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5森に住む聖人候補
821 お引っ越しと対策
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821
場所を移動したところで私の生活は何も変わらない。隠遁生活なんてそんなものだ。
ちなみに生活環境も以前いた場所とさして差はない。実をいえば地理的にも、そうたいして離れてはいないのだ。ただし魔物などが多く出没する越えるのが難しい山をふたつ挟んでいるので、元いた場所の人たちの生活圏からはしっかり離れている。私がどこへ向かったのかは誰にも伝えていないのだから、新しい場所へ越してしまえば、もうイーオたちと会うことはないだろう。
今回の引っ越しは迅速に行いたかったので《無限回廊の扉》を使い急遽やって来てもらったアタタガ・フライに活躍してもらった。
引っ越しを決めた以上、あとは早いに越したことはない。作戦は素早く実行に移された。
まずは私が〝脳内地図〟であたりをつけた、現在地からそう遠くないとある新天地まで私を乗せてアタタガ・フライに飛んでもらった。そこで家と畑の場所を決め《無限回廊の扉》の仮設置を終えてから回廊を抜けて元の家のある場所へ戻り、セーヤとソーヤには入れ違いに新しい家のための場所へと整地に向かってもらった。
(《無限回廊の扉》のおかげで何度も往復する時間のロスがないのは、急いでいるときには本当に助かるよね!)
新天地の整地作業の間に私は家の中を片付け、畑に植えていたものや苗なども回収。魔法を併用して手早く清掃しながら私のいた痕跡を消した。
(土地を去るなら、〝来たときよりも美しく〟は基本だよね)
それが終わったところで、アタタガのあらゆるモノの拡大縮小ができるというスキルを使って私の住んでいた家を土台から内装ごと小さくしてもらった。この能力のすごいところは、縮小するとそれに比例して質量も軽くなる点だ。おかげで小さな家のおもちゃぐらいの大きさになったそれは簡単に運ぶことができる。
ただし、持ち運びにはコツがあるようで、運ぶのはアタタガ・フライにおまかせした。
《無限回廊の扉》を通じて新居予定地に小さくなったおうちを運び込み、整地が終わったところで元の大きさへと戻してもらい、引っ越し完了だ。
畑は一日あれば元に戻せるし、柵もソーヤがすでに準備していて明日にも再現できるとのことで問題なし。こうして、引越しを決めた次の日には私の元通りの静かな日常が戻った。
ただ、新居でお茶を啜りながら、少し思うところはできた。
ひたすら隠れている生活は気楽ではある。責任のある立場から離れての自給自足っぽい隠遁生活は快適だし私には向いている。だが、絶対に人に出会わない生活を続けるというのは案外難しいものだ。とくに前回のように突然人に知られて、そこから〝怪しい人〟認定を受けるという流れは非常に良くない。
それに、そのたびに急に逃げるように姿を消すというのもあまり気分のいいことではないし、大変煩わしい。
(程よい距離感で認知してもらっておいた方が、あとあと面倒がないのかもしれないなぁ……)
というわけで、今回はここから一番近い集落へ行っておくことに決めた。徒歩で移動すれば二泊は必要だが、ここへ越すときに集落から少し離れた森の中に《無限回廊の扉》を隠して設置してきたので、私の負担は軽い。
設定は相変わらず〝修行中の薬師〟なので、ハルリリさん仕込みの簡単で安価な熱冷ましや湿布それにハーブティーなどを売ってみようかと思う。
そしてその際にはガッチリと変装もする。
まずはこの髪色だ。
「セーヤ、カツラを作って欲しいの。色は庶民に多い濃いめの茶色がいいかな」
私のリクエストに、セーヤはものすごく嫌な顔をしたが、下山するときだけの変装用だと説得してなんとか作ってもらった。数日と待たず出来上がったセミロングの自然なうねりのあるカツラは完璧な仕上がり。さすがはセーヤ、こと髪に関わることでは絶対に手は抜かない。
そしてもうひとつの秘策はグッケンス博士お得意の《迷彩魔法》の応用だ。
実はいままでもずっとこのての問題があったので対策をいろいろ考えていたのだが、どうやらこれならいけそうという魔法がこれだ。それは《迷彩魔法》のように完全に姿を消すのではなく、見えにくくするというか視認性を阻害する魔法。私の作った新しい魔法だ。
この顔立ちが目立つというなら、よく見えなければ目立つも目立たないもないだろうという発想をもとに魔法に人の認知機能の考え方などを組み込んだオリジナル魔法。仮にこれに《認知阻害》という魔法名をつけてみた。
これを発動すると発動者の顔周辺が曇りガラス越しのような感じになる。ただし目鼻の位置などはしっかり認識でき、ぼんやりした顔の印象は相手の想像によって適宜補完されるので、印象が薄いというだけで違和感はない。
とはいえ、この魔法は注意深く観察され続けると徐々に効力が弱まってしまう。だが二、三十分程度会話する程度なら問題ないし、声にも特徴がある。それに魔法に毎回同じ服で出かけることで、私だという認識は得られるはずだ。
(ただ、これも常時発動の必要があるかなり重めの魔法だから、他の人には使いにくいかもね)
ともあれ、これでなんとか誤魔化せる……と期待して、落ち着いたら集落へと行ってみよう。
「ちゃんとご近隣付き合いをして平和に暮らすぞ!」
場所を移動したところで私の生活は何も変わらない。隠遁生活なんてそんなものだ。
ちなみに生活環境も以前いた場所とさして差はない。実をいえば地理的にも、そうたいして離れてはいないのだ。ただし魔物などが多く出没する越えるのが難しい山をふたつ挟んでいるので、元いた場所の人たちの生活圏からはしっかり離れている。私がどこへ向かったのかは誰にも伝えていないのだから、新しい場所へ越してしまえば、もうイーオたちと会うことはないだろう。
今回の引っ越しは迅速に行いたかったので《無限回廊の扉》を使い急遽やって来てもらったアタタガ・フライに活躍してもらった。
引っ越しを決めた以上、あとは早いに越したことはない。作戦は素早く実行に移された。
まずは私が〝脳内地図〟であたりをつけた、現在地からそう遠くないとある新天地まで私を乗せてアタタガ・フライに飛んでもらった。そこで家と畑の場所を決め《無限回廊の扉》の仮設置を終えてから回廊を抜けて元の家のある場所へ戻り、セーヤとソーヤには入れ違いに新しい家のための場所へと整地に向かってもらった。
(《無限回廊の扉》のおかげで何度も往復する時間のロスがないのは、急いでいるときには本当に助かるよね!)
新天地の整地作業の間に私は家の中を片付け、畑に植えていたものや苗なども回収。魔法を併用して手早く清掃しながら私のいた痕跡を消した。
(土地を去るなら、〝来たときよりも美しく〟は基本だよね)
それが終わったところで、アタタガのあらゆるモノの拡大縮小ができるというスキルを使って私の住んでいた家を土台から内装ごと小さくしてもらった。この能力のすごいところは、縮小するとそれに比例して質量も軽くなる点だ。おかげで小さな家のおもちゃぐらいの大きさになったそれは簡単に運ぶことができる。
ただし、持ち運びにはコツがあるようで、運ぶのはアタタガ・フライにおまかせした。
《無限回廊の扉》を通じて新居予定地に小さくなったおうちを運び込み、整地が終わったところで元の大きさへと戻してもらい、引っ越し完了だ。
畑は一日あれば元に戻せるし、柵もソーヤがすでに準備していて明日にも再現できるとのことで問題なし。こうして、引越しを決めた次の日には私の元通りの静かな日常が戻った。
ただ、新居でお茶を啜りながら、少し思うところはできた。
ひたすら隠れている生活は気楽ではある。責任のある立場から離れての自給自足っぽい隠遁生活は快適だし私には向いている。だが、絶対に人に出会わない生活を続けるというのは案外難しいものだ。とくに前回のように突然人に知られて、そこから〝怪しい人〟認定を受けるという流れは非常に良くない。
それに、そのたびに急に逃げるように姿を消すというのもあまり気分のいいことではないし、大変煩わしい。
(程よい距離感で認知してもらっておいた方が、あとあと面倒がないのかもしれないなぁ……)
というわけで、今回はここから一番近い集落へ行っておくことに決めた。徒歩で移動すれば二泊は必要だが、ここへ越すときに集落から少し離れた森の中に《無限回廊の扉》を隠して設置してきたので、私の負担は軽い。
設定は相変わらず〝修行中の薬師〟なので、ハルリリさん仕込みの簡単で安価な熱冷ましや湿布それにハーブティーなどを売ってみようかと思う。
そしてその際にはガッチリと変装もする。
まずはこの髪色だ。
「セーヤ、カツラを作って欲しいの。色は庶民に多い濃いめの茶色がいいかな」
私のリクエストに、セーヤはものすごく嫌な顔をしたが、下山するときだけの変装用だと説得してなんとか作ってもらった。数日と待たず出来上がったセミロングの自然なうねりのあるカツラは完璧な仕上がり。さすがはセーヤ、こと髪に関わることでは絶対に手は抜かない。
そしてもうひとつの秘策はグッケンス博士お得意の《迷彩魔法》の応用だ。
実はいままでもずっとこのての問題があったので対策をいろいろ考えていたのだが、どうやらこれならいけそうという魔法がこれだ。それは《迷彩魔法》のように完全に姿を消すのではなく、見えにくくするというか視認性を阻害する魔法。私の作った新しい魔法だ。
この顔立ちが目立つというなら、よく見えなければ目立つも目立たないもないだろうという発想をもとに魔法に人の認知機能の考え方などを組み込んだオリジナル魔法。仮にこれに《認知阻害》という魔法名をつけてみた。
これを発動すると発動者の顔周辺が曇りガラス越しのような感じになる。ただし目鼻の位置などはしっかり認識でき、ぼんやりした顔の印象は相手の想像によって適宜補完されるので、印象が薄いというだけで違和感はない。
とはいえ、この魔法は注意深く観察され続けると徐々に効力が弱まってしまう。だが二、三十分程度会話する程度なら問題ないし、声にも特徴がある。それに魔法に毎回同じ服で出かけることで、私だという認識は得られるはずだ。
(ただ、これも常時発動の必要があるかなり重めの魔法だから、他の人には使いにくいかもね)
ともあれ、これでなんとか誤魔化せる……と期待して、落ち着いたら集落へと行ってみよう。
「ちゃんとご近隣付き合いをして平和に暮らすぞ!」
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