利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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4 聖人候補の領地経営

791 開戦?

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791

二時間ほどでお買い物タイムは終了。なかなかの売り上げだったのか、接客をしてくれた売り子さんたちも満足そうだ。

(やっぱり大貴族じゃないとはいえ、貴族の買い物は庶民とは桁違いだなぁ)

そこからはキリに、お買い物の興奮冷めやらぬお嬢様方に飽きさせない程度に、おじさまの立場や仕事の内容について、そしてその多忙さについてのお話をしてもらうことにした。

「サガン・サイデム男爵様は、現在大きく四つの役職を兼任されております。まずひとつ目、これはもちろんこの〝サイデム商会〟の経営者でございます。そしてふたつ目は〝イス商人ギルド〟の統括幹事、さらにパレスでのお仕事がございます。〝帝国の代理人〟たる皇宮御用の商人としてのお仕事、それに加えまして現在は〝パレス商人ギルド〟の臨時統括幹事も務められていらしゃいます」

「まぁ、ふたつの商人ギルドの代表をおひとりで!」

驚かれるのももっともなことだ。先の三つは仕方がないとしても、多忙なおじさまがなぜパレスの商人ギルドの運営にまで出張らなければならないのか……理由はタガローサ一族だ。

タガローサ一族は長く〝帝国の代理人〟として権勢を振るい続け、それによりパレスの商人ギルドはその手垢にまみれすぎていたのだ。ともかく組織としてイスのようなスピード感がまるでなく、縁故採用の多発による無能な人材の登用、賄賂の横行、無意味もしくは害悪でしかない慣習が組織中の機能を著しく阻害していた。

本来ギルドというものは互助組織の延長にあるもので、政治的な要素は極力排し、同じ職や技能を持つものたちをサポートするためにある。ただ、その中でも商人ギルドは特殊で、その性質上貴族や軍部、そして皇宮といった商売相手との関係性はどうしても疎かにできない。だがそれが行き過ぎた結果、タガローサ一族のようにギルドを私物化する者の台頭を許してたまま、パレスの商人ギルドは今日に至ってしまっていた。

この腐敗の温床になっている旧態依然とした組織を正常化できる人間はただひとり、エスライ・タガローサに代わって〝帝国の代理人〟となったサガン・サイデムだけだ。

たとえ男爵という貴族社会では低い地位であっても、ことギルドに関しては長となった者の権限は絶対で、まして皇宮の認める御用商人でもあるおじさまは、どんな高い地位の貴族の縁戚でも無能ならば即座に罷免できるし、どんな圧力がかかろうと必要のないことは即刻やめさせることができる。

つまり、いまはサイデムおじさまが直接指揮を取り、ことにあたらなければパレスの商人ギルドの正常化も刷新も進められない。

実際、タガローサの失脚から、おじさまが一時的にでもこの地位についたことで、パレスの商人ギルドの風通しはだいぶ良くなってきた。とはいえ、なにせ長年続いてきたズブズブ体質。そのおこぼれに預かっていた貴族や商人たちの数は多く、一気にすべては変えられない。

おじさまは以前からいた幹事たちを一度すべて罷免し、その人となりや背後関係を調査してから再度新しい幹事たち十二名を選び理事の役職につけた。おじさまとしては、なるべく早く彼らのうちの誰かにパレスの統括を任せたいのだろうが、いまはまだ難しそうだ。

(つまり、おじさまの苦労はまだ続くってことね) 

私はおじさまの苦労にため息が出るような思いでいたのだが、お嫁さん候補のお嬢様方は私とはまったく違う感想を持っているようだ。

「サイデム様はイスにとってもパレスにとっても重要な方なのでございますね。きっと貴族の皆様の尊敬も集めていらっしゃいますわ。こんな素晴らしい方でしたら、いらぬ心配もございませんわね」

「ええ、これだけのことをされていらっしゃるのですもの。きっとすぐに然るべき地位に登られますわね」

(……つまり、貴族社会で

「金のために商人に嫁いだ没落令嬢」
「身分の低い貴族に輿入れするしかなかった可哀想な下流貴族の姫」

といった社交界で生きる上で〝絶対に言われたくない〟陰口の心配がいらなそうだということに安心したわけね。お嬢様たちの目はパレスにしか向いてないんだなぁ……)

たしかにこれから後、おじさまの身分が上がっていくことを考えれば、貴族社会で生きてきた伴侶が得られることは、決して悪いことではないだろう。強いサポーターになって、パレスでのおじさまを支えてくれるなら、それは素晴らしいことだ。

ここまでの説明でお嬢様たちはサイデムおじさまとの結婚について、さらに前向きになっているように見える。まずは、上々の立ち上がりと言えるだろう。

「では、しばらくお休みいただきましてから、ご夕食会場へとご案内いたします。ご夕食はサガン・サイデム男爵もご一緒させていただきますので、そのときに皆様をご紹介させていただきますね」

私の言葉に、優雅にお茶をしていたお嬢様方の間に一瞬で緊張が走った。

「パウダールームはどちらかしら?」

それぞれがつれていた侍女も一斉に動く。

キリたちは心得たもので、すぐにひとりづつ個室を用意して案内を始めた。

どうやら彼女たちの戦争は本格的に始まったらしい。表面的にはにこやかだが、バチバチの火花が見えている。

「さぁ、彼女たちは身支度を整えるのにしばらくは戻ってこないでしょうから、その間はメイロードのことを聞かせてちょうだいね。そうそう、それから〝パレス・フロレンシア〟の新しい首飾りと髪飾りの相談もあるの」

「はい。もちろんです。ではまず最近のマリス領のお話をいたしましょう。私の領地では最近、海運に力を入れているのですが……」

笑顔のルミナーレ様と私は足早に部屋を出ていく御令嬢たちを見送ったあと、優雅にお茶会を続けた。
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