639 / 837
5森に住む聖人候補
828 読書の時間
しおりを挟む
828
タスマ谷集落の人たちに、思わぬことで強烈な印象を残してしまい、帰ってきてからしばらくの間、頭を抱えてしまった私だが、なんとか持ち直した。近隣とはいってもここは深い山の中。私の家については場所も詳しく話していないし、離れてしまえば滅多なことでは出会わないのだから気にしても意味なしだ。
実際そこからしばらくは、再びのんびりした生活が満喫できたし、自然を愛でながらの楽しい自給自足っぽい日々を楽しむことができた。昼は庭でよく働き、雨の日にはのんびり家仕事と読書。まさに晴耕雨読。これも、いまの私が異世界書籍だってそれほど悩まずに買うことができるようになれたおかげだ。
そう、気になっていた知識を得るための本を異世界から買える。これは最初から使えた能力だったが、知識に対する価格の補正値がミニマム百倍上は天井知らずという高価格だったので、毎回ものすごく悩みながらどうしても必要な本だけを取り寄せていた。
だがそれは過去のこと。なぜなら、いまの私はとてもお金持ちだからだ。
しかも収入源のほとんどは私の作ったものが売れ続けている限り入ってくる不労所得なのだから枯渇する可能性もまずない。それどころか、こうしていても使いきれなくて途方に暮れるほどの金額が日々振り込まれてくるので、これをどうするかは私の大きな課題だ。
ただ持っていてもいいのだろうが、それでは経済が回らないと考え、その多くを研究所への投資やマリス領の公共事業のために使ってきたのだが、すでにこの投資は回収の段階へ向かいつつあり、最近はどちらも使うお金より戻ってくるお金の方が多くなってきてしまった。
もちろん、更なる投資も行なっているのだが、結局、私の資産はまったく目減りすることがないまま増え続けている状態なのだ。
もうひとつのお金の使い道として、おじさまを介して孤児院への寄付や初等教育を推進するために設立した財団への寄付も積極的に行なっているが、これもあまりやり過ぎれば他の貴族たちとの軋轢になる可能性があり、目立ちたくないなら程々にしろと釘を刺されているので、残念だが増やすのにも限界がある。
(匿名での寄付って金額が大きすぎると受け取る方々が妙に勘繰られたり、犯罪者に目をつけられたりすることもあるらしくて、思わぬ迷惑になることもあるらしく、あまり推奨されないんだよねぇ…… かといって名前を出しちゃうと目立つしねぇ……
おじさまの名前でやってもらうにしても、やはり限度があるし、おじさまも人のお金を自分の名前で寄付するのは、あまり気分のいいことではないだろうしね)
そんな事情もあり、手持ちの資金には十分な余裕があるので《異世界召喚の陣》のエグい補正により手が震えるほどの高額になっている異世界の専門書籍を買うのにも、以前ほどは悩まずに済むようになってきた。
これには、いままで手に入れた異世界本はその希少性やこの世界にない印刷技術など、見られるわけにはいかない要素が多すぎるため、厳重に管理し、慎重に扱っている。神様がここまで極端な補正を課してくるしてくるぐらいだ。この世界の人にこういった本を見せるのはさすがにまずいのだと理解している。なので、こういった本を読むときには自室でしっかり結界を張り、保管も《無限回廊の扉》の中に限定。必要な知識は別のノートなどに書き写し、原本は持ち出さないと決めていた。
(だけど、ここなら別にいよね。だーれもいないし)
田舎生活を始めてからの私は、興味のあった本をいくつか異世界から取り寄せキッチンテーブルやベッドで読書を楽しんだりと、結構ぞんざいに楽しめるようになった。これも隠遁生活のとても嬉しかったことのひとつだ。
最近はおしゃれな家具の作り方の本や日常を便利にする道具の作り方の本がお気に入りだ。
この世界では魔法が多くのことを代替してくれるので、グッケンス博士の薫陶を受け魔法にも詳しくなった私はいわゆるDIYで使われる工具のような作業をほぼ魔法で肩代わりさせられる。木でも石でも好きな形にできてしまうし、釘だって打てるし、魔法の接着剤だって作れる。大きいものを持ち上げたり動かしたりだって魔法でできてしまうので、おそらくやろうと思えば家の一軒を建てるぐらいのことは自分でもスルスルとできてしまうと思う。
でも一部の魔法力の高い人々以外は、こんなことはできないし、やろうともしないことを私は知っている。この世界では生活を便利にするような魔法を使うということは、戦いのための魔法を使うことよりもとても低くみられているからだ。〝魔法屋〟の地位が低いのもそのせいだし、当然、生活魔法の研究も進んでいない。魔法をしっかり学ぶ機会のない普通の人々の間での魔法活用の水準はとても限定的だ。
もちろんそれぞれの工房には良い腕をした技術者はたくさんいるが、せっかく魔法があるのにそれを利用した革新的な技術は生まれにくいようで、あまり魔法を使った技術は使われておらず、それも誰もが受け継げるとか限らない不安定なものが多いため、絶えることがないよう受け継いでいくだけでも精一杯なのだという。
(魔法屋さん養成学校に作った研究施設が、この辺りを補完してくれると良いんだけど、まだまだ始まったばかりだし、道は遠いかなぁ……)
そんなことを考えながら、私は新しいおうちの庭にあった大きな木の横に突き出た太い枝を利用して設置した、お手製の美しいアールをした背もたれつきのブランコに草木染めをしたクッションを置いで座っていた。
軽く揺られながら読んでいた〝サバイバルブック大全 あらゆる災害から生き残れ! 勝つのは俺たちだ!!〟はとても面白いしためになる知識がいっぱいだ。
(こういった知識もマリス領の人たちにも広めたいんだけど、どうしたらいいかなぁ)
そんなことを考えながら、いつの間にか、うつらうつら午後のそよ風の中うたた寝をしていた。
タスマ谷集落の人たちに、思わぬことで強烈な印象を残してしまい、帰ってきてからしばらくの間、頭を抱えてしまった私だが、なんとか持ち直した。近隣とはいってもここは深い山の中。私の家については場所も詳しく話していないし、離れてしまえば滅多なことでは出会わないのだから気にしても意味なしだ。
実際そこからしばらくは、再びのんびりした生活が満喫できたし、自然を愛でながらの楽しい自給自足っぽい日々を楽しむことができた。昼は庭でよく働き、雨の日にはのんびり家仕事と読書。まさに晴耕雨読。これも、いまの私が異世界書籍だってそれほど悩まずに買うことができるようになれたおかげだ。
そう、気になっていた知識を得るための本を異世界から買える。これは最初から使えた能力だったが、知識に対する価格の補正値がミニマム百倍上は天井知らずという高価格だったので、毎回ものすごく悩みながらどうしても必要な本だけを取り寄せていた。
だがそれは過去のこと。なぜなら、いまの私はとてもお金持ちだからだ。
しかも収入源のほとんどは私の作ったものが売れ続けている限り入ってくる不労所得なのだから枯渇する可能性もまずない。それどころか、こうしていても使いきれなくて途方に暮れるほどの金額が日々振り込まれてくるので、これをどうするかは私の大きな課題だ。
ただ持っていてもいいのだろうが、それでは経済が回らないと考え、その多くを研究所への投資やマリス領の公共事業のために使ってきたのだが、すでにこの投資は回収の段階へ向かいつつあり、最近はどちらも使うお金より戻ってくるお金の方が多くなってきてしまった。
もちろん、更なる投資も行なっているのだが、結局、私の資産はまったく目減りすることがないまま増え続けている状態なのだ。
もうひとつのお金の使い道として、おじさまを介して孤児院への寄付や初等教育を推進するために設立した財団への寄付も積極的に行なっているが、これもあまりやり過ぎれば他の貴族たちとの軋轢になる可能性があり、目立ちたくないなら程々にしろと釘を刺されているので、残念だが増やすのにも限界がある。
(匿名での寄付って金額が大きすぎると受け取る方々が妙に勘繰られたり、犯罪者に目をつけられたりすることもあるらしくて、思わぬ迷惑になることもあるらしく、あまり推奨されないんだよねぇ…… かといって名前を出しちゃうと目立つしねぇ……
おじさまの名前でやってもらうにしても、やはり限度があるし、おじさまも人のお金を自分の名前で寄付するのは、あまり気分のいいことではないだろうしね)
そんな事情もあり、手持ちの資金には十分な余裕があるので《異世界召喚の陣》のエグい補正により手が震えるほどの高額になっている異世界の専門書籍を買うのにも、以前ほどは悩まずに済むようになってきた。
これには、いままで手に入れた異世界本はその希少性やこの世界にない印刷技術など、見られるわけにはいかない要素が多すぎるため、厳重に管理し、慎重に扱っている。神様がここまで極端な補正を課してくるしてくるぐらいだ。この世界の人にこういった本を見せるのはさすがにまずいのだと理解している。なので、こういった本を読むときには自室でしっかり結界を張り、保管も《無限回廊の扉》の中に限定。必要な知識は別のノートなどに書き写し、原本は持ち出さないと決めていた。
(だけど、ここなら別にいよね。だーれもいないし)
田舎生活を始めてからの私は、興味のあった本をいくつか異世界から取り寄せキッチンテーブルやベッドで読書を楽しんだりと、結構ぞんざいに楽しめるようになった。これも隠遁生活のとても嬉しかったことのひとつだ。
最近はおしゃれな家具の作り方の本や日常を便利にする道具の作り方の本がお気に入りだ。
この世界では魔法が多くのことを代替してくれるので、グッケンス博士の薫陶を受け魔法にも詳しくなった私はいわゆるDIYで使われる工具のような作業をほぼ魔法で肩代わりさせられる。木でも石でも好きな形にできてしまうし、釘だって打てるし、魔法の接着剤だって作れる。大きいものを持ち上げたり動かしたりだって魔法でできてしまうので、おそらくやろうと思えば家の一軒を建てるぐらいのことは自分でもスルスルとできてしまうと思う。
でも一部の魔法力の高い人々以外は、こんなことはできないし、やろうともしないことを私は知っている。この世界では生活を便利にするような魔法を使うということは、戦いのための魔法を使うことよりもとても低くみられているからだ。〝魔法屋〟の地位が低いのもそのせいだし、当然、生活魔法の研究も進んでいない。魔法をしっかり学ぶ機会のない普通の人々の間での魔法活用の水準はとても限定的だ。
もちろんそれぞれの工房には良い腕をした技術者はたくさんいるが、せっかく魔法があるのにそれを利用した革新的な技術は生まれにくいようで、あまり魔法を使った技術は使われておらず、それも誰もが受け継げるとか限らない不安定なものが多いため、絶えることがないよう受け継いでいくだけでも精一杯なのだという。
(魔法屋さん養成学校に作った研究施設が、この辺りを補完してくれると良いんだけど、まだまだ始まったばかりだし、道は遠いかなぁ……)
そんなことを考えながら、私は新しいおうちの庭にあった大きな木の横に突き出た太い枝を利用して設置した、お手製の美しいアールをした背もたれつきのブランコに草木染めをしたクッションを置いで座っていた。
軽く揺られながら読んでいた〝サバイバルブック大全 あらゆる災害から生き残れ! 勝つのは俺たちだ!!〟はとても面白いしためになる知識がいっぱいだ。
(こういった知識もマリス領の人たちにも広めたいんだけど、どうしたらいいかなぁ)
そんなことを考えながら、いつの間にか、うつらうつら午後のそよ風の中うたた寝をしていた。
181
お気に入りに追加
13,119
あなたにおすすめの小説
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?
水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが…
私が平民だとどこで知ったのですか?

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。
しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹
そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる
もう限界がきた私はあることを決心するのだった

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。