利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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4 聖人候補の領地経営

675 宴の終わりに

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675

その日、村の皆さんが私に出してくれたご馳走はなかなかおいしいものだった。

もちろんこの世界の常で塩に偏った味付けではあるのだが、自生するハーブで香りをつけたり、柑橘を使って酸味を補ったりと、精一杯の工夫をしてくれた料理に、私はとても美味しかったと笑顔でお礼を言った。

マズロさんも私の言葉に満足げだ。

私もこの宴を通じて村の人たちとたくさん話ができてとてもうれしかった。おかみさんたちから話が伝わったせいなのか、女性陣はかなりフランクに話しかけてくれるようになってきているし、子供たちはお土産にと持ってきたキャラメルやクッキーに夢中になりながら、私にたくさん話しかけてくれた。

彼らは新しい村をとても楽しんでくれている様子だ。問題がありそうなら、またすぐ来るつもりだが、村はもとより彼ら自身で営んでいくものだし〝イワムシ草〟の畑についても、私はあまり口を出すつもりはない。基本的な生育条件のついてもしっかり伝えたことだし、あとは彼らの改善に期待しよう。

「私からのお願いがひとつあります。字のかける方を書記にして、この村や〝イワムシ草〟に関して、どんな改善案が出て、実際にどうだったかについて、しっかり日報に記載してください。

私にはそうした建設的な提案に対し褒賞を支払う用意があります。たとえその案がうまくいかなかった場合でも、次につながる可能性があるものに対しては評価するつもりなので、どんどん提案をしてくれるよう皆さんにお伝えください」

私はマズロさんに、そうした小さな改善案や意見を見逃さないようお願いし、さらに女性や子供からの提案もしっかり書き込んでくれるように頼んだ。

「違う目線からの意見は、とても重要です。軽くみることのないよう、お願いしますね」

それから、私は子供たちのための幼稚園そしてそれに併設する形の寺子屋風施設をなるべく早い段階で作ることを提案した。

ここの規模ではまだ、学校までは建てられないが、学べる機会と施設は最低限揃えたい。すでにシラン村では読み書きや計算がしっかりできる子も育ってきているので、彼らのうち希望者数人にこの寺子屋と幼稚園を任せてみようと思っている。もちろん時間があれば私も手伝うつもりだ。

「農家の子供にそこまで……」

マズロさんは、熱心に語る私にやや引き気味だが、その考えは変えてもらうしかない。

「マズロさん。先程私がお願いした日報ですが、マズロさんに読み書きができれば、書記を待つ必要もなく、修正や訂正も簡単にできます。計算のできる人が増えれば作業の速さが変わります。〝農家の子〟だから、必要ないなんてことはないんですよ」

「……」

「私の生まれ育った村では、数年前からすべての子供たちが読み書きをしっかり習うようになりました。そうすると、多くの家に読み書きのできる子供がいるので、文字での意思疎通が簡単にできるようになり、重要な情報が見過ごされることがなくなったんですよ。いまではその子たちが農家以外の仕事につくことで、これまでになかった新しい仕事が生まれ、もらえるお金も増えています」

パチパチとはじける焚き火の炎を見ながら、私はマズロさんにシラン村の躍進は、そうした基礎教育に支えられることでより発展したのだと伝えた。

「この村で育ったことを子供たちが誇れるような、そんな村にしましょうね」

私の言葉にマズロさんは、はい、はい、と何度もうなずいた。そして、少し考え込んだマズロさんから最初の改善案が私に提案された。

「あの……大人が読み書きを習う機会も作れないでしょうか? 私もこの村の代表のようになっていますが、字は少ししかわかりません。ですがメイロードさまのお話を聞きまして、このままではいけないと思い直しました……」

夜もふけ、片づけが始まった焚き火端、私に手を振って帰っていく子どもたちに手を振り返しながら、私はマズロさんに言った。

「とてもいい案ですね。すぐに実現しましょう。はい、これがこの村で最初の褒賞です。どうぞ」

私はバッグから黒板と白墨のセットと〝メイロードのもじあそび〟の本を取り出して渡した。マズロさんは、驚きながらもそれを受け取ってちょっと少年のようにはにかんだ、でも楽しそうな表情をしている。

(リーダーが、こんな風に向上心のある人なら、きっとうまくいくね)

「マズロさんの文字で書かれた日報が読める日を楽しみに待っていますね!」

小さくなった炎の向こうに、綺麗な星空が見える。とてもいい夜だった。
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