利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

文字の大きさ
上 下
468 / 837
4 聖人候補の領地経営

657 夕食を食べながら

しおりを挟む
657

その日の夜、私はいつものようにイスのマリス邸のキッチンで夕食の支度にイソしんでいた。

今日はセータイズの港に行ったので、当然魚市場にも寄ってきた。あまり時間はなかったが、それでも行かずにいられないのが私だ。市場の規模は大きくなかったものの、市場調査も兼ねてたくさんの新鮮な魚介類を手に入れたので、海鮮中心の献立にしようかと思っている。

「この小魚は、捌いてから揚げて甘酢と醤油に漬け込んで南蛮漬けにしようかなぁ。あ、お酒のアテに味噌と細かく叩いた魚を混ぜたなめろうもいいよね」

ソーヤとふたりでちゃっちゃと魚を捌きながら、機嫌よく料理しているとグッケンス博士がやってきた。

「今日は魚か。では日本酒が良いかのぉ」

「ええ、今日はまず辛口のお酒を召し上がられるのがいいと思います。すぐにおつまみを用意しますね」

私は辛口純米の冷酒となめろう、それに漬物を用意して晩酌セットを準備。きっとすぐにやってくるだろうセイリュウの分も箸を並べた。

「そうだ! 博士に聞きたいことがあったんです」

私は目下の懸案事項〝セータイズ港改善計画〟を迅速に行うための方法として考えていることの可能性について、グッケンス博士に聞いてみることにした。

「以前お伺いしたお話では、空間移動系の魔法にはかなり厳しい制限がかけられているということでしたよね」

「ああ《空間接続ゲート》のような瞬間移動系の魔法は犯罪に使われる可能性が高い。そのため、特に重要な施設のある場所には、必ずそれを探知するための魔法がかけられているぐらい警戒されているな。不用意に使えばすぐ魔法の《探知網ネスト》に引っかかり、軍が間髪を入れずに飛んでくる」

「それは、こんな辺境の田舎町でも同じでしょうか?」

「いや、さすがにそこまではされてはおらんよ。もとより空間移動系の魔法は高い技術力と魔法力が必要なものだ。田舎で泥棒をするために使われるような簡単な魔法ではない。大都市の中枢、軍の施設、パレス周辺以外の場所でなんにんもの魔術師の連携が必要な広域の《探知網ネスト》が使われることはないと考えて良い。もし心配ならば《地形探査》を使って確認すれば、お前さんなら容易に《探知網ネスト》の有無は確認できよう」

私はそれを聞いて安心した。これからしようとしている計画で、その点が一番気になっていたのだ。軍の介入を気にする必要がないのならば、私の考え通りにをすることができる。空間移動系の魔法が使えるというなら、私には自分の力でできることがある。

白髪ネギをふわっと盛り付け、出来上がった白身魚の煮付けと貝の酒蒸しを博士の前に置いた私は、今後の計画についてグッケンス博士に聞いてもらうことにした。

「なるほど、それはメイロードにしかできん、修行の成果が問われる仕事になりそうだの」

博士は煮付けをとても美味しそうに突きながら、私の計画を半ば呆れ気味に、でも面白そうに聴いている。

稀代の魔法使いも笑う私の考えた計画、それは魔法を使った突貫工事での港の再構築だ。海中での作業や大きな石の運搬など、危険が伴う作業を、私の魔法を使って短期間に終わらせて、危険の少ない仕上げ仕事を街の人たちにお願いする。

これならば港の再スタートまでの期間を短くできるし、一番の問題点である、予算と時間をたっぷり割かねかればならなかった難工事の部分を街の人たちのやらせずに済むので、大幅な節約になる。

「《空間魔法》は、魔法力の消費が激しい。お前さんの魔法力ならそう簡単に枯渇するとは思わんが、くれぐれも注意しながら使うことだ」

「はい。十分気をつけます」

やってきたセイリュウにも料理を出し、お酒を注ぐ。

「楽しそうじゃない? また何かやらかすの?」

「やらかすってなんですか! 領地改善のためのお仕事ですよ」

私が港の改善計画を話すと、セイリュウも杯を持ったまま面白そうに笑った。

「自分の領地のためとはいえさ、魔法力を使って領民の生活を良くするために動くなんて、この国の貴族たちには考えもつかないことだよね。この世界で尊ばれる魔法は攻撃や防御のための、いわば戦うためのものばかり……みんながメイロードのように魔法を使うようになれば、世界はもっと良くなるのにね」

セイリュウから見れば、戦いに明け暮れる人間の世界はきっと哀れで悲しく見えるのだろう。

とはいえ、いまは平穏の見えるこの世界も、まだ様々な脅威にさらされている戦いの世界だ。魔法にも戦いのための武器としての役割が重要視されることは仕方がないだろう。貴族たちが、その貴重な魔法力を闘い以外に使うことがないのも、有事の際を考えてのことだ。

「まぁ、私は好きに使いますけどね。いまの私には、これ以上の有意義な使い方なんてありませんから」

「メイロードはそれでいいと思うよ。しっかりやってね」
「うむ。いい港を作れよ」

気になっていた《探知網ネスト》問題も気にする必要がないとわかり、ふたりにも応援してもらえて、私は俄然やる気になった。
そのまま食卓に港の地図を広げて、明日からの計画を相談しながら、私たちはとれたてピチピチの魚料理の並ぶ夕食を美味しく楽しんだ。

ソーヤは小魚をカリッと揚げて香味野菜と甘酢で漬け込んだ骨まで食べられる南蛮漬けがとても気に入ったようで、モリモリ食べて満足そう。
「このジュワッと染み出る油と甘酢のこってり甘い味がご飯と完璧な相性でございますね。骨まで美味しゅうございます。素晴らしい魚の食べ方でございます!」

(気に入ってくれて何より。ホント丸ごと食べるの好きよね。たくさん作っておいて良かった)
しおりを挟む
感想 2,991

あなたにおすすめの小説

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。

しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹 そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる もう限界がきた私はあることを決心するのだった

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。