利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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4 聖人候補の領地経営

676 パレスからの召喚

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676

領主の仕事は思った以上に忙しかった。

もちろん、領主自らが動き回る必要などないのに動き回っている私が悪いのだが、あちこちで新しい試みを始めてしまっているため、私がいないとどうにも判断がつかないことが多々発生してしまっていた。

この世界ではありえないらしい〝行動する領主〟である私が、とっくにパンクしていても不思議はないぐらいの案件を抱えながら、それでも比較的自由に動けているのは、有能な人材のおかげだ。

役場の人たちはとても良くやってくれているし、側近筆頭のキッペイは獅子奮迅の大活躍で巷では〝三つ子〟疑惑が出るほどの働きぶりで頑張ってくれている。それにヘクトルさんクバルさんの金勘定に長けたふたりがいてくれるので、商売や領地運営に関するデスクワークを最小限に抑えることができていることも大きい。

貴族としての雑事は、基本的にすべてお断りで、その対応はセイツェさんに丸投げしている。とはいえ、一応大貴族〝シルベスター公爵家〟の係累ではあるため、時々は招待状も舞い込むのだ。まぁ、パレスに一切顔も出さず、僻地の領地に行きっぱなしの田舎貴族など、貴族としてはまったく影響力のない、付き合いをする価値のない部類に入るので、こんな対応でもさして問題はない。

「メイロードさま、少しお話がございます」

私が執務室で書類のサインを書いているところに、セイツェさんがやってきた。相変わらずダンディーで、背筋の伸びた人だが、最近は田舎暮らしのせいで少し日焼けもして精悍さも加わってきた。

「あ、セイツェさん。パーティーやお茶会のお誘いはすべて断ってね……って、そんなことわかってるわよね」

苦笑いをする私に、セイツェさんはやたらと立派な封筒を差し出した。

「こちらは断るという種類のものではございませんのでお持ちいたしました」

それは招待状という名の召喚状。皇帝の名の下に開かれる叙勲式典への参加者に送られた通知書だった。

「叙勲式典では、様々な功労者へ褒賞が授与されます。と当時に、新しく当主となった貴族たちが、皇帝に挨拶し正式にその地位を認められるための式典も兼ねているのでございます」

褒賞として新たな土地をもらい領主となる者や領地の代替わりでその名を継ぐ者、ともかく新人領主が集められるイベントらしい。

「つまり、この式典に出ないとシド帝国に公式に認められた領主にはなれないわけね」

私の領地継承は、しっかりと手続きを踏んでのものだし何も問題はないけれど、それでもやはり皇帝陛下へのお目通りだけは避けて通るわけにはいかないらしい。セイツェさんも私の多忙な状況をよくわかっているので、少し申し訳なさそうだが、そのセイツェさんがそれでもというのだから、これは絶対に断ってはいけない行事だとわかった。

「わかりました。では、その式典に参加すればいいのですね」

私は覚悟を決めてそう言ったが、セイツェさんの答えは違った。

「いえ、この式典はそのような簡単なものではございません。少なくとも、ご出席されるにあたっては、三度の祝宴を開催する必要がございますから……」

「ええ!! 三回も何するの?」

領主になるということは、本来大ごとなのだそうだ。それを寿コトホぐための祝宴となれば、領地をあげての一大イベントなのだそうだ。

まずは領民に対して行う祝宴。これは、領内の有力者たちを集めてのお披露目のようなものだ。だが、これに関してはすでに会議も兼ねて行っている。

「では、今回はこの宴は省略してもよろしいでしょう。ですが、できれば何か領民たちに振る舞いたいところでございますな」

セイツェさんの言葉に、私はしばし考えた。

(ものを与えるのも芸がないし、せっかくの祝いごとなのだからみんなにも楽しんでもらうほうがいいよね)

そして私は、こう提案した。

「では、各区の〝土地神様の祠〟に、領主就任の祝いということで祝い品とお金を寄進をしましょう。それを使って、祭りをしてもらえれば、地域の人たちも喜んでくれるのではないかしら?」

私の言葉にセイツェさんは、とても嬉しそうに賛同してくれた。

「それは素晴らしいご提案でございます。皆さま喜ばれるでしょうし、領主としての行動といたしましても充分。実にご立派なお考えでございます」

……ということで、一つ目の宴は決まった。

二つ目はパレスの有力者や貴族たちを招いての宴会だ。

「同じ時期に宴席が集中することになりますので、どうしても小さな領地の領主の宴には人が集まりません。ですが、あまりに閑散とした宴席になってしまっても、メイロードさまの恥となりましょう……」

私としては、パレスでの評判のための宴席が盛況かどうかなんて、別にそんなことはどうでもいいのだが、セイツェさんとしては私の恥になるようなことはなんとしても阻止したいらしい。

「そこで、この宴会には別の主催者を立てることにしてはいかがかと……」

〝メイロード・マリスの領主就任を祝う会〟として、本人ではなく私を支援する別の人間が発起人となり主宰するパーティーにするというわけだ。当然、その人物の権威でパーティーに人を集めるという算段。

「つまり、サイデムおじさまの主催ってことね」

苦笑いを浮かべながらの私の言葉にセイツェさんは、いつもの鉄壁の微笑みを浮かべながらうなずいた。

(まぁ、それしかないよね)
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