利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

文字の大きさ
上 下
643 / 840
5森に住む聖人候補

832 炭焼き小屋建築

しおりを挟む
832

炭小屋建設場所はしっかり塀に囲まれた集落の出入り口の門を出てすぐ左手と決まった。

その場所は過去に畑を整備するために切り開かれた場所だったが、そこに畑を作った結果、作物を狙う小動物が頻繁に現れるようになり、それを狙う大型の獣や魔獣も現れ始めたため、放棄された場所だ。

今回作るのは食べ物ではないので問題なしということで、このすぐに使える土地を集落の近くに借りることができたのはラッキーだった。

そして翌日のお昼過ぎに、諸々の準備作業を終えたところで、私の作業が開始された。

「それじゃ始めますねー! ちょっと大掛かりな土木作業になりますので、十分下がっていてくださーい」

そこからは魔法という名の土木工事だ。

ソロスさんを始め、私が魔法を使って炭焼き窯を作っていく間、危険がない位置に並んで作業を見ていた谷の技術者代表さんたちの顔は、口が半開きで目が飛び出そうに見開かれていた。どうやらこうした近距離で、そこそこ大規模に見える(実際はそうでもないんだけど)魔法が、どかどかと行使されていく現場を見るのは、みなさん初めての経験だったようだ。

(やっぱりこの世界、魔法と庶民の距離は遠いね)

「えっと、このようにですね、まずは地面をくり抜くようにして炭にするための木材を設置する場所を作っていきます」

私は《風魔法》と《土魔法》をうまく使ってザクッと何トン分かの土砂をすくい上げて邪魔にならない場所へと移動、これを何回か繰り返した。

十畳ぐらいの広さを作ったところで、その開けた地面に上から魔法で《圧縮プレス》をかけていく。この作業も人力で行おうとすれば、時間のかかるかなりきつい作業だろう。

「ここはちょうど粘土質ですので、上から押し固めてください。ここだけじゃなく、すべての場所に言えることですが、空気の抜ける場所を作らないことが炭焼きの基本なので、きっちり埋めて固めてくださいね」

「は、はい! わかりました! 薬師様!」

そう言いながらも、技術者の皆さんは相変わらずびっくり顔が止まらないし、なんだかオドオドしてみえる。

(そんなに引かなくてもいいのに。そこまで特殊なことはしてないんだけどなぁ……)

「では次の作業に移ります。側面を埋めるために石を砕いたものを使いましょう。これは魔法がないと扱いが難しいので、みなさんが炭焼き窯を作られるときには、耐火レンガ使うと上手にできるはずです。今回はレンガを調達する時間もなかったので、これですけどね」

そう言いながら私は厚みを揃えてカットされたレンガの十倍ぐらいの大きさの石の塊を魔法でゴンゴン積み上げていった。ちなみにアシスタントはソーヤ。相変わらずありえない重さの石を軽々と動かしている。それでも空いてしまう隙間は粘土に細かい砂利を混ぜたもので埋めてきっちりと塞ぐ。この石は今日のために朝早く近所の岩場で魔法を使い成形してきたものだ。
魔法があれば石切り作業もさして難しくはない。

「ちょうどいい石があって助かりましたよ。うまく切れたので隙間もほぼないですね。上出来、上出来」

サイズが合わない巨石を魔法でスパスパ切り揃えながら笑顔でそういう私を、みなさん何とも言えない表情で見つめている。

「はいではここから、この周囲をしっかりと固めた穴の中にぎっちり隙間なく木材を並べていきます。まずは下に木をびっしりと敷き詰めたあと、立てかけるようにきっちりと薪を詰め込んでください。そして最後は蓋となる部分ギリギリまで寝かせた薪を丸みを帯びた形に積みます。いずれも隙間をできる限り作らないということが肝要です。

炭焼きの成功の鍵は、この丁寧にきっちりと詰めるという作業なので覚えておいてくださいね。では、この作業も時間がないことですし、私がやってしまいましょう。今回は使用する薪も私の魔法で乾燥させましたが、みなさんは切り出してから数週間乾燥させて使ってください」

私はそう言うと、これも今朝切り出してサイズを揃えた上、薬作りなどでもよく使われる《乾燥ドライ》を使って程よく乾燥させておいた木材を魔法で動かして運び、最終的にはソーヤがすごい速さでぎっちり詰めていった。

〔メイロードさま、こんな感じでよろしいでしょうか〕
〔うん、すごいね。ギッチギチに詰まってる。さすがはソーヤね!〕
〔それはよかったです。なにせあの〝やきとり〟の美味しさを左右するありがたい素材ですからね。完璧にやらせていただきますよ!〕
〔……そうね。よろしくね〕

(なんにせよ、モチベーションが高いのはいいことよね)

そのあとは煙突と、今後の出し入れ口となる場所に焚き口を設置し、薪が積まれた窯の上を大量の粘土質の土砂で塞ぐ。これも土を動かすだけなので、ほぼ一瞬だ。

「この上の土砂もきっちり固めます。そうすることで火が入ったあとはがっちりした釜の蓋となってくれます。ただ雨には弱いので、窯全体に雨よけの屋根を設置した方がいいですね」

そう言いながら、私はスルスルと簡単な木製の雨よけを作っていった。

「はぇー! びっくりだなぁ!! あんなに大きな屋根が数分で簡単にできちまってるよ。魔法ってのはすごいもんだなぁ。俺たちがいちから作っていたら、きっと冬が終わってるよ」

「ちび……おっと、薬師様はすごいお方なんじゃないか? 魔法っていうのは、こんなことが簡単にできるようなもんなのかい?」

そんな驚きの声を炭焼き窯作りが楽しくなってきてしまっている私は聞き流し、ほぼ一時間で炭焼き窯を完成させた。ついでに、炭ができるまで管理するためと、一時保管所としての炭焼き小屋も設置して完成だ。

私が笑顔でソロスさんの方を振り返ると、私の依頼主は呆れ顔をしていた。

「メイロードさん、いくらなんでも大盤振る舞いが過ぎるよ。木材も石も資材も何もかもメイロードさんの持ち出しで、しかも屋根や小屋まで作っちまうなんて、とてもあの金額では見合わん!」

「そうですよ。入れていただいた大量の薪だけでも売ったらひと財産ですよ。あの外側を囲った大岩の削り出しだって買ったらいくらするかわかりません!」

仕事を終えた達成感に満足していた私は、こうして依頼主や技術者の皆さんから、謎のお説教を食らったのだった。

(あれ、あれれー?)
しおりを挟む
感想 3,001

あなたにおすすめの小説

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。