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4 聖人候補の領地経営
750 王の決意
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750
私がいきなりキルムの王宮に乗り込み、直接コンタクトを取ろうとしたのには、いくつかの理由がある。
もちろん、この事件を一刻も早く解決したいという気持ちが第一だ。そのために、ともかくこの事件が国を挙げての犯罪なのかどうかを早急に確定する必要があった。そこで、このキルムの首都セームシュタット到着からずっと、内偵のためソーヤ・セーヤに動いてもらっていたのだが、私の予想に反して正教会はジョリコフ枢機卿のキルム帰還からいまに至るまで、王宮に対して状況報告することも謁見のための準備をすることも一切なかったのだ。
私という強い力を持つ〝聖戦士〟を手に入れ、なにやら企んでる様子の法皇たちが、それについての連絡も報告もなにひとつ王宮に対して発していない……つまり、キルムの国王はこの件に関して完全に蚊帳の外にいる、と考えられた。
(王宮、そして国王はこの誘拐事件についてなにも知らされていないんじゃないかしら?)
このことで、国王が一連の大規模な連続誘拐事件にまったく関与していない可能性が高いと感じた私は、すぐ次の行動に移ることにした。
ただし、王宮内部のどこに正教会と繋がりのあるものがいるかわからず、公の手段を用いれば正教会に警戒をさせてしまう可能性もあった。それを避けるためにも、不躾で非常識だとはわかっていても、隠密裏にキルム王のもとへ辿り着く必要があったのだ。
(まぁ、それが一番手っ取り早かったし……ね)
私は《無限回廊の扉》を使いグッケンス博士やドール参謀と密かに連絡をとりながら、事実を確かめるためにドール参謀から託された親書を持ち、セーヤ・ソーヤとともに王宮へと向かった。
潜入については、さほど難しいことはなかった。これまで難しいダンジョンの攻略で鍛え上げていた《迷彩魔法》があれば、人の出入りの多い王宮の警備を潜り抜けることはたやすかったのだ。しかも私のサポートには、完璧に姿も気配も消せる妖精さんたちがついてくれているので、魔法による警備を潜り抜けることもなんの問題もなくできてしまった。
(こういう場所の魔法による警戒網って、完全密閉はできないし人が必ず通る機会があるから、どこかに必ず魔法の一時解除用の小さな魔法陣があるんだよね。ソーヤたちは何事もなく警戒網をすり抜けて解除の魔法陣を探し、人が居ようといまいとサクッと起動できてしまうので、私は王宮内フリーパス状態。本当にすごい妖精さんたちだわ)
そして王のいる部屋に隠れたまま潜入することに成功した私は《真贋》を用いながら、キルム王を観察しつつ今回の事件のあらましが書かれた手紙を読む姿を見ていたわけだ。
このときのキリムの王様の表情には驚き、そして苦悶と悲しみが強く滲んでいて、どす黒い霧が立ち上ることもなかった。
この様子に、国王の直接の関与がないことを確信した私は、その場で国王と面会した。
そしてこれまでの誘拐の経緯を詳しく説明し、いまからキルム正教会の悪事を世に知らしめることになるとお伝えした。
「正教会はキルムの民にもアーティファクトを使った洗脳まがいのことをしています。まだ、彼らの計画のすべてはつかめていませんが、このままでは、多くの一般庶民まで巻き込まれることになる可能性があります。誘拐されてきた子供たちや、何も知らず祈りを捧げてきた人々を、正教会の我欲を満たすための戦いにこれ以上巻き込んではなりません!」
私は力説したが、王は苦悶の表情でどうすべきか悩んでいる様子だ。
国王ともあろう者がこの緊急事態の収拾に動くかどうか悩むその理由は、他国の人間である私でも知っている。キルム正教会の存在はこの国にとってあまりにも大きい。正教会の力が絶大過ぎるこの国では、政のほとんどの実権を正教会が握っているのだ。政府の機能のほとんどは教会内にあり、キルム国王の主な仕事は外交上の窓口と書類への署名、そして公式行事への出席であり、まさに君臨すれども統治せずという状態なのだった。
もちろん王軍は存在するが、多くの魔術師を抱えている正教会と対峙できるようなものではなく、他国と武力衝突になった場合でも、王は正教会を頼るしかない状況なのだった。
「この大陸を巻き込んだ大規模な犯罪を目の当たりにしながら、それを収拾する力もないとは……情けない王だな、私は……」
キルムの王が正教会との対立を避けてきた理由は、正教会側との対立が表面化すれば国はふたつに割れ、内戦状態になり、それでなくとも疲弊している人々の生活がますます立ち行かなくなっていくとわかっているからだ。人々を教会から引き離すには、キルムはあまりにも魔法に依存しすぎていた。そして、人々は魔法力を自由に使える魔術師たちを崇拝し、魔法を司る主神マーヴを信じすぎていた。
教会はそれを利用して、目立つ場所の田畑を魔法を使ってきれいに耕し作付面積を多くして見せたり、ときには魔獣を退治してみせたりという、わかりやすい恩恵を与えることで、人々の気持ちを掴み、彼らの依存度を上げてきたのだ。
(でも、それは表層だけのこと。ただのパフォーマンス。そんな部分的なことで国全体を支えられやしないのに……)
「正教会はしてはならぬ罪を犯しました。聖天神教を国教と定めておりますシド帝国は、それを汚した正教会の悪事を決して認めることはできませんし、正教会そのものを解体すべきときがきたのだと考えております。ただし、キルム王たるあなたがそのための行動をいますぐ取られるとお決めになるならば、これは貴国の問題として静観し、問題解決のために影から力をお貸しいたしましょう」
「シドが、われに力を貸すと?」
そこから私は武力闘争になる前に事態を収束させる方法をキルム王と相談した。それは、キルムにとって辛い決断であったが、キルム王は覚悟を決めたようだ。
「この国の主権を王に戻し、この国を立て直していきましょう! きっとできます!」
笑顔で私がそういうと、王は笑顔を向けて私をみた。
「やはりそなたは〝救国の聖戦士〟なのだな、メイロード」
私がいきなりキルムの王宮に乗り込み、直接コンタクトを取ろうとしたのには、いくつかの理由がある。
もちろん、この事件を一刻も早く解決したいという気持ちが第一だ。そのために、ともかくこの事件が国を挙げての犯罪なのかどうかを早急に確定する必要があった。そこで、このキルムの首都セームシュタット到着からずっと、内偵のためソーヤ・セーヤに動いてもらっていたのだが、私の予想に反して正教会はジョリコフ枢機卿のキルム帰還からいまに至るまで、王宮に対して状況報告することも謁見のための準備をすることも一切なかったのだ。
私という強い力を持つ〝聖戦士〟を手に入れ、なにやら企んでる様子の法皇たちが、それについての連絡も報告もなにひとつ王宮に対して発していない……つまり、キルムの国王はこの件に関して完全に蚊帳の外にいる、と考えられた。
(王宮、そして国王はこの誘拐事件についてなにも知らされていないんじゃないかしら?)
このことで、国王が一連の大規模な連続誘拐事件にまったく関与していない可能性が高いと感じた私は、すぐ次の行動に移ることにした。
ただし、王宮内部のどこに正教会と繋がりのあるものがいるかわからず、公の手段を用いれば正教会に警戒をさせてしまう可能性もあった。それを避けるためにも、不躾で非常識だとはわかっていても、隠密裏にキルム王のもとへ辿り着く必要があったのだ。
(まぁ、それが一番手っ取り早かったし……ね)
私は《無限回廊の扉》を使いグッケンス博士やドール参謀と密かに連絡をとりながら、事実を確かめるためにドール参謀から託された親書を持ち、セーヤ・ソーヤとともに王宮へと向かった。
潜入については、さほど難しいことはなかった。これまで難しいダンジョンの攻略で鍛え上げていた《迷彩魔法》があれば、人の出入りの多い王宮の警備を潜り抜けることはたやすかったのだ。しかも私のサポートには、完璧に姿も気配も消せる妖精さんたちがついてくれているので、魔法による警備を潜り抜けることもなんの問題もなくできてしまった。
(こういう場所の魔法による警戒網って、完全密閉はできないし人が必ず通る機会があるから、どこかに必ず魔法の一時解除用の小さな魔法陣があるんだよね。ソーヤたちは何事もなく警戒網をすり抜けて解除の魔法陣を探し、人が居ようといまいとサクッと起動できてしまうので、私は王宮内フリーパス状態。本当にすごい妖精さんたちだわ)
そして王のいる部屋に隠れたまま潜入することに成功した私は《真贋》を用いながら、キルム王を観察しつつ今回の事件のあらましが書かれた手紙を読む姿を見ていたわけだ。
このときのキリムの王様の表情には驚き、そして苦悶と悲しみが強く滲んでいて、どす黒い霧が立ち上ることもなかった。
この様子に、国王の直接の関与がないことを確信した私は、その場で国王と面会した。
そしてこれまでの誘拐の経緯を詳しく説明し、いまからキルム正教会の悪事を世に知らしめることになるとお伝えした。
「正教会はキルムの民にもアーティファクトを使った洗脳まがいのことをしています。まだ、彼らの計画のすべてはつかめていませんが、このままでは、多くの一般庶民まで巻き込まれることになる可能性があります。誘拐されてきた子供たちや、何も知らず祈りを捧げてきた人々を、正教会の我欲を満たすための戦いにこれ以上巻き込んではなりません!」
私は力説したが、王は苦悶の表情でどうすべきか悩んでいる様子だ。
国王ともあろう者がこの緊急事態の収拾に動くかどうか悩むその理由は、他国の人間である私でも知っている。キルム正教会の存在はこの国にとってあまりにも大きい。正教会の力が絶大過ぎるこの国では、政のほとんどの実権を正教会が握っているのだ。政府の機能のほとんどは教会内にあり、キルム国王の主な仕事は外交上の窓口と書類への署名、そして公式行事への出席であり、まさに君臨すれども統治せずという状態なのだった。
もちろん王軍は存在するが、多くの魔術師を抱えている正教会と対峙できるようなものではなく、他国と武力衝突になった場合でも、王は正教会を頼るしかない状況なのだった。
「この大陸を巻き込んだ大規模な犯罪を目の当たりにしながら、それを収拾する力もないとは……情けない王だな、私は……」
キルムの王が正教会との対立を避けてきた理由は、正教会側との対立が表面化すれば国はふたつに割れ、内戦状態になり、それでなくとも疲弊している人々の生活がますます立ち行かなくなっていくとわかっているからだ。人々を教会から引き離すには、キルムはあまりにも魔法に依存しすぎていた。そして、人々は魔法力を自由に使える魔術師たちを崇拝し、魔法を司る主神マーヴを信じすぎていた。
教会はそれを利用して、目立つ場所の田畑を魔法を使ってきれいに耕し作付面積を多くして見せたり、ときには魔獣を退治してみせたりという、わかりやすい恩恵を与えることで、人々の気持ちを掴み、彼らの依存度を上げてきたのだ。
(でも、それは表層だけのこと。ただのパフォーマンス。そんな部分的なことで国全体を支えられやしないのに……)
「正教会はしてはならぬ罪を犯しました。聖天神教を国教と定めておりますシド帝国は、それを汚した正教会の悪事を決して認めることはできませんし、正教会そのものを解体すべきときがきたのだと考えております。ただし、キルム王たるあなたがそのための行動をいますぐ取られるとお決めになるならば、これは貴国の問題として静観し、問題解決のために影から力をお貸しいたしましょう」
「シドが、われに力を貸すと?」
そこから私は武力闘争になる前に事態を収束させる方法をキルム王と相談した。それは、キルムにとって辛い決断であったが、キルム王は覚悟を決めたようだ。
「この国の主権を王に戻し、この国を立て直していきましょう! きっとできます!」
笑顔で私がそういうと、王は笑顔を向けて私をみた。
「やはりそなたは〝救国の聖戦士〟なのだな、メイロード」
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