438 / 837
4 聖人候補の領地経営
627 氷の箱
しおりを挟む
627
〔ワタクシにお任せください、メイロードさま〕
この場面で頼りになるのは、竪琴の達人こと私の“武装魔具”ミゼルだ。
私はまず妖精たちに後方へ下がるように指示した。そして、彼らが引いたことを確認したところで、行動を起こす。
「《捕縛の森》」
私はそう言いながら、上空に向けて美しい弓を引き魔法の矢を放つ。
上空に放たれた魔法の矢から出現した無数の細い光は、そのまま雨のように地面へと吸い込まれ、地面からは大量のツタが一気に伸びていく。ツタは動物たちが戸惑っている間に、スルスルとその身を捕らえ、麻痺の効果を与えながら、さらに縛り上げていった。
助けを呼ぼうとする声すら出せないうちに、あたりは静けさに包まれ、数分後には、数千、もしかしたら万以上の動けない動物たちが森の中で彫像のように立ち尽くしていた。
「これは……」
レンはあまりの出来事に、あっけにとられているが、私にはすでに見慣れた光景だ。
〔ありがとう、ミゼル……助かったわ〕
〔なんのこれしき。お役に立ててなによりでございました。でも、呼んでいただくならば竪琴として呼んでいただく方がうれしいですね〕
〔私もなるべくそうしたいと思っているわ、ミゼル〕
そんな《念話》を交す私とミゼルの前には、先ほどまで轟音を上げながら動物や魔物が突進してきていた森の中の少し開けた場所。いまは動けなくなった動物や魔物の姿が、あたり一面に広がっている。
私は作戦の成功をレンに告げ、〝守護妖精〟たちをねぎらった。
「みんな、よくやってくれました。うまくいったね。でも、これはそう長くは持たない術なの。いずれ“厭魅”を封じた後に、解放しようと思うけれど、彼らを解放したら、またしばらくは……」
地上に降り、まだ呪いに染まった血走った眼をしたまま、ツタにとらわれている彼らを見ていた私に、少し空に浮いた状態で近づいてきた、土地神様が話しかけてきた。
〔それは、わしがなんとかしてみせよう。すぐには無理でも、なに数時間あれば、ある程度は正気に戻せる。呪いの浄化は任せなさい!〕
相変わらずまるまっちくてかわいいのに、なんだかその姿がいまは頼もしい。
「よろしくお願いします! ありがとうございます! 土地神様!」
土地神様は、その丸い躰から強い光を放ち始めた。この光に呪いを浄化する力があるのだろう。そのまま、ふわふわと浮きながらそのまぶしい光を動物たちに浴びせていく。すると、徐々に動物たちの目から血走った色が消えてゆくのがわかった。
〔すごい! すごいです! 土地神様!〕
うれしくなった私がそう《念話》で告げると、相変わらずプカプカ浮いている、土地神様に怒られた。
〔そんなことを言っている間はないぞ。娘! そなたはあの方を助けに行かんか! “厭魅”の周りには、まだ厄介な魔物たちが残っているのだろう〕
〔あ、はい! そうでした! 行ってきます!!〕
私はすぐアタタガ・フライとともに、“厭魅”へと再び近づいて行った。
土地神様の言ったことは、まさにその通りで、セイリュウは複数の大型の魔物に攻撃されながら、“厭魅”と向き合っている。
「セイリュウ! 遅くなってごめん! 魔物のことは任せて!」
私はそう言うと《土障壁》を5メートルの高さまで一気に建て、魔物たちとセイリュウの間を分断した。
〔助かった! じゃ僕は“厭魅”のやつを封じることに専念するよ〕
壁の向こうから念話が届く。その間も、魔物たちは狂ったように壁に攻撃をして破壊しようとしているが、その間にさらに壁を作って、そう簡単には壊せないように補強した。
それで、ほっとしたのもつかの間、どうやっても破壊できない壁に業を煮やした魔物たちは、まずは私を攻撃するよう方針を変えてきた。
〔この魔物たちはあまりに“厭魅”の瘴気を浴び過ぎた。もう元には戻れない。残念だけど、土に返してやってほしい〕
悲しそうにセイリュウの《念話》が届く。先ほどの戦いで、セイリュウがそう感じたのなら、もう彼らは戻れないのだろう。
〔わかったよ、セイリュウ。彼らには眠ってもらう〕
私は正気を失い、暴れ狂う彼らを哀れに思っていた。おそらくセイリュウもそうだろう。
「《氷箱》」
私はそう言うと、まず《地形把握》と《索敵》を使い、“厭魅”の周囲に残っていた《狂化》した魔物たちの位置を把握し、それぞれの魔物が収まるサイズの箱の大きさを指定した。そしてその中に一気に水と冷気を魔法で流しいれる。
魔物たちは、何が起こったのか知ることもなく一瞬で、皆氷の柱の中に封じ込められた。巨大なミスリルクローベアもキングバイソンも三つ目トロールも、氷の中で立ち尽くし動く隙もなかっただろう。
やがて、命の絶えた彼らの目からは、輝きとともに《狂化》の影も消えていった。
(後はセイリュウ、お願いね!)
〔ワタクシにお任せください、メイロードさま〕
この場面で頼りになるのは、竪琴の達人こと私の“武装魔具”ミゼルだ。
私はまず妖精たちに後方へ下がるように指示した。そして、彼らが引いたことを確認したところで、行動を起こす。
「《捕縛の森》」
私はそう言いながら、上空に向けて美しい弓を引き魔法の矢を放つ。
上空に放たれた魔法の矢から出現した無数の細い光は、そのまま雨のように地面へと吸い込まれ、地面からは大量のツタが一気に伸びていく。ツタは動物たちが戸惑っている間に、スルスルとその身を捕らえ、麻痺の効果を与えながら、さらに縛り上げていった。
助けを呼ぼうとする声すら出せないうちに、あたりは静けさに包まれ、数分後には、数千、もしかしたら万以上の動けない動物たちが森の中で彫像のように立ち尽くしていた。
「これは……」
レンはあまりの出来事に、あっけにとられているが、私にはすでに見慣れた光景だ。
〔ありがとう、ミゼル……助かったわ〕
〔なんのこれしき。お役に立ててなによりでございました。でも、呼んでいただくならば竪琴として呼んでいただく方がうれしいですね〕
〔私もなるべくそうしたいと思っているわ、ミゼル〕
そんな《念話》を交す私とミゼルの前には、先ほどまで轟音を上げながら動物や魔物が突進してきていた森の中の少し開けた場所。いまは動けなくなった動物や魔物の姿が、あたり一面に広がっている。
私は作戦の成功をレンに告げ、〝守護妖精〟たちをねぎらった。
「みんな、よくやってくれました。うまくいったね。でも、これはそう長くは持たない術なの。いずれ“厭魅”を封じた後に、解放しようと思うけれど、彼らを解放したら、またしばらくは……」
地上に降り、まだ呪いに染まった血走った眼をしたまま、ツタにとらわれている彼らを見ていた私に、少し空に浮いた状態で近づいてきた、土地神様が話しかけてきた。
〔それは、わしがなんとかしてみせよう。すぐには無理でも、なに数時間あれば、ある程度は正気に戻せる。呪いの浄化は任せなさい!〕
相変わらずまるまっちくてかわいいのに、なんだかその姿がいまは頼もしい。
「よろしくお願いします! ありがとうございます! 土地神様!」
土地神様は、その丸い躰から強い光を放ち始めた。この光に呪いを浄化する力があるのだろう。そのまま、ふわふわと浮きながらそのまぶしい光を動物たちに浴びせていく。すると、徐々に動物たちの目から血走った色が消えてゆくのがわかった。
〔すごい! すごいです! 土地神様!〕
うれしくなった私がそう《念話》で告げると、相変わらずプカプカ浮いている、土地神様に怒られた。
〔そんなことを言っている間はないぞ。娘! そなたはあの方を助けに行かんか! “厭魅”の周りには、まだ厄介な魔物たちが残っているのだろう〕
〔あ、はい! そうでした! 行ってきます!!〕
私はすぐアタタガ・フライとともに、“厭魅”へと再び近づいて行った。
土地神様の言ったことは、まさにその通りで、セイリュウは複数の大型の魔物に攻撃されながら、“厭魅”と向き合っている。
「セイリュウ! 遅くなってごめん! 魔物のことは任せて!」
私はそう言うと《土障壁》を5メートルの高さまで一気に建て、魔物たちとセイリュウの間を分断した。
〔助かった! じゃ僕は“厭魅”のやつを封じることに専念するよ〕
壁の向こうから念話が届く。その間も、魔物たちは狂ったように壁に攻撃をして破壊しようとしているが、その間にさらに壁を作って、そう簡単には壊せないように補強した。
それで、ほっとしたのもつかの間、どうやっても破壊できない壁に業を煮やした魔物たちは、まずは私を攻撃するよう方針を変えてきた。
〔この魔物たちはあまりに“厭魅”の瘴気を浴び過ぎた。もう元には戻れない。残念だけど、土に返してやってほしい〕
悲しそうにセイリュウの《念話》が届く。先ほどの戦いで、セイリュウがそう感じたのなら、もう彼らは戻れないのだろう。
〔わかったよ、セイリュウ。彼らには眠ってもらう〕
私は正気を失い、暴れ狂う彼らを哀れに思っていた。おそらくセイリュウもそうだろう。
「《氷箱》」
私はそう言うと、まず《地形把握》と《索敵》を使い、“厭魅”の周囲に残っていた《狂化》した魔物たちの位置を把握し、それぞれの魔物が収まるサイズの箱の大きさを指定した。そしてその中に一気に水と冷気を魔法で流しいれる。
魔物たちは、何が起こったのか知ることもなく一瞬で、皆氷の柱の中に封じ込められた。巨大なミスリルクローベアもキングバイソンも三つ目トロールも、氷の中で立ち尽くし動く隙もなかっただろう。
やがて、命の絶えた彼らの目からは、輝きとともに《狂化》の影も消えていった。
(後はセイリュウ、お願いね!)
218
お気に入りに追加
13,119
あなたにおすすめの小説
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?
水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが…
私が平民だとどこで知ったのですか?

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。
しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹
そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる
もう限界がきた私はあることを決心するのだった

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。