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4 聖人候補の領地経営
677 高貴なお茶会
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677
有能なセイツェさん。当然サイデムおじさまに根回し済みで、おじさまからすべての準備は任せろという快諾を得ていた。
本来であれば領主となる私が主催し、その手腕を見せるべきところではあるのだが、なにせ私はまだ十五歳にすらなっていない未成年。それが後見人であるサガン・サイデムという強い影響力を持つ人物を立てられる根拠となる。
(こうなると、未成年だったのがむしろ良かったかな。大パーティーの準備にまで駆り出されたら仕事がパンクしちゃうわ)
「メイロードさまの領主就任を祝う宴はパレスのサイデム邸で執り行われることになりまして、この催しに関する一切は〝サイデム商会・催事部〟が総力を上げて準備してくださるそうでございます」
「あー、そう……」
実はサイデム邸はあれから大きく増築され、どんな大パーティーでも開けるだけの規模になっている。〝帝国の代理人〟となったことで、おじさまに関する何もかもスケールアップしているようだ。私のための宴は、その立派な屋敷を使って、ものすごく気合の入った準備がされるのだろうと想像がつく。もちろん相談されればアイディアは提供するつもりだが、基本的に口を出さないのがお互いのためのような気がする。それに自らが発起人となって行うこうした公式イベントの成否は〝帝国の代理人〟としてのおじさまのメンツにも関わることだ。主導権はあくまでおじさまに、この宴についての一切はサイデム商会にお任せしよう。
ここまでは、なんとか私が手を出す必要もあまりなく済みそうだったが、まだ催しは残っている。
その第三の宴、これが一番の問題だった。
「正確に申せば、これは不特定多数の方をお招きする大規模な宴ではございません。むしろ、極々小規模なお茶会でございます」
この〝お茶会〟が行われるのは、公式行事の後のことなのだそうだ。
今回の叙勲及び任命式典のため、国中から集まってくる新領主たちのために、皇宮内のいくつかの建物が解放され、宿泊が可能になる。領主の代替わりや領地奉授などを受けるのは、毎年おおよそ十から十五名なのだが、その〝新領主〟たちには、慣例としてそれぞれ簡単なキッチンが用意されたホテルのスイートのような部屋が与えられることになっているのだ。
元々は地方から出てくるパレスに明るくない貴族のための気遣いだったらしいが、いまでは多くの貴族はパレスにも家を構えているし、構えていなくとも親戚筋の屋敷が喜んで迎えてくれるため、この部屋に宿泊する必要はなく、当日の控え室として利用するだけの場合も多いそうだ。
ただし、この部屋にはあるイベントが用意されている。
公式行事が終了すると、新領主たちがその与えられた部屋に皇宮内にお住まいのもしくは立ち入れる地位の方々をお招きして、茶話会を開くのだ。
「これには皇族の方々がご参加になるわけでございますが、どの方の控え室へお出ましになるのかは当日まで知らされません。すべては皇族方の自由意志でございますので、どの部屋を訪ねるのも自由でございますし、すべての方々を平等に訪れられるわけでもございません」
つまりここでも競争というわけのようだ。まったくもってゲンナリする。
「おそらくお招きすれば正妃のリアーナ様は来てくださるでしょう? それで十分だと思うけど……」
「確かにメイロードさまは正妃様と大変親密な関係でいらっしゃいますから、それで問題はございませんね。ただ、正妃様をがっかりさせたりしないよう、当日の設えには十分な気配りが必要でございますよ」
セイツェさんによると、いらした皇族方につき従ってくる召使たちから、どのような茶話会だったのかはあっという間に貴族たちに広がり、その評判はその後の貴族生活に大きな影響を与えることになるそうだ。
(もちろん、話した内容を漏らしたら大ごとだけど、どんなもてなしだったかについては話していいのだそうだ。まぁ、そういうの好きそうだよね)
皇族方を喜ばせた〝お覚えめでたき領主〟と認定されれば、貴族たちから一目置かれることになり、邪魔をされることも少なくなるし、名も売れるので何もせずとも影響力が増すという。
「全然パレスに現れなくても、それなりに評価してもらえるなら、まぁ、お得といえばお得よね……うーん、どうしよう」
皇族方をお招きしての極々小規模なお茶会、だが相手は贅沢に慣れた方たちで、しかもライバルもたくさん。
(でも、別にたくさんの方にきてもらう必要はないんだし、リアーナ様をおもてなしすることに集中すればいいよね。新しいものや美しいものがお好きなリアーナ様だから、新作のお菓子は出したいな、趣向はどうしよう……)
「メイロードさま、ペンが止まっていますよ」
どうやら考えごとをしていて、サインをしていたペンが止まっていたようだ。キッペイから容赦なくゲキが飛ぶ。
「あ、ごめん。ハイハイ、すぐに書きますよっと!」
私はまず目の前の仕事を片付けるため、再びペンを走らせる。
(これが済んだら、お茶会のアイディアを少し考えなきゃね)
有能なセイツェさん。当然サイデムおじさまに根回し済みで、おじさまからすべての準備は任せろという快諾を得ていた。
本来であれば領主となる私が主催し、その手腕を見せるべきところではあるのだが、なにせ私はまだ十五歳にすらなっていない未成年。それが後見人であるサガン・サイデムという強い影響力を持つ人物を立てられる根拠となる。
(こうなると、未成年だったのがむしろ良かったかな。大パーティーの準備にまで駆り出されたら仕事がパンクしちゃうわ)
「メイロードさまの領主就任を祝う宴はパレスのサイデム邸で執り行われることになりまして、この催しに関する一切は〝サイデム商会・催事部〟が総力を上げて準備してくださるそうでございます」
「あー、そう……」
実はサイデム邸はあれから大きく増築され、どんな大パーティーでも開けるだけの規模になっている。〝帝国の代理人〟となったことで、おじさまに関する何もかもスケールアップしているようだ。私のための宴は、その立派な屋敷を使って、ものすごく気合の入った準備がされるのだろうと想像がつく。もちろん相談されればアイディアは提供するつもりだが、基本的に口を出さないのがお互いのためのような気がする。それに自らが発起人となって行うこうした公式イベントの成否は〝帝国の代理人〟としてのおじさまのメンツにも関わることだ。主導権はあくまでおじさまに、この宴についての一切はサイデム商会にお任せしよう。
ここまでは、なんとか私が手を出す必要もあまりなく済みそうだったが、まだ催しは残っている。
その第三の宴、これが一番の問題だった。
「正確に申せば、これは不特定多数の方をお招きする大規模な宴ではございません。むしろ、極々小規模なお茶会でございます」
この〝お茶会〟が行われるのは、公式行事の後のことなのだそうだ。
今回の叙勲及び任命式典のため、国中から集まってくる新領主たちのために、皇宮内のいくつかの建物が解放され、宿泊が可能になる。領主の代替わりや領地奉授などを受けるのは、毎年おおよそ十から十五名なのだが、その〝新領主〟たちには、慣例としてそれぞれ簡単なキッチンが用意されたホテルのスイートのような部屋が与えられることになっているのだ。
元々は地方から出てくるパレスに明るくない貴族のための気遣いだったらしいが、いまでは多くの貴族はパレスにも家を構えているし、構えていなくとも親戚筋の屋敷が喜んで迎えてくれるため、この部屋に宿泊する必要はなく、当日の控え室として利用するだけの場合も多いそうだ。
ただし、この部屋にはあるイベントが用意されている。
公式行事が終了すると、新領主たちがその与えられた部屋に皇宮内にお住まいのもしくは立ち入れる地位の方々をお招きして、茶話会を開くのだ。
「これには皇族の方々がご参加になるわけでございますが、どの方の控え室へお出ましになるのかは当日まで知らされません。すべては皇族方の自由意志でございますので、どの部屋を訪ねるのも自由でございますし、すべての方々を平等に訪れられるわけでもございません」
つまりここでも競争というわけのようだ。まったくもってゲンナリする。
「おそらくお招きすれば正妃のリアーナ様は来てくださるでしょう? それで十分だと思うけど……」
「確かにメイロードさまは正妃様と大変親密な関係でいらっしゃいますから、それで問題はございませんね。ただ、正妃様をがっかりさせたりしないよう、当日の設えには十分な気配りが必要でございますよ」
セイツェさんによると、いらした皇族方につき従ってくる召使たちから、どのような茶話会だったのかはあっという間に貴族たちに広がり、その評判はその後の貴族生活に大きな影響を与えることになるそうだ。
(もちろん、話した内容を漏らしたら大ごとだけど、どんなもてなしだったかについては話していいのだそうだ。まぁ、そういうの好きそうだよね)
皇族方を喜ばせた〝お覚えめでたき領主〟と認定されれば、貴族たちから一目置かれることになり、邪魔をされることも少なくなるし、名も売れるので何もせずとも影響力が増すという。
「全然パレスに現れなくても、それなりに評価してもらえるなら、まぁ、お得といえばお得よね……うーん、どうしよう」
皇族方をお招きしての極々小規模なお茶会、だが相手は贅沢に慣れた方たちで、しかもライバルもたくさん。
(でも、別にたくさんの方にきてもらう必要はないんだし、リアーナ様をおもてなしすることに集中すればいいよね。新しいものや美しいものがお好きなリアーナ様だから、新作のお菓子は出したいな、趣向はどうしよう……)
「メイロードさま、ペンが止まっていますよ」
どうやら考えごとをしていて、サインをしていたペンが止まっていたようだ。キッペイから容赦なくゲキが飛ぶ。
「あ、ごめん。ハイハイ、すぐに書きますよっと!」
私はまず目の前の仕事を片付けるため、再びペンを走らせる。
(これが済んだら、お茶会のアイディアを少し考えなきゃね)
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