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4 聖人候補の領地経営
631 新たな土地神様を
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631
「これを持ち出したということは、何か腑に落ちないことがあるのだろう、セイリュウよ」
〝厭魅〟を楽しそうに見ながら博士はセイリュウの意図を汲み取っているようだ。
「そうなんだよね。〝守護妖精〟からの情報では、コイツは空からあの森へと落ちてきたそうなんだけどさ。じゃあ一体どこから落ちてきたのか、って話で……」
ふたりの話によると〝厭魅〟の中には、動物を誘導して自分を運ばせたり、火山活動を利用して飛ばされたりと、変わった方法で遠方へ移動するものもあるそうだ。中には時間をかけて自分で動くものもあるらしい。
「だけど〝厭魅〟自体かなり珍しいものだし、強力なものはそう簡単には生まれないはずなんだ。エントの森の〝厭魅〟だって何百年もかかってできたものだし。
ところが今回のやつも、また強力過ぎる。こんなのがそうそう自然にできるものなのか不思議でね。しかも#____#この〝厭魅〟からは、人に近いはっきりとした怨恨が感じ取れたんだ」
博士の興味の持ちようでも明らかだが〝厭魅〟は激レアの呪物だ。百年に一度出現するかどうかという珍しいもの。それが、ここ数年ですでにふたつ見つかったというのは、確かに異常な感じがする。セイリュウが不審に思うのも当然だろう。しかも、いくつもの〝厭魅〟に接したことのあるセイリュウが、この〝厭魅〟には何か違和感を感じているという。
博士は何やら魔法をかけて目の前で〝厭魅〟の表面を拡大しながら、セイリュウの話を聞いている。
「強い恨みは〝厭魅〟の核となる構成要素ではあるが、人の恨みが数百年続くことはまずなかろう。代々の恨みを吸わせるような魔道具でも使ったらあるいは可能かも知れんが、そんなものの話も聞いたことがないしのぉ……」
博士は〝厭魅〟をクルクルと回しながら、なにかを考えている様子だ。やはりグッケンス博士もなにか異常な気配を感じているようだ。
ふたりはその恐ろしい呪物の話を肴にあれこれと言いながら、相変わらずしっかり飲み食いし、お酒のおかわりはいつも以上のピッチですすんでいる。ちょっとあり得ない呆れた光景だが、今更驚く私でもなし。
第八区の皆さんからお土産にいただいたジャイアントボアを黒糖や五香粉、八角を使ってじっくりと中華風に仕上げたツヤツヤの角煮を盛り付け、小鉢に胡麻和えと白和えを用意しながら、私はふたりの会話を聞いていた。
「わしも少し調べてみることにしよう。こいつを借りてもいいか?」
なんだか嬉しそうな博士に、セイリュウが少し呆れ気味にどうぞという。
「そうかそうか。これは楽しみ……いやいや、新しい研究ができそうだの」
こうして怪しさ満載の謎の呪物〝厭魅〟は、一時グッケンス博士のあずかりとなり、どういうものなのか研究されることになったのだった。
「次はどこにいく予定なんだっけ、メイロード」
私はよくぞ聞いてくれたという気持ちで、セイリュウに答えた。
「次はですね。第十区に行こうと思っています。私の領地唯一の海に接した地区なんです! もう楽しみで楽しみで! セイリュウも博士も期待していてくださいね。この地区の魚市場で最高の魚介を仕入れてきますから! どんな魚があるのか、楽しみだなぁ」
私はウキウキと、第十区のことを話す。
ここへ行くことで、私の領地の外周にはすべて《無限回廊の扉》を設置できるので、移動が楽になるという意味でも、ここは重要な土地だ。
私はソホス町を離れる前に、ひとつの依頼をした。私が土地神様にいただいたペンダントをモデルとしたジャイアントボア像の製作だ。
「随分と可愛らしいお姿でございますね」
サシさんは、私のペンダントの図柄を職人に書き写させながら、従来のイメージと異なる姿に戸惑っていたので、少しだけ補足しておくことにした。
「私が祈祷していたときに、お告げがあったのです。そのときに見えた土地神様は、このようなお姿だったのですよ」
そう伝えたところ、サシさんは大層驚きながらも喜んで納得してくれた。最高の職人に作らせて、魔物殿へと据え、末長く祈りを捧げさせていただきますと言ってくれた。
(嘘は言ってないもんね。祈祷所に土地神様はいたもんね)
こうしてしっかりとした姿をみんなが拝んでくれれば、きっとそれは土地神様の力となり、この土地を守ってくれるだろう。私が、今度ここを訪れるときには、私もしっかり拝むことにしよう。この土地の危機を救ってくれた、この愛らしい土地神様の姿を……
「これを持ち出したということは、何か腑に落ちないことがあるのだろう、セイリュウよ」
〝厭魅〟を楽しそうに見ながら博士はセイリュウの意図を汲み取っているようだ。
「そうなんだよね。〝守護妖精〟からの情報では、コイツは空からあの森へと落ちてきたそうなんだけどさ。じゃあ一体どこから落ちてきたのか、って話で……」
ふたりの話によると〝厭魅〟の中には、動物を誘導して自分を運ばせたり、火山活動を利用して飛ばされたりと、変わった方法で遠方へ移動するものもあるそうだ。中には時間をかけて自分で動くものもあるらしい。
「だけど〝厭魅〟自体かなり珍しいものだし、強力なものはそう簡単には生まれないはずなんだ。エントの森の〝厭魅〟だって何百年もかかってできたものだし。
ところが今回のやつも、また強力過ぎる。こんなのがそうそう自然にできるものなのか不思議でね。しかも#____#この〝厭魅〟からは、人に近いはっきりとした怨恨が感じ取れたんだ」
博士の興味の持ちようでも明らかだが〝厭魅〟は激レアの呪物だ。百年に一度出現するかどうかという珍しいもの。それが、ここ数年ですでにふたつ見つかったというのは、確かに異常な感じがする。セイリュウが不審に思うのも当然だろう。しかも、いくつもの〝厭魅〟に接したことのあるセイリュウが、この〝厭魅〟には何か違和感を感じているという。
博士は何やら魔法をかけて目の前で〝厭魅〟の表面を拡大しながら、セイリュウの話を聞いている。
「強い恨みは〝厭魅〟の核となる構成要素ではあるが、人の恨みが数百年続くことはまずなかろう。代々の恨みを吸わせるような魔道具でも使ったらあるいは可能かも知れんが、そんなものの話も聞いたことがないしのぉ……」
博士は〝厭魅〟をクルクルと回しながら、なにかを考えている様子だ。やはりグッケンス博士もなにか異常な気配を感じているようだ。
ふたりはその恐ろしい呪物の話を肴にあれこれと言いながら、相変わらずしっかり飲み食いし、お酒のおかわりはいつも以上のピッチですすんでいる。ちょっとあり得ない呆れた光景だが、今更驚く私でもなし。
第八区の皆さんからお土産にいただいたジャイアントボアを黒糖や五香粉、八角を使ってじっくりと中華風に仕上げたツヤツヤの角煮を盛り付け、小鉢に胡麻和えと白和えを用意しながら、私はふたりの会話を聞いていた。
「わしも少し調べてみることにしよう。こいつを借りてもいいか?」
なんだか嬉しそうな博士に、セイリュウが少し呆れ気味にどうぞという。
「そうかそうか。これは楽しみ……いやいや、新しい研究ができそうだの」
こうして怪しさ満載の謎の呪物〝厭魅〟は、一時グッケンス博士のあずかりとなり、どういうものなのか研究されることになったのだった。
「次はどこにいく予定なんだっけ、メイロード」
私はよくぞ聞いてくれたという気持ちで、セイリュウに答えた。
「次はですね。第十区に行こうと思っています。私の領地唯一の海に接した地区なんです! もう楽しみで楽しみで! セイリュウも博士も期待していてくださいね。この地区の魚市場で最高の魚介を仕入れてきますから! どんな魚があるのか、楽しみだなぁ」
私はウキウキと、第十区のことを話す。
ここへ行くことで、私の領地の外周にはすべて《無限回廊の扉》を設置できるので、移動が楽になるという意味でも、ここは重要な土地だ。
私はソホス町を離れる前に、ひとつの依頼をした。私が土地神様にいただいたペンダントをモデルとしたジャイアントボア像の製作だ。
「随分と可愛らしいお姿でございますね」
サシさんは、私のペンダントの図柄を職人に書き写させながら、従来のイメージと異なる姿に戸惑っていたので、少しだけ補足しておくことにした。
「私が祈祷していたときに、お告げがあったのです。そのときに見えた土地神様は、このようなお姿だったのですよ」
そう伝えたところ、サシさんは大層驚きながらも喜んで納得してくれた。最高の職人に作らせて、魔物殿へと据え、末長く祈りを捧げさせていただきますと言ってくれた。
(嘘は言ってないもんね。祈祷所に土地神様はいたもんね)
こうしてしっかりとした姿をみんなが拝んでくれれば、きっとそれは土地神様の力となり、この土地を守ってくれるだろう。私が、今度ここを訪れるときには、私もしっかり拝むことにしよう。この土地の危機を救ってくれた、この愛らしい土地神様の姿を……
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