利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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5森に住む聖人候補

847 盛り上がりそうな行事

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847

美味しいお料理に美味しいお酒、ヨシンさんのお宅での宴会は、大いに盛り上がった。

こうしてゆっくりヨシンさんご夫婦と過ごすのは久しぶりだというタイチと一緒だったこともあり話題にも事欠かず、子供たちの成長から、最近の領地の様子や新しくできたお店と話題は続き、お社の改築が終わったという〝山神神社〟の話になっていった。そして近づいてきた〝山神祭り〟のことに話題は移っていく。

「ええ!? それ本当なんですか? 改築されたお社では、あの(私が作った)地図が〝御神体〟って……いったいなんで……あれ、ただの紙ですよ?」

意外な事実にびっくりして発した私の言葉に、タイチは至極真面目にこう返してきた。

「とんでもありません、メイロードさま。あれこそこの港町を救った〝神の御技〟でございましょう。あの窮地にあった街の人々の生活を支え、しかも、あのありがたい地図のおかげで、いまでも街に必要な山の素材が足りなくなることがないのですから。あれこそ天がわれわれに与えてくださった宝です。あれほどこの街の社の御神体にふさわしい御物はございませんよ」

「そうよぉ、しかもあの地図はタイ……ご領主様のところに、天から降ってきたって聞いてるわよ。これはどうしたって神様がお助けてくださったんでしょう!」

(あ、あれそういうことになってるんだ。まぁ、私が関係していることは口止めしたからそうでも言うしかなかったのね。それは……わかるけど……わかるんだけどぉー)

いままで山神神社で御神体とされていたのは樹齢の長い古木の枝だったそうだが、それが朽ちてしまいちょうど新たな御神体を探していた、という経緯もあるそうだが、それにしても私の手書きの地図がお社の御神体に相応しいとは到底思えない。

「うーん、あれが御神輿に担がれるとかなんだかなぁ……」

ぼそっと呟いた私に太一がすぐ反応した。

「〝オミコシ〟とはなんのことでございますか?」

「ああ、ええとね。ある地域の祭りでは〝御神体〟をいつも見守ってくれている神様の依り代として扱うのね。で、それを綺麗に飾った輿に乗せて、神様に実際に守ってくださっている場所をお見せするために、みんなでそれを担いで街を練り歩くの。

〝あなたが見守ってくださっている場所は、いまこんな風になっていますよ〟ってね。

その神様の乗り物を〝御神輿〟って……あれ? お祭りっていうから〝御神輿〟があると思ってたんだけど……」

どうやら、そういった風習はいままでこの地にはなかったらしいと気がついたときには、タイチは完全に〝御神輿〟を造る気になっていた。

「すばらしいですね、オミコシ!! 絶対に作りましょう! ヨシン親方もそう思いますよね!!」

「ああ、いいな! 最高だ! これは是非とも作らなきゃいけねぇな! よし、明日には神社と相談してこよう。あとは〝オミコシ〟を造る職人の手配と……そうだ! いいものを作りたいから神社に寄進の案内を出してもらおう!」

「いいですね! みなさん信心深いですから、きっとすぐ資金は集まりますね。もちろん足りないようであれば、私の方からも寄進させていただきますので」

「おう、頼りにしてるよ、ご領主様!」

なんだか、ものすごい勢いで私の作った地図を乗せるための御神輿作りが決まってしまったようだ。

(まぁ、土地の人がそれがいいって言っているなら、それでいいか……)

みなさんが嬉しそうに盛り上がっているのに水を差す気にはなれなかったので、私はそれ以上は何も言わず話を続けることにした。すると今度はタイチが私に相談事を持ちかけてくる。

「メイロードさま。実は港街らしく祭りを盛り上げる方法を考えているのですが、なかなか良い案が見つからないのでございます。皆が参加できるような行事に何かお心当たりはございませんでしょうか……」

タイチによるとこの数ヶ月はその議題にかなりの時間を費やしているらしいが、屋台を出して盛り上げる以外に大きなイベントを思いつけずに困っているらしい。

みんなが盛り上がれそうな参加型のイベントが好ましいようだが、費用を多くはかけられないという制約がある。

「そうね……あっ、この街の皆さんは縄づくりはお得意よね」

私の言葉にヨシンさんが大きくうなづく。

「ああ、漁に縄がなくっちゃ始まらない。もちろん子供のころからこの土地の人間は縄作りをしているよ。どんな細い縄でもやたらと太い縄だってお手のものさ!」

私はそれを聞いてこの提案をしてみた。

「では〝綱引き〟をしてみませんか?」

「〝綱引き?〟」

そこから私は〝綱引き〟がどんな行事なのかを説明する。

「では大人数が左右から引いても大丈夫な太さの長い縄を作り、それをみんなで引き合うということですか」

「うん、そうよ。地区ごとに選抜した人たちで競い合うと盛り上がると思うの。それで優勝した地区の人たちは、その縄をお社に奉納する名誉ある役目を務めることができる……というのはどうかしら?」

「なるほど……縄は漁師の象徴でもありますし、優勝者がその勝利を得た縁起の良い縄を神様の社に奉納するというのは、行事としても理にかなっていますね」

この案は力自慢の多い漁師たちの琴線に触れたらしく、早速ヨシンさんとタイチは縄作りについて相談を始めた。

「相談は男衆に任せて、さあさあ、あたしたちは食べましょう!」

楽しそうに女将さんはそういって、私にたっぷりお料理が盛られたお皿を手渡してくれた。

「そうですね。それじゃそうしましょうか」

そこから私と女将さんは、街の女衆や子供たちの話題で盛り上がっていったのだった

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