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4 聖人候補の領地経営
737 院長の正体
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737
「せ、せん、宣誓権!?」
日頃はほとんで顔色を変えない先生たちだったが、私が八組のトップとなったことをお祝いしてくれるという、院長室でのお茶会の席で私が〝宣誓権〟の行使を望んでいるというと、あからさまにうろたえ始めた。
「落ち着きなさい!」
だがそれも院長の一言で鎮まる。
「随分と性急ですね、メイロード。あなたはまだ幼い。学びにもう少し時間を割く気はないのですか?」
そこで私は志に満ちた彼らの望むいい子ぶりっこを発動した。
「いいえ! 私はすぐにでも〝聖戦士〟として、神の名の下に集う方々とともに聖なる戦いのお役に立ちたいのでございます。もし、私にその力がないのであれば仕方のないことですが、このたぎる気持ちを抱えたままでは、これからの修行はままなりません。どうか、私が〝聖戦士〟として神のご意志に見合うのか、まだ足りぬか、そのご判断をお願いしたいのでございます!」
私は大袈裟に目をキラキラさせ、洗脳が効きまくっている〝聖戦士至上主義〟の子供を演じ続けた。
「院長先生。私は神のご意志をあまねく人々の届けるため、強くならねばなりません。どうか、いまの私に〝聖戦士〟としてなにが不足なのか、その答えをお教えください。それを教えていただける方は、もうこの〝孤児院〟には院長先生しかいらっしゃらないのです!」
潤んだ瞳を院長に向けながら手を組み祈る私。
(われながらクサイ演技だけど、私は洗脳されているんだから、このぐらいしておかないと逆に怪しまれちゃう。それにしても、恥ずかしいわぁー)
その姿に院長はティーカップを置き、いままで見たことのない極上の笑顔をみせた。
「素晴らしい、素晴らしいですよ、メイロード! あなたならば、きっと私たちが求めてきた本物の〝聖戦士〟となることができるかもしれませんね。いいでしょう、対戦は一週間後で良いですね」
「ありがとうございます。先生方のおっしゃる本物の〝聖戦士〟となるべく、一生懸命戦います!」
私は満面の笑顔で感謝の言葉を述べながら、こう思っていた。
(本物の〝聖戦士〟ってなに?)
ーーーーーーー
「まぁ、そういうわけで、孤児院最終決戦って感じで、院長と模擬戦をすることになりました」
私はキッチンカウンターに綺麗な石を磨いて作った手作りの箸置きと箸を並べ、前菜の五品を沿海州の市場で買った和食器のような土の風合いのある小皿や小鉢を使って置いていった。
「今日は小さめのいい魚がありましたので、素揚げして南蛮漬けにしてみました。丸ごと食べられて美味しいですよ。こちらは焼き野菜のホットサラダ、それに青菜の胡麻よごしと、小芋の煎り焼きカレー風味に自家製塩辛です」
グッケンス博士は、私の模擬戦の話に少しだけ眉を動かしたが、驚きはせず淡々と箸を手にした。
「そのソルトーニという少年がこちら側についてくれたことは非常に助かるな。いま、その子が少しだけ取り戻しているという記憶を頼りに家族を探すよう軍部に頼んである。近いうちに何かわかるじゃろう」
「博士、ありがとうございます。彼も最初に一週間の儀式を受けていますから、過去について思い出すことはなかなか難しいようですが、ソルトーニという名前は、自分かもしくは自分に関係する誰かの名前だと言っていました。それから、育ったのはたくさん読むものがある家であったとも……学者さんか何かの家かもしれないですね」
「うむ……まあそれはこちらに任せなさい。メイロードはその〝模擬戦〟に集中するように」
私は異世界お取り寄せ品のウイスキーのようなコクのあるプレミアムな焼酎を綺麗に透き通った氷の入ったロックグラスに注ぐ。これは最近の博士のお気に入りだ。
「こちらにもお願いしまーす」
子供の顔のくせに、ソーヤもしっかりロックグラスを差し出す。
「はいはい。ご飯のおかわりは自分でよそってね。ソーヤのお代わりに対応していたらお話ができないんだから」
「了解です。いやぁ、南蛮漬け、最高ですね。甘くて酸っぱくてご飯に合うこと合うこと! 塩辛もこれまたいい風味と塩っけで……アテにもご飯にも……最高でございますよ!」
いつも通り、ものすごい勢いでモリモリ食べまくるソーヤを横目にしながら、私と博士セイリュウとセーヤでゆるゆるとおしゃべりしながらの夕食が続く。
「その院長というのはどんな男なんだい?」
セイリュウが聞いてきた。
「ええと、三十歳前後で左右の髪色が違います。金髪とオレンジに近い赤ですね。長い髪を後ろで縛る、魔法使いには多い髪型です。目の色も金とオレンジが混じり合っていて、綺麗ですよ」
「それって……だよね、博士」
セイリュウの言葉に博士がため息をつく。
その特徴的な左右が違う髪色に、二色が混じり合ったような瞳は、ある人たちの特徴を強く表しているのだという。
「それは、まちがいなくキルム王国の王族だよ」
「せ、せん、宣誓権!?」
日頃はほとんで顔色を変えない先生たちだったが、私が八組のトップとなったことをお祝いしてくれるという、院長室でのお茶会の席で私が〝宣誓権〟の行使を望んでいるというと、あからさまにうろたえ始めた。
「落ち着きなさい!」
だがそれも院長の一言で鎮まる。
「随分と性急ですね、メイロード。あなたはまだ幼い。学びにもう少し時間を割く気はないのですか?」
そこで私は志に満ちた彼らの望むいい子ぶりっこを発動した。
「いいえ! 私はすぐにでも〝聖戦士〟として、神の名の下に集う方々とともに聖なる戦いのお役に立ちたいのでございます。もし、私にその力がないのであれば仕方のないことですが、このたぎる気持ちを抱えたままでは、これからの修行はままなりません。どうか、私が〝聖戦士〟として神のご意志に見合うのか、まだ足りぬか、そのご判断をお願いしたいのでございます!」
私は大袈裟に目をキラキラさせ、洗脳が効きまくっている〝聖戦士至上主義〟の子供を演じ続けた。
「院長先生。私は神のご意志をあまねく人々の届けるため、強くならねばなりません。どうか、いまの私に〝聖戦士〟としてなにが不足なのか、その答えをお教えください。それを教えていただける方は、もうこの〝孤児院〟には院長先生しかいらっしゃらないのです!」
潤んだ瞳を院長に向けながら手を組み祈る私。
(われながらクサイ演技だけど、私は洗脳されているんだから、このぐらいしておかないと逆に怪しまれちゃう。それにしても、恥ずかしいわぁー)
その姿に院長はティーカップを置き、いままで見たことのない極上の笑顔をみせた。
「素晴らしい、素晴らしいですよ、メイロード! あなたならば、きっと私たちが求めてきた本物の〝聖戦士〟となることができるかもしれませんね。いいでしょう、対戦は一週間後で良いですね」
「ありがとうございます。先生方のおっしゃる本物の〝聖戦士〟となるべく、一生懸命戦います!」
私は満面の笑顔で感謝の言葉を述べながら、こう思っていた。
(本物の〝聖戦士〟ってなに?)
ーーーーーーー
「まぁ、そういうわけで、孤児院最終決戦って感じで、院長と模擬戦をすることになりました」
私はキッチンカウンターに綺麗な石を磨いて作った手作りの箸置きと箸を並べ、前菜の五品を沿海州の市場で買った和食器のような土の風合いのある小皿や小鉢を使って置いていった。
「今日は小さめのいい魚がありましたので、素揚げして南蛮漬けにしてみました。丸ごと食べられて美味しいですよ。こちらは焼き野菜のホットサラダ、それに青菜の胡麻よごしと、小芋の煎り焼きカレー風味に自家製塩辛です」
グッケンス博士は、私の模擬戦の話に少しだけ眉を動かしたが、驚きはせず淡々と箸を手にした。
「そのソルトーニという少年がこちら側についてくれたことは非常に助かるな。いま、その子が少しだけ取り戻しているという記憶を頼りに家族を探すよう軍部に頼んである。近いうちに何かわかるじゃろう」
「博士、ありがとうございます。彼も最初に一週間の儀式を受けていますから、過去について思い出すことはなかなか難しいようですが、ソルトーニという名前は、自分かもしくは自分に関係する誰かの名前だと言っていました。それから、育ったのはたくさん読むものがある家であったとも……学者さんか何かの家かもしれないですね」
「うむ……まあそれはこちらに任せなさい。メイロードはその〝模擬戦〟に集中するように」
私は異世界お取り寄せ品のウイスキーのようなコクのあるプレミアムな焼酎を綺麗に透き通った氷の入ったロックグラスに注ぐ。これは最近の博士のお気に入りだ。
「こちらにもお願いしまーす」
子供の顔のくせに、ソーヤもしっかりロックグラスを差し出す。
「はいはい。ご飯のおかわりは自分でよそってね。ソーヤのお代わりに対応していたらお話ができないんだから」
「了解です。いやぁ、南蛮漬け、最高ですね。甘くて酸っぱくてご飯に合うこと合うこと! 塩辛もこれまたいい風味と塩っけで……アテにもご飯にも……最高でございますよ!」
いつも通り、ものすごい勢いでモリモリ食べまくるソーヤを横目にしながら、私と博士セイリュウとセーヤでゆるゆるとおしゃべりしながらの夕食が続く。
「その院長というのはどんな男なんだい?」
セイリュウが聞いてきた。
「ええと、三十歳前後で左右の髪色が違います。金髪とオレンジに近い赤ですね。長い髪を後ろで縛る、魔法使いには多い髪型です。目の色も金とオレンジが混じり合っていて、綺麗ですよ」
「それって……だよね、博士」
セイリュウの言葉に博士がため息をつく。
その特徴的な左右が違う髪色に、二色が混じり合ったような瞳は、ある人たちの特徴を強く表しているのだという。
「それは、まちがいなくキルム王国の王族だよ」
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