利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

文字の大きさ
上 下
517 / 837
4 聖人候補の領地経営

706 やっと取り調べ開始

しおりを挟む
706

私は三人の魔術師を待つ間に、取調室でエルさんにこれまでの経緯を説明した。

この間兵士には部屋の外に立ってもらい、音を遮断する結界を作ったので、この部屋の会話は外には聞こえないようになっている。犯罪に関わる魔法使い同士の会話だ。これぐらいの警戒はしておくべきだろう。

その上で、触れただけで突然壊れた《契約の首輪》のことも、それと連動するように記憶をなくしてしまった盗賊のことも、なるべく詳細に伝えた。当然、気を付けろと言ったのに《契約の首輪》に触ったことも言ったので、まずはエルさんにめちゃくちゃ怒られた。

「だから、不用意に触るんじゃないと言っただろう。今回は、メイロードに危害が及ばなかったからいいようなものの《呪い》ってのは飛び火することも多いんだよ。躰や精神に強い障害を引き起こしかねないそんな伝染をすることも稀じゃない危ないものなんだ。そんなことじゃ、命がいくつあっても足りないよ。もっと気をおつけ!」

「はい。本当にごめんなさい。これからは気をつけます」

私は平身低頭謝りつつ、それでもなんとか話を進めた。

「ただ《真贋》で見えた妙な煙のようなものが、私の手に触れると消えていったので、ついそれを続けていったら触ってしまった感じで……」

「《真贋》で見えた煙が消える?」

「ええ、でも普段見えているものともちょっと違う、禍々しい雰囲気のあるものでした」

私の言葉に、エルさんはしばし考え込んでから口を開いた。

「メイロード……あんた、もしや天界の方々から加護を受けているのかい?」

「え?! あ……」

「ふぅ……そうなんだね」

呆れ気味の表情でエルさんがため息をつく。

「じゃ、あんたは紛れもない〝聖女〟じゃないか! そりゃ、あんたが触ったら並の《呪具》なんざひとたまりもないさね」

「いや、別に〝聖女〟とか、そういうのではなくてですね、ちょっと加護をもらっただけというか……」

一生懸命それは違うと言ってはみたが、エルさんに一蹴される。

「同じことさ。あんたの守護者が聖なる方々なのは確かなんだろう?」
「あー、えーと、は……い」

エルさんによれば、神様からの加護を受けている私には、周囲に邪悪なものを寄せ付けない一種のバリアのようなものがあるのだそうだ。普段はまったくわからないが、それが《契約の首輪》につけられた《呪具》に反応して、《契約の首輪》が弾け飛んだということらしい。

「言っておくが、そんなことができる人間はこの世界にほとんどいないよ。普通に生きたいなら隠し通すしかないだろうが……難儀なことだねぇ……」

私のこの聖女な能力は、あらゆる権力者にとって非常に魅力的で、それゆえにもし公になれば、そこからは人扱いすらされなくなるそうだ。保護という名の軟禁状態にされてもおかしくないという。

「ぜ、絶対隠します! でも、隠し方がよくわかりません!」

私の言葉にエルさんは呆れ気味に笑っている。

「フェッフェッ、確かにこの力は隠しようがないねぇ。その代わり、見ただけではわからないんだから、まぁ、邪悪なものに近づかないぐらいしかできることはないかねぇ。あとは人の口に上らないよう慎重に行動することだよ」

最悪なのは、聖女の噂が広がって、そのことが権力者にまで届いてしまうことだ。市井の小さな噂のうちはいいが、噂が大きくなれば必ず確かめようとする権力者が現れてくる。

(つまり、できる限りこの力を人に見せない。これに尽きるね)

そういう生活になんら不満はないので、これからもできるだけ慎ましく地味な生活を……と改めて思っていると、部屋がノックされた。私は魔法を解き、入るよう促すと、先程の三人が兵士に連れられて入ってきた。とりあえず、首輪の外れた魔術師を私の前に、あとのふたりはエルさんの前に座らせるよう指示して、三人を席に着かせる。

と思ったら、私を見た瞬間、先ほどは号泣状態だった《契約の首輪》が外された魔術師がひざまずき、五体投地の勢いで祈りを捧げ始めた。

「大いなる我らが神のお導きに、偉大なるマーヴの采配に永久トコシエの感謝を。聖なる巫女姫さま、私をお救いくださいましたことに、ただただ衷心より御礼申し上げますぅううう」

涙ながらにそう言いながら、魔術師は胸の前に指を置き、五角形の頂点を押すような不思議な仕草を三回行った。

その様子にエルさんが私に耳打ちする。

「ほら、こうやってあんたを〝聖女〟扱いする人間が増えていくのさ。気をおつけよ!」
「は、ははは。うーん、そうですねぇ。これは確かに困ります……ね……」

ともかく彼は協力的になっている様子なので私が彼と話をし、その間にエルさんにあとのふたりの《契約の首輪》を見てもらうことにする。

彼は私の言うことには、絶対従うと決めているようで、私が祈りは必要ないから席のついて話を聞かせてほしいというと、目を輝かせて急いで席に座り直した。

「では、まずはお名前からね。あなたはどこの誰なのかしら?」
しおりを挟む
感想 2,991

あなたにおすすめの小説

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。

しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹 そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる もう限界がきた私はあることを決心するのだった

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。