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4 聖人候補の領地経営
706 やっと取り調べ開始
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706
私は三人の魔術師を待つ間に、取調室でエルさんにこれまでの経緯を説明した。
この間兵士には部屋の外に立ってもらい、音を遮断する結界を作ったので、この部屋の会話は外には聞こえないようになっている。犯罪に関わる魔法使い同士の会話だ。これぐらいの警戒はしておくべきだろう。
その上で、触れただけで突然壊れた《契約の首輪》のことも、それと連動するように記憶をなくしてしまった盗賊のことも、なるべく詳細に伝えた。当然、気を付けろと言ったのに《契約の首輪》に触ったことも言ったので、まずはエルさんにめちゃくちゃ怒られた。
「だから、不用意に触るんじゃないと言っただろう。今回は、メイロードに危害が及ばなかったからいいようなものの《呪い》ってのは飛び火することも多いんだよ。躰や精神に強い障害を引き起こしかねないそんな伝染をすることも稀じゃない危ないものなんだ。そんなことじゃ、命がいくつあっても足りないよ。もっと気をおつけ!」
「はい。本当にごめんなさい。これからは気をつけます」
私は平身低頭謝りつつ、それでもなんとか話を進めた。
「ただ《真贋》で見えた妙な煙のようなものが、私の手に触れると消えていったので、ついそれを続けていったら触ってしまった感じで……」
「《真贋》で見えた煙が消える?」
「ええ、でも普段見えているものともちょっと違う、禍々しい雰囲気のあるものでした」
私の言葉に、エルさんはしばし考え込んでから口を開いた。
「メイロード……あんた、もしや天界の方々から加護を受けているのかい?」
「え?! あ……」
「ふぅ……そうなんだね」
呆れ気味の表情でエルさんがため息をつく。
「じゃ、あんたは紛れもない〝聖女〟じゃないか! そりゃ、あんたが触ったら並の《呪具》なんざひとたまりもないさね」
「いや、別に〝聖女〟とか、そういうのではなくてですね、ちょっと加護をもらっただけというか……」
一生懸命それは違うと言ってはみたが、エルさんに一蹴される。
「同じことさ。あんたの守護者が聖なる方々なのは確かなんだろう?」
「あー、えーと、は……い」
エルさんによれば、神様からの加護を受けている私には、周囲に邪悪なものを寄せ付けない一種のバリアのようなものがあるのだそうだ。普段はまったくわからないが、それが《契約の首輪》につけられた《呪具》に反応して、《契約の首輪》が弾け飛んだということらしい。
「言っておくが、そんなことができる人間はこの世界にほとんどいないよ。普通に生きたいなら隠し通すしかないだろうが……難儀なことだねぇ……」
私のこの聖女的な能力は、あらゆる権力者にとって非常に魅力的で、それゆえにもし公になれば、そこからは人扱いすらされなくなるそうだ。保護という名の軟禁状態にされてもおかしくないという。
「ぜ、絶対隠します! でも、隠し方がよくわかりません!」
私の言葉にエルさんは呆れ気味に笑っている。
「フェッフェッ、確かにこの力は隠しようがないねぇ。その代わり、見ただけではわからないんだから、まぁ、邪悪なものに近づかないぐらいしかできることはないかねぇ。あとは人の口に上らないよう慎重に行動することだよ」
最悪なのは、聖女の噂が広がって、そのことが権力者にまで届いてしまうことだ。市井の小さな噂のうちはいいが、噂が大きくなれば必ず確かめようとする権力者が現れてくる。
(つまり、できる限りこの力を人に見せない。これに尽きるね)
そういう生活になんら不満はないので、これからもできるだけ慎ましく地味な生活を……と改めて思っていると、部屋がノックされた。私は魔法を解き、入るよう促すと、先程の三人が兵士に連れられて入ってきた。とりあえず、首輪の外れた魔術師を私の前に、あとのふたりはエルさんの前に座らせるよう指示して、三人を席に着かせる。
と思ったら、私を見た瞬間、先ほどは号泣状態だった《契約の首輪》が外された魔術師がひざまずき、五体投地の勢いで祈りを捧げ始めた。
「大いなる我らが神のお導きに、偉大なるマーヴの采配に永久の感謝を。聖なる巫女姫さま、私をお救いくださいましたことに、ただただ衷心より御礼申し上げますぅううう」
涙ながらにそう言いながら、魔術師は胸の前に指を置き、五角形の頂点を押すような不思議な仕草を三回行った。
その様子にエルさんが私に耳打ちする。
「ほら、こうやってあんたを〝聖女〟扱いする人間が増えていくのさ。気をおつけよ!」
「は、ははは。うーん、そうですねぇ。これは確かに困ります……ね……」
ともかく彼は協力的になっている様子なので私が彼と話をし、その間にエルさんにあとのふたりの《契約の首輪》を見てもらうことにする。
彼は私の言うことには、絶対従うと決めているようで、私が祈りは必要ないから席のついて話を聞かせてほしいというと、目を輝かせて急いで席に座り直した。
「では、まずはお名前からね。あなたはどこの誰なのかしら?」
私は三人の魔術師を待つ間に、取調室でエルさんにこれまでの経緯を説明した。
この間兵士には部屋の外に立ってもらい、音を遮断する結界を作ったので、この部屋の会話は外には聞こえないようになっている。犯罪に関わる魔法使い同士の会話だ。これぐらいの警戒はしておくべきだろう。
その上で、触れただけで突然壊れた《契約の首輪》のことも、それと連動するように記憶をなくしてしまった盗賊のことも、なるべく詳細に伝えた。当然、気を付けろと言ったのに《契約の首輪》に触ったことも言ったので、まずはエルさんにめちゃくちゃ怒られた。
「だから、不用意に触るんじゃないと言っただろう。今回は、メイロードに危害が及ばなかったからいいようなものの《呪い》ってのは飛び火することも多いんだよ。躰や精神に強い障害を引き起こしかねないそんな伝染をすることも稀じゃない危ないものなんだ。そんなことじゃ、命がいくつあっても足りないよ。もっと気をおつけ!」
「はい。本当にごめんなさい。これからは気をつけます」
私は平身低頭謝りつつ、それでもなんとか話を進めた。
「ただ《真贋》で見えた妙な煙のようなものが、私の手に触れると消えていったので、ついそれを続けていったら触ってしまった感じで……」
「《真贋》で見えた煙が消える?」
「ええ、でも普段見えているものともちょっと違う、禍々しい雰囲気のあるものでした」
私の言葉に、エルさんはしばし考え込んでから口を開いた。
「メイロード……あんた、もしや天界の方々から加護を受けているのかい?」
「え?! あ……」
「ふぅ……そうなんだね」
呆れ気味の表情でエルさんがため息をつく。
「じゃ、あんたは紛れもない〝聖女〟じゃないか! そりゃ、あんたが触ったら並の《呪具》なんざひとたまりもないさね」
「いや、別に〝聖女〟とか、そういうのではなくてですね、ちょっと加護をもらっただけというか……」
一生懸命それは違うと言ってはみたが、エルさんに一蹴される。
「同じことさ。あんたの守護者が聖なる方々なのは確かなんだろう?」
「あー、えーと、は……い」
エルさんによれば、神様からの加護を受けている私には、周囲に邪悪なものを寄せ付けない一種のバリアのようなものがあるのだそうだ。普段はまったくわからないが、それが《契約の首輪》につけられた《呪具》に反応して、《契約の首輪》が弾け飛んだということらしい。
「言っておくが、そんなことができる人間はこの世界にほとんどいないよ。普通に生きたいなら隠し通すしかないだろうが……難儀なことだねぇ……」
私のこの聖女的な能力は、あらゆる権力者にとって非常に魅力的で、それゆえにもし公になれば、そこからは人扱いすらされなくなるそうだ。保護という名の軟禁状態にされてもおかしくないという。
「ぜ、絶対隠します! でも、隠し方がよくわかりません!」
私の言葉にエルさんは呆れ気味に笑っている。
「フェッフェッ、確かにこの力は隠しようがないねぇ。その代わり、見ただけではわからないんだから、まぁ、邪悪なものに近づかないぐらいしかできることはないかねぇ。あとは人の口に上らないよう慎重に行動することだよ」
最悪なのは、聖女の噂が広がって、そのことが権力者にまで届いてしまうことだ。市井の小さな噂のうちはいいが、噂が大きくなれば必ず確かめようとする権力者が現れてくる。
(つまり、できる限りこの力を人に見せない。これに尽きるね)
そういう生活になんら不満はないので、これからもできるだけ慎ましく地味な生活を……と改めて思っていると、部屋がノックされた。私は魔法を解き、入るよう促すと、先程の三人が兵士に連れられて入ってきた。とりあえず、首輪の外れた魔術師を私の前に、あとのふたりはエルさんの前に座らせるよう指示して、三人を席に着かせる。
と思ったら、私を見た瞬間、先ほどは号泣状態だった《契約の首輪》が外された魔術師がひざまずき、五体投地の勢いで祈りを捧げ始めた。
「大いなる我らが神のお導きに、偉大なるマーヴの采配に永久の感謝を。聖なる巫女姫さま、私をお救いくださいましたことに、ただただ衷心より御礼申し上げますぅううう」
涙ながらにそう言いながら、魔術師は胸の前に指を置き、五角形の頂点を押すような不思議な仕草を三回行った。
その様子にエルさんが私に耳打ちする。
「ほら、こうやってあんたを〝聖女〟扱いする人間が増えていくのさ。気をおつけよ!」
「は、ははは。うーん、そうですねぇ。これは確かに困ります……ね……」
ともかく彼は協力的になっている様子なので私が彼と話をし、その間にエルさんにあとのふたりの《契約の首輪》を見てもらうことにする。
彼は私の言うことには、絶対従うと決めているようで、私が祈りは必要ないから席のついて話を聞かせてほしいというと、目を輝かせて急いで席に座り直した。
「では、まずはお名前からね。あなたはどこの誰なのかしら?」
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