541 / 837
4 聖人候補の領地経営
730 〝孤児院〟の貴族
しおりを挟む
730
「不甲斐ない男どもですわね」
タンカを見送る私に話しかけてきた次の対戦相手ノルエリアさんは《土魔法》の使い手だ。とても美しい彼女は、髪にも手をかけ、制服も改造してレースを入れ込んだりと、かなりのおしゃれさんだ。貴族階級の子女だともいわれ、本人もそうであると公言している。そのため、万事貴族風に暮らそうとしているそうで、下のクラスの子供たちはすべて彼女にとっては〝下僕〟もしくは〝召使い〟扱いなのだという。
彼女の服のためのレースを作らされたり、彼女の髪を整えさせられたりしている下の組の子たちは、それを嘆いてはいたが、それでも格上の彼女に逆らうことは許されるはずもなく、日々使用人よろしく使われていると言っていた。
いま、対戦相手である私に対して笑顔で接してはいるが、実は彼女が四人の中で最も私のことを意識し、排除したいと考えていることはソーヤたちの調査でわかっている。
彼女は自分が特別扱いされることに非常に執着があり、逆に人が特別扱いされることにものすごく嫉妬する。もう、この性格だけで私が嫌われるだろうことは予測がつこうというものだ。
「あなたがここへきたとき、貴族風の衣装を着ていたと聞いているのですけれど、あなたも貴族から選ばれてここにいらしたのかしら?」
「は、はぁ、まぁ……そうなんですかね?」
どうやら、私がここへ着いたときの服装から、〝孤児院〟内ではすぐに私の素性について〝貴族の中から選ばれてきた聖戦士候補〟という噂が立ったそうだ。娯楽がないせいなのだろうが、新しく来た子たちは必ず噂の的になるらしい。私についての噂はその中でもとびきり大きなものになっていったそうだ。
(まぁ、魔術師垂涎の〝魔術宿る〟緑の髪の美少女ですからねぇ……ははは)
その後、私が破竹の勢いでランクを上げていく様子も当然噂に拍車をかけ、何ひとつ私は言っていないのに、いまでは子供たちの間で完全に高位の貴族の子弟から選ばれてやってきた聖戦士候補として認知されているらしい。
当然その噂はノルエリアさんにも伝わっており、ここで最も高貴な魔術師を自認している彼女のプライドをいたく傷つけ、そして苛立たせていた。
「なんですの、その口調。およそ貴族らしくございませんわね、本当にあなた貴族なのかしら、品のない」
「……」
ここまでの事情を考えれば仕方がないが、とにかくこの調子でガンガン舌鋒鋭く攻撃された。彼女にとって貴族らしくあることは、何よりも重要らしい。
「まぁ、よろしいですわ。ここで私との格の違いを見せれば、それで皆も納得いたしましょう」
ノルエリアさんは、始終手放さない繊細な模様が刻まれた豪華な扇子を持ち所定の位置につく。
(この人も自信に溢れてるなぁ……八組の子たちは、それぞれ確かに十分に魔術師として戦える技術を持ってるから当然と言えば当然なのかもしれないけど、この程度ならシドの魔法学校にだって結構いるのに……)
そんなことを考えながらも私は位置につき、試合は始まった。
「では、初め!」
軽く会釈する私に、間髪を入れずノルエリアさんが放ってきたのは水平方向に飛ばされた大量の小石。かなりのスピードがあるため、当たればそれなりのダメージを受けるのは必至だ。
私はひとまず《跳躍》を使い、上方へ回避。そのまま少し後退した。《跳躍》は一時的な足の筋力強化と《風魔法》による移動のサポートを組み合わせたもので、どちらも基礎魔法のため練習さえすれば比較的すぐ使えるようになる魔法だ。私の発動スピードが恐ろしく早いことを除けば、特段珍しい魔法ではない。
彼女は攻撃をしながらのせいか、私の反応スピードの速さにはあまり気づかなかった様子で、むしろ攻撃から逃げた私がノルエリアさんとの戦いに気後れしていると感じたのか、彼女の表情はどこか満足気だ。
「あらあら、逃げてばかりでは勝負にもなりませんわ。それに、私の高速攻撃、そういつまでもかわせませんわよ!」
そう言いながら、今度は二方向から同じ攻撃をしてきた。調子がいいのか、先ほどよりスピードも乗っている。
ノルエリアさんは《土魔法》の使い手だが、同時に《風魔法》の適性も高く、彼女はこのふたつの系統の魔法を巧みに融合させた魔法を使う。特に攻撃速度の速さを誇っており、風に乗せて石弾を高速で浴びせる《風石弾》がお得意だ。これは乗せるスピードが大きくなれば、それこそ一発で相手に致命傷を与えることも可能となるとても危険な魔法。
彼女がこの前に戦ったふたりと違うのは魔法が〝特化型〟ではなく〝バランス型〟だという点だ。それぞれの魔法の威力よりも組み合わせによって効果を挙げるというもので、こちらの方がより修練が必要で技術水準は高い。きっと努力家なのだろう。二方向からの同時発動もできているし、威力も高く、かなり正確に狙えている。
「さあ、いつまでも逃げていないで戦いなさい。それでも誇り高い貴族なんですの?
それともやはり、あなたが貴族だなんて、ただのタチの悪い噂だったのかしらね!」
そう言いながら彼女は土を盛り上げて細長く伸ばし、それを鞭のように私の方へ飛ばしてきた。
「《土蛇》!」
今度は《風魔法》に乗って、大蛇の如き《土蛇》が迫ってくる。
観戦席の子供たちからは悲鳴が上がっているので、おそらく彼女の攻撃の中でも強力でオーバーアタックぎみな攻撃なのだろう。確かにこれがまともに当たったら、私も無事では済まない。
(それじゃ、反撃しましょうかね)
私は手をかざし、呪文を唱える。
「不甲斐ない男どもですわね」
タンカを見送る私に話しかけてきた次の対戦相手ノルエリアさんは《土魔法》の使い手だ。とても美しい彼女は、髪にも手をかけ、制服も改造してレースを入れ込んだりと、かなりのおしゃれさんだ。貴族階級の子女だともいわれ、本人もそうであると公言している。そのため、万事貴族風に暮らそうとしているそうで、下のクラスの子供たちはすべて彼女にとっては〝下僕〟もしくは〝召使い〟扱いなのだという。
彼女の服のためのレースを作らされたり、彼女の髪を整えさせられたりしている下の組の子たちは、それを嘆いてはいたが、それでも格上の彼女に逆らうことは許されるはずもなく、日々使用人よろしく使われていると言っていた。
いま、対戦相手である私に対して笑顔で接してはいるが、実は彼女が四人の中で最も私のことを意識し、排除したいと考えていることはソーヤたちの調査でわかっている。
彼女は自分が特別扱いされることに非常に執着があり、逆に人が特別扱いされることにものすごく嫉妬する。もう、この性格だけで私が嫌われるだろうことは予測がつこうというものだ。
「あなたがここへきたとき、貴族風の衣装を着ていたと聞いているのですけれど、あなたも貴族から選ばれてここにいらしたのかしら?」
「は、はぁ、まぁ……そうなんですかね?」
どうやら、私がここへ着いたときの服装から、〝孤児院〟内ではすぐに私の素性について〝貴族の中から選ばれてきた聖戦士候補〟という噂が立ったそうだ。娯楽がないせいなのだろうが、新しく来た子たちは必ず噂の的になるらしい。私についての噂はその中でもとびきり大きなものになっていったそうだ。
(まぁ、魔術師垂涎の〝魔術宿る〟緑の髪の美少女ですからねぇ……ははは)
その後、私が破竹の勢いでランクを上げていく様子も当然噂に拍車をかけ、何ひとつ私は言っていないのに、いまでは子供たちの間で完全に高位の貴族の子弟から選ばれてやってきた聖戦士候補として認知されているらしい。
当然その噂はノルエリアさんにも伝わっており、ここで最も高貴な魔術師を自認している彼女のプライドをいたく傷つけ、そして苛立たせていた。
「なんですの、その口調。およそ貴族らしくございませんわね、本当にあなた貴族なのかしら、品のない」
「……」
ここまでの事情を考えれば仕方がないが、とにかくこの調子でガンガン舌鋒鋭く攻撃された。彼女にとって貴族らしくあることは、何よりも重要らしい。
「まぁ、よろしいですわ。ここで私との格の違いを見せれば、それで皆も納得いたしましょう」
ノルエリアさんは、始終手放さない繊細な模様が刻まれた豪華な扇子を持ち所定の位置につく。
(この人も自信に溢れてるなぁ……八組の子たちは、それぞれ確かに十分に魔術師として戦える技術を持ってるから当然と言えば当然なのかもしれないけど、この程度ならシドの魔法学校にだって結構いるのに……)
そんなことを考えながらも私は位置につき、試合は始まった。
「では、初め!」
軽く会釈する私に、間髪を入れずノルエリアさんが放ってきたのは水平方向に飛ばされた大量の小石。かなりのスピードがあるため、当たればそれなりのダメージを受けるのは必至だ。
私はひとまず《跳躍》を使い、上方へ回避。そのまま少し後退した。《跳躍》は一時的な足の筋力強化と《風魔法》による移動のサポートを組み合わせたもので、どちらも基礎魔法のため練習さえすれば比較的すぐ使えるようになる魔法だ。私の発動スピードが恐ろしく早いことを除けば、特段珍しい魔法ではない。
彼女は攻撃をしながらのせいか、私の反応スピードの速さにはあまり気づかなかった様子で、むしろ攻撃から逃げた私がノルエリアさんとの戦いに気後れしていると感じたのか、彼女の表情はどこか満足気だ。
「あらあら、逃げてばかりでは勝負にもなりませんわ。それに、私の高速攻撃、そういつまでもかわせませんわよ!」
そう言いながら、今度は二方向から同じ攻撃をしてきた。調子がいいのか、先ほどよりスピードも乗っている。
ノルエリアさんは《土魔法》の使い手だが、同時に《風魔法》の適性も高く、彼女はこのふたつの系統の魔法を巧みに融合させた魔法を使う。特に攻撃速度の速さを誇っており、風に乗せて石弾を高速で浴びせる《風石弾》がお得意だ。これは乗せるスピードが大きくなれば、それこそ一発で相手に致命傷を与えることも可能となるとても危険な魔法。
彼女がこの前に戦ったふたりと違うのは魔法が〝特化型〟ではなく〝バランス型〟だという点だ。それぞれの魔法の威力よりも組み合わせによって効果を挙げるというもので、こちらの方がより修練が必要で技術水準は高い。きっと努力家なのだろう。二方向からの同時発動もできているし、威力も高く、かなり正確に狙えている。
「さあ、いつまでも逃げていないで戦いなさい。それでも誇り高い貴族なんですの?
それともやはり、あなたが貴族だなんて、ただのタチの悪い噂だったのかしらね!」
そう言いながら彼女は土を盛り上げて細長く伸ばし、それを鞭のように私の方へ飛ばしてきた。
「《土蛇》!」
今度は《風魔法》に乗って、大蛇の如き《土蛇》が迫ってくる。
観戦席の子供たちからは悲鳴が上がっているので、おそらく彼女の攻撃の中でも強力でオーバーアタックぎみな攻撃なのだろう。確かにこれがまともに当たったら、私も無事では済まない。
(それじゃ、反撃しましょうかね)
私は手をかざし、呪文を唱える。
174
お気に入りに追加
13,119
あなたにおすすめの小説
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?
水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが…
私が平民だとどこで知ったのですか?

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。
しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹
そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる
もう限界がきた私はあることを決心するのだった

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。