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4 聖人候補の領地経営
761 マスター
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761
「エミ、久しぶり。お店は相変わらず繁盛しているわね。安心したわ」
久しぶりに会ったエミは少し疲れて見えた。店主として〝魔法屋〟として大成功している彼女。しかし、その生活はなかなかハードモードだと送られてくる手紙で察してはいたが、やはりその状態は続いている様子だ。エミから連絡を受けていた《パーフェクト・バニッシュ》の改良も成功して、順風満帆のはずだが、それだけでは解決できない、私も考えていた問題に行きあたっているのだろう。
私はソーヤにお茶の用意をしてもらいながら、持ってきたお菓子や軽食を机の上に並べた。
「さあ、いろいろ持ってきたので皆さんで食べてね。私の料理は体力回復効果があるらしいわよ。疲れているときには特にいいと思うわ」
「メイロードさまぁ……」
すでにエミは半泣きだ。久しぶりに私と会って、張り詰めていた気持ちが少し緩んでしまったらしい。
そんなエミと暫し雑談をしながら現状を聴いた後に、私はざっくりと誘拐事件の話と(さすがにキルム王国についての情報は伏せたけどね)、数百人の魔法使いにはなれないけれどそれなりに魔法力がある子供たちのために、〝魔法屋〟という職業をしっかり稼げる仕事として確立しようとしていることを話した。
「そのために専門学校を作るのよ。卒業生はこれから〝魔術師ギルド〟の下部組織として設立する予定の〝魔法屋ギルド〟で検定試験を受けもらって、ランクをつけて登録するつもりなの。この試験は既存の〝魔法屋〟さんももちろん受けられるし、合格証明書は〝魔術師ギルド〟の裏書きもある信用度の高いものになる予定になっているわ」
温かいお茶を飲みながら私の話を真剣に聞いていたエミは、何度も頷きながらこう言った。
「素晴らしいですね。実はこの店へ持ち込まれる本当にひどい汚れの洋服や品物の何割かは、他の〝魔法屋〟に頼んだときの傷みが残っているんですよ。そうなると、その修復もしなければいけないので、費用も時間も余計にかかってしまうんです。〝魔法屋〟自身が自分のスキルのレベルを理解して、引き際を見定めてくれればいいのですが、いまは何の基準もないですからね」
「うん。そうなの。それも〝魔法屋検定〟の重要な要素になると思う。信用と実力の見極めがいまは〝魔法屋〟もお客様もあいまいだからね。それでなんだけど……」
私はそこからエミに、いま考えていることについて説明した。
〝魔法屋〟の仕事のなかでも、世界中どの地域でも必ず一定の需要があって、現在でもその需要に対し供給がまったく足りていない仕事がいわゆる特殊クリーニング、汚染除去系の魔法が使える〝魔法屋〟であること。《洗浄》や《バニッシュ》といったあまり魔法力が必要とされない基礎的な魔法をすでに習得している〝孤児院〟育ちの子供たちには、この系統の魔法は覚えやすい内容であること。
エミが《パーフェクト・バニッシュ》をレベルに合わせて五段階に再構築してくれたおかげで、魔法力が低めの子でも十分仕事として成り立つレベルのものが習得可能であること。
「メイロードさまは《パーフェクト・バニッシュ》の技術を公開されるおつもりなんですね」
エミは真っ直ぐに私の目を見ている。
「うん。その方がエミにもいいんじゃないかと思うの。だって、もうこれ以上たったひとりの〝最後の洗濯屋〟でいるのは難しいでしょう?」
「なんでもお見通しですねぇ……メイロードさま」
そう、知名度が上がっていまでは最高技術の汚染除去魔法の達人として信頼される〝魔法屋〟エミは、押し寄せる依頼に対応できず、かといって他に頼れる当てもないという煮詰まった状況になっているのだ。
「それでね、エミ、あなたに第一号の〝魔法屋検定試験一級〟《パーフェクト・バニッシュ》マスターの称号を受けて欲しいの」
「え?! 私がですか? いえいえ、マスターならばそれはメイロードさまではありませんか!」
私はエミの言葉に首を振る。
「確かに《パーフェクト・バニッシュ》は私がグッケンス博士と作り出した魔法ではあるけれど、それを仕事として習熟し、さらにそれを体系化して、使いやすい現在の形まで進化させたのは、エミ、あなたでしょう。それこそが〝マスター〟と呼ぶにふさわしいことだわ」
「いえ、そんな大袈裟な……」
私に直球でほめられたのが、かなりうれしかったようで、エミは耳まで真っ赤になっている。
「だからね、エミには尊敬される〝魔法屋〟でいて欲しいし、みんなの力にもなってあげて欲しい。《パーフェクト・バニッシュ》をエミの水準まで極められる子は決して多くないとは思うけれど、それでも、この技術を使える子が増えることで、あなたも仕事を選べるようになるし、多くの子供たちが糊口をしのぐことができるようになるでしょう」
私は〝魔法屋専門学校〟設立までに、この《パーフェクト・バニッシュ》のような、多くの人に必要とされる魔法を、グッケンス博士、それにイスの研究所に新設した〝一般魔法学研究室〟の力も借りて作ってみるつもりだ。
それからまだエミには伝えていないが《パーフェクト・バニッシュ》の権利は、エミに譲るつもりだ。そして検定試験の受験料の一部はエミに還元されるように手配することに決めている。彼女の功績には必要な褒賞だと思うし、これで彼女は魔法屋の外に出てもいろいろな活動を続けられるだろう。
(エミはいい子だから、きっと子どもたちのいいお姉さんになってくれると思うな)
「エミ、久しぶり。お店は相変わらず繁盛しているわね。安心したわ」
久しぶりに会ったエミは少し疲れて見えた。店主として〝魔法屋〟として大成功している彼女。しかし、その生活はなかなかハードモードだと送られてくる手紙で察してはいたが、やはりその状態は続いている様子だ。エミから連絡を受けていた《パーフェクト・バニッシュ》の改良も成功して、順風満帆のはずだが、それだけでは解決できない、私も考えていた問題に行きあたっているのだろう。
私はソーヤにお茶の用意をしてもらいながら、持ってきたお菓子や軽食を机の上に並べた。
「さあ、いろいろ持ってきたので皆さんで食べてね。私の料理は体力回復効果があるらしいわよ。疲れているときには特にいいと思うわ」
「メイロードさまぁ……」
すでにエミは半泣きだ。久しぶりに私と会って、張り詰めていた気持ちが少し緩んでしまったらしい。
そんなエミと暫し雑談をしながら現状を聴いた後に、私はざっくりと誘拐事件の話と(さすがにキルム王国についての情報は伏せたけどね)、数百人の魔法使いにはなれないけれどそれなりに魔法力がある子供たちのために、〝魔法屋〟という職業をしっかり稼げる仕事として確立しようとしていることを話した。
「そのために専門学校を作るのよ。卒業生はこれから〝魔術師ギルド〟の下部組織として設立する予定の〝魔法屋ギルド〟で検定試験を受けもらって、ランクをつけて登録するつもりなの。この試験は既存の〝魔法屋〟さんももちろん受けられるし、合格証明書は〝魔術師ギルド〟の裏書きもある信用度の高いものになる予定になっているわ」
温かいお茶を飲みながら私の話を真剣に聞いていたエミは、何度も頷きながらこう言った。
「素晴らしいですね。実はこの店へ持ち込まれる本当にひどい汚れの洋服や品物の何割かは、他の〝魔法屋〟に頼んだときの傷みが残っているんですよ。そうなると、その修復もしなければいけないので、費用も時間も余計にかかってしまうんです。〝魔法屋〟自身が自分のスキルのレベルを理解して、引き際を見定めてくれればいいのですが、いまは何の基準もないですからね」
「うん。そうなの。それも〝魔法屋検定〟の重要な要素になると思う。信用と実力の見極めがいまは〝魔法屋〟もお客様もあいまいだからね。それでなんだけど……」
私はそこからエミに、いま考えていることについて説明した。
〝魔法屋〟の仕事のなかでも、世界中どの地域でも必ず一定の需要があって、現在でもその需要に対し供給がまったく足りていない仕事がいわゆる特殊クリーニング、汚染除去系の魔法が使える〝魔法屋〟であること。《洗浄》や《バニッシュ》といったあまり魔法力が必要とされない基礎的な魔法をすでに習得している〝孤児院〟育ちの子供たちには、この系統の魔法は覚えやすい内容であること。
エミが《パーフェクト・バニッシュ》をレベルに合わせて五段階に再構築してくれたおかげで、魔法力が低めの子でも十分仕事として成り立つレベルのものが習得可能であること。
「メイロードさまは《パーフェクト・バニッシュ》の技術を公開されるおつもりなんですね」
エミは真っ直ぐに私の目を見ている。
「うん。その方がエミにもいいんじゃないかと思うの。だって、もうこれ以上たったひとりの〝最後の洗濯屋〟でいるのは難しいでしょう?」
「なんでもお見通しですねぇ……メイロードさま」
そう、知名度が上がっていまでは最高技術の汚染除去魔法の達人として信頼される〝魔法屋〟エミは、押し寄せる依頼に対応できず、かといって他に頼れる当てもないという煮詰まった状況になっているのだ。
「それでね、エミ、あなたに第一号の〝魔法屋検定試験一級〟《パーフェクト・バニッシュ》マスターの称号を受けて欲しいの」
「え?! 私がですか? いえいえ、マスターならばそれはメイロードさまではありませんか!」
私はエミの言葉に首を振る。
「確かに《パーフェクト・バニッシュ》は私がグッケンス博士と作り出した魔法ではあるけれど、それを仕事として習熟し、さらにそれを体系化して、使いやすい現在の形まで進化させたのは、エミ、あなたでしょう。それこそが〝マスター〟と呼ぶにふさわしいことだわ」
「いえ、そんな大袈裟な……」
私に直球でほめられたのが、かなりうれしかったようで、エミは耳まで真っ赤になっている。
「だからね、エミには尊敬される〝魔法屋〟でいて欲しいし、みんなの力にもなってあげて欲しい。《パーフェクト・バニッシュ》をエミの水準まで極められる子は決して多くないとは思うけれど、それでも、この技術を使える子が増えることで、あなたも仕事を選べるようになるし、多くの子供たちが糊口をしのぐことができるようになるでしょう」
私は〝魔法屋専門学校〟設立までに、この《パーフェクト・バニッシュ》のような、多くの人に必要とされる魔法を、グッケンス博士、それにイスの研究所に新設した〝一般魔法学研究室〟の力も借りて作ってみるつもりだ。
それからまだエミには伝えていないが《パーフェクト・バニッシュ》の権利は、エミに譲るつもりだ。そして検定試験の受験料の一部はエミに還元されるように手配することに決めている。彼女の功績には必要な褒賞だと思うし、これで彼女は魔法屋の外に出てもいろいろな活動を続けられるだろう。
(エミはいい子だから、きっと子どもたちのいいお姉さんになってくれると思うな)
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