利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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4 聖人候補の領地経営

709 解放された魔術師

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709

魔術師をも奴隷化できる《契約の首輪》は、すべての魔術師たちの脅威となる魔道具だ。

今回は、洗脳に近い状況に置かれた若い魔術師たちがターゲットとなったが、もしこの方法が熟練の魔術師たちにも有効だとしたら、それこそとんでもないことになる。

そのためこの話は、これまでのことをまとめた調書とともにグッケンス博士を通じて軍部へと伝えられ、エルさんが固定になんとか成功した《契約の首輪》も証拠品として、魔道具専門家エルリベット・バレリオの鑑定書をつけてパレスへと送られた。
当然、三人の魔術師も事情聴取が必要とのことで、一週間後には〝天舟アマフネ〟が迎えに来て彼等を買った盗賊と一緒にパレスへと送られることになっている。

私は、加害者でもあるが被害者でもあるサンクたちには、せめてここにいる間だけでも、なるべく心安らかに過ごして欲しいと考え、領主の館の使われていない部屋を提供することにした。ここならば、セキュリティーにもいろいろと配慮してあるので、見張りも必要ないし、私が《索敵》を常時発動しておけば、屋敷に関わるすべての人々の動きを追うことができる。

「ここにはとても綺麗なお庭もあるし、いいお風呂もあるのよ。もちろん美味しいご飯もご馳走できるわ。こんなことしかしてあげられないけれど、せめて数日ゆっくり心と躰を休める時間を作ってね」

領主館にやってきた三人の魔術師にそう声をかけると、今度は三人揃ってヒザマズき祈り始めてしまった。やはり五角形の頂点をひとつづつ抑えるような動きをしている。

(これが〝聖天神教〟の正式なお祈りなのかしら?)

神様の加護はあるけれど、宗教的知識があまりない私は、少し不思議に思いながらも、祈りをやめてもらう。

「サンク、言ったでしょう。そういうのはダメだって! お願いだから普通にして」

そこで、慌てて三人は立ち上がったが、習慣的に祈りの動作が出てしまうようで、ほぼ無意識にやってしまうらしい。

「気をつけます……」

少しシュンとする三人に少し困ってしまったが、ともかく私は笑顔でそれぞれのベッドルームの場所を教えながら、屋敷を案内した。そのあとは昼食を食べつつ屋敷で働いてくれている人たちやキッペイに紹介していく。

今日の昼食はメイロード風トルコライス、ちょっとお子様テイストだ。

ニンニクを効かせたエビピラフの上にはオーク肉を使ったカツレツ、カツレツにはビーフシチューのソースをかけてある。その横にはナポリタンもこんもりと添え、別皿にはプリンアラモード風のデザート、もちろん旗も立てた。スープは野菜たっぷりのミネストローネだ。

「はい、冷めないうちに食べましょうね」

完全に食堂のおばちゃんモードで、みんなにお水を配ったり、ナイフとフォークを並べたりしている私に、三人は激しく違和感を感じているようだが、私は気にしない。

そこでキッペイが三人に優しい笑顔を向けて、こう言ってくれた。

「メイロードさまは、食べさせたがりなのですよ。いつものことですから、お気になさらず温かいうちに召し上がってくださいませ。美味しいことはお約束いたしますよ」

横からソーヤも

「ええ、この〝とるこらいす〟というお料理は、このたっぷりの油で揚げましたサックサクのカツに、メイロードさまご自慢の濃厚なビーフシチューのデミグラスソースのコクがたまらない逸品です。もちろんエビのピラフも香りと食感が素晴らしく風味最高、そしてこのメイロードさま手打ちの麺を使った〝なぽりたん〟というトマト味の細麺料理が、これまた絶品です。これに使われているベーコンもメイロードさまのお手製で……」

「はい、はい、ソーヤさん、その辺で……」

いつまでも解説の止まらないソーヤを、キッペイが制する。

ふたりの掛け合いに思わず三人も笑顔になっていて、緊張もほぐれた感じだ。
(ソーヤ、キッペイ、グッジョブ!)

サンクたちは見たこともない料理に戸惑いながらも、恐る恐る食べ始めてくれた。

「?!」
「?!!」
「!!!」

食べ始めた瞬間から三人は顔を見合わせて呻き声のような言葉を発し、頬を紅潮させながらガツガツと食べていった。彼らが長い間食べてきた食事とのあまりの違いに、うまく形容することすらできない様子だ。

聴取のときに聞いたサンクたちの食生活のあまりの貧しさに、私は同情を禁じ得なかった。まだ食べ盛りの若者なのに、どうやら満足いくまで美味しいご飯を食べたという経験すらない様子だったので、まずはガッツリ系ウルトラヘビー級のお料理を振る舞ってみたくなったのだが、どうやら彼らの好みに合ったようで、私は一気に食べ進む彼らの様子を満足しながら見ていた。

(やっぱり若い男の子はよく食べて気持ちいいね)

「美味しい以外の言葉が思いつきません……美味しすぎてびっくりです」
「こんなに手の込んだ料理を何種類も食べられるなんて、シド帝国はなんと豊かな国なのでしょうか」
「こんな満ち足りた感覚は生まれて初めてございます。食べることがこんなに幸せだなんて……」

トルコライスを完食した三人は、プリンを食べて、さらに至福の顔になっている。

そこで、キッペイが言添える。

「メイロードさまは〝メイロード・ソース〟という、素晴らしい万能調味料を世に出され、イスでは〝美食の女神〟と称えられていらっしゃいます。ですから、この料理をシド標準とは思われないほうがよろしいかもしれません。何しろメイロードさまはとても特別な方でございますから……」

キッペイの言葉に、三人は納得したように激しく頷いている。

なんとなく珍獣扱いされているような感じもするが、まぁいい。みんなにおいしいものが食べさせられて私は満足だ。

「パレスへ行くまでの間は、自由にこの屋敷で過ごしてね。相談事があるならなんでも言って頂戴。できる限り力になるわ」

こうして、短い彼らの領主館滞在が始まったのだった。
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