利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

文字の大きさ
上 下
426 / 840
4 聖人候補の領地経営

615 視察準備

しおりを挟む
615

「すべての領地をご訪問になるのですか?」

「うん、そうよ。全部見ておきたいの」

シルベスター公爵の訪問のおかげで、正式に“マリス領の所有である”と確認が取れた旧シルベスター公爵邸は、領主の館として再稼働した。今日は私のために整えてくれた執務室で、キッペイたちと今後の予定について話している。

大抵の領主は、領主の居城のある土地から動くことはない。用事があれば相手を呼びつけるのが当たり前だ。

それに領内の情報が欲しいというのであれば、領地内は税務官たちが、徴税調査のために巡回しており、彼らから必要な情報は得ることができる。だがそれでも、私としては今後の領地運営のために、実地でこれから運営していく土地を見ておきたいのだ。やはり実際に行ってみないとわからないことはあるし、新しい領主がちゃんと仕事をしようとしていることを、土地の人に直接伝えて理解してもらいたいし、問題があるのなら一緒に考えていきたいと思う。

そして、極秘ミッションとして、もうひとつ重要なことのためにも、私は十の州へ出向く必要があるのだ。そう、私の領地である北東部十州にクイックアクセスできるようにするためだ。

(とにかく早いところ《無限回廊の扉》を使ったネットワークを領内に張り巡らせたいんだよね。この十州に一度行って《無限回廊の扉》を設置してしまえば、何か緊急の問題が起きたときに迅速に動けるから、これだけは早急に確保しておきたいんだ。でも、周りには言えないからこっそりやらないと……)

私の秘密スキルのもろもろについては、誰にどこまで話すか、まだ決めかねている。キッペイは《無限回廊の扉》については、ぼんやりと知ってはいると思う。一度は中を通ってシラン村へ一緒に行ったこともあるのだから、半分教えてしまっているようなものだ。とはいえ、その仕組みや何ができるのかの詳細はまだ伝えていない。

秘密を共有するということは、危険も共有することにつながるので、どちらかというとその覚悟が私のほうにないのかもしれない。知らなければ知らないで済むことも、知っているために危険に巻き込まれる可能性もあるのだ。

(グッケンス博士やセイリュウは、絶対自分の身は自分で守れるから心配してないんだけど、キッペイはそうじゃないしね)

私はマルコとロッコが危険な目に合った経緯もあり、私に関わったことで回りに危険が及ぶことをとても恐れている。あのふたりはいまでは料理の腕だけでなく格闘技の腕も磨いて、すっかり立派になっちゃったけど、それでもやはりいまでも心配はつきない。

(キッペイも剣や格闘術の訓練をずっと続けていて、それなりに強いとは聞いているんだけど、何せ変な魔法も多い世界だから、やっぱり心配なんだよね)

どちらにしても私とともに仕事をしてくれる子たちには《無限回廊の扉》については、いずれきっちり話さなければならないとは思うが、まだしばらくはぼかしておきたい。

「それで、メイロードさまのご訪問前に、これらの州に“祈りのホコラ”を作ってほしいと依頼するのですね」

キッペイが私の訪問に際しての確認事項を紙に書きだしている。

「うん。立派なものは必要ないの。土地の神様に祈りを捧げるだけだから、中に人ひとり入れてお祈りができる広さがあればいいの。もちろんそれにかかる費用はこちらで出すから、ちゃんと請求するように伝えてね」

このホコラを《無限回廊の扉》でつないで、領内瞬間移動ネットワークを作るのが私の計画だ。

「承知いたしました。では巡回税務官の方々を通じて、各地域の代表者にその旨通達いたします。きっと皆さんお喜びになりますよ」

「そ、そうかな」

「ええ、土地神様への信仰はどの地域でもあるものですが、教団を持つような宗教とは違い集金したり信徒を動かしたりして立派な聖堂や教会を建てるといったことはできませんからね。こうやって、きちんと整備することを領主の側から提案されたら、張り切っていい建物を作ってくれるはずです」

(いや、そんなに張り切ってもらわなくてもいいんだけど、ま、いいか)

そこからは訪問の順番や日程についての調整に入ることにした。すべての領地に行きたいとは言ったものの、私が多忙なのも事実だ。移動のための時間はなるべく短縮したい。

「それで、領主の移動なんだけど仰々しくしないとダメかな?」

私の探るような言葉にキッペイは少し眉をひそめた。

「セイツェさんにもお聞きしましたが、基本的に領主ともなれば五人、十人のお付き、それに警護の者を従えての移動が当たり前だそうです。ではありますが、メイロードさまは移動法などもお持ちのようなので、そのために少人数で移動したいというのであれば、それは致し方のないこと、と言えなくもない……とおっしゃっていました」

「ほんとはだめだけど、私は普通じゃないから大目に見てもらえるだろう……ってことかな?」

「そういうことですね。確かにアタタガさんをお召しになるということなら、道中の危険もないですから、安心ではあります」

キッペイにはアタタガ・フライのことはすでに紹介済み。サイデムおじさまの緊急時には何度かお貸ししたので、側近だったキッペイもその頃から知っていたようだ。

「じゃ、私とソーヤのふたりで移動するね。お付きとか側仕えとか、必要ないし、いまだっていないし……」

「この館にはおりますよ。メイロードさまが直付きの人員はもったいなからいらないと強硬におっしゃるのでこの部屋にはおりませんが、この屋敷の管理のためには必要ですから」

(あ、そうだった……)

しおりを挟む
感想 2,995

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

この度、双子の妹が私になりすまして旦那様と初夜を済ませてしまったので、 私は妹として生きる事になりました

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
*レンタル配信されました。 レンタルだけの番外編ssもあるので、お読み頂けたら嬉しいです。 【伯爵令嬢のアンネリーゼは侯爵令息のオスカーと結婚をした。籍を入れたその夜、初夜を迎える筈だったが急激な睡魔に襲われて意識を手放してしまった。そして、朝目を覚ますと双子の妹であるアンナマリーが自分になり代わり旦那のオスカーと初夜を済ませてしまっていた。しかも両親は「見た目は同じなんだし、済ませてしまったなら仕方ないわ。アンネリーゼ、貴女は今日からアンナマリーとして過ごしなさい」と告げた。 そして妹として過ごす事になったアンネリーゼは妹の代わりに学院に通う事となり……更にそこで最悪な事態に見舞われて……?】

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

【短編】婚約破棄?「喜んで!」食い気味に答えたら陛下に泣きつかれたけど、知らんがな

みねバイヤーン
恋愛
「タリーシャ・オーデリンド、そなたとの婚約を破棄す」「喜んで!」 タリーシャが食い気味で答えると、あと一歩で間に合わなかった陛下が、会場の入口で「ああー」と言いながら膝から崩れ落ちた。田舎領地で育ったタリーシャ子爵令嬢が、ヴィシャール第一王子殿下の婚約者に決まったとき、王国は揺れた。王子は荒ぶった。あんな少年のように色気のない体の女はいやだと。タリーシャは密かに陛下と約束を交わした。卒業式までに王子が婚約破棄を望めば、婚約は白紙に戻すと。田舎でのびのび暮らしたいタリーシャと、タリーシャをどうしても王妃にしたい陛下との熾烈を極めた攻防が始まる。

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。