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4 聖人候補の領地経営
765 金獅子勲章
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765
「サイデム殿! サガン・サイデム男爵!」
どうしても外せないパーティーに出席していたサガン・サイデムに、ド派手な服装の貴公子が話しかけてきた。サイデムもよく知ってはいるこの男は、シーラン・マーゴット伯爵。社交界では知らぬ者のいない有名人だ。
「これはマーゴット伯爵様、いつもながら素晴らしいお召し物でございますな」
いつものことだが、今日も最高に金の掛かった貴族社会の最新流行がふんだんに盛り込まれた衣装に身を包んだその姿は、不思議なことにこの貴公子然とした男にはよく似合っていた。さすがは社交界の中心にいる人物ということなのだろう。なので、特に嫌味でもなく、サイデムも彼を褒める言葉を口にできている。
「ありがとうございます。本当はこの衣装、もっと名誉あるパーティーでご披露したかったのですが、そのパーティーがいつ開かれるのか、なかなか聞こえてきませんので、痺れを切らして着てしまいました」
暗にマーゴット伯爵が何かを言おうとしている気配を感じたサイデムは、話を別の方向へと向けた。
「本日はドール侯爵様の〝金獅子勲章〟受勲記念の宴。差配をお申しつけいただきました我がサイデム商会催事部も、この晴れの舞台のために、力を尽くさせていただきました。いかがでございますか。社交界一の貴公子であられるマーゴット伯爵様にも、お楽しみいただけておりますでしょうか……」
そう、この盛大な宴は、キルム王国の造反分子によるロームバルト王国への侵攻を防ぎ、キルム正教会の組織的誘拐事件の全貌を暴いた功労者として、作戦総指揮であったダイル・ドール侯爵へ〝金獅子勲章〟という軍人に与えられる最も格式の高い勲章が与えられた、そのことを祝う宴だった。ドール参謀としては、一番の功労者であるメイロードが影に隠れっぱなしであるために、すべてが自分の手柄になっている現状を非常に心苦しく思ってはいたが、盟友サガン・サイデムから、そうして軍部とドール参謀が表に立つことで、メイロードの平穏が守られるのだと説得され、今日のこの盛大なパーティも開かれることになった。
「ああ、素晴らしいな。さすがは〝帝国の代理人〟が率いる有名な催事部の采配だ。酒も料理も極上、楽団もとても素晴らしい。それにドール侯爵家が広めた塩ラーメンは、さらに美味しくなっているそうじゃないか! この宴でそれが食べられるのも本当に楽しみだよ。だが、基本のレシピは公開されたが、今回の改良された作り方はしばらく秘匿されるらしいね。悔しいなぁ……うちの料理人にぜひ教えて欲しかったのだが……今日の新レシピは、しばらく社交界の話題をさらうよ」
グルメを自称するマーゴット伯爵は、この塩ラーメンという貴族社会に一大ブームを起こしたレシピを惜しげもなく公開し、社交界の羨望と尊敬を集めたドール侯爵家がうらやましくてたまらずにいた。自身も金にあかせて国中を調べ周り、なんとか新しい〝何か〟を社交界に打ち出し、次の注目を集めたいと常に思っているものの、そう簡単に誰も知らない素晴らしい〝何か〟など見つかるはずもなく、いくつか紹介はしているもののそこまで注目を集められずにいた。実の所、今回の新しい塩ラーメンのレシピが公開されないことにほっとさえしていたのだった。
(いつもいつもドール侯爵家が注目されるのは、面白くないからな)
「ははは、マーゴット伯爵様もお気に入りでございますか。いまや〝塩ラーメン〟は、ドール侯爵家の大事なレシピでございますし、やはり最初に広められた〝本家〟としての誇りもございますのでしょう。簡単に他家に追い付かれることのないよう、改良を続けられているということですな。ドール侯爵様は良い料理人をお持ちで、うらやましいですな」
しれっと〝うらやましい〟などと他人事のように言っているサイデムだが、実の所、この改良にはラーメン大好きサイデムとラーメン愛好家ドール参謀の並々ならぬ執念が反映されている。メイロードはそれに引きずられて、彼らの試作に協力している状態だ。今回の〝新・塩ラーメン〟もそんなラーオタたちの新作。なにせ、金も人脈も使い放題のふたりがバックにいるので、食材は欲しいと言えばなんでも手に入る。今回も、何十種類も試した末に厳選した三種類の塩をブレンドし、特級の昆布それに二種類の貝の旨味をたっぷりと利かせるという凝りようだ。原価一切無視のこの超高級スープはたしかに絶品のすっきりとした味わいで、旨味はありながら透き通った見た目が美しい細麺を使った大変上品な味に仕上がっている。
そのとき、サイデムたちの背後で女性たちの歓声が上がった。
マーゴット伯爵が振り向くと、そこには女性たちに囲まれた社交会の華ドール侯爵夫人ルミナーレと令嬢アリーシアがいた。
微笑んでいるサイデムの姿を不思議に思いながら、伯爵がそちらへ近づくと、どうやら話題の中心は彼女たちの髪飾りのようだった。それは、しばらく前から社交界でも流行し始めた〝シュシュ〟というもので、これも発信元はドール侯爵と言われている。
(またもドール家が流行を?!)
悔しい気持ちを隠しながら、マーゴット伯爵は女性たちの輪の中に入り、彼女たちの歓声の理由を確かめようと動き始めた。
「サイデム殿! サガン・サイデム男爵!」
どうしても外せないパーティーに出席していたサガン・サイデムに、ド派手な服装の貴公子が話しかけてきた。サイデムもよく知ってはいるこの男は、シーラン・マーゴット伯爵。社交界では知らぬ者のいない有名人だ。
「これはマーゴット伯爵様、いつもながら素晴らしいお召し物でございますな」
いつものことだが、今日も最高に金の掛かった貴族社会の最新流行がふんだんに盛り込まれた衣装に身を包んだその姿は、不思議なことにこの貴公子然とした男にはよく似合っていた。さすがは社交界の中心にいる人物ということなのだろう。なので、特に嫌味でもなく、サイデムも彼を褒める言葉を口にできている。
「ありがとうございます。本当はこの衣装、もっと名誉あるパーティーでご披露したかったのですが、そのパーティーがいつ開かれるのか、なかなか聞こえてきませんので、痺れを切らして着てしまいました」
暗にマーゴット伯爵が何かを言おうとしている気配を感じたサイデムは、話を別の方向へと向けた。
「本日はドール侯爵様の〝金獅子勲章〟受勲記念の宴。差配をお申しつけいただきました我がサイデム商会催事部も、この晴れの舞台のために、力を尽くさせていただきました。いかがでございますか。社交界一の貴公子であられるマーゴット伯爵様にも、お楽しみいただけておりますでしょうか……」
そう、この盛大な宴は、キルム王国の造反分子によるロームバルト王国への侵攻を防ぎ、キルム正教会の組織的誘拐事件の全貌を暴いた功労者として、作戦総指揮であったダイル・ドール侯爵へ〝金獅子勲章〟という軍人に与えられる最も格式の高い勲章が与えられた、そのことを祝う宴だった。ドール参謀としては、一番の功労者であるメイロードが影に隠れっぱなしであるために、すべてが自分の手柄になっている現状を非常に心苦しく思ってはいたが、盟友サガン・サイデムから、そうして軍部とドール参謀が表に立つことで、メイロードの平穏が守られるのだと説得され、今日のこの盛大なパーティも開かれることになった。
「ああ、素晴らしいな。さすがは〝帝国の代理人〟が率いる有名な催事部の采配だ。酒も料理も極上、楽団もとても素晴らしい。それにドール侯爵家が広めた塩ラーメンは、さらに美味しくなっているそうじゃないか! この宴でそれが食べられるのも本当に楽しみだよ。だが、基本のレシピは公開されたが、今回の改良された作り方はしばらく秘匿されるらしいね。悔しいなぁ……うちの料理人にぜひ教えて欲しかったのだが……今日の新レシピは、しばらく社交界の話題をさらうよ」
グルメを自称するマーゴット伯爵は、この塩ラーメンという貴族社会に一大ブームを起こしたレシピを惜しげもなく公開し、社交界の羨望と尊敬を集めたドール侯爵家がうらやましくてたまらずにいた。自身も金にあかせて国中を調べ周り、なんとか新しい〝何か〟を社交界に打ち出し、次の注目を集めたいと常に思っているものの、そう簡単に誰も知らない素晴らしい〝何か〟など見つかるはずもなく、いくつか紹介はしているもののそこまで注目を集められずにいた。実の所、今回の新しい塩ラーメンのレシピが公開されないことにほっとさえしていたのだった。
(いつもいつもドール侯爵家が注目されるのは、面白くないからな)
「ははは、マーゴット伯爵様もお気に入りでございますか。いまや〝塩ラーメン〟は、ドール侯爵家の大事なレシピでございますし、やはり最初に広められた〝本家〟としての誇りもございますのでしょう。簡単に他家に追い付かれることのないよう、改良を続けられているということですな。ドール侯爵様は良い料理人をお持ちで、うらやましいですな」
しれっと〝うらやましい〟などと他人事のように言っているサイデムだが、実の所、この改良にはラーメン大好きサイデムとラーメン愛好家ドール参謀の並々ならぬ執念が反映されている。メイロードはそれに引きずられて、彼らの試作に協力している状態だ。今回の〝新・塩ラーメン〟もそんなラーオタたちの新作。なにせ、金も人脈も使い放題のふたりがバックにいるので、食材は欲しいと言えばなんでも手に入る。今回も、何十種類も試した末に厳選した三種類の塩をブレンドし、特級の昆布それに二種類の貝の旨味をたっぷりと利かせるという凝りようだ。原価一切無視のこの超高級スープはたしかに絶品のすっきりとした味わいで、旨味はありながら透き通った見た目が美しい細麺を使った大変上品な味に仕上がっている。
そのとき、サイデムたちの背後で女性たちの歓声が上がった。
マーゴット伯爵が振り向くと、そこには女性たちに囲まれた社交会の華ドール侯爵夫人ルミナーレと令嬢アリーシアがいた。
微笑んでいるサイデムの姿を不思議に思いながら、伯爵がそちらへ近づくと、どうやら話題の中心は彼女たちの髪飾りのようだった。それは、しばらく前から社交界でも流行し始めた〝シュシュ〟というもので、これも発信元はドール侯爵と言われている。
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