利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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4 聖人候補の領地経営

725 メイロードのお話

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725

「おいしい! なんて甘いの!」
「こんなの食べたことない!」

美味しそうな匂いに涎を垂らさんばかりの状態で私の挙動を見つめていた子供たちに、少し苦笑しながら、ちゃんと美味しく焼けていそうなものから次々に、彼らも初めて食べるだろう芋料理を渡していった。焼き芋を受け取った子供たちは、一瞬これは何かなという顔はしたものの、その香ばしい匂いに抗えず、すぐ貪るように食べ始めた。そして、人心地つくと、今度は大事そうに味わいながら食べ始める。最初は空腹に気持ちが向いていたのだろうが、改めてこの美味しさに気がついたのだろう。

私もひとつ焼き芋を手に取る。赤紫の表面にはいくつかの焦げあと、まだ温かいそれを割れば立ち上る湯気と、ほっくりした黄金色の断面が現れる。香ばしさと甘さ、そしてほくほくとした食感……こうして外で食べるのも、気分がいい。

私はまだこの世界で焼き芋に適した芋を発見できていない。そう、みんなに食べさせたこれは、もちろん私が〝焼き芋〟を食べたいがために異世界からした、極上の甘さを持つさつま芋だ。これは、収穫後、芋ようかんを作ったりもしたかったので、水分が多すぎるものではなく、バランスの取れたタイプのさつま芋で、じっくり火を入れてあげるととても美味しくなる。

(うーん、ベストとまではいかないけど、満足できる〝焼き芋〟にはなっているかな。しっかり滋養もありそう)

もちろん私がこれを選んだのは、異世界食品がこの世界の人たちの健康に非常に大きく寄与するというこれまでの経験からだ。いま見ているだけでも、明らかにみんなの元気は良くなってきているし、目の輝きが強くなっている。この〝焼き芋〟は、一時的な効果しかないだろうが、それでもしばらくは彼らの健康を支えてくれるだろう。

「素晴らしい魔法ですね。八の五さま」
「うーん、八の五じゃなくてもいいんだったよね。じゃ、メイロードって呼んでくれる」

メイロードという名前は、特に変わった名前ではないので、シド帝国からも遠く離れたこの土地で、その名前だけでメイロード・マリスに結びつけられる者はいないだろう。

「メイロードさま。こんな美味しいものを本当にありがとうございます」

幸せそうに焼き芋を頬張りながら、幸せそうに私に話しかけてくる子供たちに、私もやさしい気持ちになり、語りかける。

「そうよかったわ。あのね、いま見たことも魔法でしょう? それで、あなたたちはおいしいものを食べることができて、幸せな気持ちになったよね。そんなふうに魔法を使ってもいいんじゃないかな、と私は思うんだ」

「え……?」

子供たちは不思議そうにしている。彼らが教え込まれている価値観に〝魔術師として聖騎士となり戦う〟という以外の未来はないのだから当然だろう。だが、私はそこに少しでもヒビを入れたいと考えていた。

「魔法は人を攻撃するためにあるんじゃないわ。こうして、あなたたちも日々の仕事に使っているように、魔法を使っていろいろな仕事ができるの。私の知っている女の子は、魔術師になれる魔法力も才能もあったけれど、それでも〝魔法屋〟という道を選んだわ。
そして街のたくさんの人を魔法で助けて感謝されてる……そんな生き方もあるの」

私はイスの魔法屋エミのことを、詳しく子供たちに語った。子供たちは、物語りを聞くこと自体に飢えているようで、焼き芋を手にしながら真剣に、そしてうれしそうに聞き入っていた。

「いまでは、予約が取れないほどの人気店になったのよ。そんな仕事も素敵でしょう?」

〝魔法屋エミ〟の物語は、彼らの琴線に触れるものがあったようだった。

「確かに、魔法で人の役に立てるのであれば、素晴らしいですね」
「魔法使いにも魔術師以外の仕事があるのですね」

話終わった私の周りには、お話とお芋の礼を言う子供たちがわらわらと集まってきた。

そして、笑顔でつぎつぎに感謝の言葉を述べる子供たちに私は頼んだ。

「〝焼き芋〟のことは人には話さないでね。そうしないと私、ずっと焼き芋屋さんをしなくちゃいけなくなりそうだから……」

そう言うと、私が千人近い子供たちに囲まれて焼き芋をねだられる様子を想像できたようで、みんな慌てて言わないと約束してくれた。その素直さが、洗脳ゆえだと思うと少し悲しいが、ここの子供たちは、こういうところはとても素直で口が固いので、多分信用してもいいだろう。

私としては、みんなに食べさせてあげたい気持ちでいっぱいなのだが、さすがにいまはそうもしていられない。

(何とか早く解決して、みんなを救い出さないとね)

うれしそうに私に手を振りながら去っていく子供たちに笑顔で手を振りながら、私は〝覇者決定戦〟までに、セーヤとソーヤがどれぐらいの情報を掴んできてくれるかを考えていた。
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