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4 聖人候補の領地経営
647 最強の布陣
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647
〝パレス菓子博覧会〟最終日である三日目の朝は、ある話題で持ちきりだった。
〝博覧会会場で、昨晩深夜謎の落雷〟そんなニュースが会場の外でささやかれ、今日の菓子博がちゃんと開催されるのかどうか、多くの人々が心配げに囁き合っていた。
どうやら徹夜組の人たちが噂の出所で、彼らによれば、昨夜皆うつらうつらしていた真夜中のこと。いきなり大きな雷鳴が轟き、それと同時に数人の男たちの短い絶叫が会場内から聞こえたという。
「それは魔法に違いないよ! どこぞの馬鹿が菓子を盗もうとして、警備をしている軍部の魔術師にやられたんだよ」
「いやいや、あれは魔物だよ。恐ろしいねぇ、人を襲うヤツがこんなところに出るなんて」
「そんな馬鹿な、魔物だなんて。でも何かの天変地異だったら怖いねぇ……」
詳しい情報が何もないので、人々はただ不安に駆られていた。
「昨夜の落雷については、特に問題はない。本日も予定通り菓子博は開催される」
だが、大会本部からは早々にこうした安心できる通達が上がり、並んでいた人たちはほっとしたそうだ。
(仕方ないこととはいえ、徹夜組の方たちを驚かせちゃったなぁ……)
「なかなか派手な警備だったようじゃな、メイロード」
バックヤードで準備中の私の横で、簡易休憩所の椅子にどっかりと座り、コーヒーを飲みながらクレープを美味しそうに食べているのはグッケンス博士とセイリュウ。最終日の応援に来てくれたらしいが、あまり動く気があるようには見えない。
「昨日ご挨拶にいらしたご店主たちの話だと〝金の小箱〟はだいぶ切羽詰まっているようだったので、一応用心のために屋台周辺に結界と雷の魔法を少々張り巡らせておいたのですけれど……まぁ、案の定やってきたみたいです」
パレスの高級店では当たり前のセキュリティー対策なので、まさかこれに引っかかるとは思っていなかったのだが、たかが屋台と侮っていたのだろうか、彼らはこの魔法がかけられていることに気づかぬまま、コソコソと火をかけにやってきた。
(結局直接攻撃の嫌がらせかぁ、ワンパターンだよねぇ~)
物理攻撃も魔法攻撃も撃退できるよう万全の対策をしてあった私は、疲労もあり、それで安心していたため異変を知らせるベルにも気づかず寝てしまい、朝までまったく気がつかなかった。一応、私の警備を買って出てくれているセイリュウが現場を見に行ってくれたそうだが、屋台の近くで電撃をまともに受けて黒焦げ一歩手前で引きつっている数名を発見したらしい。油も大量に持っていたそうだから、もし引火していたら自分たちが燃えていただろう。
(たとえ火事になっても、結界があるから屋台は無事だよ)
セイリュウも特に店に被害はなさそうだったので、男たちを動けないように軽く拘束すると、そのまま放置して帰ったそうだ。
(まぁ、雷撃はショックは大きいけど、あの程度ならヤケドするぐらいで大した怪我は負わないからね)
で、今朝のなって店の設営に来た者が発見して通報。彼らは大量の油と火をつけるための道具を所持していたため、放火未遂で逮捕となった。国の主催するイベントでこういった行為に出れば、決して軽くない処罰が下るのはわかっている。
これが焦った〝金の小箱〟関係者の独断のよる騒ぎだとすれば、きっとタガローサのような慎重さでは準備をしていないに違いない。おそらくすぐに犯行については明らかになるだろうし、現行犯を逮捕済みなので言い逃れもできない。
「まぁ、今日の営業にはなんの支障も出なくてよかったです。ともかく、この件の詮議は菓子博終了後に持ち越しだそうですよ。一応対外的には国の行っているイベントですから、開催中は問題を起こしたくないので、全容解明までしばし待ってほしい、と先程ドール参謀から伝言がありました」
コーヒーをすすりながら、グッケンス博士は少し笑う。
「ドールか……あれも策士よの」
「まぁ、味方に策士がいるのは悪くないんじゃない?」
こちらはだいぶウイスキーの量の多いアイリッシュコーヒーを飲みながら、セイリュウが返す。
「すべては明日の受賞式典が終わってからじゃな。どれ、わしも少し協力してやろう」
グッケンス博士は席に座ったまま、お持ち帰り用のクレープ用を入れる紙箱を魔法で次々に組み立て始めた。周りにいた従業員からは「わぁ!」
っと、驚きの声が上がる。グッケンス博士は簡単そうにやっているが、複数の箱の組み立てを高速の並列処理で繰り返しながら移動までさせているのだから、相当な技術が必要だ。ここまで見事な魔法は、なかなか街の人は目にする機会がないだろう。
(これに近いことができていたのは仙鏡院のトルッカ・ゼンモンさんぐらいかなぁ)
「他にも単純作業があるなら持ってくるといい。わしがやってやろう」
「助かります博士。これで、売り子さんの負担がだいぶ減ります」
「じゃ、僕は会場を巡回しながらこれを配ろうかな」
セイリュウは〝金の籠〟のクッキーの入ったマジックバッグを手に取る。
私はもう見慣れたけど、こんな背が高くて稀に見る美形のお兄さんがおいしいお菓子を配っていたら、目立つこと請け合いだ。セイリュウにもみんなと同じチョコレート色のエプロンをつけてもらって、私と一緒に屋台周辺の今までより広い範囲で試供品を配っていくことにした。
さらにパワーアップした布陣で三日目を駆け抜ける。狙うは優勝のみなのだ!
〝パレス菓子博覧会〟最終日である三日目の朝は、ある話題で持ちきりだった。
〝博覧会会場で、昨晩深夜謎の落雷〟そんなニュースが会場の外でささやかれ、今日の菓子博がちゃんと開催されるのかどうか、多くの人々が心配げに囁き合っていた。
どうやら徹夜組の人たちが噂の出所で、彼らによれば、昨夜皆うつらうつらしていた真夜中のこと。いきなり大きな雷鳴が轟き、それと同時に数人の男たちの短い絶叫が会場内から聞こえたという。
「それは魔法に違いないよ! どこぞの馬鹿が菓子を盗もうとして、警備をしている軍部の魔術師にやられたんだよ」
「いやいや、あれは魔物だよ。恐ろしいねぇ、人を襲うヤツがこんなところに出るなんて」
「そんな馬鹿な、魔物だなんて。でも何かの天変地異だったら怖いねぇ……」
詳しい情報が何もないので、人々はただ不安に駆られていた。
「昨夜の落雷については、特に問題はない。本日も予定通り菓子博は開催される」
だが、大会本部からは早々にこうした安心できる通達が上がり、並んでいた人たちはほっとしたそうだ。
(仕方ないこととはいえ、徹夜組の方たちを驚かせちゃったなぁ……)
「なかなか派手な警備だったようじゃな、メイロード」
バックヤードで準備中の私の横で、簡易休憩所の椅子にどっかりと座り、コーヒーを飲みながらクレープを美味しそうに食べているのはグッケンス博士とセイリュウ。最終日の応援に来てくれたらしいが、あまり動く気があるようには見えない。
「昨日ご挨拶にいらしたご店主たちの話だと〝金の小箱〟はだいぶ切羽詰まっているようだったので、一応用心のために屋台周辺に結界と雷の魔法を少々張り巡らせておいたのですけれど……まぁ、案の定やってきたみたいです」
パレスの高級店では当たり前のセキュリティー対策なので、まさかこれに引っかかるとは思っていなかったのだが、たかが屋台と侮っていたのだろうか、彼らはこの魔法がかけられていることに気づかぬまま、コソコソと火をかけにやってきた。
(結局直接攻撃の嫌がらせかぁ、ワンパターンだよねぇ~)
物理攻撃も魔法攻撃も撃退できるよう万全の対策をしてあった私は、疲労もあり、それで安心していたため異変を知らせるベルにも気づかず寝てしまい、朝までまったく気がつかなかった。一応、私の警備を買って出てくれているセイリュウが現場を見に行ってくれたそうだが、屋台の近くで電撃をまともに受けて黒焦げ一歩手前で引きつっている数名を発見したらしい。油も大量に持っていたそうだから、もし引火していたら自分たちが燃えていただろう。
(たとえ火事になっても、結界があるから屋台は無事だよ)
セイリュウも特に店に被害はなさそうだったので、男たちを動けないように軽く拘束すると、そのまま放置して帰ったそうだ。
(まぁ、雷撃はショックは大きいけど、あの程度ならヤケドするぐらいで大した怪我は負わないからね)
で、今朝のなって店の設営に来た者が発見して通報。彼らは大量の油と火をつけるための道具を所持していたため、放火未遂で逮捕となった。国の主催するイベントでこういった行為に出れば、決して軽くない処罰が下るのはわかっている。
これが焦った〝金の小箱〟関係者の独断のよる騒ぎだとすれば、きっとタガローサのような慎重さでは準備をしていないに違いない。おそらくすぐに犯行については明らかになるだろうし、現行犯を逮捕済みなので言い逃れもできない。
「まぁ、今日の営業にはなんの支障も出なくてよかったです。ともかく、この件の詮議は菓子博終了後に持ち越しだそうですよ。一応対外的には国の行っているイベントですから、開催中は問題を起こしたくないので、全容解明までしばし待ってほしい、と先程ドール参謀から伝言がありました」
コーヒーをすすりながら、グッケンス博士は少し笑う。
「ドールか……あれも策士よの」
「まぁ、味方に策士がいるのは悪くないんじゃない?」
こちらはだいぶウイスキーの量の多いアイリッシュコーヒーを飲みながら、セイリュウが返す。
「すべては明日の受賞式典が終わってからじゃな。どれ、わしも少し協力してやろう」
グッケンス博士は席に座ったまま、お持ち帰り用のクレープ用を入れる紙箱を魔法で次々に組み立て始めた。周りにいた従業員からは「わぁ!」
っと、驚きの声が上がる。グッケンス博士は簡単そうにやっているが、複数の箱の組み立てを高速の並列処理で繰り返しながら移動までさせているのだから、相当な技術が必要だ。ここまで見事な魔法は、なかなか街の人は目にする機会がないだろう。
(これに近いことができていたのは仙鏡院のトルッカ・ゼンモンさんぐらいかなぁ)
「他にも単純作業があるなら持ってくるといい。わしがやってやろう」
「助かります博士。これで、売り子さんの負担がだいぶ減ります」
「じゃ、僕は会場を巡回しながらこれを配ろうかな」
セイリュウは〝金の籠〟のクッキーの入ったマジックバッグを手に取る。
私はもう見慣れたけど、こんな背が高くて稀に見る美形のお兄さんがおいしいお菓子を配っていたら、目立つこと請け合いだ。セイリュウにもみんなと同じチョコレート色のエプロンをつけてもらって、私と一緒に屋台周辺の今までより広い範囲で試供品を配っていくことにした。
さらにパワーアップした布陣で三日目を駆け抜ける。狙うは優勝のみなのだ!
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