんじゃない?」

「そうじゃ、お前が行った多くの魔法学校改革が成果を上げる中で卒業し、配属された魔術師たちが実践配備され始めたことが、今回の軋轢の根底にある原因なんじゃぞ!」

「アッ……えっ! ええ⁈」

もうすでに懐かしささえ感じる私の魔法学校での生活の中で、確かにいろいろなことがあった。食事を改善し、参考書を作り、課外活動の重要性も認めさせた。

「わかったかい? メイロードが魔法学校にもたらした改革が実を結んで、その新しい校風の中で育った子たちが魔術師になっているんだよ。そして、メイロードの考えた通り、彼らは一様に以前より高い魔法力と技術を手に入れているそうだ」

「つまり……私が魔術師間の格差を産んでしまったってことですか?」

「全体が向上したのだから、褒められるべきことなのじゃが、問題は他を圧倒するほどの向上でもないという微妙な差である点なのじゃ」

「先輩は大した差じゃないのに生意気だと思い、後輩は大した実力じゃないのに先輩ヅラをされると不愉快だ、と考えるわけですね」

こうした軋轢はその差が微妙である方がむしろ深刻だ。

「こうした問題が大きくなれば帝国軍全体の士気にも関わるということで、内々に魔法学校にも対策を考えるよう通達がきたところじゃ」

「まさか……そこで私の名前が出ちゃったんですか?」

「学校側も徹底的に、ここ数年での学校の変化に関する調べをやったらしくてのぉ……わしはすっとぼけておいたが、それでもお前さんの暗躍をだいぶ掴まれたらしい」

「暗躍って……掴まれたって……ええええええ!」

私は取り分けていた芋の煮っ転がしを取り落とし、ただただ困惑するしかなかった。
しおりを挟む
感想 2,991

あなたにおすすめの小説

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。

しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹 そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる もう限界がきた私はあることを決心するのだった

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。