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4 聖人候補の領地経営
720 久々のお料理
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720
このところ、どうにも味気ない食事や、まったく美味しくしようという意欲が感じられない食事を食べ続けて、もうストレス限界状態だった私は、まずは彼らが私に出した食事と同じ材料を使い、この世界の食材だけでどのぐらい改善できるのかを試してみることにした。
「じゃ、まずは干し肉からやってみようかな」
移動中に提供されたのは塩水か!と言いたくなるような味だけが濃い野菜スープと干し肉と堅いパン、それに少しの果物だけだった。メインの干し肉もまた塩だけで味付けし干したもので、ごくシンプルなものだった。《鑑定》によれば、材料はこちらの世界では定番食材のボアという猪のような魔物。
「複雑な調味液を作るという習慣がないから、そのまま食べると強い塩気だけで味気なくなっちゃうんだよね。保存食としては確かに機能しているし、噛みしめればそれなりに肉の旨みはあるんだけどなぁ……」
「メイロードさまの作られる干し肉は、どのような味付けをなさるのでしょうか?」
嬉しそうにソーヤが聞いてくる。
「そうね……干し肉は色々な地方で昔から作られてきた保存食だから、レシピはいろいろあるわよ。中華風にするなら五香粉なんか使ってもいいし、ジャーキーっぽく仕上げるには醤油や甘みも加えたほうがいいし、魚醤を使うとまた風味が違うしね。スパイスは胡椒はもちろん鷹の爪を使ってもいいし、肉と合うハーブを組み合わせてもいいわ。
保存性をさらに高めるなら、少し煙をかけて燻製の風味をつけるのもいいわね」
「いろいろな作り方があるのですね。ここでは塩一辺倒でございますのに……」
「本当にね。でも、これも〝素材〟と考えれば活用法はあるわよ。干し肉は出汁として有能だから、刻んでスープベースに使えば美味しい料理ができるはず、栄養は豊富だから、野菜やキノコと合わせればいい味が出ると思うの」
私は醤油、生姜、ニンニク、胡椒、蜂蜜それに試作中の自家製葡萄酒を少々……それらを使い少し厚みをつけて切ったボアの肉を漬け込んだ。本来は一日以上漬け込む必要があるため、《無限回廊の扉》内の時短部屋で一気に一日経過させ取り出したあと、オーブンで焼くとうう方法で乾燥させる。最初はちょっと焼肉のような見た目だが、徐々に干し肉らしい色に変わっていく様子を観察するのもまた楽しい。
(干す課程も時短部屋でやってもいいんだろうけど、初めてなので様子を見つつ乾燥させてみたいし……)
というわけで、オーブン乾燥で作ったボアのジャーキー完成。
早速ソーヤがかぶりつく。
「これはまた……ウイスキーが欲しいですね。いや、ビールも悪くない……他の酒にも合います。噛み締めるほどに、いろいろな味とピリッとした辛味、そして肉の旨みが口の中に広がり、噛み締めるのがなんとも心地よいです。これは止まりません!」
ソーヤはかなり気に入ったようで、あっという間に完食して、さらに恨めしそうな顔をしているので、すぐに《生産の陣》を開いて大量に複製した。
(博士やセイリュウもきっと好きだろうから、たくさん用意しておこっと)
次は今日、寮の夕食に出てきた焼肉風の一皿を美味しくしてみよう。
(まず、あの肉は硬すぎだった。下処理をちゃんとしているのかもかなり怪しい感じだ。あれを噛み続けていたら顎がやられちゃう)
《鑑定》によると、あの焼肉風の料理に使われていたのは〝マームット〟という魔物で、大型のカピバラにツノが生えているような動物だった。〝孤児院〟のある地域の山中にはかなり多く生息しており、繁殖力も強いため狩りやすく、定番食材なのだそうだ。肉質は鳥と猪の中間といったものなのだが、筋肉質でとにかくスジが硬く食感が悪い。
そのため、長時間煮込んで柔らかくするか、噛み切れる薄さにスライスして焼くのが定番のようだ。だが〝孤児院〟の料理人は腕が良くないのか、やる気がないのか、私が食べた焼肉用のカットはかなり厚く、ボリュームこそ十分だったが、ゴムかと思うほどの弾力になっていた。
「まずは、筋切りをしましょう。丁寧に筋を切ってあげれば、それだけで食感がまったく変わってくるわ」
私は硬そうな筋を取り除きながら、肉に切れ込みを入れ、肉汁が出てしまわない程度に包丁を入れ筋を切っていく。それが済んだら、次は漬け込みだ。
「この〝マームット〟少し臭いに癖があるから、それを抜きつつお肉を柔らかくするため、刻んだ玉ねぎと牛乳で漬け込むことにしましょう。お肉が硬くなる原因はいくつかあるけど、ともかくタンパク質やコラーゲンの硬化を防がなくちゃね。〝プロテアーゼ〟っていう酵素の作用で肉を柔らかくできる食材に漬け込むといい食感になるのよ」
「なるほど、それでよくメイロードさまは玉ねぎと肉を合わせてお使いになっているのでございますね」
「さすがソーヤ、よく見てるわね。家では舞茸やヨーグルトに漬け込んだお肉も使っているけど、まだどちらもこちらの世界では見つけていないから、今日は《生産の陣》で再現可能な方法にしてみるわ」
これまた《無限回廊の扉》の中の時短機能を使って半日ほど漬け込んだ状態にしてから、表面を拭き取りやや厚めに切り分けてから味付け。シンプルに塩胡椒、そしてニンニクに生姜、蜂蜜、醤油、胡椒、鷹の爪などを合わせた自家製の焼肉のタレを用意。
下処理がうまくいっているかどうかがわかりやすいシンプルな炭火焼きにして食べてみる。
「柔らかい! ですが柔らかすぎもせず、素晴らしい弾力でございます! 独特の臭みは抑えられ、肉汁が溢れ出す香ばしい食感!! シンプルな塩胡椒もようございますが、この焼肉のタレがこれまた素晴らしい。ご飯を、ご飯をくださいませメイロードさま! そして、次の肉を、肉をぉ!!」
叫ぶソーヤをセーヤが後ろから叩く。
「いい加減にしろ、ソーヤ! いまは味見をしているのだろう。グッケンス博士とセイリュウ様がお見えになる前に、準備を済ませるのが先だ! ほら、いつまでも意地汚く焼肉のたれを啜っていないで、メイロードさまのお手伝いをしろ!」
いつもの調子のふたりに和みつつ、私は今日のご飯を整える。
そして、しばらくぶりに会う博士とセイリュウがやってきた。さあ、晩御飯だ。
このところ、どうにも味気ない食事や、まったく美味しくしようという意欲が感じられない食事を食べ続けて、もうストレス限界状態だった私は、まずは彼らが私に出した食事と同じ材料を使い、この世界の食材だけでどのぐらい改善できるのかを試してみることにした。
「じゃ、まずは干し肉からやってみようかな」
移動中に提供されたのは塩水か!と言いたくなるような味だけが濃い野菜スープと干し肉と堅いパン、それに少しの果物だけだった。メインの干し肉もまた塩だけで味付けし干したもので、ごくシンプルなものだった。《鑑定》によれば、材料はこちらの世界では定番食材のボアという猪のような魔物。
「複雑な調味液を作るという習慣がないから、そのまま食べると強い塩気だけで味気なくなっちゃうんだよね。保存食としては確かに機能しているし、噛みしめればそれなりに肉の旨みはあるんだけどなぁ……」
「メイロードさまの作られる干し肉は、どのような味付けをなさるのでしょうか?」
嬉しそうにソーヤが聞いてくる。
「そうね……干し肉は色々な地方で昔から作られてきた保存食だから、レシピはいろいろあるわよ。中華風にするなら五香粉なんか使ってもいいし、ジャーキーっぽく仕上げるには醤油や甘みも加えたほうがいいし、魚醤を使うとまた風味が違うしね。スパイスは胡椒はもちろん鷹の爪を使ってもいいし、肉と合うハーブを組み合わせてもいいわ。
保存性をさらに高めるなら、少し煙をかけて燻製の風味をつけるのもいいわね」
「いろいろな作り方があるのですね。ここでは塩一辺倒でございますのに……」
「本当にね。でも、これも〝素材〟と考えれば活用法はあるわよ。干し肉は出汁として有能だから、刻んでスープベースに使えば美味しい料理ができるはず、栄養は豊富だから、野菜やキノコと合わせればいい味が出ると思うの」
私は醤油、生姜、ニンニク、胡椒、蜂蜜それに試作中の自家製葡萄酒を少々……それらを使い少し厚みをつけて切ったボアの肉を漬け込んだ。本来は一日以上漬け込む必要があるため、《無限回廊の扉》内の時短部屋で一気に一日経過させ取り出したあと、オーブンで焼くとうう方法で乾燥させる。最初はちょっと焼肉のような見た目だが、徐々に干し肉らしい色に変わっていく様子を観察するのもまた楽しい。
(干す課程も時短部屋でやってもいいんだろうけど、初めてなので様子を見つつ乾燥させてみたいし……)
というわけで、オーブン乾燥で作ったボアのジャーキー完成。
早速ソーヤがかぶりつく。
「これはまた……ウイスキーが欲しいですね。いや、ビールも悪くない……他の酒にも合います。噛み締めるほどに、いろいろな味とピリッとした辛味、そして肉の旨みが口の中に広がり、噛み締めるのがなんとも心地よいです。これは止まりません!」
ソーヤはかなり気に入ったようで、あっという間に完食して、さらに恨めしそうな顔をしているので、すぐに《生産の陣》を開いて大量に複製した。
(博士やセイリュウもきっと好きだろうから、たくさん用意しておこっと)
次は今日、寮の夕食に出てきた焼肉風の一皿を美味しくしてみよう。
(まず、あの肉は硬すぎだった。下処理をちゃんとしているのかもかなり怪しい感じだ。あれを噛み続けていたら顎がやられちゃう)
《鑑定》によると、あの焼肉風の料理に使われていたのは〝マームット〟という魔物で、大型のカピバラにツノが生えているような動物だった。〝孤児院〟のある地域の山中にはかなり多く生息しており、繁殖力も強いため狩りやすく、定番食材なのだそうだ。肉質は鳥と猪の中間といったものなのだが、筋肉質でとにかくスジが硬く食感が悪い。
そのため、長時間煮込んで柔らかくするか、噛み切れる薄さにスライスして焼くのが定番のようだ。だが〝孤児院〟の料理人は腕が良くないのか、やる気がないのか、私が食べた焼肉用のカットはかなり厚く、ボリュームこそ十分だったが、ゴムかと思うほどの弾力になっていた。
「まずは、筋切りをしましょう。丁寧に筋を切ってあげれば、それだけで食感がまったく変わってくるわ」
私は硬そうな筋を取り除きながら、肉に切れ込みを入れ、肉汁が出てしまわない程度に包丁を入れ筋を切っていく。それが済んだら、次は漬け込みだ。
「この〝マームット〟少し臭いに癖があるから、それを抜きつつお肉を柔らかくするため、刻んだ玉ねぎと牛乳で漬け込むことにしましょう。お肉が硬くなる原因はいくつかあるけど、ともかくタンパク質やコラーゲンの硬化を防がなくちゃね。〝プロテアーゼ〟っていう酵素の作用で肉を柔らかくできる食材に漬け込むといい食感になるのよ」
「なるほど、それでよくメイロードさまは玉ねぎと肉を合わせてお使いになっているのでございますね」
「さすがソーヤ、よく見てるわね。家では舞茸やヨーグルトに漬け込んだお肉も使っているけど、まだどちらもこちらの世界では見つけていないから、今日は《生産の陣》で再現可能な方法にしてみるわ」
これまた《無限回廊の扉》の中の時短機能を使って半日ほど漬け込んだ状態にしてから、表面を拭き取りやや厚めに切り分けてから味付け。シンプルに塩胡椒、そしてニンニクに生姜、蜂蜜、醤油、胡椒、鷹の爪などを合わせた自家製の焼肉のタレを用意。
下処理がうまくいっているかどうかがわかりやすいシンプルな炭火焼きにして食べてみる。
「柔らかい! ですが柔らかすぎもせず、素晴らしい弾力でございます! 独特の臭みは抑えられ、肉汁が溢れ出す香ばしい食感!! シンプルな塩胡椒もようございますが、この焼肉のタレがこれまた素晴らしい。ご飯を、ご飯をくださいませメイロードさま! そして、次の肉を、肉をぉ!!」
叫ぶソーヤをセーヤが後ろから叩く。
「いい加減にしろ、ソーヤ! いまは味見をしているのだろう。グッケンス博士とセイリュウ様がお見えになる前に、準備を済ませるのが先だ! ほら、いつまでも意地汚く焼肉のたれを啜っていないで、メイロードさまのお手伝いをしろ!」
いつもの調子のふたりに和みつつ、私は今日のご飯を整える。
そして、しばらくぶりに会う博士とセイリュウがやってきた。さあ、晩御飯だ。
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