利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

文字の大きさ
上 下
592 / 840
4 聖人候補の領地経営

781 黒い鳥

しおりを挟む
781

博士の言葉に、目を凝らした私は、レジェーナ姫の現状を伝えた。

「胸の中央からじわじわと黒いモヤのようなものが染み出しています。おそらく肺に何かがあるのではないかと……」

私の言葉にグッケンス博士が難しい顔をしている。

「やはりそうか……信じられんが、本当に呪詛のようだな、だが一体どうやって……」

博士の魔道具、私の《真贋》のよる鑑定、どちらも明らかに病気ではないものの影響を示していた。そしてその影響は実際に少女の小さな躰を蝕んでいる。

「これまでの状況を聞いた様子から考えるなら、いまここで皇女の呪詛を完全に取り去らなければ、おそらく〝エリクサー〟も役に立たんじゃろうなぁ……」

万能回復薬である〝エリクサー〟は、躰に仕掛けられた呪詛に対しても浄化及び回復作用がある。そのことは魔法薬について学んだことのある私も知っている。であるにもかかわらず、〝エリクサー〟は一時的な回復は見せたものの、完全回復薬として機能しなかった。つまり、レジェーナ姫に仕掛けられた〝呪〟は〝エリクサー〟投与後も継続して外部から攻撃を仕掛け続けているということだ。そのために〝エリクサー〟の効力が切れたところで姫の状態は再び悪化してしまった。

「そうはおっしゃいますが、もう時間はあまりないと思いますよ。役に立たないにせよ一時的にでも持ち直すなら、もう一度〝エリクサー〟を使うしかないんじゃないですか。そうして時間を稼いでいる間にどこかにある〝呪〟の痕跡を探るしか……あ……あれは?」

私は、ベッドから目を離し〝呪〟に関わるものがないかと、その豪華な寝室をぐるりと見渡したあと、ふと姫の居間にあたる隣の部屋の方に目をやり、絶句してしまった。そして、恐る恐る博士にその方向を示し、こう聞いた。

「博士……博士には、がなにに見えますか?」

私が指さす方向を見た博士が、急に何だという顔で答える。

「鳥籠に入った珍しい鳥だな? 虹色の光沢をした大層美しいものじゃな。あれは吉兆を伝える虹彩鳥という尾長鶏……しかしよく手に入れたものじゃ」

「虹彩鳥……美しい鳥……ですか。実は、私にはあれが真っ黒な塊にしか見えないんです。博士……あれが〝呪〟の原因です!」

「なんじゃと‼︎」

私の言葉に、瞬時に反応した博士は鳥籠に向かって《封魔の結界》を放った。だが、鳥籠を囲めずに《封魔の結界》は砕け散った。

「むぅ……、一層ではむりか……メイロード、同時に多重で《封魔の結界》を構築したい。協力しておくれ」
「はい! 行きます!」

私と博士は、そこから五層の《封魔の結界》を試みたが、層が薄いうちは強度が足りないのか何度も霧散してしまい、かなり手こずった。どうにか呼吸を合わせ、ほぼ同時に二層づつの《封魔の結界》を展開したところでやっと結界が安定し、黒い霧の外部への流出も止まった。念のために、さらに四層を追加することで完全に封じ込めた。

「この《封魔の結界》は一時しのぎの応急措置じゃ。まぁ一か月程度はこのままでも大丈夫だとは思うがな。ともかく、これで原因は絶った。あとは皇女の回復をしよう」

博士は虹彩鳥の対処について、いまの段階では時間も魔法力も必要な《呪解浄化》ではなく、呪詛を結界内に封じ込める《封魔の結界》を選んだ。その判断は正しいと思う。これですぐ姫のことに集中できる。

「博士、ちょっと試したいことがあるんですが……」

私がグッケンス博士に相談をすると、博士はその案に賛同してくれた。

そして博士は、心配そうにここまでの様子を見ていた侍従長とメイド長の結界を解いた。

「たったいま、この呪詛の原因たるモノを封じ込めた。これからレジェーナ皇女の呪いを解く治療を行う。侍従長、使える〝エリクサー〟はまだあるのか」

博士の質問に侍従長は苦しげに答える。

「……ございます……ございますが……あまりに貴重でございまして、すぐにご用意は……」

いまでは作れる薬師も素材も枯渇している〝エリクサー〟だ。たとえ皇女のためでも、右から左へ簡単に融通できるものではない。しかも、すでに一度使ってしまっているとなっては、その再度の使用はかなり厳しいものとなるだろう。

「わかった。ではお前たちはそれに代わる薬が皇宮内にないか探してくれ。その間に、こちらでもできる方法で治療を試みてみよう。時間がない! いけ!」

「は、はい! すぐに、すぐに手配いたします!」

侍従長とメイド長は、皇女様に回復の兆しが見えたことに奮い立ったのか、慌てて部屋を出て行った。

「ていよく、ふたりを追い払いましたね」

少し苦笑いを含んだ私の言葉に、グッケンス博士はすっとぼけた。

(私のためだよね……ありがとう、博士)

「では行きます! まずは《無限回廊の扉》!」
しおりを挟む
感想 2,995

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

この度、双子の妹が私になりすまして旦那様と初夜を済ませてしまったので、 私は妹として生きる事になりました

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
*レンタル配信されました。 レンタルだけの番外編ssもあるので、お読み頂けたら嬉しいです。 【伯爵令嬢のアンネリーゼは侯爵令息のオスカーと結婚をした。籍を入れたその夜、初夜を迎える筈だったが急激な睡魔に襲われて意識を手放してしまった。そして、朝目を覚ますと双子の妹であるアンナマリーが自分になり代わり旦那のオスカーと初夜を済ませてしまっていた。しかも両親は「見た目は同じなんだし、済ませてしまったなら仕方ないわ。アンネリーゼ、貴女は今日からアンナマリーとして過ごしなさい」と告げた。 そして妹として過ごす事になったアンネリーゼは妹の代わりに学院に通う事となり……更にそこで最悪な事態に見舞われて……?】

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

【短編】婚約破棄?「喜んで!」食い気味に答えたら陛下に泣きつかれたけど、知らんがな

みねバイヤーン
恋愛
「タリーシャ・オーデリンド、そなたとの婚約を破棄す」「喜んで!」 タリーシャが食い気味で答えると、あと一歩で間に合わなかった陛下が、会場の入口で「ああー」と言いながら膝から崩れ落ちた。田舎領地で育ったタリーシャ子爵令嬢が、ヴィシャール第一王子殿下の婚約者に決まったとき、王国は揺れた。王子は荒ぶった。あんな少年のように色気のない体の女はいやだと。タリーシャは密かに陛下と約束を交わした。卒業式までに王子が婚約破棄を望めば、婚約は白紙に戻すと。田舎でのびのび暮らしたいタリーシャと、タリーシャをどうしても王妃にしたい陛下との熾烈を極めた攻防が始まる。

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。