利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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4 聖人候補の領地経営

713 会議は続く

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713

有能な魔術師を契約で縛って、永続的に支配下に置き〝人間兵器〟として奴隷化するーーそんなことが可能だとしたら、この世界のパワーバランスに狂いを生じさせることになるのは間違いないだろう。

「もし仮に、グッケンス博士が敵国の手に落ち《契約の首輪》を付けられたとしたら……それだけでわが国にどれだけの脅威となるか、その影響は計り知れません」

考えたくもないことだが、確かにそうなればシドには大打撃に違いない。強い力を持つ魔法使いを捕らえることはもちろん簡単なことではないが、もしシド帝国に反旗を翻したいと考えた勢力が数人の強い魔法力を持つ魔法使いを〝人間兵器〟として捕らえたら、戦争を仕掛けようと考えてもおかしくはない。

ロームバルト王国との関係も現在は良好ではあるが、まだ先の戦争についての戦後処理は完了しておらず〝停戦中〟のまま、イルガン大陸中に散らばる国の程をなさない小さな部族も無数にあり、強力な武器を手に入れれば、そのどれかが反旗を翻さないという保証はない。

(それ以前に奴隷化っていう時点で、もう最悪なんですけどね! 絶対に許せない!)

私は最初に会ったときに見た、サンクたちの酷使され続けて憔悴し、やつれ果てた姿を思い出し、怒りを新たにしていた。

「今回捕まえた手配中の三人の中に金の管理を任されていた者がいたのですが、その者は主に金銭の受け渡しについての記録をつけておりました。記憶を消されている連中の動きを知ることができる、これが現在のところ、唯一の物的証拠となります。

その記録によれば、連中は魔術師ひとりにつき大金貨十二枚を支払ったとのことでした。奴らのほぼ全財産に近い額だったようですが、当時盗賊団は混乱状態にあり、ロームバルトの執拗な摘発で寝返りや裏切りそして密告が横行、誰が味方なのかまったくわからないという状況だったようです。

うかつに大金を持っていても逆に危険が増すばかりという、周り中敵だらけの相当追い詰められた状態にあり、金ではないを探していたようです。どうもそこで魔術師を手に入れられるという情報をどこからか仕入れたようで、一生金を稼げるコマとして、自分たちを守れる決して逆らわない用心棒として、彼等を手に入れロームバルトを離れることにしたようです」

報告者の言葉に、お偉方が厳しい顔をしている。

「確かに、魔術師は数も少なく、その報酬は非常に高いからな。一生飼い殺しで働かせられるのならば、その金額でもすぐに回収できると見込んだのだろうが……」

ひとり当たり大金貨十二枚、日本円にして一億二千万円というのは、魔術師を奴隷化する料金としては破格に安いとは思う。ちゃんと魔法学校で学んだ魔法使いならば、ギルドで受けられる仕事だけでも、月に千、二千ポルはすぐに稼げるし、馬車馬のように働かせれば、数年購入金額を回収できてしまうだろう。

魔術師として攻撃特化で働く以外にも、魔法使いに依頼される仕事は無限にあり、常に人は足りていないのだから、こう言うのは嫌だが、あの悪人たちは投資に見合う非常にをしたということだ。

そこで座っていた軍属の幹部が苛立たしそうにこう言った。

「状況はわかった。それで、この件について捜査は進展しているのか?」

「それについては、私が……」

ドール参謀は部下に目配せしてから、話始めた。

「今回捉えた者たちから得られた情報は非常に少ないものでした。《魔法契約書》の影響で、盗賊たちは契約に関する記憶をすべて失っております。解放された魔術師たちについても、ほぼ〝孤児院〟という施設に監禁状態で育ち外部との接点もなく、森の中であった、最初の町まで二昼夜かかった、程度のことしか場所についての情報を持っておりません。

そこで現在唯一の手がかりである金を扱っていた男の持っていた帳面の内容を精査しております。ここから、なんらかの手がかりを得てそれを足がかりに〝孤児院〟の場所を早急に突き止める所存です」

「現状はそれしかないか……だが、急ぐように! これはシドの危機となる可能性のある危険極まりない事件だ」
「はっ! 心得ております」

そこで、会議は一旦休憩、お偉方への報告はここまでということで、そのあとはドール参謀とその部下の方々だけが残った。

「さて、ここからは少し具体的な話を聞いてもらいたい」

ドール参謀は真剣な表情で、私と黙したまま目を閉じているグッケンス博士の方を見た。

「なにか、すでにつかまれている事実があるのですね。しかもお偉方には言えないような……」
「相変わらず鋭いな……メイロード、君はカンが良すぎる」

ドール参謀は少しだけ頬をあげ、どちらかと言えば困ったといった表情を浮かべていた。そして、そのあとグッケンス博士を向き直り、こう質問した。

「グッケンス博士、あなたの唯一の内弟子であるメイロード・マリス嬢の実力について、正直なところをお聞かせ願えないでしょうか」

私はあまりにもストレートな質問に驚いて、言葉も出なかった。魔法使いに具体的な能力についての質問をするのはかなりセンシティブな話題だ。それはときにはその魔法使いの弱点にもつながり、その評価も大きく変えるもので、魔法使い本人が自分の評価を上げるために一部を開示することはあっても、人に聞かれて答えることなどまずない。

「ふん、どうせお前たちはメイロードを《鑑定》しようとして失敗したのだろう。この娘の加護を甘く見過ぎだ。凡百の《人物鑑定》を持つ鑑定人に見えるようなものではないよ」

「おっしゃる通りでございます……ですが、おそらくそこまでの加護を持つメイロードにしかできないことをお願いしたいのです。そのためにどうか……」

「断る!」

キッパリとした物言いの博士に、困惑するドール参謀。

その緊張感に耐えられなくなった私は、こう切り出してしまった。

「あのぉ……とりあえずその〝私にしかできない〟というお仕事についてお聞かせいただけませんか。すべてはそれからということで……ね、博士」
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