利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

文字の大きさ
上 下
567 / 837
4 聖人候補の領地経営

756 孤児院の終わり

しおりを挟む
756

私たちは、そのまま〝先生〟や〝お母様〟のいる建物へと向かった。もともと子供たちの世話を積極的にする気がない〝先生〟や〝お母様〟は、義務的な授業と礼拝以外はほとんどこの建物に詰めているので、授業も終わったいまの時間なら皆いるはずだった。

〝孤児院〟の中を八組の子たちを従えて歩く私の姿は、かなり目立っていたが、いまはそれでいい。出会う子供たちには余裕のある表情で笑顔を向けつつも、早足で到着。そのままノックも挨拶もせずに私はドアを開けた。

院長先生抜きで、いきなり現れた私に、事情が飲み込めず驚いた表情になっている〝先生〟たちに私はこう言い放つ。

「この〝孤児院〟は只今をもって閉鎖する。追って沙汰があるまでお前たちは待機せよ!」

なにかしらの抵抗があるかと思い、私も八組の子たちも身構えたが、彼らは私言葉に拍子抜けするほどなんの抵抗もみせず従った。どうやら職員すら信用していなかったらしい枢機卿は彼らにもアーティファクトを使っていたようだ。おかげで自分で考える力が弱い洗脳状態にあり、さらに教会を盲信しているため、光り輝く〝聖戦士〟らしい神々しい姿で再び現れた私の言葉を、彼らは疑ったりせず、無抵抗のまま従ったのだ。

それでも中には〝院長先生〟のことを聞いてくる枢機卿の側近もいたので、そこは雷系の魔法を浴びせて、瞬時に失神させた。

「罰当たりめ! 〝救国の聖戦士〟たる私の意向に逆らえば、瞬時に天罰が下るぞ!」

そう言いながら、私はその建物ごと結界の中に封じ込めた。電光石火の速さの魔法で一気に数人を失神させた私の姿を見て、そこにいた者たちは〝聖戦士〟の力に恐れをなし、平伏し指示を待つ姿勢になっている。これでしばらくは彼らは動かないはずだ。

彼らの拘束については、ロームバルト・シド連合軍に任せることにしよう。

そうしているうちに広場には、すべての子供たちが集合していた。

「メイロードさま、みんながお待ちかねですよ」

ソルトーニ君が、私に広場の様子を指さす。

「そうみたいね。それじゃ、行ってくるわ」

私はそう言うと、《浮遊》を使ってふわりと空へ浮き上がった。

「すごい魔法を使えるのね。本当にあなたは〝聖戦士〟そのものよ!」

ノルエリアが眩しそうに私を見ている。

「外にいる職員が邪魔しに出てくるようなら制圧をお願いね。子供たちに抵抗しないよう言い含めたあとには、すぐにシド帝国とロームバルト王国の人たちがあの塔の人たちを拘束し、子供たちを保護するためにやってきます。あなたたちも協力してあげてちょうだい」

「おまかせを!」

八組の子たちはとてもいい顔をしている。いい仲間を得て、私も安心してそのまま空を飛び、子供たちのところへ向かっていった。

「ああ、メイロードさまだ! メイロードさまがお帰りになった!!」

ここを出る前に、できる限り子供たちと接し、彼らが強く私の存在を意識してくれるようにしていたのはこのときのためだ。おかげで彼らは私のことを〝聖戦士〟であり、自分たちをちゃんと見てくれる人物だとしっかり認識してくれている。

私は衣装にさらに魔法力を込めて綺麗に光らせてから、崇拝の目で見つめている子供たちとの前に、できる限りゆっくりと優雅に見えそうな動きを心がけながら降りていった。

その姿に子供たちは祈るように手を組み、〝聖戦士〟の言葉を待っている。

私はまず《雷魔法》を応用した大きな光の球を作り出し、それを上空に放った。それは、子供たちの上で光の粒を広げ、幻想的な光景を作り出す。

「子供たちよ、〝光の子〟よ、聞きなさい。

そなたたちは〝聖戦士〟となるべく、ここに集められた選ばれし者である。だが、そなたたちが向かうべき聖戦はすでにない。そなたたちの役目はもうなくなったのだ。もう新たな〝聖戦士〟はいらぬ。これからはそれぞれの場所で、新しい人生を生きなさい。もうここにいる必要はない」

アーティファクトによる長期間の洗脳を受け続けている〝孤児院〟の子供たちには、いま本当の事情を話したところで理解はできない。下手に彼らに刷り込まれている内容を否定して刺激すれば、彼らは魔法で抵抗し怪我人や死者を出してしまいかねなかった。そこで私は、彼らの洗脳を解くまでの間、彼らにおとなしくしてもらうため〝聖戦士〟として語たりかけることにしたのだ。

すでに〝院長先生〟からはっきりと〝聖戦士〟であることを皆の前で認められている私の言葉ならば必ず彼らに届く。そのことを利用した誘導で、子供たちを一時的に掌握し、無力化する、これが私の作戦だ。

(嘘をつくのは心苦しいけど、これしか方法がないんだよね)

「これからこの地にはそなたたちを新たな地へ導く方々がやってくる。〝光の子〟らよ! その方々を快く受け入れなさい。そして抵抗せずに指示に従いなさい。さすれば、正しき場所へと必ず導かれよう」

私の言葉に、少し泣き出している子もいる。その気持ちが解放の喜びなのか、それとも〝聖戦〟に参加できなかったことへの嘆きなのか、混乱のためなのか、それはわからないが、いまはそれでいい。いずれは彼らもその身に起こった真実を知ることになるだろう。

身体の健康と健全な精神状態を取り戻し、アーティファクトの影響が抜ければ、魔法力のあるこの子たちはしっかり自分の《鑑定》ができるようになるはずだ。そうすれば本当の名前や年齢も明らかになり、家族を探すことも容易になるだろう。それまでの間、とりあえずシドが資金提供しロームバルトに彼らのための宿泊施設を用意することで、合意は得られている。

先ほど上空に投げた光の球は、タイミングを待っていた兵士たちへの合図。

すでに《索敵》では、一万に近い兵士たちが隠された門を壊し〝孤児院〟へ進軍してくる様子が確認できた。これでこの〝孤児院〟という名のキルム誘拐団の拠点は終わりだ。

(ふぅ、長かったなぁ……)

私は保護されていく子供たちの様子を見ながら、次にやるべきことを考えていた。
しおりを挟む
感想 2,991

あなたにおすすめの小説

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。

しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹 そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる もう限界がきた私はあることを決心するのだった

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。