658 / 837
5森に住む聖人候補
847 盛り上がりそうな行事
しおりを挟む
847
美味しいお料理に美味しいお酒、ヨシンさんのお宅での宴会は、大いに盛り上がった。
こうしてゆっくりヨシンさんご夫婦と過ごすのは久しぶりだというタイチと一緒だったこともあり話題にも事欠かず、子供たちの成長から、最近の領地の様子や新しくできたお店と話題は続き、お社の改築が終わったという〝山神神社〟の話になっていった。そして近づいてきた〝山神祭り〟のことに話題は移っていく。
「ええ!? それ本当なんですか? 改築されたお社では、あの(私が作った)地図が〝御神体〟って……いったいなんで……あれ、ただの紙ですよ?」
意外な事実にびっくりして発した私の言葉に、タイチは至極真面目にこう返してきた。
「とんでもありません、メイロードさま。あれこそこの港町を救った〝神の御技〟でございましょう。あの窮地にあった街の人々の生活を支え、しかも、あのありがたい地図のおかげで、いまでも街に必要な山の素材が足りなくなることがないのですから。あれこそ天がわれわれに与えてくださった宝です。あれほどこの街の社の御神体にふさわしい御物はございませんよ」
「そうよぉ、しかもあの地図はタイ……ご領主様のところに、天から降ってきたって聞いてるわよ。これはどうしたって神様がお助けてくださったんでしょう!」
(あ、あれそういうことになってるんだ。まぁ、私が関係していることは口止めしたからそうでも言うしかなかったのね。それは……わかるけど……わかるんだけどぉー)
いままで山神神社で御神体とされていたのは樹齢の長い古木の枝だったそうだが、それが朽ちてしまいちょうど新たな御神体を探していた、という経緯もあるそうだが、それにしても私の手書きの地図がお社の御神体に相応しいとは到底思えない。
「うーん、あれが御神輿に担がれるとかなんだかなぁ……」
ぼそっと呟いた私に太一がすぐ反応した。
「〝オミコシ〟とはなんのことでございますか?」
「ああ、ええとね。ある地域の祭りでは〝御神体〟をいつも見守ってくれている神様の依り代として扱うのね。で、それを綺麗に飾った輿に乗せて、神様に実際に守ってくださっている場所をお見せするために、みんなでそれを担いで街を練り歩くの。
〝あなたが見守ってくださっている場所は、いまこんな風になっていますよ〟ってね。
その神様の乗り物を〝御神輿〟って……あれ? お祭りっていうから〝御神輿〟があると思ってたんだけど……」
どうやら、そういった風習はいままでこの地にはなかったらしいと気がついたときには、タイチは完全に〝御神輿〟を造る気になっていた。
「すばらしいですね、オミコシ!! 絶対に作りましょう! ヨシン親方もそう思いますよね!!」
「ああ、いいな! 最高だ! これは是非とも作らなきゃいけねぇな! よし、明日には神社と相談してこよう。あとは〝オミコシ〟を造る職人の手配と……そうだ! いいものを作りたいから神社に寄進の案内を出してもらおう!」
「いいですね! みなさん信心深いですから、きっとすぐ資金は集まりますね。もちろん足りないようであれば、私の方からも寄進させていただきますので」
「おう、頼りにしてるよ、ご領主様!」
なんだか、ものすごい勢いで私の作った地図を乗せるための御神輿作りが決まってしまったようだ。
(まぁ、土地の人がそれがいいって言っているなら、それでいいか……)
みなさんが嬉しそうに盛り上がっているのに水を差す気にはなれなかったので、私はそれ以上は何も言わず話を続けることにした。すると今度はタイチが私に相談事を持ちかけてくる。
「メイロードさま。実は港街らしく祭りを盛り上げる方法を考えているのですが、なかなか良い案が見つからないのでございます。皆が参加できるような行事に何かお心当たりはございませんでしょうか……」
タイチによるとこの数ヶ月はその議題にかなりの時間を費やしているらしいが、屋台を出して盛り上げる以外に大きなイベントを思いつけずに困っているらしい。
みんなが盛り上がれそうな参加型のイベントが好ましいようだが、費用を多くはかけられないという制約がある。
「そうね……あっ、この街の皆さんは縄づくりはお得意よね」
私の言葉にヨシンさんが大きくうなづく。
「ああ、漁に縄がなくっちゃ始まらない。もちろん子供のころからこの土地の人間は縄作りをしているよ。どんな細い縄でもやたらと太い縄だってお手のものさ!」
私はそれを聞いてこの提案をしてみた。
「では〝綱引き〟をしてみませんか?」
「〝綱引き?〟」
そこから私は〝綱引き〟がどんな行事なのかを説明する。
「では大人数が左右から引いても大丈夫な太さの長い縄を作り、それをみんなで引き合うということですか」
「うん、そうよ。地区ごとに選抜した人たちで競い合うと盛り上がると思うの。それで優勝した地区の人たちは、その縄をお社に奉納する名誉ある役目を務めることができる……というのはどうかしら?」
「なるほど……縄は漁師の象徴でもありますし、優勝者がその勝利を得た縁起の良い縄を神様の社に奉納するというのは、行事としても理にかなっていますね」
この案は力自慢の多い漁師たちの琴線に触れたらしく、早速ヨシンさんとタイチは縄作りについて相談を始めた。
「相談は男衆に任せて、さあさあ、あたしたちは食べましょう!」
楽しそうに女将さんはそういって、私にたっぷりお料理が盛られたお皿を手渡してくれた。
「そうですね。それじゃそうしましょうか」
そこから私と女将さんは、街の女衆や子供たちの話題で盛り上がっていったのだった
美味しいお料理に美味しいお酒、ヨシンさんのお宅での宴会は、大いに盛り上がった。
こうしてゆっくりヨシンさんご夫婦と過ごすのは久しぶりだというタイチと一緒だったこともあり話題にも事欠かず、子供たちの成長から、最近の領地の様子や新しくできたお店と話題は続き、お社の改築が終わったという〝山神神社〟の話になっていった。そして近づいてきた〝山神祭り〟のことに話題は移っていく。
「ええ!? それ本当なんですか? 改築されたお社では、あの(私が作った)地図が〝御神体〟って……いったいなんで……あれ、ただの紙ですよ?」
意外な事実にびっくりして発した私の言葉に、タイチは至極真面目にこう返してきた。
「とんでもありません、メイロードさま。あれこそこの港町を救った〝神の御技〟でございましょう。あの窮地にあった街の人々の生活を支え、しかも、あのありがたい地図のおかげで、いまでも街に必要な山の素材が足りなくなることがないのですから。あれこそ天がわれわれに与えてくださった宝です。あれほどこの街の社の御神体にふさわしい御物はございませんよ」
「そうよぉ、しかもあの地図はタイ……ご領主様のところに、天から降ってきたって聞いてるわよ。これはどうしたって神様がお助けてくださったんでしょう!」
(あ、あれそういうことになってるんだ。まぁ、私が関係していることは口止めしたからそうでも言うしかなかったのね。それは……わかるけど……わかるんだけどぉー)
いままで山神神社で御神体とされていたのは樹齢の長い古木の枝だったそうだが、それが朽ちてしまいちょうど新たな御神体を探していた、という経緯もあるそうだが、それにしても私の手書きの地図がお社の御神体に相応しいとは到底思えない。
「うーん、あれが御神輿に担がれるとかなんだかなぁ……」
ぼそっと呟いた私に太一がすぐ反応した。
「〝オミコシ〟とはなんのことでございますか?」
「ああ、ええとね。ある地域の祭りでは〝御神体〟をいつも見守ってくれている神様の依り代として扱うのね。で、それを綺麗に飾った輿に乗せて、神様に実際に守ってくださっている場所をお見せするために、みんなでそれを担いで街を練り歩くの。
〝あなたが見守ってくださっている場所は、いまこんな風になっていますよ〟ってね。
その神様の乗り物を〝御神輿〟って……あれ? お祭りっていうから〝御神輿〟があると思ってたんだけど……」
どうやら、そういった風習はいままでこの地にはなかったらしいと気がついたときには、タイチは完全に〝御神輿〟を造る気になっていた。
「すばらしいですね、オミコシ!! 絶対に作りましょう! ヨシン親方もそう思いますよね!!」
「ああ、いいな! 最高だ! これは是非とも作らなきゃいけねぇな! よし、明日には神社と相談してこよう。あとは〝オミコシ〟を造る職人の手配と……そうだ! いいものを作りたいから神社に寄進の案内を出してもらおう!」
「いいですね! みなさん信心深いですから、きっとすぐ資金は集まりますね。もちろん足りないようであれば、私の方からも寄進させていただきますので」
「おう、頼りにしてるよ、ご領主様!」
なんだか、ものすごい勢いで私の作った地図を乗せるための御神輿作りが決まってしまったようだ。
(まぁ、土地の人がそれがいいって言っているなら、それでいいか……)
みなさんが嬉しそうに盛り上がっているのに水を差す気にはなれなかったので、私はそれ以上は何も言わず話を続けることにした。すると今度はタイチが私に相談事を持ちかけてくる。
「メイロードさま。実は港街らしく祭りを盛り上げる方法を考えているのですが、なかなか良い案が見つからないのでございます。皆が参加できるような行事に何かお心当たりはございませんでしょうか……」
タイチによるとこの数ヶ月はその議題にかなりの時間を費やしているらしいが、屋台を出して盛り上げる以外に大きなイベントを思いつけずに困っているらしい。
みんなが盛り上がれそうな参加型のイベントが好ましいようだが、費用を多くはかけられないという制約がある。
「そうね……あっ、この街の皆さんは縄づくりはお得意よね」
私の言葉にヨシンさんが大きくうなづく。
「ああ、漁に縄がなくっちゃ始まらない。もちろん子供のころからこの土地の人間は縄作りをしているよ。どんな細い縄でもやたらと太い縄だってお手のものさ!」
私はそれを聞いてこの提案をしてみた。
「では〝綱引き〟をしてみませんか?」
「〝綱引き?〟」
そこから私は〝綱引き〟がどんな行事なのかを説明する。
「では大人数が左右から引いても大丈夫な太さの長い縄を作り、それをみんなで引き合うということですか」
「うん、そうよ。地区ごとに選抜した人たちで競い合うと盛り上がると思うの。それで優勝した地区の人たちは、その縄をお社に奉納する名誉ある役目を務めることができる……というのはどうかしら?」
「なるほど……縄は漁師の象徴でもありますし、優勝者がその勝利を得た縁起の良い縄を神様の社に奉納するというのは、行事としても理にかなっていますね」
この案は力自慢の多い漁師たちの琴線に触れたらしく、早速ヨシンさんとタイチは縄作りについて相談を始めた。
「相談は男衆に任せて、さあさあ、あたしたちは食べましょう!」
楽しそうに女将さんはそういって、私にたっぷりお料理が盛られたお皿を手渡してくれた。
「そうですね。それじゃそうしましょうか」
そこから私と女将さんは、街の女衆や子供たちの話題で盛り上がっていったのだった
157
お気に入りに追加
13,119
あなたにおすすめの小説
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?
水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが…
私が平民だとどこで知ったのですか?

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。
しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹
そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる
もう限界がきた私はあることを決心するのだった

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。