利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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4 聖人候補の領地経営

755 孤児院への帰還

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755

「ご苦労だったな、メイロード」

魔術師たちの制圧は、ほぼセイリュウと博士が請け負ったそうだが、ふたりには疲れた様子も見えなかった。この突然現れた謎の協力者(王様だけには仲間が応援に来てくれると伝えておいたけどね)の存在に、王軍の兵士や騎士たちは驚きつつもその戦いぶりに驚嘆したようで、ふたりのそしてセーヤとソーヤの獅子奮迅の活躍を仲間同士あちこちで語っている。

「あれは絶対高名な魔術師に違いないぞ。おふたりともとても人とは思えない動きだったんだ。しかも姿がふっと消えたり、それがまったく別の場所で現れたりで、教会の魔術師たちは狙いすらも定められずオロオロしているばかりだったよ」
「あの青い髪の若い魔術師もとんでもない使い手だな。長時間の空中静止しながらの魔法行使なんて信じられん! しかも風のように早く動きながらのあの剣技の冴え、初めて見たぞ! 魔術だけじゃない。剣技も達人級だ。我ら王軍の最高の騎士でも、あの御仁には到底叶うまい」

ともかく派手にやってくれたようで、二百人以上いた魔術師軍団があれよあれよという間に制圧されてしまったらしい。もちろん反撃は受けたらしいのだが、終始教会の魔術師たちの攻撃はふたりにはかすりもしなかったそうだ。その間もセイリュウは飛びながら上空から雷魔法を取り混ぜて連続攻撃、博士は地上から火魔法を使いながら、しかも地面にも干渉して、地面をゆるめ泥沼に近い状況を作り、攻撃しながら敵の動きも止めて身動きできなくしてしまったらしい。動けない、攻撃は当たらない、上空からも側面からも魔法攻撃の雨アラレ……魔術師たちに逃げ場なし。これでは一層程度の防御魔法など張ってもほとんど役に立たない。

この時点で、ほとんどの魔術師は身動きもままならず戦意を喪失、さらに抵抗した者はセイリュウが雷を打ち込んで気絶、もしくは博士が死なない程度に躰を凍らせて自由を奪った。短かい時間ではあったもののこれだけすさまじい魔法戦が行われれば、死屍累々でもおかしくないところだったが、結局博士たちはひとりも死なせずに拘束したそうだ。

この拘束も戦いが行われている真っ最中からセーヤとソーヤが、敵の中を縦横無尽に駆け回りながら、ものすごいスピードでやってくれたそうで、王軍はほとんど出る幕がなかったらしい。

(なにこのドリーム・チーム)

「グッケンス博士、それにセイリュウもありがとうございました。セーヤもソーヤもよく頑張ってくれたわ。ありがとう」

駆け寄る私の背後で、縄をかけられ連行されていく法皇と枢機卿の姿を見た博士は、眉をヒソめながら状況を聞いてきた。

「あの法皇の状態は尋常ではなさそうだが、何が起こった?」

「実はおかしな首飾りを法皇が持っていまして……」

そこで私はかいつまんで状況を説明し、法皇とジョリコフ枢機卿が犯罪の首謀者であることを認めたこと。そして《契約の首輪》に使われていたのと同じと思われる漆黒の石でできた首飾りのことを伝えた。

私の話に厳しい表情をしたセイリュウと博士は、そこではそれ以上問いたださず話を打ち切った。

「わかった。その話、あとで詳しく聞こう。メイロードも子供たちのことが気にかかるだろう」

「そうですね。《無限回廊の扉》は〝孤児院〟に設置してありますから、すぐに動きます」

「ああ、あそこにはシド・ロームバルト連合軍がすでに到着しているはずだ。お前の合図があればすぐに動くだろう。こちらからもドール参謀に《伝令》を送っておく」

「え? ドール参謀が直接いらしているんですか? ああ、そうですね……これから国同士の話し合いになりますものね……」

ドール参謀クラスに上級官僚が現場に出てくるなど、通常はないことだろうが、今回は軍事行動は最小限に、むしろその後のキルムやロームバルトとの交渉の方が重要な意味を持つのだろう」

「ではよろしくお願いします。私はこどもたちの解放をしてきますね。行ってきます!」

私はそのままセーヤ・ソーヤとともに手近な扉を使って回廊を抜け〝孤児院〟へと向かった。

(メイロードさま、これからどうなさるおつもりで? あそこにはたくさん魔法が使える者たちがいます。抵抗されれば面倒ですよ。それに、子供たちは洗脳状態ですから、真実を話したところですぐには……)

セーヤが心配げに《念話》をしてきたが、私には策があった。

(セーヤ・ソーヤ、〝孤児院〟についたら子供たちに〝聖戦士〟が帰還したから、広場に集まるようにって声をかけてくれる?)

(わかりました)
(了解です)

〝孤児院〟の中にある、八組の子しか入れない上等な建物にある私の部屋だった場所に作って隠してあった《無限回廊の扉》を出て〝孤児院〟に到着した私は、まずソルトーニ君に声をかけた。

「おかえりなさいませ、メイロードさま」

共用のリビングルームで本を読んでいたソルトーニ君は、笑顔で私を迎えてくれる。

「どう? 他の子たちも影響が抜けてきたようかしら」

「はい、メイロードさまから託されました食べ物を少しづつ摂取し〝特別礼拝〟に行かずに済むよう従順な態度で過ごすよう八組の三人に伝え実行したところ、やはりかなり思考力が戻ってきているようです」

そこへ、ノルエリア、シャラマン、バグースードの三人が駆け込んできた。

「メイロードさま! この〝孤児院〟の秘密について、私たちもソルトー二から聞きました。以前ならば、それを聞かされても理解できなかったかもしれませんが、いただいたお菓子の力で、ちゃんと自ら考えられるようになったのです」

「まだ、完全とは言えないですが、私……ここに来る前の記憶も少しづつ取り戻しているのです!」

「もう俺、いじめたりしてないよ。いまは、大事にしてる。弱い子は守ってるよ」

八組の子たちには、異世界素材をたっぷり使ったお菓子や料理を詰めたマジックバッグをソルトーニ君に渡すことで、状態の回復効果がどの程度あるかの被験者になってもらっていた。効果は如実に表れている様子で、すでに彼らはほぼアーティファクトの支配を抜けている様子だ。

「よかったわ、みんな元気そうで。そうそう、今日はこれからこの〝孤児院〟の解体の第一歩を踏み出すわ。力を貸してくれる?」

「ええ、もちろん! この日を、ずっと待っていたわ!」

ノルエリアが私に抱きついてきた。

他の三人もうなづいている。

「それじゃまずは、職員棟へ乗り込むとしましょうか」
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