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6 謎の事件と聖人候補
860 マリス領大躍進!
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860
「メイロードさまのお考えになったことに仇なすような不届き者は、きっちり排除致しておりますので……」
どうやらキッペイと彼が選び抜いた監査部門の臨時職員たちが〝特命職員〟としてしっかり裏で暗躍もしている様子だ。頼りになってなによりだが、やり過ぎないよう、気をつけてもらいたい。
「キッペイへの全権の使用許可は継続するから、臨時職員の子たちも正規の職員か、もしくは活動しやすい部署に正規雇用してあげてね。その方が活動しやすいでしょう?」
「そうでございますね。一部は確かにその方がいいかもしれませんが、実は街の中にも〝臨時職員〟の配置をしております。町の方たちの声を聞くには、やはり近くにいる必要を感じましたので、私の選びました十数名が活動中です」
「それはいいわね。では、その臨時職員の方たちにもしっかり予算をつけないと……いまはどこから予算を組んでるの?」
「この領主館の維持費の中から外注費の名目で支出しております」
「そう、なるほどね。それでもいいけれど、彼らの存在はできる限り表に出ないほうが彼らも活動しやすいでしょうし、活動費が増えると目立つかもしれないわ……よし、彼らに関する費用はメイロード・マリスの個人資産から出しましょう。振り出しはマリス商会もしくはサイデム商会から適当な名目をつけてすることにしておけば、領地のお金の流れや支出状況を調べられても彼らには辿り着けないわ」
「たしかに、それでしたら彼らもさらに安全に仕事ができるでしょう。もっとも彼らはメイロードさまのために働くことに強い思いを抱いている者ばかりでございますので、どのような逆境でも意に返しはしないでしょうが……」
どうやらその〝臨時職員〟たちは、キッペイが厳選し鍛え上げた人たちのようで、随分と統率の取れた集団のようだ。
「やりすぎちゃダメよ、キッペイ」
「心得ておりますとも、ご領主さま」
笑顔のキッペイはなかなか油断ならないが、私のためにならないことをするとも思えないので、まかせることにする。
「では〝臨時職員〟の皆さんが最近街で気になっているのは、どんなことなのかしら?」
私は領地の皆さんの近況が聞きたいと思っていたところだったので、こんな質問をしてみた。
「そうでございますね。第十区セータイズの港の規模が急速に拡大しております。メイロードさまに整えていただいた港湾も更に拡充しなければならないかもしれません」
「単純に船が増えたってことでいいのかしら?」
「はい、メイロードさまがイスの食品研究所に委託されていた寒冷地に強い小麦と大麦はこの領地にとても合っていたようでございます。初年度から収穫が例年の四倍増という驚異的な伸びとなりまして、これが大きな交易品となりました」
「マリス領は人口に対して農地がずっと広いからね。ちゃんと育てばいい交易品になると思っていたけど、うん、上々じゃない!」
「はい。領地内の主要道路の保全も完了しておりましたので、陸路で港まで運び、船による大量輸送をすることで輸送時間と費用も安くできたため、他領よりも競争力の高い商品になりました。他の作物でも品種改良による良い結果が出ており、麦と同様に買い入れから売上の出る商品へと転じる作物が多くなっております。これだけでもマリス領の収益は明らかに増加しており、領内は十分な好景気と言える状況でございます」
私が《鑑定》と《地形把握》の合わせ技を駆使して世界中から集めてきた植物を託したイスの研究所は、その投資以上の仕事をしてくれた。おかげでいまの好景気がある。
(うんうん、先行投資はしておくものよねぇ)
「メイロードさまが育てるための画期的な方法を考案された貴重種〝イワムシ草〟の栽培につきましても、最初の収穫時から引く手数多の状況が続いております。値段を上げすぎないようにとのご指示を頂いておりましたが、それでも収穫量が増えていますので収益は非常に高くなっておりますよ」
「そう、それじゃもっと規模の拡大を考えるべきかしら」
「はい、それにつきましては現地の方々とも話し合いまして、現在調整中です」
「それはよかったわ。薬の材料になるものだから、適正価格で安定供給したいものね」
キッペイの報告によれば、領内のどの区も概ね平和で好景気とのことで私もひと安心した。
「最近の変化といいますと、そういえばこのところ魔道具が以前より多く売られるようになりまして、この領内にも増えてまいりました」
「魔道具?」
「はい、ですが魔道具とは申しましても、家庭用品なのです。起動に少々魔法力が必要なものの、気軽に使えるそうで、オーブンやランプ、コンロなども出回っているのです」
「出回っているということは、価格は安いのね。それじゃ魔石が使われていないってことなのかしら……それじゃ動力はなんなの?」
私の言葉に困った顔のキッペイ。
「さすがに私には魔道具の中身の解析は無理でございます。そういえば、こんなものが街で配られておりました」
それは鮮やかな色刷りのチラシで
「誰でも使える最新魔道具を試そう! 第六区タタール広場にて〝簡単オーブン〟を使った料理の大試食会同時開催!」
と書かれてあった。
「なるほど……これは行ってみるしかなさそうね」
「メイロードさまのお考えになったことに仇なすような不届き者は、きっちり排除致しておりますので……」
どうやらキッペイと彼が選び抜いた監査部門の臨時職員たちが〝特命職員〟としてしっかり裏で暗躍もしている様子だ。頼りになってなによりだが、やり過ぎないよう、気をつけてもらいたい。
「キッペイへの全権の使用許可は継続するから、臨時職員の子たちも正規の職員か、もしくは活動しやすい部署に正規雇用してあげてね。その方が活動しやすいでしょう?」
「そうでございますね。一部は確かにその方がいいかもしれませんが、実は街の中にも〝臨時職員〟の配置をしております。町の方たちの声を聞くには、やはり近くにいる必要を感じましたので、私の選びました十数名が活動中です」
「それはいいわね。では、その臨時職員の方たちにもしっかり予算をつけないと……いまはどこから予算を組んでるの?」
「この領主館の維持費の中から外注費の名目で支出しております」
「そう、なるほどね。それでもいいけれど、彼らの存在はできる限り表に出ないほうが彼らも活動しやすいでしょうし、活動費が増えると目立つかもしれないわ……よし、彼らに関する費用はメイロード・マリスの個人資産から出しましょう。振り出しはマリス商会もしくはサイデム商会から適当な名目をつけてすることにしておけば、領地のお金の流れや支出状況を調べられても彼らには辿り着けないわ」
「たしかに、それでしたら彼らもさらに安全に仕事ができるでしょう。もっとも彼らはメイロードさまのために働くことに強い思いを抱いている者ばかりでございますので、どのような逆境でも意に返しはしないでしょうが……」
どうやらその〝臨時職員〟たちは、キッペイが厳選し鍛え上げた人たちのようで、随分と統率の取れた集団のようだ。
「やりすぎちゃダメよ、キッペイ」
「心得ておりますとも、ご領主さま」
笑顔のキッペイはなかなか油断ならないが、私のためにならないことをするとも思えないので、まかせることにする。
「では〝臨時職員〟の皆さんが最近街で気になっているのは、どんなことなのかしら?」
私は領地の皆さんの近況が聞きたいと思っていたところだったので、こんな質問をしてみた。
「そうでございますね。第十区セータイズの港の規模が急速に拡大しております。メイロードさまに整えていただいた港湾も更に拡充しなければならないかもしれません」
「単純に船が増えたってことでいいのかしら?」
「はい、メイロードさまがイスの食品研究所に委託されていた寒冷地に強い小麦と大麦はこの領地にとても合っていたようでございます。初年度から収穫が例年の四倍増という驚異的な伸びとなりまして、これが大きな交易品となりました」
「マリス領は人口に対して農地がずっと広いからね。ちゃんと育てばいい交易品になると思っていたけど、うん、上々じゃない!」
「はい。領地内の主要道路の保全も完了しておりましたので、陸路で港まで運び、船による大量輸送をすることで輸送時間と費用も安くできたため、他領よりも競争力の高い商品になりました。他の作物でも品種改良による良い結果が出ており、麦と同様に買い入れから売上の出る商品へと転じる作物が多くなっております。これだけでもマリス領の収益は明らかに増加しており、領内は十分な好景気と言える状況でございます」
私が《鑑定》と《地形把握》の合わせ技を駆使して世界中から集めてきた植物を託したイスの研究所は、その投資以上の仕事をしてくれた。おかげでいまの好景気がある。
(うんうん、先行投資はしておくものよねぇ)
「メイロードさまが育てるための画期的な方法を考案された貴重種〝イワムシ草〟の栽培につきましても、最初の収穫時から引く手数多の状況が続いております。値段を上げすぎないようにとのご指示を頂いておりましたが、それでも収穫量が増えていますので収益は非常に高くなっておりますよ」
「そう、それじゃもっと規模の拡大を考えるべきかしら」
「はい、それにつきましては現地の方々とも話し合いまして、現在調整中です」
「それはよかったわ。薬の材料になるものだから、適正価格で安定供給したいものね」
キッペイの報告によれば、領内のどの区も概ね平和で好景気とのことで私もひと安心した。
「最近の変化といいますと、そういえばこのところ魔道具が以前より多く売られるようになりまして、この領内にも増えてまいりました」
「魔道具?」
「はい、ですが魔道具とは申しましても、家庭用品なのです。起動に少々魔法力が必要なものの、気軽に使えるそうで、オーブンやランプ、コンロなども出回っているのです」
「出回っているということは、価格は安いのね。それじゃ魔石が使われていないってことなのかしら……それじゃ動力はなんなの?」
私の言葉に困った顔のキッペイ。
「さすがに私には魔道具の中身の解析は無理でございます。そういえば、こんなものが街で配られておりました」
それは鮮やかな色刷りのチラシで
「誰でも使える最新魔道具を試そう! 第六区タタール広場にて〝簡単オーブン〟を使った料理の大試食会同時開催!」
と書かれてあった。
「なるほど……これは行ってみるしかなさそうね」
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