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5森に住む聖人候補
827 チビ薬師様
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827
「なんだい、見習いとか言ってたが立派な薬師様じゃないか!」
次の日はサービスだという、他の人たちとは明らかに違うやけに豪華な朝食を〝谷間の憩い〟亭でありがたくいただいたあと
(まぁ、食べたのはほとんどソーヤなんだけどね)、
従業員のみなさん総出のお見送りを受けながら出立した。
そして、集落を出る前に昨日注文された商品を雑貨店へと納品に出向くと、店主のソロスさんがからかうようにこう言ってきたのだ。
さすがは狭い集落の中、昨夜私が酒場で伝えた情報は瞬く間に駆け巡り、こうしてソロスさんにもしっかり伝わった、ということのようだ。必要な情報が素早く伝わっているようで、とても喜ばしい。
「いえ、たまたま知っていただけですよ。下処理に気をつけさえすればかなり防げる病気ですので、そのやり方をお伝えしただけで……」
「それだって、俺たちは知らずに長い間痛い思いを我慢してきたんだ。メイロードさんには感謝しても仕切れないね!」
納品用に渡したカゴの中身を確かめながら、ソロスさんの絶賛は止まらない。
(いつの間にかメイロード#さん____#になってるし……)
「これでもここの連中は〝石吐き病〟に関しては長いこといろいろ調べていたんだぜ。あちこちの村や町に伝わる眉唾物の怪しい治療法だってたくさん試してきてる。石を砕いて飲むとか、わざと高熱を出すなんていうめちゃくちゃな方法だって藁にもすがる思いで試した者もいる。高い金を払って〝ポーション〟を飲んだやつだっているが、痛みがやや軽くなるぐらいだった。それも石が出るまで持続しなかったせいで、もう一度激痛に見舞われてもっと苦しい思いをしたりしてなぁ……踏んだり蹴ったりだった」
苦しむ人たちの姿を思い出すのかソロスさんは眉を寄せている。
「ありがとうよ、これで〝石吐き病〟が減ったら、メイロードさんはこの集落の英雄、いや救いの女神だよ」
「そんな大袈裟な」
「いやいや、大袈裟じゃない! ここに住んでいる限り逃れられない病気があるってのはな、心に重くのしかかるんだよ。俺だってみんなのたうち回って苦しむ様子を子供のころから何度も見せられながら暮らしてきた。あれがいつか自分にも降りかかる……そう思いながら生きるのは、いやなもんなんだぜ」
「それは……そう……ですよね」
たしかに原因がわからず、誰に降りかかるかもわからない激痛を伴う病が身近にある生活のストレスは、みんなに暗い影を落とし続けてきただろう。完全に駆逐するまではできなくとも、原因と対処法がわかっている、という安心感はここの人たちには大事なことに違いない。
「そうそう昨日こちらでいただいた〝ラジーネック〟は積極的に食べたり飲んだりしてください。あれには石が作られるのを抑える〝クエン酸〟という成分が入ってますから。十分なアク抜きと水分摂取、それに〝ラジーネック〟という特産の柑橘を常日頃から積極的に食べれば、きっと風土病とまで呼ばれるような数の患者は出なくなるはずです」
これは昨日も伝えたことだが、念押しに伝えておいた。
「そうだってな。〝ラジーネック〟が〝石吐き病〟にいいらしいって噂はたしかにあったんだが、そうかやっぱりいいんだな」
根本的な〝シュウ酸〟の大量摂取が解決していない状況で柑橘だけをとっても効果は半減する。きっといままでは飲んだところで結局罹るのだということで、あまり効果があるとは思われなかったのだろう。
「これからはちゃんとメイロードさんに言われたことを守ってやってみるよ。なんだか希望が持てる……うれしいことだ」
上機嫌のソロスさんから、私は商品の代金とお土産だという〝ラジーネック〟をどっさり受け取り、店の前まで出て見送ってくれたソロスさんにペコっと頭を下げた。
(さあ、これで近隣へのご挨拶もできたことだし、のんびり生活を再開できるぞ!)
スキップしたいような気分で村の出口へと向かう私だったが、どうも昨日とは明らかに何かが違う。
気がつけば、しっかり魔法で存在を希薄にしているはずなのに、出会った人がみんな頭を下げてくるし、
「メイロードさん!」
「薬師様!」
と声までかけられる。
(あ、あれぇ?)
どうやら土地の人とは違う服装であることと、チビ薬師であることが伝わっているようで、顔の印象が薄くてもしっかり認識されちゃっているようだ。
集落に希望を与えたインパクトは、私の想像を超えたとんでもなく大きなものだったらしい。
〔またですか……〕
〝ラジーネック〟が入った大きな袋を嬉しそうに抱えたソーヤが《念話》でそう言いながらクスクス笑っている。
〔うー、言わないでよ。わかってます!〕
ついおせっかいをしてしまった末のこの結果。私は少し恥ずかしい気持ちになり、笑顔の人々からの挨拶にひきつった笑顔を返しながら、足早に集落を後にしたのだった。
「なんだい、見習いとか言ってたが立派な薬師様じゃないか!」
次の日はサービスだという、他の人たちとは明らかに違うやけに豪華な朝食を〝谷間の憩い〟亭でありがたくいただいたあと
(まぁ、食べたのはほとんどソーヤなんだけどね)、
従業員のみなさん総出のお見送りを受けながら出立した。
そして、集落を出る前に昨日注文された商品を雑貨店へと納品に出向くと、店主のソロスさんがからかうようにこう言ってきたのだ。
さすがは狭い集落の中、昨夜私が酒場で伝えた情報は瞬く間に駆け巡り、こうしてソロスさんにもしっかり伝わった、ということのようだ。必要な情報が素早く伝わっているようで、とても喜ばしい。
「いえ、たまたま知っていただけですよ。下処理に気をつけさえすればかなり防げる病気ですので、そのやり方をお伝えしただけで……」
「それだって、俺たちは知らずに長い間痛い思いを我慢してきたんだ。メイロードさんには感謝しても仕切れないね!」
納品用に渡したカゴの中身を確かめながら、ソロスさんの絶賛は止まらない。
(いつの間にかメイロード#さん____#になってるし……)
「これでもここの連中は〝石吐き病〟に関しては長いこといろいろ調べていたんだぜ。あちこちの村や町に伝わる眉唾物の怪しい治療法だってたくさん試してきてる。石を砕いて飲むとか、わざと高熱を出すなんていうめちゃくちゃな方法だって藁にもすがる思いで試した者もいる。高い金を払って〝ポーション〟を飲んだやつだっているが、痛みがやや軽くなるぐらいだった。それも石が出るまで持続しなかったせいで、もう一度激痛に見舞われてもっと苦しい思いをしたりしてなぁ……踏んだり蹴ったりだった」
苦しむ人たちの姿を思い出すのかソロスさんは眉を寄せている。
「ありがとうよ、これで〝石吐き病〟が減ったら、メイロードさんはこの集落の英雄、いや救いの女神だよ」
「そんな大袈裟な」
「いやいや、大袈裟じゃない! ここに住んでいる限り逃れられない病気があるってのはな、心に重くのしかかるんだよ。俺だってみんなのたうち回って苦しむ様子を子供のころから何度も見せられながら暮らしてきた。あれがいつか自分にも降りかかる……そう思いながら生きるのは、いやなもんなんだぜ」
「それは……そう……ですよね」
たしかに原因がわからず、誰に降りかかるかもわからない激痛を伴う病が身近にある生活のストレスは、みんなに暗い影を落とし続けてきただろう。完全に駆逐するまではできなくとも、原因と対処法がわかっている、という安心感はここの人たちには大事なことに違いない。
「そうそう昨日こちらでいただいた〝ラジーネック〟は積極的に食べたり飲んだりしてください。あれには石が作られるのを抑える〝クエン酸〟という成分が入ってますから。十分なアク抜きと水分摂取、それに〝ラジーネック〟という特産の柑橘を常日頃から積極的に食べれば、きっと風土病とまで呼ばれるような数の患者は出なくなるはずです」
これは昨日も伝えたことだが、念押しに伝えておいた。
「そうだってな。〝ラジーネック〟が〝石吐き病〟にいいらしいって噂はたしかにあったんだが、そうかやっぱりいいんだな」
根本的な〝シュウ酸〟の大量摂取が解決していない状況で柑橘だけをとっても効果は半減する。きっといままでは飲んだところで結局罹るのだということで、あまり効果があるとは思われなかったのだろう。
「これからはちゃんとメイロードさんに言われたことを守ってやってみるよ。なんだか希望が持てる……うれしいことだ」
上機嫌のソロスさんから、私は商品の代金とお土産だという〝ラジーネック〟をどっさり受け取り、店の前まで出て見送ってくれたソロスさんにペコっと頭を下げた。
(さあ、これで近隣へのご挨拶もできたことだし、のんびり生活を再開できるぞ!)
スキップしたいような気分で村の出口へと向かう私だったが、どうも昨日とは明らかに何かが違う。
気がつけば、しっかり魔法で存在を希薄にしているはずなのに、出会った人がみんな頭を下げてくるし、
「メイロードさん!」
「薬師様!」
と声までかけられる。
(あ、あれぇ?)
どうやら土地の人とは違う服装であることと、チビ薬師であることが伝わっているようで、顔の印象が薄くてもしっかり認識されちゃっているようだ。
集落に希望を与えたインパクトは、私の想像を超えたとんでもなく大きなものだったらしい。
〔またですか……〕
〝ラジーネック〟が入った大きな袋を嬉しそうに抱えたソーヤが《念話》でそう言いながらクスクス笑っている。
〔うー、言わないでよ。わかってます!〕
ついおせっかいをしてしまった末のこの結果。私は少し恥ずかしい気持ちになり、笑顔の人々からの挨拶にひきつった笑顔を返しながら、足早に集落を後にしたのだった。
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