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4 聖人候補の領地経営
620 ファイヤートルネード
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620
私がやろうとしていることは、基本的には魔法屋のやり方と変わらない。
ただ、今回は通常の火炎を使った魔法や、野焼きの延長のような攻撃では、火力が足りないだろうと判断した。中途半端な攻撃を散発的に加えても、おそらく効果は限定的だ。下手を打てば大部分を逃したり、最悪攻撃に転じさせることになり人的な被害が多く出ることになる。
〝麦食い〟に効果的なのが火を使った攻撃だとして、ではどうしたらいいのか……通常の駆逐プロセスをなぞったところで、脅威となるほどの数に大増殖した〝麦食い〟を短時間で壊滅までは追い込めない。やみくもに高火力の《火魔法》を使うだけでは、すべてを一気に葬ることは難しい。最初の攻撃に失敗し、奴らに分散されることだけはなんとしても防がなければ……
(勝負は一撃できめないとだめだ。よし、まずは奴らをまとめて動けないようにしないと……)
「《竜巻》」
私は《流風》の上位魔法《竜巻》を使ってみることにした。より強い回転力を付加したこの魔法は、周囲のものをその風の内側へと強力に巻き込む性質を持っている。
それをつぎつぎと作り出し、私の目の前で瞬時に五十本の《竜巻》が、広い草原を走り始める。突然現れた謎の強風に、状況の変化に対応できない“麦食い”が右往左往する間に、たくさんの《竜巻》を動かしながら、竜巻の風の中に奴らを取り込んでいく。
(なんだか、掃除機でお掃除しているみたいね)
私が吸引力のすごい渦を巻く掃除機を思い浮かべている間に、草原を移動する五十本の《竜巻》は、ほとんどすべての〝麦食い〟をその内側に収めた。
それを確認した私は次に《竜巻》を合体させて、十本の巨大な《竜巻》へと成長させた。大きくなればなるほど制御が難しくなっていくこの魔法だが、魔法学校で技術を学び、グッケンス博士に鍛え上げられたいまの私には、このぐらいのことは難なくできる。
(うん、修行の成果が出てるね。大丈夫、いける!)
黒い粒を大量に抱え込んだ不気味な色をした十本の巨大竜巻の下部に、私は《着火》で、小さな火種を作り出す。
その小さな炎は竜巻に閉じ込められた〝麦食い〟に引火し、風に煽られて、瞬く間に火柱へと変わっていった。竜巻の中で燃え盛る炎は、龍のように上空へと昇っていき、暫くの間轟音を立てていたが、やがてすべてを燃やし尽くし消えていった。
すべてが燃え尽きたことをしっかりと確認したあと、《竜巻》を解除した。焼失した巨大な竜巻のあった場所には、完全に炭化し燃え尽きた黒い砂のようなものだけが残っていた。
見渡す限りの草原は食い荒らされ〝麦食い〟の爪痕を残酷に残してはいるが、もうあの大群はどこにもいない。
いまは静かな草原と農地に、やさしい風が吹き、鳥の声が聞こえるだけだ。
「ふう、終わったね……」
上々の結果に満足した私は、周囲に張り巡らせた《迷彩魔法》の壁を解除し、《物理結界》を、解除。最後に《雷鳴柱》も解除した。
達成感で力が抜けた私がそこに見たのは、私の身長よりも高いところまで積み上がった“麦食い”の死骸の山。思った以上にとんでもない量の〝麦食い〟が私の《雷鳴柱》電柵にやられていたのだ。
いまにも自分の方に崩れてきそうな虫の魔物の死骸の山に、私は言葉も発せず白目で崩れ落ちた。
私の様子をずっと横で心配そうに見守ってくれていたアタタガ・フライが慌てて抱き上げて救出してくれなかったら、〝麦食い〟の死骸で生き埋めになっていたかもしれない。
でも、私がそのまま気絶してしまったのは、仕方がないことだった……と思う。
二度目の気絶から目覚めたのは、その日の夜深くになってからだ。
私は一番落ち着けるイスのマリス邸のベッドにいた。
「お目覚めでございますか?」
ベッドの横にはセーヤ。
「魔法をたくさん使うと躰も心も疲れるから、そのまま寝かせておいたほうがいいとグッケンス博士が申されましたので、ここにお運びしてご様子を見ておりました。お躰の調子はいかがでございますか?」
「うん……大丈夫よ。魔法もそんなに負担になるほどには使ってないの。ただ、たしかに今回は精神的にかなり削られたわね……でも、もう終わったから大丈夫。心配させたちゃったね」
自分の苦手を盛大に晒してしまった今回、恥ずかしさにちょっと苦笑いの私にセーヤはやさしく微笑む。
「誰しも苦手なものというのはございます。メイロードさまがご無事なら、それでいいのです。でも、できましたら、また眠られる前に、少しでもお食事をしてくださいませ。すぐソーヤがご用意いたしますので……」
「ありがとう……それじゃお豆腐のグラタンがいいな。お野菜多めで!」
すぐにソーヤから《念話》が届く。
〔了解しました! 《無限回廊の扉》の中にはメイロードさまお手製のお豆腐がございますから、すぐにお支度できますよ! おいしいピクルスもお持ちいたしますね!〕
〔ありがとう、ソーヤ〕
「では、支度ができるまで、御髪のケアをいたしましょう。本日はさすがにお風呂には遅いですし、まずは《清浄》の魔法をお使いください。さあさ、こちらへ……」
嬉々として椅子へと案内するセーヤに苦笑しながらも、私は、はいはいと答えて移動する。
(もう、虫騒動は終わり! 次の場所を見に行くためにも、切り替えなくちゃね)
私がやろうとしていることは、基本的には魔法屋のやり方と変わらない。
ただ、今回は通常の火炎を使った魔法や、野焼きの延長のような攻撃では、火力が足りないだろうと判断した。中途半端な攻撃を散発的に加えても、おそらく効果は限定的だ。下手を打てば大部分を逃したり、最悪攻撃に転じさせることになり人的な被害が多く出ることになる。
〝麦食い〟に効果的なのが火を使った攻撃だとして、ではどうしたらいいのか……通常の駆逐プロセスをなぞったところで、脅威となるほどの数に大増殖した〝麦食い〟を短時間で壊滅までは追い込めない。やみくもに高火力の《火魔法》を使うだけでは、すべてを一気に葬ることは難しい。最初の攻撃に失敗し、奴らに分散されることだけはなんとしても防がなければ……
(勝負は一撃できめないとだめだ。よし、まずは奴らをまとめて動けないようにしないと……)
「《竜巻》」
私は《流風》の上位魔法《竜巻》を使ってみることにした。より強い回転力を付加したこの魔法は、周囲のものをその風の内側へと強力に巻き込む性質を持っている。
それをつぎつぎと作り出し、私の目の前で瞬時に五十本の《竜巻》が、広い草原を走り始める。突然現れた謎の強風に、状況の変化に対応できない“麦食い”が右往左往する間に、たくさんの《竜巻》を動かしながら、竜巻の風の中に奴らを取り込んでいく。
(なんだか、掃除機でお掃除しているみたいね)
私が吸引力のすごい渦を巻く掃除機を思い浮かべている間に、草原を移動する五十本の《竜巻》は、ほとんどすべての〝麦食い〟をその内側に収めた。
それを確認した私は次に《竜巻》を合体させて、十本の巨大な《竜巻》へと成長させた。大きくなればなるほど制御が難しくなっていくこの魔法だが、魔法学校で技術を学び、グッケンス博士に鍛え上げられたいまの私には、このぐらいのことは難なくできる。
(うん、修行の成果が出てるね。大丈夫、いける!)
黒い粒を大量に抱え込んだ不気味な色をした十本の巨大竜巻の下部に、私は《着火》で、小さな火種を作り出す。
その小さな炎は竜巻に閉じ込められた〝麦食い〟に引火し、風に煽られて、瞬く間に火柱へと変わっていった。竜巻の中で燃え盛る炎は、龍のように上空へと昇っていき、暫くの間轟音を立てていたが、やがてすべてを燃やし尽くし消えていった。
すべてが燃え尽きたことをしっかりと確認したあと、《竜巻》を解除した。焼失した巨大な竜巻のあった場所には、完全に炭化し燃え尽きた黒い砂のようなものだけが残っていた。
見渡す限りの草原は食い荒らされ〝麦食い〟の爪痕を残酷に残してはいるが、もうあの大群はどこにもいない。
いまは静かな草原と農地に、やさしい風が吹き、鳥の声が聞こえるだけだ。
「ふう、終わったね……」
上々の結果に満足した私は、周囲に張り巡らせた《迷彩魔法》の壁を解除し、《物理結界》を、解除。最後に《雷鳴柱》も解除した。
達成感で力が抜けた私がそこに見たのは、私の身長よりも高いところまで積み上がった“麦食い”の死骸の山。思った以上にとんでもない量の〝麦食い〟が私の《雷鳴柱》電柵にやられていたのだ。
いまにも自分の方に崩れてきそうな虫の魔物の死骸の山に、私は言葉も発せず白目で崩れ落ちた。
私の様子をずっと横で心配そうに見守ってくれていたアタタガ・フライが慌てて抱き上げて救出してくれなかったら、〝麦食い〟の死骸で生き埋めになっていたかもしれない。
でも、私がそのまま気絶してしまったのは、仕方がないことだった……と思う。
二度目の気絶から目覚めたのは、その日の夜深くになってからだ。
私は一番落ち着けるイスのマリス邸のベッドにいた。
「お目覚めでございますか?」
ベッドの横にはセーヤ。
「魔法をたくさん使うと躰も心も疲れるから、そのまま寝かせておいたほうがいいとグッケンス博士が申されましたので、ここにお運びしてご様子を見ておりました。お躰の調子はいかがでございますか?」
「うん……大丈夫よ。魔法もそんなに負担になるほどには使ってないの。ただ、たしかに今回は精神的にかなり削られたわね……でも、もう終わったから大丈夫。心配させたちゃったね」
自分の苦手を盛大に晒してしまった今回、恥ずかしさにちょっと苦笑いの私にセーヤはやさしく微笑む。
「誰しも苦手なものというのはございます。メイロードさまがご無事なら、それでいいのです。でも、できましたら、また眠られる前に、少しでもお食事をしてくださいませ。すぐソーヤがご用意いたしますので……」
「ありがとう……それじゃお豆腐のグラタンがいいな。お野菜多めで!」
すぐにソーヤから《念話》が届く。
〔了解しました! 《無限回廊の扉》の中にはメイロードさまお手製のお豆腐がございますから、すぐにお支度できますよ! おいしいピクルスもお持ちいたしますね!〕
〔ありがとう、ソーヤ〕
「では、支度ができるまで、御髪のケアをいたしましょう。本日はさすがにお風呂には遅いですし、まずは《清浄》の魔法をお使いください。さあさ、こちらへ……」
嬉々として椅子へと案内するセーヤに苦笑しながらも、私は、はいはいと答えて移動する。
(もう、虫騒動は終わり! 次の場所を見に行くためにも、切り替えなくちゃね)
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