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6 謎の事件と聖人候補
861 激安魔道具家電を見に行った
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861
タタール広場は領主館や官公庁がある領都カングンの中心にある、大きな公園だ。
手入れされた植物が植えられ、噴水やベンチなども整備された人々の憩いの場だが、こうした大きな公園にはもうひとつ重要な役割がある。
識字率や連絡手段にまだ難があった時代から続いている慣習として、領主から発表される重要な連絡事項は必ず口頭で領民に読み上げて知らせることが決まっている。そのために、こうした人々を集められる広場が必ずどの町にもあるのだ。マリス領は識字率の向上に熱心に取り組んではいるが、それでも成人した人たちの識字率の向上はまだまだなので、やはりいまでもそうした〝おふれ〟の読み上げは続いている。
そういう事情で、とてもいい場所にある広い敷地なので、こうした公園や広場でイベントが行われることは多い。
特に現在のマリス領のように領地の人々の生活に余裕が出てくると、そうした新しい行事の提案も増えてくるらしく、公共施設の使用申請窓口はなかなか忙しいそうだ。
今日のイベントもそんなうちのひとつだという。
混みそうなお昼頃を避けてかなり早めに私が到着したときにも、もう広場はたくさんの人々で溢れていた。
(無料で美味しそうなものが食べられて、しかも面白そうな家電系の魔道具も見られるとなったら、購買意欲も高くなってきているマリス領の人たちは食いつくよね)
そう、これがキッペイから見せてもらったチラシにあった、いま急速に拡大しつつあるという家電系魔道具を見せてくれるというイベントなのだ。
色とりどりの飾りがつけられたいくつかの大きなテントの周りでは、制服のように同じ濃紺のドレスを着た人当たりの良い女性たちがチラシを配ったり設営準備を進めている。その様子はとても統率がとれていて、こういった催しを何度も手がけてきている雰囲気があり、とても手慣れた感じがあった。
ちなみにこんな人の多い場所にいきなり〝ご領主さま〟が登場したら大変な騒ぎになるに違いないので、私は《迷彩魔法》で姿を隠しての視察だ。でも一応、状況次第では姿を見せられるように大きな帽子で髪と顔を隠し、普通のお嬢様っぽい衣装も着てきた。
「さあさあ、こちらではご家庭で使いやすい魔道具をたくさんご紹介しております。どうぞご覧くださいませ!」
「こちらの魔道具をお使いいただければ〝魔石オーブン〟と同じことができますよ。魔法の起動にはごく少量の魔法力だけで大丈夫です。どなたでもお使いいただけますよ! さあさあ〝魔道オーブン〟で焼き上げました、こちらの美味しい肉料理をご賞味ください!」
「こちらでは明るい〝魔道ランタン〟をご紹介しております。この明るさは、従来のランタンでは難しく、しかも油を使うよりもお安く使うことができるという画期的なお品でございます。いかがですか、是非ご覧ください!」
「こちらにも魔道具で作った料理をたくさんご用意しております、どうぞ、試しくださーい!」
テーブルのあちこちに並んだ華やかな料理に人々は群がっていく。その並んだ料理のほとんどが私考案のレシピだったのには、ちょっと笑ってしまったが、どれも美味しそうにできており〝魔道オーブン〟の性能に問題はなさそうだ。
ところが私がこっそり見ていると、なぜが突然あちこちでその魔道具家電に不具合が起こり始めた。
だが、案内の女性たちは笑顔を崩すことなく慣れた様子で説明する。
「ああ、申し訳ございません。どうやら魔道具の力が衰えたものがあったようです。このように、魔道具は二カ月ほどで力を失いますが、それぞれの町にある回収センターにお持ちいただければ、すぐに力を復活したものとお取り替えできる永久保証がついておりますので、ご心配には及びませんよ」
その交換料金も一ポルにも満たない少額で、確かにそれならば油や薪を買うより安いかもしれない。
そんなことを考えながら公園を歩いていると、テントの裏の方から声が聞こえてきた。
「早く新しい魔道具を用意して交換しなくちゃ。急いで、急いで!」
「でも、おかしいわねぇ。ちゃんと新しいものを用意したはずなんだけど……」
「そんなことを言っても、動かないものを置いておくわけにはいかないんだから、ほらさっさと運ぶ!」
どうやら、魔道家電が動かなくなったのは不測の事態だったようで裏ではバタバタと事態の収拾をするため人たちが忙しく立ち働いていた。
(あらら、大変そう)
価格はどれも確かにリーズナブルで、千ポル以上する〝魔石オーブン〟に比べ〝魔道オーブン〟は九十五ポルという庶民でも頑張れば買えなくはないお値段設定。
(百万円以上するものが十万円を切るお値段か……なかなかの価格破壊だね)
何か購入しようかとも思ったが、賑わいすぎているので、今日のところは隠密視察だけにとどめておくことにした。気になったら後で購入して何か使ってみよう。
こんな風に庶民にやさしい新しい商売が始まっているのも、高くて使えなかった道具をみんなが使えるようになることも、とてもいいことだ。
(〝ストーム商会〟ね。覚えておこうっと)
タタール広場は領主館や官公庁がある領都カングンの中心にある、大きな公園だ。
手入れされた植物が植えられ、噴水やベンチなども整備された人々の憩いの場だが、こうした大きな公園にはもうひとつ重要な役割がある。
識字率や連絡手段にまだ難があった時代から続いている慣習として、領主から発表される重要な連絡事項は必ず口頭で領民に読み上げて知らせることが決まっている。そのために、こうした人々を集められる広場が必ずどの町にもあるのだ。マリス領は識字率の向上に熱心に取り組んではいるが、それでも成人した人たちの識字率の向上はまだまだなので、やはりいまでもそうした〝おふれ〟の読み上げは続いている。
そういう事情で、とてもいい場所にある広い敷地なので、こうした公園や広場でイベントが行われることは多い。
特に現在のマリス領のように領地の人々の生活に余裕が出てくると、そうした新しい行事の提案も増えてくるらしく、公共施設の使用申請窓口はなかなか忙しいそうだ。
今日のイベントもそんなうちのひとつだという。
混みそうなお昼頃を避けてかなり早めに私が到着したときにも、もう広場はたくさんの人々で溢れていた。
(無料で美味しそうなものが食べられて、しかも面白そうな家電系の魔道具も見られるとなったら、購買意欲も高くなってきているマリス領の人たちは食いつくよね)
そう、これがキッペイから見せてもらったチラシにあった、いま急速に拡大しつつあるという家電系魔道具を見せてくれるというイベントなのだ。
色とりどりの飾りがつけられたいくつかの大きなテントの周りでは、制服のように同じ濃紺のドレスを着た人当たりの良い女性たちがチラシを配ったり設営準備を進めている。その様子はとても統率がとれていて、こういった催しを何度も手がけてきている雰囲気があり、とても手慣れた感じがあった。
ちなみにこんな人の多い場所にいきなり〝ご領主さま〟が登場したら大変な騒ぎになるに違いないので、私は《迷彩魔法》で姿を隠しての視察だ。でも一応、状況次第では姿を見せられるように大きな帽子で髪と顔を隠し、普通のお嬢様っぽい衣装も着てきた。
「さあさあ、こちらではご家庭で使いやすい魔道具をたくさんご紹介しております。どうぞご覧くださいませ!」
「こちらの魔道具をお使いいただければ〝魔石オーブン〟と同じことができますよ。魔法の起動にはごく少量の魔法力だけで大丈夫です。どなたでもお使いいただけますよ! さあさあ〝魔道オーブン〟で焼き上げました、こちらの美味しい肉料理をご賞味ください!」
「こちらでは明るい〝魔道ランタン〟をご紹介しております。この明るさは、従来のランタンでは難しく、しかも油を使うよりもお安く使うことができるという画期的なお品でございます。いかがですか、是非ご覧ください!」
「こちらにも魔道具で作った料理をたくさんご用意しております、どうぞ、試しくださーい!」
テーブルのあちこちに並んだ華やかな料理に人々は群がっていく。その並んだ料理のほとんどが私考案のレシピだったのには、ちょっと笑ってしまったが、どれも美味しそうにできており〝魔道オーブン〟の性能に問題はなさそうだ。
ところが私がこっそり見ていると、なぜが突然あちこちでその魔道具家電に不具合が起こり始めた。
だが、案内の女性たちは笑顔を崩すことなく慣れた様子で説明する。
「ああ、申し訳ございません。どうやら魔道具の力が衰えたものがあったようです。このように、魔道具は二カ月ほどで力を失いますが、それぞれの町にある回収センターにお持ちいただければ、すぐに力を復活したものとお取り替えできる永久保証がついておりますので、ご心配には及びませんよ」
その交換料金も一ポルにも満たない少額で、確かにそれならば油や薪を買うより安いかもしれない。
そんなことを考えながら公園を歩いていると、テントの裏の方から声が聞こえてきた。
「早く新しい魔道具を用意して交換しなくちゃ。急いで、急いで!」
「でも、おかしいわねぇ。ちゃんと新しいものを用意したはずなんだけど……」
「そんなことを言っても、動かないものを置いておくわけにはいかないんだから、ほらさっさと運ぶ!」
どうやら、魔道家電が動かなくなったのは不測の事態だったようで裏ではバタバタと事態の収拾をするため人たちが忙しく立ち働いていた。
(あらら、大変そう)
価格はどれも確かにリーズナブルで、千ポル以上する〝魔石オーブン〟に比べ〝魔道オーブン〟は九十五ポルという庶民でも頑張れば買えなくはないお値段設定。
(百万円以上するものが十万円を切るお値段か……なかなかの価格破壊だね)
何か購入しようかとも思ったが、賑わいすぎているので、今日のところは隠密視察だけにとどめておくことにした。気になったら後で購入して何か使ってみよう。
こんな風に庶民にやさしい新しい商売が始まっているのも、高くて使えなかった道具をみんなが使えるようになることも、とてもいいことだ。
(〝ストーム商会〟ね。覚えておこうっと)
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