利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

文字の大きさ
上 下
527 / 840
4 聖人候補の領地経営

716 価値ある子供

しおりを挟む
716

ストレスの溜まるお食事を続ける日々は四日目に突入。囚われの子供の演技を続ける私の我慢も限界に近づいた頃、やっと街らしき場所へと馬車は入っていった。

街へ入る際は一言も喋るなと脅された上に、木箱の中に押し込められ、荷物として扱われた。
入場した後は箱から出されたが、今度はすぐ馬車から下され、街中の一軒家に連れて行かれると、鍵付きの部屋に放り込まれた。宿屋でもなさそうなので、協力者の家なのだろうか。ここでは手首の拘束も外されて自由にはなれたが、私は〝魔法力はあるが知識はまだない子供〟という設定なので、下手なことはできない。

(まぁ、大人しくしているしかないか……)

ここからは、ただ待つだけの数日が続いた。食事は街の食堂から買ってくるようになったので、若干マシにはなったが、それでも相変わらず単調な味だ。あまり食欲は湧かないが、ここでもじっと我慢するしかない。美味しい地元のベリーや果物を頼りになんとか空腹を満たしている姿はいかにも憔悴した子供っぽく見えて、誘拐された子供らしくは見えるだろう。

はめ殺しの小さな窓だけの、硬いベッドしかない部屋に閉じ込められて過ごす毎日は、領主になってからこれまでの忙しい日々から比べると、のんびりしすぎるぐらいのんびりしたものだ。だが、休息にはなっているかもしれないが、楽しくもないし、任務遂行中だという緊張感はあるため、精神的にはあまり休めてはいない。

《索敵》には、ときどきあやしい気配があるし、それが敵か味方かもはっきりしないため、に沿った行動を常に心がけていなければいけないのだ。

(時々泣いたりしたほうがいいのかな……)

私は役作りを考えたりしながら、誘拐された女の子役をなんとか演じ続けた。

私の《地形探査》によれば、ここはロームバルト王国の首都からは遠く離れた街、名をケーシンという。交通の要所ではあるようで、宿も多く、人の往来は盛んなので、あまり目立ちたくない人間が紛れるにはちょうどいい場所だ。

ここで〝孤児院〟の関係者と接触し、私は〝売られる〟ことになる予定だ。

(売られていくって……やっぱり、気分のいいものではないよね……)

自ら決めたこととはいえ、見ず知らずの敵地へと向かっていくのはさすがに緊張する。だが、そんな私の気持ちをよそに、大人たちは極めてビジネスライクにことを進めている様子だ。

私のいた部屋は、何度か無遠慮にドアが開けられ、見知らぬ男たちが顔を出し、品定めをするように私を見て行った。私を買いにきた者どものリーダーらしき男の頬が緩んでいたのが不気味だったが、商談は即決だったらしく、その数時間後には私は別の馬車に乗せられ、ケーシンを出発することに決まっていた。

姿を消したままのセーヤとソーヤからの報告によると〝孤児院〟の男は、私に非常に大きな関心を見せ、私とふたりの魔術師を交換するところまで譲歩したそうだ。

〔最初にメイロードさまの魔法力として今回設定されている2500という値を告げたところから、完全に目の色が変わってましたね〕
〔あの男のメイロードさまの髪を見る目も尋常ではございませんでした。おそらく〝魔術宿る髪〟が、よほど重要なのでございましょう。もちろん、メイロードさまの髪の美しさは、たとえそうでなくとも魅了されずにはいられないお美しさでございますけれど〕

やはり事前の予想通り〝孤児院〟の男は是が非でもハイスペックな魔術師予備軍になる子供を手に入れようとしていたため、何ひとつ疑われることもなく、私の身柄は彼らへと引き渡された。

ここからはひとりでの潜入となる私のため(本当はセーヤもソーヤもいるけどね)、ドール参謀は大変貴重な魔道具を私に貸してくれた。

元の世界風に言えばGPSのようなもので、見た目は小さな人形に偽装し、その中に納められている。

「これはとても古い遺物で《輝鳴玉》というものだ。未だにその構造はまったく解明されていないが、このふたつの球体はお互いの場所を光の強さで教えてくれる。この遺物を身につけていれば、我々は魔法による遮蔽や隠蔽が行われたとしても、確実にメイロードのいる場所へ辿り着ける。この《輝鳴玉》は皇宮の宝物で皇族がたの安否を確認する必要があるときのみ使われる大変貴重な遺物だが、皇帝陛下のご許可を賜り、今回の任務のために使わせていただけることとなった」

きっといまも人形のお腹の中の《輝鳴玉》は光っているだろうが、外からは見えない。そしてもうひとつの《輝鳴玉》は、私の位置を捉え続けて追ってきているだろう。

その日の夕方、フードがついたマントを着せられ、その人形ひとつを胸に抱いた私は、いよいよ〝孤児院〟へ向かう馬車へと乗せられた。
どうやらこの馬車は、夜通し走り続けるらしい。

馬車には魔法がいくつか施されているらしく、走り始めるとケーシンの街はアッっという間に遠ざかり、そのまま夜の帷の中を疾走していった。
しおりを挟む
感想 2,995

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

この度、双子の妹が私になりすまして旦那様と初夜を済ませてしまったので、 私は妹として生きる事になりました

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
*レンタル配信されました。 レンタルだけの番外編ssもあるので、お読み頂けたら嬉しいです。 【伯爵令嬢のアンネリーゼは侯爵令息のオスカーと結婚をした。籍を入れたその夜、初夜を迎える筈だったが急激な睡魔に襲われて意識を手放してしまった。そして、朝目を覚ますと双子の妹であるアンナマリーが自分になり代わり旦那のオスカーと初夜を済ませてしまっていた。しかも両親は「見た目は同じなんだし、済ませてしまったなら仕方ないわ。アンネリーゼ、貴女は今日からアンナマリーとして過ごしなさい」と告げた。 そして妹として過ごす事になったアンネリーゼは妹の代わりに学院に通う事となり……更にそこで最悪な事態に見舞われて……?】

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

【短編】婚約破棄?「喜んで!」食い気味に答えたら陛下に泣きつかれたけど、知らんがな

みねバイヤーン
恋愛
「タリーシャ・オーデリンド、そなたとの婚約を破棄す」「喜んで!」 タリーシャが食い気味で答えると、あと一歩で間に合わなかった陛下が、会場の入口で「ああー」と言いながら膝から崩れ落ちた。田舎領地で育ったタリーシャ子爵令嬢が、ヴィシャール第一王子殿下の婚約者に決まったとき、王国は揺れた。王子は荒ぶった。あんな少年のように色気のない体の女はいやだと。タリーシャは密かに陛下と約束を交わした。卒業式までに王子が婚約破棄を望めば、婚約は白紙に戻すと。田舎でのびのび暮らしたいタリーシャと、タリーシャをどうしても王妃にしたい陛下との熾烈を極めた攻防が始まる。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。