616 / 840
4 聖人候補の領地経営
805 アフターヌーンティー
しおりを挟む
805
「ときにメイロード、マリス伯爵家は親戚筋であるシルベスター公爵家とは交流はしていないのか?」
褒賞について決定したことで、ホッとした空気が流れているところで、私は手土産である少し和テイストを取り入れたアフターヌーンティーセットをマジックバッグから取り出した。
ルミナーレ様にもご相談したところ、きっと私の料理が一番喜ばれるとアドバイスをいただいたので、お茶会風の気軽な会食をイメージして用意した手土産代わりのものだ。事前に侍従の方にこのような軽食とデザートをお持ちしますとお伝えしてあったので、テーブルセッティングも淀みなく綺麗にできている。
三段重ねの食器セットは、白に金のラインだけ入ったお皿を使い、それを支えるフレームには部分的に強度のある見栄えの良い黒い木材を用い、金属部分は金物加工の工房に発注して作ってもらった。派手にならない程度に金細工もされているので、お値段もそれなりにお高いが、その価値はある出来栄えだ。
一口サイズに整えた薄いパンを使ったサンドウイッチ、スコーンにはクロテッドクリームと二種のジャムを添えている。餡子とホイップしたバターを挟んだ小さなどら焼き、マリネした白身魚を使ったサラダ、彩りにフルーツ。つまみやすい色とりどりの軽食を載せたセットを五つ用意してきた。
お菓子やお料理も好評だったが、どうやらこちらの世界では、この高さを出したテーブルセッティングは珍しいようで、この食器をとても気に入っていただき、是非とも皇宮仕様のものを作って欲しいというお話までいただいた。
(これは大口発注の予感、おじさまに丸投げしよっと)
そんな和やかな雰囲気のお茶会を楽しんでいると、先のような話をダイン皇子が突然私に振ってきたのだ。ほとんど忘れていた家名だったので一瞬私は誰のことかと思ったが、さすがにすぐ思い出せた。
(あ、シルベスター 生徒会長のご実家で、メイロードの父であるアーサー・マリスの生まれた家ね)
私には皇子の質問の意図がわからなかったが、もともと私が貴族として独立した家を興すまでの経緯にシルベスター公爵家は大いに関わっている。というよりシルベスター公爵家からの干渉を受けないために、私はマリス伯爵家を興したのだ。あちらも家を構えてしまい使い勝手の悪くなった娘には興味を失ったようで、なにも言っては来なかった。こちらとしても当然関わりなど持たないよう、ひっそりと田舎の領地に引っ込み、絶対出会わないように気をつけている。
「そうでございますね。袂を分かち新しい家を起こしたという事情もございますし、もともと私は庶民でもございますから、公爵家の皆様は畏れ多く、とても親戚などという気軽な気持ちでは近寄れません。きっと私のような者が公爵家に関わり合うのはご迷惑でございましょう。
それに、私も田舎で忙しくしておりますので……」
「そうか……確かに領地をメイロードひとりで引き受けているのだから、そうした親戚付き合いをするゆとりもないか……」
ダイン皇子は、なるほどという顔をしているが、なぜ突然シルベスター公爵家の名前が出てきたのか、私はわからずキョトンとしてしまう。
そこで正妃様は少し眉をひそめてから、苦笑しつつこう言われた。
「ダイン皇子、そなたの悪いくせに私のかわいいメイロードを巻き込むな」
それに対して、ダイン皇子はただ静かにほほえみ、少し頭を下げながらこう返す。
「これが、これは……申し訳ございません。なかなかの逸材を発見しつい先走ってしまいました」
「あ、あ、兄上!?」
そして、なぜかおふたりのやりとりにユリシル皇子があわてている。
私は頭に〝?〟というマークが浮かんだが、話はすぐに別の方向へ向かい、和やかにお茶会も終了し、私は退席することになった。
ルミナーレ様は、御公務に関連した相談事があるとかで、もう少し残られるそうだ。
私が退出する寸前、ユリシル皇子に声をかけられる。
「そうだ、僕にもメイロードに内々に注文したいものがあるので、歩きながらで構わないから、エントランスまで話ができないだろうか」
「は、はい殿下。ではそのように……」
そこからは護衛を前後に二名ずつ少し離れた位置に配置する形で、私とユリシル皇子は話しながら皇宮の内門へと向かうことになった。大きな兵士に囲まれながらフカフカの敷物の上を歩いていくと、
「先程の正妃様と兄上の会話の意味、メイロードにはわからなかっただろう?」
と、ユリシル皇子は品物の発注とはまったく関係のない話をいきなり切り出した。
そして話はまた別の方向に飛ぶ。
「実はダイン兄上には正妃はいないのだが、側室が十八人いるんだ」
「十八人……で、ございますか。それはまた……」
基本的に皇族の側室に人数制限というものは存在しない。とはいえ、その数はあまりにも多すぎる。
ユリシル皇子はそこから、この十八人の側室の謎を私に話してくれた。
「兄はとても有能で、特に内政を取り仕切る才能に恵まれている。法律の見直しや政策の立案、兄が内務省を取り仕切り始めてから、すべての仕事の効率が上がっているんだ」
「それは素晴らしことでございますね」
私は素直に感心した。国の中枢に有能な人がいることは喜ばしい。だが、それが私となんの関係があるのだろう」
「もちろん内務省の仕事量は膨大だ。兄ひとりでできるわけもなく、三十人の側近たちがそれを支えているんだが……そのうちの十八人は兄の側室である女性たちなんだ」
「え! 側室が働いているんですか?」
私は驚いて声を上げる。
(皇子の妃が働くなんて、そんなことあるの!?)
「ときにメイロード、マリス伯爵家は親戚筋であるシルベスター公爵家とは交流はしていないのか?」
褒賞について決定したことで、ホッとした空気が流れているところで、私は手土産である少し和テイストを取り入れたアフターヌーンティーセットをマジックバッグから取り出した。
ルミナーレ様にもご相談したところ、きっと私の料理が一番喜ばれるとアドバイスをいただいたので、お茶会風の気軽な会食をイメージして用意した手土産代わりのものだ。事前に侍従の方にこのような軽食とデザートをお持ちしますとお伝えしてあったので、テーブルセッティングも淀みなく綺麗にできている。
三段重ねの食器セットは、白に金のラインだけ入ったお皿を使い、それを支えるフレームには部分的に強度のある見栄えの良い黒い木材を用い、金属部分は金物加工の工房に発注して作ってもらった。派手にならない程度に金細工もされているので、お値段もそれなりにお高いが、その価値はある出来栄えだ。
一口サイズに整えた薄いパンを使ったサンドウイッチ、スコーンにはクロテッドクリームと二種のジャムを添えている。餡子とホイップしたバターを挟んだ小さなどら焼き、マリネした白身魚を使ったサラダ、彩りにフルーツ。つまみやすい色とりどりの軽食を載せたセットを五つ用意してきた。
お菓子やお料理も好評だったが、どうやらこちらの世界では、この高さを出したテーブルセッティングは珍しいようで、この食器をとても気に入っていただき、是非とも皇宮仕様のものを作って欲しいというお話までいただいた。
(これは大口発注の予感、おじさまに丸投げしよっと)
そんな和やかな雰囲気のお茶会を楽しんでいると、先のような話をダイン皇子が突然私に振ってきたのだ。ほとんど忘れていた家名だったので一瞬私は誰のことかと思ったが、さすがにすぐ思い出せた。
(あ、シルベスター 生徒会長のご実家で、メイロードの父であるアーサー・マリスの生まれた家ね)
私には皇子の質問の意図がわからなかったが、もともと私が貴族として独立した家を興すまでの経緯にシルベスター公爵家は大いに関わっている。というよりシルベスター公爵家からの干渉を受けないために、私はマリス伯爵家を興したのだ。あちらも家を構えてしまい使い勝手の悪くなった娘には興味を失ったようで、なにも言っては来なかった。こちらとしても当然関わりなど持たないよう、ひっそりと田舎の領地に引っ込み、絶対出会わないように気をつけている。
「そうでございますね。袂を分かち新しい家を起こしたという事情もございますし、もともと私は庶民でもございますから、公爵家の皆様は畏れ多く、とても親戚などという気軽な気持ちでは近寄れません。きっと私のような者が公爵家に関わり合うのはご迷惑でございましょう。
それに、私も田舎で忙しくしておりますので……」
「そうか……確かに領地をメイロードひとりで引き受けているのだから、そうした親戚付き合いをするゆとりもないか……」
ダイン皇子は、なるほどという顔をしているが、なぜ突然シルベスター公爵家の名前が出てきたのか、私はわからずキョトンとしてしまう。
そこで正妃様は少し眉をひそめてから、苦笑しつつこう言われた。
「ダイン皇子、そなたの悪いくせに私のかわいいメイロードを巻き込むな」
それに対して、ダイン皇子はただ静かにほほえみ、少し頭を下げながらこう返す。
「これが、これは……申し訳ございません。なかなかの逸材を発見しつい先走ってしまいました」
「あ、あ、兄上!?」
そして、なぜかおふたりのやりとりにユリシル皇子があわてている。
私は頭に〝?〟というマークが浮かんだが、話はすぐに別の方向へ向かい、和やかにお茶会も終了し、私は退席することになった。
ルミナーレ様は、御公務に関連した相談事があるとかで、もう少し残られるそうだ。
私が退出する寸前、ユリシル皇子に声をかけられる。
「そうだ、僕にもメイロードに内々に注文したいものがあるので、歩きながらで構わないから、エントランスまで話ができないだろうか」
「は、はい殿下。ではそのように……」
そこからは護衛を前後に二名ずつ少し離れた位置に配置する形で、私とユリシル皇子は話しながら皇宮の内門へと向かうことになった。大きな兵士に囲まれながらフカフカの敷物の上を歩いていくと、
「先程の正妃様と兄上の会話の意味、メイロードにはわからなかっただろう?」
と、ユリシル皇子は品物の発注とはまったく関係のない話をいきなり切り出した。
そして話はまた別の方向に飛ぶ。
「実はダイン兄上には正妃はいないのだが、側室が十八人いるんだ」
「十八人……で、ございますか。それはまた……」
基本的に皇族の側室に人数制限というものは存在しない。とはいえ、その数はあまりにも多すぎる。
ユリシル皇子はそこから、この十八人の側室の謎を私に話してくれた。
「兄はとても有能で、特に内政を取り仕切る才能に恵まれている。法律の見直しや政策の立案、兄が内務省を取り仕切り始めてから、すべての仕事の効率が上がっているんだ」
「それは素晴らしことでございますね」
私は素直に感心した。国の中枢に有能な人がいることは喜ばしい。だが、それが私となんの関係があるのだろう」
「もちろん内務省の仕事量は膨大だ。兄ひとりでできるわけもなく、三十人の側近たちがそれを支えているんだが……そのうちの十八人は兄の側室である女性たちなんだ」
「え! 側室が働いているんですか?」
私は驚いて声を上げる。
(皇子の妃が働くなんて、そんなことあるの!?)
257
お気に入りに追加
13,162
あなたにおすすめの小説

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。
下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。
ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。
小説家になろう様でも投稿しています。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います
登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」
「え? いいんですか?」
聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。
聖女となった者が皇太子の妻となる。
そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。
皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。
私の一番嫌いなタイプだった。
ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。
そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。
やった!
これで最悪な責務から解放された!
隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。
そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。
伯爵令嬢の秘密の知識
シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?
水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが…
私が平民だとどこで知ったのですか?

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。

愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。