利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

文字の大きさ
上 下
495 / 840
4 聖人候補の領地経営

684 ドール御一家

しおりを挟む
684

パーティーのお客様が会場に入られる直前に迎えの方がやってきて、私は所定の位置についた。

そこで私はひたすらにこやかに微笑み、来場してくる人たちに顔見せをするのが今回のメインミッションとなる。

「メイロードーー!!」

会場して間もなく、やんごとない姫にしては、随分と大きな声を出しながら満面の笑顔で近づいてきたのは、ドール侯爵家のご令嬢アリーシア様だった。

今日のドレスもフリル全開のパステル系。ドレスの随所に真珠が埋め込まれ、金糸を使った極上の刺繍も入れられている。ネックレスには私の宝飾ブランド〝パレス・フロレンシア〟の若者向けラインの薔薇モチーフのもの。イヤリングと指輪も同じラインのものを身につけられている。

「ああ、メイロード! やっと会えた!」

私の手を取り涙すら流す勢いで感激しているアリーシア様に、私も笑顔で応える。

「アリーシア様、ご無沙汰して本当に申し訳ございません。このところどうにも忙しくしておりまして……」
「ええ、それはお父様からも伺ったわ。メイロードはシルベスター公爵様のご親戚なのですってね。驚いたわ。しかも、おじいさまの意思を継いで、お父様が託されるはずだった土地の領主になってしまったのでしょう!」

どうやら私の領主就任の話は、なかなかの美談としてパレスに流布されているようだ。そんな私の身分や状況の変化が、とんでもないものであることは貴族であるアリーシア様にはよくわかっている。だから、彼女は私がまったくパレスの来なくなっても手紙や贈り物のやり取り以上のことは私に要求せず、とても我慢してくれていた。

(まぁ、手紙では〝寂しい〟〝会いたい〟ということを、遠回しに毎回書いてきてはいたけどね……)

「まぁ、アリーシア……なんて騒々しい。メイロードごめんなさいね」

後ろから優雅にお出ましになったのは侯爵位を継がれたドール参謀とルミナーレ様。ルミナーレ様はアリーシア様のはしゃぎぶりに、少しこめかみを抑えられている。

ここは会場の中心になる一段高い場所。贈られたたくさんの花に囲まれ、優雅で豪華なソファーやテーブルが置かれている。本日の主役の私は基本的にこの場から離れることはない。そして、この壇上に上がれるのは基本的には貴族だけ。しかも、高貴な方と私の親しい方以外は、許可なく上がってくることはできない。

というわけで、いまのところ壇上には私とおじさま、それにドール家の皆様だけだ。私が独占できる状況なのでアリーシア様は母君のお小言も完全スルーで相変わらず私にべったりだ。

「もうメイロードも貴族なのだし、お友だちなのだから、私のことはアリーシアと呼んでね。それにしても、せっかく貴族になったのでしょう? なぜパレスに全然いないの? 他の地方の方はもっと頻繁にいらっしゃるのに……」

「私の領地はここから遥か遠く、決して豊かではない土地なのです。いまは、その土地を少しでも良くするために時間を使いたいので、パレスにくる時間の余裕がないのです」

「ええ、そんなこと家令や大人に任せたらいいじゃない! なんでメイロードがしなくちゃいけないの?」

「アリーシア……私が〝領主〟なのですよ。それにマリス伯爵家は私の興した家ですから、古くから務める家令も、信頼できる長い付き合いのある人材もまだおりません。私がやらずにどうしますか」

そこでドール参謀も娘を諭す。

「アリーシア、お前は〝領主〟の責任など、まだわかりはしないだろう。幸いなことにわがドール家の領地は恵まれているが、多くの領地では領民が豊かに暮らせてはいないのが現実なのだ。まして、メイロードの領地は北東部の辺境……あの土地を治めるためには、パレスで社交をしているような余裕はないのだよ」

ルミナーレ様も、ふうっとため息をつかれた。

「先代のシルベスター公爵様が残された領地とは伺いましたが、そんな厳しい土地をメイロードがひとりで治めなければいけないなんて……助けが必要なら、いつでも連絡をするのですよ」

「ドール参謀、ルミナーレ様、ありがとうございます。ご承知の通りあの土地は決して恵まれてはおりませんが、それでもできることはございます。たしかに、まだ厳しくはございますが、これからです」

私は笑顔でおふたりに心配はいらないと言った。おそらく、ドール参謀は私の領地についてある程度は調べているだろうから、私が改革を進めていることは知っているだろう。それを知らないルミナーレ様やアリーシア様に、私が貴族のための都であるパレスにおちおちくることができない少女に見えているのは、当然といえば当然だ。

「そうご心配なさいますな、奥方様。メイロードは〝領主〟を楽しんでおりますよ。そうそう、最近はこんなものもメイロードが作らせているのですよ」

私たちの会話にサイデムおじさまが入り込む。おじさまが指差したのは、私の髪を結んでいるシュシュだ。

「これは……面白い髪飾りね」

おじさまがいいパスをあげてくれたので、私はサッと持ってきていた小さなマジックバッグからシュシュを取り出す。

「これは〝シュシュ〟というものです。伸縮性のある素材を見つけましたので、それを利用してこのような髪飾りを作ってみました。使う布は端切れで十分ですので、そう……たとえば今日お召しのドレスの端切れを使えば、ドレスと同じ柄の髪飾りを合わせて作ることもできます」

「それは素敵ね!」

おしゃれ大好きのアリーシア様はすぐに食いついてきた。

「私が着けているシュシュは、領地の女性たちが畑仕事の合間の時間に作って私に贈ってくれたものなのです。素朴ではありますが、とてもいい生地を使っていますし、ひと目ひと目丁寧な仕事をしてくれています」

「え、メイロードが作らせたのではないの?」

「もちろん、シュシュの作り方は私が教えましたが、これは村の方が私の祝いにと贈ってくれたものです。とても嬉しかったので、こうしてパーティー用にアレンジしてつけてきちゃいました」

「素敵なお話ね。メイロードはよく領地を治めているのですね」

ルミナーレ様が目を細めて、私の髪に飾られたシュシュを見つめる。一方、アリーシア様は私が手渡した可愛いシュシュを見つめながら、なんだかちょっと黙ってしまった。

(あれ、どうしたのかな?)
しおりを挟む
感想 2,995

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

この度、双子の妹が私になりすまして旦那様と初夜を済ませてしまったので、 私は妹として生きる事になりました

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
*レンタル配信されました。 レンタルだけの番外編ssもあるので、お読み頂けたら嬉しいです。 【伯爵令嬢のアンネリーゼは侯爵令息のオスカーと結婚をした。籍を入れたその夜、初夜を迎える筈だったが急激な睡魔に襲われて意識を手放してしまった。そして、朝目を覚ますと双子の妹であるアンナマリーが自分になり代わり旦那のオスカーと初夜を済ませてしまっていた。しかも両親は「見た目は同じなんだし、済ませてしまったなら仕方ないわ。アンネリーゼ、貴女は今日からアンナマリーとして過ごしなさい」と告げた。 そして妹として過ごす事になったアンネリーゼは妹の代わりに学院に通う事となり……更にそこで最悪な事態に見舞われて……?】

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

【短編】婚約破棄?「喜んで!」食い気味に答えたら陛下に泣きつかれたけど、知らんがな

みねバイヤーン
恋愛
「タリーシャ・オーデリンド、そなたとの婚約を破棄す」「喜んで!」 タリーシャが食い気味で答えると、あと一歩で間に合わなかった陛下が、会場の入口で「ああー」と言いながら膝から崩れ落ちた。田舎領地で育ったタリーシャ子爵令嬢が、ヴィシャール第一王子殿下の婚約者に決まったとき、王国は揺れた。王子は荒ぶった。あんな少年のように色気のない体の女はいやだと。タリーシャは密かに陛下と約束を交わした。卒業式までに王子が婚約破棄を望めば、婚約は白紙に戻すと。田舎でのびのび暮らしたいタリーシャと、タリーシャをどうしても王妃にしたい陛下との熾烈を極めた攻防が始まる。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。