利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

文字の大きさ
上 下
564 / 837
4 聖人候補の領地経営

753 王軍

しおりを挟む
753

メイロードの言葉が理解できず、どよめく聴衆。だが、人々の不安を吹き消す透き通った声をしたメイロードの言葉は力強かった。

「何も恐れることはありません。神はみなさんとともにあります。魔法の力はみなさんを助けるでしょうが、それに頼りすぎることを神は望みません。みなさんは聖国キルムの民、いつも心に信仰を持ち神を敬う方々……いまのキルムの現状を憂い、これからなすべきことを考えれば、この神のご意志を理解できるはずです。天に地に感謝し、魔法だけに頼ることなく、日々の生活を立て直しましょう。そしてキルムはそれを支えます。キルム王はあなた方とともにいらっしゃいます」

私の言葉とともに、キルム王が忽然と舞台袖に現れ、力強い足取りで壇上へと上がった。
背後では正教会の者たちが慌てふためいてたが、さすがに聴衆の面前で一国の王を遮ることはできず、また王は法皇に一瞥もくれることなく、その横を平然と通り過ぎた。そして緊張をみせることなく威厳のある表情で私の前に立ち、聴衆を、彼の国民を真っ直ぐに見据えた。私が深く礼をとって一歩下がると、キルム王は口を開く。

「キルムはその長き歴史にわたり神の恩恵に甘えすぎた。我々は与えられた魔法力に頼りすぎ、天と地への日々の感謝と努力を惜しんだ。そんな我々を神はいま試されている! このとき聖国たるわれらがキルム王国は、神にわれらが忠誠を示すため、奮起し、立ち上がらねばならぬ! われらが献身を捧げねばならぬときが来たのだ!!」

一同からは不安のざわめきが起き始めるが、王の言葉はその後も強く続いた。

「キルムの王たるわれが約束しよう。決して我が民だけに苦しみを与えはせぬと! 新しき聖国キルムを豊かな国へ導けるよう、われとわが国はわが民とともにどんな努力でもしよう! すぐに具体的な施策も始める準備もある。さあ、国を再び興すのだ! その先に、必ず聖国の未来がある!!」

キルム王の力強い言葉は、人々の心を打ち、聴衆は沸き立った。

「われわれは魔法がなくともマーヴ神への信仰を捨てることはないぞ!」
「我々には素晴らしい王と信仰がある! これでできぬことなどないはずだ!」
「神がそれを望まれるのであれば、俺たちはそれに答えるだけだ!」
「ああ、神よ。どうか愚かな私たちにお慈悲を……これよりは、より天と地へ感謝をいたします!」

王の直接民に語りかける演説に感激した人々の言葉は広がり、確実に人々の信頼を勝ち得ていた。人々の心の不安は落ち着き、彼らは、これからすべきことを考え、それを信仰と覚悟を持って行うことを理解してくれたのだ。

そんな人々に、私は再び讃美歌を歌い、集っていた人々は一緒にそれを讃美歌を歌いながら、明るい表情で会場を後にしていった。その顔は、幸せそうで希望に溢れたものだった。

正教会側は、まったく予想だにしなかった展開の連続に、指示系統がまったく機能しない状態だった。しかも、いつの間にか王軍が会場警備へ参加しており、正教会側の兵士や魔術師の動きを監視していた。

これから戦いへと臨むつもりだった正教会側は、なんとか帰ろうとする聴衆を遮ろうと試みたが、無抵抗のまま賛美歌とともに進み続ける人々に対して、武力も魔法も行使することはできず、粛々と人々を帰宅へと誘導する王軍の兵士たちと睨み合いながら、なんの行動も起こせずにいた。

「メイロード、メイロード!!」

人々を見送りながら讃美歌を歌っていた私に背後から、聞き覚えのある怒鳴り声が飛んできた。

「おのれメイロード!! キサマ、貴様、何をしているのだ!! 信徒たちを呼び戻せ!! いますぐだ!!」

顔を真っ赤にして怒鳴り散らすその姿には、法皇の威厳も何もなかった。

「キルムの王がいらっしゃるのですよ。その物言いはあまりに失礼ではありませんか?」

振り向いた私がそういうと、さらに法皇は激昂する。

「な、何をいう。キルムで最も尊敬され敬われるべきは法皇たる私である。それは国王とて知っておろう!」

小馬鹿にしたような法皇の言葉に対し、キルム王は至極冷静にこう返した。

「法皇ラプキン四世、あなたには法皇の座を降りていただく。理由は……多すぎてここでは語れんがな」

そして、法皇のそばに立っていた枢機卿にも、こう言葉をかける。

「サシア・エンダーロア・ジョリコフ・イル・キルム……ジョリコフ枢機卿。王籍を離れた後もそなたに名乗ることを許していたそなたの王名は剥奪する。これ以上キルムの名を名乗ることは許さん。枢機卿の身分もないものと思うように」

「父上! まさか、そんな……」

「国家転覆を企てておいて、まだ父と申すかサシア! その恵まれた魔法力をこのような愚かな計画に使うとは……情けない」

このやりとりの間に、集まっていた人々の撤収は完了し、壇上には正教会側の司祭たちとそれを守る魔術師たち、そしてその背後には王軍の兵士たちが集結していた。

キルム王は。セーヤ・ソーヤが正教会の中からかき集めてきた、彼らの誘拐や聖戦の準備に関わる書類を法皇と枢機卿の前に投げ出し、こう言った。

「お前たちの悪事はすべて白日のもとに晒された! 他国の人々までも巻き込んでの犯罪を犯し続けておきながら、まだ聖職にある者だと自ら名乗れるのか! すでにお前たちの〝孤児院〟にも、子供を誘拐されたシド帝国から捜査が入っている。この国の恥をこれ以上晒すことを我は許さぬ!」

王の怒号に、背後にいた正教会の司祭や職員たちの多くはガタガタと震え、へたり込んでいる。

王軍は舞台の背後から司祭や法皇を取り囲み、王軍に対して抵抗する意思のない関係者から拘束を進めつつ、法皇たちを守るため配置されていた魔術師と対峙し始めていた。そして、ついに魔術師たちの攻撃が始まろうとしたとき、王軍の前に四人が進み出た。

「この魔術師たちはわしらに任せなさい」
「そのふたりのことはメイロードにまかせるよ」
「ここはおまかせください、メイロードさま!」
「ここはおまかせください、メイロードさま!」

(グッケンス博士、セイリュウ、セーヤ、ソーヤ!)

頼もしい仲間の姿に、笑顔でうなずいた私は四人が上手く魔術師と法皇を引き離した隙に結界を作って、外から見えないよう視界を遮ると同時に、キルム王と私、そして法皇とジョリコフ枢機卿の四人だけの空間を作った。

(すべて聞かせてもらうわよ、おふたりさん!)
しおりを挟む
感想 2,991

あなたにおすすめの小説

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。

しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹 そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる もう限界がきた私はあることを決心するのだった

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。