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4 聖人候補の領地経営
683 パーティー直前
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683
「馬子にも衣装ですねぇ……」
きらびやかな正装に身を包んだサイデムおじさまの貴公子ぶりに、思わず言葉が出てしまった。普段見ているおじさまは髪は掻き毟ってボサボサ、動きやすい服でラーメンを大口で食べているおおよそ〝帝国の代理人〟らしくない姿ばかりだ。でも、こうして最高級の正装に身を包み、胸ポケットに花まで差して、完璧に髪も整えた姿は、十分〝男爵〟の貫禄があり、なかなかの男前だ。
「お前が言うな!」
せっかく姿は貴公子然としているのに、おじさまはギロッと私を睨んで、頭にゴチッと拳を当てにきた。
「うわぁ、やめてやめて! 痛いのは別にいいけど、セットが崩れたらセーヤに怒られちゃう!!」
私は慌てて頭をガードする。今日のヘアスタイルは構想一か月をかけたセーヤ渾身のパーティー用超豪華仕様なのだ。私は普段地味で目立たなくいることを心がけている。今回のような、いくら目立っても構わない〝主役〟スタイルは、セーヤにとっては滅多にない髪型に挑戦できる貴重な機会ということになる。
そのせいでセーヤの気合にはターボがかかっていて、もう一週間前から〝パーティー対策特別ヘアケア〟というフルコースのヘアパックを毎日小一時間させられてきた。
(おかげさまで、いつも以上に髪はツヤツヤで完璧なコンディションです……はい)
「確かに、見たこともないようなすごい飾りだな。その花は石でできているのか?」
「はい、花の中心にはカットを施した宝石が使われています。きれいでしょう?」
それはマリス領ならどこにでも生えているデイジーに似た可愛いポーリア草の花だ。その花弁のひとつひとつを、白い石から極薄に削り出すという相変わらずの離れ業で、この飾りはできている。実は、私はこの花を自分の紋章に使おうと考えていて、セーヤにもこのモチーフで髪飾りを作ってもらったのだ。
「野草が紋章とは、お前らしいな」
「いいでしょう?」
このポーリア草の花のモチーフは、領地のお姉様方から贈られたあのシュシュと一緒に髪に飾られ、私の髪は軽いカールをつけて左右ひと房づつを残し、シュシュと髪飾りを使った緩めのポニーテールにされている。
「そうしていると、ちゃんと貴族の姫に見えるから不思議だな……」
「おじさまにだけは言われたくありませんね!」
私たちは相変わらずあまり緊張感のない軽口を叩き合いながら、パーティー会場の控え室に到着した。今頃サルムとテレザは最後のチェックに忙しく動き回っているのだろうが、身支度が済んでしまった〝主役〟にはできることはなく、こうして邪魔にならないよう控え室にいることしかできない。
「さっきサルムが知らせてきたんだが、どうやら客数は我が家のいままでのパーティーの中でもダントツの人数だそうだ。それでなくても、ウチで開かれるパーティーの料理がうまいことは評判になっていたところに、リアーナ様のお覚えめでたき〝新貴族〟それもシルベスター公爵家直系の血筋の姫のパレス初お目見えってことで、前評判が凄いことになっているらしい」
しかも、その評判の情報発信の大元は、どうやら正妃様らしい。
正妃リアーナ様は、自分が目をかけた娘が高貴な血筋で、しかもその名誉を自ら復活させて領主となったことを、殊の外喜ばれていて、今回のパーティーについても、色々な方に話されていたそうだ。
(嬉しいんですけど、そこまで大事にしてくれなくても……いや、今回ばかりはありがたいと思わないとね)
窓の外に連なる数え切れないほどの数の馬車に、私はちょっと緊張し始めていた。
控え室にもすでに招待客をお迎えするための静かな音楽が流れてきている。会場が広いため、数カ所に配置された楽団が演奏しているのだが、その音は見事にシンクロしていて心地よい。なんでも、余興としてイス最高の美姫による優雅な踊りも披露されるそうだ。他にも一流の芸人さんたちを招聘し、お客様を飽きさせないために、色々と〝芸人ギルド〟の皆さんが盛り上げてくれるそうだ。
高い地位にある貴族の方々も多数来場されるため、警備もまた物々しい。
このためにイス警備隊のパサードさんがわざわざパレスまで来てくれて、警備の指揮をとってくれている。おじさまの私兵に加えて〝冒険者ギルド〟で選抜した優秀で身元のはっきりした人たちも加わり、人数は三百名以上だという。彼らが全員お揃いの立派な鎧に身を包んで警備についている様子はなかなか壮観だ。
(これだけでも、ものすごくお金がかかっているよね)
もちろん警備はそれだけではない。グッケンス博士監修のもと、私と博士で広域の防御魔法をかけている。これで私が他のことに気をとられていても魔法攻撃を検知できるし、最悪攻撃されても、ある程度は防御可能。実は面白がった博士によって自動の迎撃システムまでかけられている。
「博士、戦争するんじゃないんですからぁ、迎撃なんていります?」
「馬鹿者、〝攻撃こそ最大の防御〟という言葉を知らんのか。第二波を受ける前に叩くのが一番よ」
「あー、そーですか……」
私の領主就任を祝う宴に、どんな相手が攻撃をしてくることを想定しているのかわからないが、これならどこぞの国がいきなり攻撃を仕掛けてきても防げそうだ。
お食事担当の〝大地の恵み〟亭も、二週間休業して、今回のパーティーのための料理に取り組んでくれていて、今日もほぼ全員でパレスへ乗り込んできてくれている。
(それにしても皆さん力入りすぎじゃない?)
窓辺の椅子に座ってお茶を飲みつつ、皆さんの一切妥協のない仕事ぶりにプレッシャーを感じてしまう私なのだった。
「馬子にも衣装ですねぇ……」
きらびやかな正装に身を包んだサイデムおじさまの貴公子ぶりに、思わず言葉が出てしまった。普段見ているおじさまは髪は掻き毟ってボサボサ、動きやすい服でラーメンを大口で食べているおおよそ〝帝国の代理人〟らしくない姿ばかりだ。でも、こうして最高級の正装に身を包み、胸ポケットに花まで差して、完璧に髪も整えた姿は、十分〝男爵〟の貫禄があり、なかなかの男前だ。
「お前が言うな!」
せっかく姿は貴公子然としているのに、おじさまはギロッと私を睨んで、頭にゴチッと拳を当てにきた。
「うわぁ、やめてやめて! 痛いのは別にいいけど、セットが崩れたらセーヤに怒られちゃう!!」
私は慌てて頭をガードする。今日のヘアスタイルは構想一か月をかけたセーヤ渾身のパーティー用超豪華仕様なのだ。私は普段地味で目立たなくいることを心がけている。今回のような、いくら目立っても構わない〝主役〟スタイルは、セーヤにとっては滅多にない髪型に挑戦できる貴重な機会ということになる。
そのせいでセーヤの気合にはターボがかかっていて、もう一週間前から〝パーティー対策特別ヘアケア〟というフルコースのヘアパックを毎日小一時間させられてきた。
(おかげさまで、いつも以上に髪はツヤツヤで完璧なコンディションです……はい)
「確かに、見たこともないようなすごい飾りだな。その花は石でできているのか?」
「はい、花の中心にはカットを施した宝石が使われています。きれいでしょう?」
それはマリス領ならどこにでも生えているデイジーに似た可愛いポーリア草の花だ。その花弁のひとつひとつを、白い石から極薄に削り出すという相変わらずの離れ業で、この飾りはできている。実は、私はこの花を自分の紋章に使おうと考えていて、セーヤにもこのモチーフで髪飾りを作ってもらったのだ。
「野草が紋章とは、お前らしいな」
「いいでしょう?」
このポーリア草の花のモチーフは、領地のお姉様方から贈られたあのシュシュと一緒に髪に飾られ、私の髪は軽いカールをつけて左右ひと房づつを残し、シュシュと髪飾りを使った緩めのポニーテールにされている。
「そうしていると、ちゃんと貴族の姫に見えるから不思議だな……」
「おじさまにだけは言われたくありませんね!」
私たちは相変わらずあまり緊張感のない軽口を叩き合いながら、パーティー会場の控え室に到着した。今頃サルムとテレザは最後のチェックに忙しく動き回っているのだろうが、身支度が済んでしまった〝主役〟にはできることはなく、こうして邪魔にならないよう控え室にいることしかできない。
「さっきサルムが知らせてきたんだが、どうやら客数は我が家のいままでのパーティーの中でもダントツの人数だそうだ。それでなくても、ウチで開かれるパーティーの料理がうまいことは評判になっていたところに、リアーナ様のお覚えめでたき〝新貴族〟それもシルベスター公爵家直系の血筋の姫のパレス初お目見えってことで、前評判が凄いことになっているらしい」
しかも、その評判の情報発信の大元は、どうやら正妃様らしい。
正妃リアーナ様は、自分が目をかけた娘が高貴な血筋で、しかもその名誉を自ら復活させて領主となったことを、殊の外喜ばれていて、今回のパーティーについても、色々な方に話されていたそうだ。
(嬉しいんですけど、そこまで大事にしてくれなくても……いや、今回ばかりはありがたいと思わないとね)
窓の外に連なる数え切れないほどの数の馬車に、私はちょっと緊張し始めていた。
控え室にもすでに招待客をお迎えするための静かな音楽が流れてきている。会場が広いため、数カ所に配置された楽団が演奏しているのだが、その音は見事にシンクロしていて心地よい。なんでも、余興としてイス最高の美姫による優雅な踊りも披露されるそうだ。他にも一流の芸人さんたちを招聘し、お客様を飽きさせないために、色々と〝芸人ギルド〟の皆さんが盛り上げてくれるそうだ。
高い地位にある貴族の方々も多数来場されるため、警備もまた物々しい。
このためにイス警備隊のパサードさんがわざわざパレスまで来てくれて、警備の指揮をとってくれている。おじさまの私兵に加えて〝冒険者ギルド〟で選抜した優秀で身元のはっきりした人たちも加わり、人数は三百名以上だという。彼らが全員お揃いの立派な鎧に身を包んで警備についている様子はなかなか壮観だ。
(これだけでも、ものすごくお金がかかっているよね)
もちろん警備はそれだけではない。グッケンス博士監修のもと、私と博士で広域の防御魔法をかけている。これで私が他のことに気をとられていても魔法攻撃を検知できるし、最悪攻撃されても、ある程度は防御可能。実は面白がった博士によって自動の迎撃システムまでかけられている。
「博士、戦争するんじゃないんですからぁ、迎撃なんていります?」
「馬鹿者、〝攻撃こそ最大の防御〟という言葉を知らんのか。第二波を受ける前に叩くのが一番よ」
「あー、そーですか……」
私の領主就任を祝う宴に、どんな相手が攻撃をしてくることを想定しているのかわからないが、これならどこぞの国がいきなり攻撃を仕掛けてきても防げそうだ。
お食事担当の〝大地の恵み〟亭も、二週間休業して、今回のパーティーのための料理に取り組んでくれていて、今日もほぼ全員でパレスへ乗り込んできてくれている。
(それにしても皆さん力入りすぎじゃない?)
窓辺の椅子に座ってお茶を飲みつつ、皆さんの一切妥協のない仕事ぶりにプレッシャーを感じてしまう私なのだった。
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