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5森に住む聖人候補
813 ここを本拠地とする!
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813
「それじゃ、まずは整地をしながら木材を集めましょうか」
人に注目されてばかりの生活に少々疲れていた私は、いつの間にか時間が空くと〝脳内地図〟を広げて、自給自足生活が可能そうで良さげな森のある場所を探すようになっていた。そして条件に合いそうな場所を見つけては、森の木々や野の花々をめで、のんびりと家事に勤しむ自分を想像し、現実逃避していたのだった。
ここはそんな現実逃避……もとい脳内リサーチの中で見つけた場所。最初の移住先として目をつけた森の中だ。
しばしの隠遁生活を決めた私は、そのための行動を開始することにした。
まずは実際にその森のある場所に赴き、危険がないかどうか、そして実際の環境が脳内リサーチの通りなのかを調査した。その結果、ここの条件が上々と判断できたので、まずは私が住むための場所の確保から始めることにした。
私の家となる場所は、鬱蒼とした森の中だ。標高はあまり高くないが人の通る山道からはかなり離れている。ここならば、まず人に見つかることはないだろう。とはいえ、こういった環境で暮らしている人もポツポツといるので、もし見つかったとしても山仕事で生きる人たちのひとりだと思ってくれるだろうと考えてのことだ。
(興味を持たないでもらうのが大事だもんね。なるべく土地に馴染むように考えよう)
森の中を少し切り開いて、家を建てるための場所を確保することから、私の移住計画は始まった。準備期間は一か月ぐらいしかないので、ともかく移住の地に決めた場所に住める環境を作ろうというわけだ。
「まずは木を切り倒すところからね……では魔法を使いましょう。セーヤ・ソーヤ、危ないから少し離れたところにいてね」
「了解です」
「承知しました」
私はふたりが離れたことを確認してから、腕まくりをして気合を入れると《ウインド・カッター》を使い、木々の枝を落としていく。そうしてすっきりと丸太状態になった木々を、今度は風の高速回転をチェンソー代わりに、次々と薙ぎ倒していった。
ここで切り出した木材は魔法を使っての高速乾燥を行ったあとにマリス領に持ち込む。そこで大工さんに家を造ってもらう予定だ。この辺りの住居はいくつか見て回ったので、それを大工さんに伝えて違和感のない家を、その土地の木材で作るのだ。これならばきっといつの間にか建っていた家にも違和感を持たれにくいだろう。もし木材が余れば道具小屋を作ったり薪としても利用しようと思う。
計算してみたところ百二十本ほどあれば十分なので、それを目標にひたすら木を切る。とはいっても、私の《ウインド・カッター》はなかなか強力なので、切り出し作業はあっという間に終わってしまったのだけれど……
「はい終わり。それじゃ、この木をそろえて積み上げてくれる?」
「了解です!」
「了解いたしました」
私の言葉に張り切った力持ちの妖精さんたちがすぐにそこらじゅうに倒れている木々に近づいていく。事前に今日の予定は伝えていたので、ちょっとした指示でちゃっちゃと動いてくれる、ありがたい妖精さんたちだ。
それにしても、どちららかといえば華奢な少年の姿であるセーヤとソーヤの、まるで重さがないかのように大木を運ぶ姿は見慣れていても不思議な光景だ。しかも以前よりずっと処理速度も上がっている。
(成長してるってことなのかなぁ?)
私がそんなことを考えている間に積み上げ作業は終了。
そこで私が魔法を使って乾燥を行う。
乾燥に関係する魔法はいろいろあり、熱を加えたり風を使ったりと処理するものにより使い分けられている。
今回は《成分分離》を使って、木の中の水分を強制的に排除する。だが、一気にやりすぎると木材が割れたりして痛むので、これから数日をかけて徐々に抜いていくつもりだ。
こうした手間もスローライフの始まりっぽくて、私は楽しんでいた。
木材を乾燥せている間に地ならしをしておこう。まずは地面を揺らす魔法を特定の範囲に行うことで、切り株を一気に掘り起こす。この《地鳴り》という魔法は、戦闘時にもなかなか使える広範囲魔法なので、魔術師になるのならぜひ鍛えておきたいものなのだそうだ。《巨大地震》が使えたりしたら、軍部の注目をかなり引いてしまうだろう。
(まぁ、使えるんですけどね。人前では極力使いませんけど)
掘り起こされた切り株は、セーヤとソーヤがポイポイと投げてまとめてくれ、土地に邪魔なものがなくなったので《圧縮》の魔法で地面を固めていく。これでとりあえずの土台は完成だ。
「おうちは出来上がった家をアタタガ・フライに小さくしてもらってから運んで来れば完成ね。家具はなるべくシンプルなものを作りましょう。畑作りや周りに柵を作ったりするのは、後のお楽しみね」
私は森の中の綺麗に整地された新居予定地を満足しながら見渡した。
(さあ、何者でもないメイロードの生活の始まりよ!)
「それじゃ、まずは整地をしながら木材を集めましょうか」
人に注目されてばかりの生活に少々疲れていた私は、いつの間にか時間が空くと〝脳内地図〟を広げて、自給自足生活が可能そうで良さげな森のある場所を探すようになっていた。そして条件に合いそうな場所を見つけては、森の木々や野の花々をめで、のんびりと家事に勤しむ自分を想像し、現実逃避していたのだった。
ここはそんな現実逃避……もとい脳内リサーチの中で見つけた場所。最初の移住先として目をつけた森の中だ。
しばしの隠遁生活を決めた私は、そのための行動を開始することにした。
まずは実際にその森のある場所に赴き、危険がないかどうか、そして実際の環境が脳内リサーチの通りなのかを調査した。その結果、ここの条件が上々と判断できたので、まずは私が住むための場所の確保から始めることにした。
私の家となる場所は、鬱蒼とした森の中だ。標高はあまり高くないが人の通る山道からはかなり離れている。ここならば、まず人に見つかることはないだろう。とはいえ、こういった環境で暮らしている人もポツポツといるので、もし見つかったとしても山仕事で生きる人たちのひとりだと思ってくれるだろうと考えてのことだ。
(興味を持たないでもらうのが大事だもんね。なるべく土地に馴染むように考えよう)
森の中を少し切り開いて、家を建てるための場所を確保することから、私の移住計画は始まった。準備期間は一か月ぐらいしかないので、ともかく移住の地に決めた場所に住める環境を作ろうというわけだ。
「まずは木を切り倒すところからね……では魔法を使いましょう。セーヤ・ソーヤ、危ないから少し離れたところにいてね」
「了解です」
「承知しました」
私はふたりが離れたことを確認してから、腕まくりをして気合を入れると《ウインド・カッター》を使い、木々の枝を落としていく。そうしてすっきりと丸太状態になった木々を、今度は風の高速回転をチェンソー代わりに、次々と薙ぎ倒していった。
ここで切り出した木材は魔法を使っての高速乾燥を行ったあとにマリス領に持ち込む。そこで大工さんに家を造ってもらう予定だ。この辺りの住居はいくつか見て回ったので、それを大工さんに伝えて違和感のない家を、その土地の木材で作るのだ。これならばきっといつの間にか建っていた家にも違和感を持たれにくいだろう。もし木材が余れば道具小屋を作ったり薪としても利用しようと思う。
計算してみたところ百二十本ほどあれば十分なので、それを目標にひたすら木を切る。とはいっても、私の《ウインド・カッター》はなかなか強力なので、切り出し作業はあっという間に終わってしまったのだけれど……
「はい終わり。それじゃ、この木をそろえて積み上げてくれる?」
「了解です!」
「了解いたしました」
私の言葉に張り切った力持ちの妖精さんたちがすぐにそこらじゅうに倒れている木々に近づいていく。事前に今日の予定は伝えていたので、ちょっとした指示でちゃっちゃと動いてくれる、ありがたい妖精さんたちだ。
それにしても、どちららかといえば華奢な少年の姿であるセーヤとソーヤの、まるで重さがないかのように大木を運ぶ姿は見慣れていても不思議な光景だ。しかも以前よりずっと処理速度も上がっている。
(成長してるってことなのかなぁ?)
私がそんなことを考えている間に積み上げ作業は終了。
そこで私が魔法を使って乾燥を行う。
乾燥に関係する魔法はいろいろあり、熱を加えたり風を使ったりと処理するものにより使い分けられている。
今回は《成分分離》を使って、木の中の水分を強制的に排除する。だが、一気にやりすぎると木材が割れたりして痛むので、これから数日をかけて徐々に抜いていくつもりだ。
こうした手間もスローライフの始まりっぽくて、私は楽しんでいた。
木材を乾燥せている間に地ならしをしておこう。まずは地面を揺らす魔法を特定の範囲に行うことで、切り株を一気に掘り起こす。この《地鳴り》という魔法は、戦闘時にもなかなか使える広範囲魔法なので、魔術師になるのならぜひ鍛えておきたいものなのだそうだ。《巨大地震》が使えたりしたら、軍部の注目をかなり引いてしまうだろう。
(まぁ、使えるんですけどね。人前では極力使いませんけど)
掘り起こされた切り株は、セーヤとソーヤがポイポイと投げてまとめてくれ、土地に邪魔なものがなくなったので《圧縮》の魔法で地面を固めていく。これでとりあえずの土台は完成だ。
「おうちは出来上がった家をアタタガ・フライに小さくしてもらってから運んで来れば完成ね。家具はなるべくシンプルなものを作りましょう。畑作りや周りに柵を作ったりするのは、後のお楽しみね」
私は森の中の綺麗に整地された新居予定地を満足しながら見渡した。
(さあ、何者でもないメイロードの生活の始まりよ!)
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